国連広報センター ブログ

国連のさまざまな活動を紹介します。 

シリーズ:モルディブで、サステナビリティーについて考えた(第3回)

国連広報センターの根本かおる所長は、2018年3月10日から16日、インド洋の島国モルディブを訪問し、気候変動対応の最前線や国連の活動などを視察しました。温暖化による異常気象や海面上昇が人々の暮らしに影響を及ぼしているモルディブで、サステナビリティーについて考えたことをシリーズでお伝えします。

連載第3回 モルディブの明日は、若者たちこそが担う

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自分たちのためのプロジェクトは自分たちで知恵を絞って考える L. Maamendhoo School提供

モルディブは人口のおよそ半分が25歳未満という国です。この連載でお伝えしてきた地球変動、異常気象、海面上昇、ごみ問題は、「これから」を生きる若者たちにこそ重くのしかかる課題だと言えます。今回の短い訪問で感じたのは、モルディブの若者たちは大人たちが決めてくれるのをただ待つのではなく、持続可能な明日を自分たちで作りだそうという気概にあふれているということでした。

連載第1回・第2回でもご紹介したラーム環礁のマーメンドゥー島は、国連の後押しを受けながら、島民議会がごみの分別と回収、そしてごみ処理の制度をいち早く確立しました。「自分たちのことは自分たちの手で」と考え行動する大人たちの背中を見て育ってきたこの島の子どもたちも、起業家精神に満ち溢れています。

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プロジェクトの説明も先生ではなく生徒が UN Photo Yuko Oaku

マーメンドゥー島の学校では、子どもたちのイニシアティブで校庭に緑の屋根が作られつつあるのです。せっかく校庭にあるのに、休み時間に校庭に出てスポーツをしたくても、暑さで頭が痛くなってしまう。そんな問題意識から、校庭を緑の屋根で覆って涼しくしたい、というアイデアが生まれました。

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マーメンドゥー島の生徒たちで、水タンクと緑の屋根と池とをつなぐコンセプトを考えた L. Maamendhoo School提供

プロジェクトには国連開発計画(UNDP)も支援していますが、コンセプトづくりは生徒たちがリードして行ったものです。ポンプで水をタンクにくみ上げてタンクから全体に水をまわし、残った水は校庭の池に戻し、池の水も再度タンクに、という形で循環させる仕組みのデザインと建設に、自分たちも関わったのです。

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池の建設も生徒たちが L.Maamendhoo School 提供

バドミントン用のネットが張られた校庭を、プロジェクトに携わった生徒たちが案内してくれました。「これから屋根にもっと緑を生い茂らせます。それから、水が通るパイプの部分に穴をあけて、そこでレタスの水耕栽培もする計画です」とのこと。生徒中心の取り組みが評価されて、首都マレでのマーケティング会議で生徒たちで事例紹介のプレゼンテーションをすることになっていると話してくれました。土地が狭く野菜をほぼすべて輸入に頼っているモルディブにおいて、コミュニティー単位で野菜を作ることのできる有効な事例でしょう。

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貯水槽から延びる青いパイプは、校庭をおおう屋根の「緑のカーテン」に流れ、また貯水槽へと循環する仕組みになっている UN Photo Yuko Oaku

生徒たちから話を聞いて大変関心したのは、連載第1回のストーリーでもお伝えしたように、地下水に塩分が含まれるようになってしまうなど飲み水の確保もままならない離島にあって、子どもたちが「水の循環」ということに意識が高いということです。

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マーメンドゥー島の生徒たち UN Photo Yuko Oaku

素晴らしいことに、マーメンドゥー島の学校の生徒たちが3月末に首都マレで開催された全国の学校対抗バドミントン大会の19歳未満の部で、見事優勝を果たした、とのニュースが飛び込んできました。

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L.Maamendhoo School 提供

以前は暑くてなかなか練習できなかったものの、このプロジェクトのおかげで暑さをしのいでトレーニングできた成果だと、感謝の言葉がUNDPに寄せられたとのことです。

離島の人たちが敏感なこととしてもう一つ挙げられるのは、津波の恐ろしさです。2004年12月のインド洋大津波では必死に木によじ登って助かったと話す人がいました。

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日本の援助で建設されたマレ島を取り囲む防波堤は,インド洋大津波から首都を守った UNIC Tokyo Kaoru Nemoto

日本などの提唱で2016年に11月5日を「世界津波の日」とすることが国連で採択され、津波に備えるための啓発活動 が世界各地で行われるようになっています。

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2018年3月モルディブ・ラー環礁ドゥバーファル島での津波避難訓練で生徒たちを避難誘導する教員 UNDP Maldives Photo

UNDPモルディブ事務所 では、日本政府からの財政支援を受けてUNDPがアジア太平洋地域で行う防災プロジェクトの一環として、モルディブ政府との連携で離島の学校を中心に津波避難訓練 を行い、どのように命を守るのか人々の意識に植え付けようとしています。

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遠藤駐モルディブ日本大使も参加し、訓練後に生徒から感想を尋ねた UNDP Maldives Photo

2017年9月に第1回の訓練をガーフ・アリフ環礁で行って以来、津波避難訓練をこれまでに5環礁6つの学校で実施 し、生徒・教員延べ2800名が参加しました。

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2017年9月ガーフ·アリフ環礁での第一回目の津波避難訓練で避難する小学生たち UN Photo Shoko Noda

小さな1200もの島々が南北およそ1000キロに広がる群島国家モルディブでは、津波が起こった際に他の島に逃げられず、救援物資を届けるにも輸送が大きな障壁になり、普段からのコミュニティーレベルでの備えと防災意識がカギを握ります。防災訓練の準備には生徒たちにも関わってもらい、今後はモルディブ政府側により強いリーダーシップを発揮して制度化してもらう必要があり、政府側に働きかけを怠りません。

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避難用持ち出しサックに入れるものを生徒たちで議論 UNDP Maldives Photo

国連の開催したコンテストを出発点に大きく羽ばたこうというモルディブ人の若い女性がいます。進学のために離島から首都マレに出てきたマリヤム・シバさん、22歳です。昨年、UNDPモルディブ事務所が民間企業などとの連携で開催する「Miyaheli ユース・イノベーション・キャンプ」の参加者募集の告知をフェースブックで見かけて応募し、同キャンプに参加して優秀者に選ばれたことで、大きく世界が変わりました。今は大学を卒業し、メンタル・ヘルスのためのウェブサイト「Blue Hearts」の立ち上げを実現しようと奔走する社会起業家です。

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マリヤム・シバさんと UN Photo Yuko Oaku

自分自身がうつに苦しんできたシバさんは、モルディブの離島ではなかなか専門家からメンタル・ヘルスのサポートを受けられず、緊急にカウンセリングや投薬などの治療を受けたくても首都マレまでの距離や専門家不足で予約が数ヶ月先になってしまうことなどを大きな問題だと感じてきました。うつによる知人の自殺が引き金になり、思いを行動に移そうと思い立ちますが、プロジェクト提案の仕方や資金の集め方などがわからず困っていたところで、Miyaheli ユース・イノベーション・キャンプの告知を見たのです。

シバさんは、自分のアイデアをプロジェクトとして成り立たせるためのノウ・ハウをキャンプの参加者やメンターたちから学び、それが大きな自信につながったことや、今後はメンタル・ヘルスのためのアプリ開発にも乗り出したいことなどについてインタビューで語ってくれました。そして、うつを一人で抱え込むのではなく、この病気と上手につきあっていく方法を見つけてほしいとも呼びかけます。

シバさんは3月末にUNDPがバンコクで開催する Youth Co:Lab Summit アジア・太平洋地域大会に招へいされ、私がインタビューした際にはその準備で興奮気味でしたが、なんとこのサミットで彼女のBlue Heartsプロジェクトが賞に選ばれた のです。アジア・太平洋地域から選抜された20の参加者の中で、Facebook上で一番多くの「いいね!」を集めたプロジェクトに贈られる「Popular Choice」賞を受賞しました。

自分と同じようにうつで苦しんでいる人々が容易にアクセスできるメンタル・ヘルスのサポートを提供したいとの願いから始まったプロジェクト提案が優秀者たちの集まりでも評価され、さらに大きな自信につながった ことと思います。

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バンコクで開催されたUNDP Youth Co:Lab Summit で「Popular Choice」賞に輝いたシバさん(右) UNDP Photo

シバさんとマーメンドゥー島の生徒たちの姿勢から、私自身、思いを形に変えるために一歩を踏み出す勇気の大切さをあらためて実感しました。素晴らしい刺激をありがとうございます!

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自主性と独創性にあふれたマーメンドゥー島の生徒たちと UN Photo Yuko Oaku



 

 

 

シリーズ:モルディブで、サステナビリティーについて考えた(第2回)

国連広報センターの根本かおる所長は、2018年3月10日から16日、インド洋の島国モルディブを訪問し、気候変動対応の最前線や国連の活動などを視察しました。温暖化による異常気象や海面上昇が人々の暮らしに影響を及ぼしているモルディブで、サステナビリティーについて考えたことをシリーズでお伝えします。

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美しいビーチはモルディブの財産であるはずが UN Photo Shoko Noda

連載第2回 プラスチックごみ、そして海面上昇と異常気象との闘い

今回モルディブには天気が安定していると言われる乾期を選んで訪問したのですが、首都マレから南部のラーム環礁の空港に着陸すると激しい土砂降りでした。

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ラーム環礁に到着すると、ゲリラ豪雨が UNIC Tokyo Kaoru Nemoto

「天気がこれまでの気象のパターンからはずれることが多くなったと地元の人たちも言っていますよ」と、モルディブに駐在して3年半になる野田章子国連常駐調整官 が言います。平坦で水はけの悪い土地ゆえに、すぐ大きな水たまりができてしまいます。

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強い雨が降るとすぐに水たまりが UNIC Tokyo Kaoru Nemoto

空港から車で30分ほどの港からさらにスピードボートに乗り、ごみ捨て場と化していた沼地をコミュニティーの力で再生させているというマーバイドホー島を目指します。

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野田章子国連常駐調整官とスピードボートでマーバイドホー島へ UN Photo Yuko Oaku

 途中、映画『スター・ウォーズ』が撮影されて「スター・ウォーズ・アイランド」と呼ばれるベラズドホー島があり、ここにリゾート・ホテルと宿泊施設を建設して開発することになっていると聞きました。

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映画『スターウォーズ』の撮影が行われ。「スターウォーズ・アイランド」と呼ばれるしまが UNIC Tokyo Kaoru Nemoto

人口およそ900人、長さ1.5キロ、幅0.5キロのマーバイドホー島は2004年にインド洋を襲った津波で大きな被害を受け、島の家々はその後援助団体の支援を受けて再建されたため、画一的な家並みになっています。

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左はモルディブ全域の地図、右は訪問したマーバイドホー島。島中央のS字型は沼地。

津波が起きた際には木によじ登って、何とか生きながらえることができました」と語る島民議会議長のアリ・ファイザルさんがコミュニティーの力で再生中の沼地に案内してくれました。

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マーメンドホ―島民議会のアリ・ファイザル議長 UN Photo Shoko Noda

この活動は気候変動などのリスクへのコミュニティーのレジリエンスを促すための 国連諸機関による統合型の支援プログラム(Low Emission Climate Resilient Development Programme、LECReD)  の支援を受けています。

 この水路は最近までごみ捨て場だった 根本かおる撮影 

「50年間ごみ捨て場だった場所がようやくここまできれいになって、魚も戻ってきました。この沼地は保全地域として保護し、マングローブの苗を住民で植え始めました。マングローブの林が戻れば高潮や海面上昇から私たちを守ってくれます」

 かつてごみ捨て場と化していた場所を女性たちが清掃して再生 根本かおる撮影 

干潟では女性たちが総出で清掃活動にあたっていました。島の女性たちは清掃活動やヤシの実の皮を柔らかくして紐を作って売るなど、コミュニティー活動に熱心です。

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紐づくりは島の女性の仕事。ハンモック風の椅子はモルディブ各地で見かける UNIC Tokyo Kaoru Nemoto

島の反対側ではごみ捨て場の代替地として、国連開発計画(UNDP)のサポートを受けてごみ処理場が建設中です。

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同じラーム環礁のマーメンドホ―島では、一足早く国連からの支援を活用して住民主導でごみ処理場が稼働していて、これが一つのモデルになります。国連ではラーム環礁の11の住民が暮らす島にごみ処理場を作り、回収システムの整備を後押しすることになっています。

 ラーム環礁マーメンドホ―島のごみ処分場 根本かおる撮影 

連載第1回 で紹介したマーメンドホー島で島民議会のメンバー中心で進められたこのプロジェクトは、まず新しいごみ回収システムに関する説明会を開き、住民のごみ回収や処理に関する知識を高めることから始まりました。このような努力が実り、現在では島のすべての住民や企業が毎月およそ8から10ドル程度の使用料を支払い、専属の職員を雇い、ごみ処理のシステムが運営されています。

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マーメンドホ―島ではごみの分別が進む UNIC Tokyo Kaoru Nemoto

首都マレでは分別はなく、すべてのごみをごちゃ混ぜにしてごみ出ししますが、マーメンドホー島では先駆けて、燃えるごみ、堆肥を作るための生ものごみ、グラスやプラスチックなどのリサイクルごみを色別のごみ箱に分別して処理しています。

ごみ処理場の完成を待つマーバイドホー島ではこのようなごみ回収のシステムができておらず、夕方の涼しい時間帯になると女性たちが手押し車いっぱいのごみをすぐ脇にごみの仮置き場に捨てにやってきます。

夕方涼しくなると、女性たちがごみを仮置き場に捨てにくる 根本かおる撮影

その仮置き場のすぐそばでは、海岸線の浸食により何本ものヤシの木が倒れていました。ごみ捨て場としては理想的とは言えない場所かもしれませんが、面積の限られた島では場所の確保は容易ではありません。

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ごみの仮置き場のすぐ脇では海岸浸食が UNIC Tokyo Kaoru Nemoto

 地下水に海水がまじって飲み水に使えなくなる中、人々はプラスチック容器に入ったミネラル・ウォーターに頼らざるを得ず、島はプラスチックごみだらけになっています。美観・生態系・国民の健康を脅かすプラスチックごみの処理が国をあげての喫緊の課題となり、モルディブではすべての学校に対して、今年4月からビニール袋やプラスチック容器の持ち込みを禁止することが定められました。

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美しい島のもう一つの現実 UNIC Tokyo Kaoru Nemoto

 海洋保護団体のParley for the Oceans は、モルディブ国内の地域コミュニティーやリゾート・ホテルなどと連携して海洋プラスチックごみを回収する活動を行っています。国内各地からごみが首都マレのParleyの作業場に集められ、プラスチックごみの選別が行われていました。

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Parleyのマレ事務所での選別作業 UNIC Tokyo Kaoru Nemoto

モルディブだけでおよそ1年間で700トンを超えるプラスチックごみを回収し、これを台湾に輸出して再利用に役立てています。ある有名スポーツ用品メーカーはParleyとの連携により、回収された海洋プラスチックごみや漁網を再利用した素材を使ったランニングシューズ を作っています。報道によると好調な売り上げで、すでに100万足以上を売り上げた、とのことです。 

訪問したマーバイドホー島を昨年8月に襲った高潮の際の写真と動画を見せてもらいました。島全体が海水に浸かり、島民が総出で水抜きを行い、ガレキやごみの撤去を行っていましたが、自然の巨大な破壊力を前に人間に一体何がどこまでできるのだろうとも考えさせられます。

2017年8月にマーバイドホー島を襲った高潮 マーバイドホー島島民議会提供

現に、ラーム環礁内でも人々の移住が進められ、小さなガードホー島から移住した人々のための家が比較的大きいフォナドホー島に設けられていました。私が話を聞くことができた人は、「私の家族は、子どもの今後の教育のことを考えてガードホー島からフォナドホー島に移りましたが、自主的ではなく、むしろ強制的に渋々移った人たちもいます。役所勤めだった人は同様の仕事に就くことができましたが、そうではない人たちは仕事を見つけるのも大変です」と語ってくれました。

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ラーム環礁の小さな島から他島に移住を余儀なくされた人々の暮らす住宅 UNIC Tokyo Kaoru Nemoto

翻って首都圏では巨大な開発工事が進みます。人口過密状態の首都のマレ島からフェリーでおよそ15分のところに作られた人工島のフルマレ島。過密化したマレ島からの移住地として始まったフルマレ島ですが、そのさらなる拡張工事は、基本的な行政サービスを効率的に提供することと並び、温暖化による異常気象や海面上昇などで移住を迫られた人たちの受け入れ先とすることも念頭にしていると言います。

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手前から首都マレ、空港島、フルマレ島。フルマレの埋め立てがさらに進むのがわかる。モルディブの1人あたり国民総所得は1万ドルを超えた UN Photo Shoko Noda

気候変動に関する政府間パネルIPCC)の評価報告書によると、今世紀末までに代表濃度経路シナリオによる予測で、0.3~4.8℃の範囲に海面水位の上昇は0.26~0.82メートルの範囲に入る可能性が高いとされ、国の海抜が平均で1-1.5メートル、最高でも2.4メートルのモルディブにとっては死活問題です。

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 フルマレ島の拡張埋め立て工事。右はインド洋の外洋 UN Photo Shoko Noda

日本政府が多額の拠出を行っている多国間基金の「緑の気候基金(Green Climate Fund)」は開発途上国温室効果ガス削減(緩和)と気候変動の影響への対処(適応)を支援するため、気候変動に関する枠組条約(UNFCCC)に基づいて資金を供与するシステムを運営していますが、この「緑の気候基金」からモルディブで気候変動のリスクを負う10.5万人の島民に安全な水を安定的に供給するプロジェクト についておよそ2400万米ドルの支援が行われることになっています。

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マーバイトホー島でコミュニティー活動に精を出す女性と UN Photo Yuko Oaku

温暖化に端を発する海面上昇、台風の大型化・高潮の頻発などの異常気象は、モルディブのような小さな島嶼国をまず直撃するとともに、さらには沿岸部に人口や経済活動が集中する日本のような先進国にも被害をもたらすことになります。先進国や中国などによる温室効果ガスの排出の影響が、その排出にほとんど関わっていないモルディブの人々の暮らしを脅かしている状況に何とも居たたまれない気持ちになってしまいますが、是非多くの方々に「連帯の気持ち」を持ってもらえればと思います。

 

シリーズ:モルディブで、サステナビリティーについて考えた(第1回)

国連広報センターの根本かおる所長は、2018年3月10日から16日、インド洋の島国モルディブを訪問し、気候変動対応の最前線での国連の活動などを視察しました。温暖化による異常気象や海面上昇が人々の暮らしに影響を及ぼしているモルディブで、サステナビリティーについて考えたことをシリーズでお伝えします。

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モルディブには26の環礁が UN Photo Shoko Noda

連載第1回 モルディブの離島での水事情 - きれいな水確保の最前線

 

白い砂浜、青い海、エメラルドグリーンのサンゴ礁に代表される「地上の楽園」というイメージの強いモルディブは、インド洋に「真珠の首飾り」の形状に1200もの島々が南北800キロメートルにわたって散らばる群島国家です。東京23区の半分程度の面積に人口40万人が暮らし、国の人口のおよそ3分の1が首都マレに集中していますが、一つ一つの島は100平方メートルから2平方キロメートルの大きさしかありません。一方、一年に人口の3倍に相当する120万から140万人もの観光客が訪れ(うち日本からの訪問者はおよそ4万人)、観光業は国の基幹産業となっています。

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マレ島には面積約2平方キロに10万人以上が暮らす。手前は空港島で、マレ島と結ぶ橋が建設中 UN Photo Shoko Noda

1週間の短い滞在でしたが、痛感したのはモルディブの人々が直面する「水」の課題です。私たちの身体の60パーセントは水から成り立っているものの、世界人口の36パーセントに相当する25億人が水不足の地域に暮らし、21億人が安全な水が飲めません。さらには水が関わる自然災害のリスクが世界的に高まっています。水はまさに私たちの生死を左右する問題になっていますが、モルディブの人々はその最前線にさらされています。

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マーメンドホー島 UNIC Tokyo Kaoru Nemoto

離島の暮らしを知りたいと訪れたモルディブ南部のラーム環礁のマーメンドホ―島は、人口およそ1000人、長さ1キロ・幅330メートルで面積がわずか33万平方メートル、港から島の反対側までが見通せてしまうぐらいの小さな島です。首都マレから小型飛行機でラーム環礁の飛行場まで1時間弱。島々を形成する環礁は国内に大小合わせて26あり、これらは日本の都道府県に相当します。マーメンドホ―島は飛行場から車で10分の港からさらにスピードボートでおよそ30分と次々に乗り継いでようやくたどり着ける遠隔地です。水は基本的に地下水と雨水に頼っているため、民家には雨水をためる貯水タンクが備え付けられ、コミュニティー用の貯水タンクが 気候変動などのリスクへのコミュニティーのレジリエンスを促すための国連諸機関による統合型のの支援プログラム(Low Emission Climate Resilient Development Programme)を通じて設置されています。

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国連がコミュニティー用の雨水貯水システムを支援 UNIC Tokyo Kaoru Nemoto

モルディブの離島では電気は基本的にディーゼルでジェネレーターをまわして発電していますが、国連からのサポート を受けてマーメンドホ―の学校の屋根にはソーラーパネルが、そして港にはソーラー街灯が備え付けられています。ラーム環礁に11ある学校にソーラーパネルを設置した結果、年間に電気代を5万3000ドル(およそ550万円)、ディーゼル消費を84万リットル削減できる見込みです。

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ソーラー街灯を国連の支援で離島の港に設置 UN Photo Shoko Noda

島民議会の副議長の案内で島をまわっていた時のこと。港の建設などの開発で潮の流れが変わったことや気候変動に端を発する地球温暖化で海面が上昇し、その影響を受けて海岸がどんどん浸食されています。国の海抜は平均で1-1.5メートル、最高でも2.4メートルですから、海面上昇や激しさを増す高潮は大きな脅威です。地面が大きくえぐられてヤシの木が倒れてしまった波打ち際のすぐそばで、2本の木の間にはられたハンモックに腰掛ける少女に何気なく「気候変動や異常気象の影響はありますか?」と尋ねてみると、「もちろん。子どものころは、もっと先まで砂浜が広がっていたわ。井戸の地下水を使っていたけれど、しょっぱくなって、使えなくなってしまいました」という答えが返ってきました。

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16歳のハスナさん UNIC Tokyo Kaoru Nemoto

「それは心配ですね。水はどのように確保しているんですか?」と聞くと、島民議会の副議長が「国連の関わる支援プログラムの一環で島内の30家庭に淡水化浄水器を取り付けて、そのおかげできれいな水が飲めるようになりました。彼女の家もその恩恵を受けています」と説明してくれました。16歳のハスナさんに真新しい装置が設置された家の台所を見せてもらったのですが、地下水を淡水化浄水器に通して出てきた水は、私にも普通に飲めるものでした。台所にはエビアンのマークの入ったリユースのガラスのびんが多数置かれていました。「浄水器と一緒にガラスの水差しももらったんです。使い捨てペットボトルのミネラルウォーターは使わないようにしています」とハスナさんは少し得意そうです(プラスチックごみなどについては、次回以降に報告します!)。小さなステップかもしれませんが、プラスチック容器のポイ捨てが目立つモルディブで、若い人たちから意識が変わってきているのかもしれません。国連の支援が人々の暮らしを改善している実例を思いがけず見ることができましたが、これを組織的に行うのには政府や自治体の強いコミットメントが必要になるでしょう。

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淡水化浄水器とともに、ガラスのびんも配られた UNIC Tokyo Kaoru Nemoto

 この質問は16歳には酷な質問かもしれないと思いつつ「この島にずっと住み続けられると思いますか?それともどこかほかの場所に移住することも考えていますか?」と尋ねると、「ここには住み続けられないと思っています。大人になったら、近くのもっと大きな島に移って、そこで仕事に就きたいと思っています」と冷静な言葉が返ってくるではありませんか。少しずつ、しかし着実に忍び寄る海面上昇の脅威を前に、達観した表情が印象的でした。 

ここにはかつて砂浜が。立ち退いた住居跡も 撮影:根本かおる

ハスナさんの家を出て、近所の海のすぐ脇の空き地には日用品の残骸が転がっていました。「この海岸線にあった家は、島の北部に移転したんですよ」国連開発計画(UNDP)モルディブ事務所 の常駐代表で、国連諸機関を取りまとめる国連常駐調整官(UN Resident Coordinator) を務める野田章子さんが説明してくれました。

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野田国連常駐代表は人々との直接の対話を欠かさない UNIC Tokyo Kaoru Nemoto

マーメンドホー島には昨年10月、アメリカのテレビドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」に出演するデンマーク人の俳優のニコライ・コスター=ワルド―さんがUNDP親善大使として訪問 し、様々なリスクにさらされながら生きる人々の実情に直接触れています。

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UNDP親善大使のニコライ・コスター=ワルドーさん UN Photo Shoko Noda

副議長によると、浸食がひどいし、波をかぶることもあるので、住民は先祖代々暮らしてきた家を泣く泣く手放し、島の反対側への移転を決めたというのです。「問題は、移転した先もかならずしも大丈夫とは限らないということです。こんな小さな島では、生活圏がどんどん狭められてしまって」

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海の上にコテージが並ぶ「シックスセンシズ ラーム」 UNIC Tokyo Kaoru Nemoto

マーメンドホー島からスピードボートで15分のリゾートアイランドにある高級リゾート「シックスセンシズ ラーム」 にも足を運びました。このエコ・リゾートでは、サステナビリティー担当官や研究者チームを置き、海と陸の生態系の保全・周辺の島々のコミュニティーへの環境教育活動・漁師たちとの協力関係の構築(地域の漁師たちが獲った魚の直接買い入れや、生態系保護への協力の呼びかけ)・宿泊客に提供する野菜の自家栽培(モルディブでは通常野菜・肉類・卵などはほぼ全てにわたって輸入)、ごみのバイオマス化・ガラスやキャンドルのリサイクルなど、徹底してサステナビリティーに配慮したリゾート運営 を行っています。

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左:野菜をリゾート内の農園で栽培  中央:キャンドルを再利用  

右:宿泊客を対象にしたエコ体験プロジェクトも。古くなったタオルで植木鉢に UNIC Tokyo Kaoru Nemoto

ここでは使い捨てのプラスチック容器は原則使用禁止で、宿泊客に提供する水にはすべてリユースのビンを使用しています。海水を淡水化してビン詰めが行われている作業場を視察すると、何と美しいクラシック音楽が流れているではありませんか。一体なぜ?「クラシック音楽の振動が水をおいしくすると日本人の研究者が発表して、それを取り入れているんですよ。私たちの身体の60パーセントが水でできているのですから、少しでも水にとっても『いいこと』ができれば、と考えてのことです」とサステナビリティー担当官のメガンさん。 いろいろな水に対する考え方があるものですね。

クラシック音楽で水にいいバイブレーションを 撮影:根本かおる

モルディブの水事情に触れて、水道の蛇口をひねればきれいな水が手に入れられることのありがたさを痛感しました。持続可能な開発目標(SDGs)  の17のゴールの中では、ゴール6 がきれいな水を掲げる個別目標ですが、水は貧困撲滅、健康、農業、気候変動、海と陸の生態系などの他のゴールとの関係性の強い重要な要素です。2050年までに、世界人口の過半数と、世界の穀物生産の半分が水ストレスによるリスクにさらされることになると見られ、まさに水こそ命の基本であり、繁栄の源と言えるでしょう。

今週、3月22日の国連の定めた水の記念日「世界水の日」 と時を同じくして、3月19日から23日まで国際機関や各国の代表、研究者らが出席する国際会議「第8回世界水フォーラム」 が、「水の共有」をテーマにブラジルの首都ブラジリアで開催されています。水問題をライフワークとされていらっしゃる皇太子殿下が世界水フォーラムにご出席になり、「水と災害」に関する会合で「繁栄・平和・幸福のための水」と題する基調講演に臨まれました。

「21世紀は水の世紀であるといわれていますが、その言葉が一つ進み、21世紀は繁栄、平和そして幸福の世紀であったと後世の人々に呼ばれることになるよう願っています」と述べられるとともに、「地球規模で発生する自然の脅威に対抗するため、国際社会は結束して対処していく必要があります」と呼び掛けられました。

現時点の推計では、2030年までに淡水資源が必要量の40パーセントも不足することが見込まれ、深刻な水不足で2030年までに7億人が避難民となる可能性があります。世界の人口が急増し続け、世界はグローバルな水危機への道を一直線に進んでいます。その直撃を受けるのは、モルディブの離島の人々のように脆弱な立場にある人たちです。課題がますます大きくなりつつある中、私たちの水管理方法の転換を支援するアクションが必要だと、2018年の「世界水の日」(3月22日)から2028年を「水の国際行動の10年(Water Action Decade)」 としてキックオフします。

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ラーム環礁での夕日 UNIC Tokyo Kaoru Nemoto

 水は豊かさを高めるとともに、貧困撲滅・生活改善・環境保護格差是正・健康や食料の安定確保、持続可能なエネルギーなどの面で、その付加価値は計り知れません。モルディブをはじめとする水不足の問題を抱える人々が、技術や意識改革で少しでも平穏に暮らしていけることを願っています。

 

 

持続可能な開発目標(SDGs)と初等教育

~八名川小学校をお訪ねしました~

こんにちは。

国連広報センターで教育関係を担当している、千葉です。

突然ですが、東京都江東区立八名川小学校という小学校をご存知でしょうか。

八名川小学校はユネスコスクール(2011年認定)(注1)として「持続可能な開発教育(ESD)」(注2)への取り組みを活発に続けてこられ、東京都教育委員会から持続可能な社会づくりに向けた教育推進校に指定された学校です。

「持続可能な開発目標(SDGs)」がスタートしてからは、それをESDに巧みに融合させた先駆的な取り組みを行い、昨年12月、その功績を認められて、第1回ジャパン SDGsアワード「SDGsパートナーシップ賞」(注3)を受賞されています。ちなみに、SDGsアワードには当センター所長の根本が審査員の一人として携わりました。根本は、先月20日に全受賞団体によるプレゼンが行われたシンポジウムでもコメンテーターとして参加させていただいています。(注4)

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(注1)文科省ウェブページ参照
http://www.mext.go.jp/unesco/004/1339976.htm

(注2) 文科省ウェブページ参照
www.mext.go.jp/unesco/004/1339957.htm

(注3)首相官邸ウェブページ参照

https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/actions/201712/26sdgs_award.html

(注4)国連広報センターブログ参照
http://blog.unic.or.jp/entry/2018/01/23/173833
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上述のシンポジウムが開催されてから一週間後の1月27日(土)、八名川小学校で終日にわたって教育実践の共有や学び合い、交流の催しが開かれるということで、同校にお伺いしました。本ブログでは、そこで見たこと、感じたことをそのままにお伝えしながら、SDGsを教育に活かした同校の取り組みをご紹介できればと思います。

さて、八名川小学校での催しは、全児童による学習発表会(午前中)でスタートしました。この学習発表会はご父兄や地域の方々をはじめ教育関係者などに広く公開される年中行事で「八名川まつり」と呼ばれています。同校のご父兄や地域のみなさんにとっては、毎年恒例の楽しみな授業参観の機会であると同時に、外部の教員および教育関係者にとっても重要なイベントで、八名川小学校の教育実践を肌で感じ、学ぶ最良の機会となっています。

当日は数日前に降った大雪が所々にまだ白く残る寒い冬の日だったものの、午前9時前に到着してみると、もうすでに保護者や地域のみなさんがたくさん受付に並び、多くの教員や関係者のみなさんもまた全国各地から駆けつけていらっしゃいました。

校内に入ると、各教室や体育館では、1年生から6年生まで、それぞれ大きなテーマのもとに、(中級学年からは児童のみなさんが自ら課題を設定し)数か月にわたって主体的に取り組んだ学習の成果を発表しはじめています。

 

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                                         ©UNIC Tokyo/Kiyoshi Chiba


各学年の大きなテーマは以下の通り。
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おそらくは授業参観と聞くと、教室の後ろでお子さんの様子を静かにじっと観察している保護者のみなさんの姿を思い浮かべられる方が多いかもしれませんが、「八名川まつり」は違います。ご家庭、地域の方々も児童のみなさんと一緒になって、混じり合って、クラスのあちらこちらで小さなグループごとに分かれたお子さんの発表を聞き、質問したり、感想を述べあったりするのです。ユネスコスクールとしてESDへの取り組みを続ける同校において、学習発表会は単なる授業「参観」の機会ではなく、授業「参画」の場です。

 

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            © UNIC Tokyo/Kiyoshi Chiba

この日、見学のつもりで伺ったはずの私も、いつの間にか、八名川小学校の授業「参画」にどっぷりつかっていました。

児童のみなさん一人ひとりが地域や自然、災害、脆弱な人々に思いを馳せ、また未来を生きる自分を思い描き、それぞれに主体的に学ぶことを通して深い喜びを得ていることが伝わってきました。その表現力はとても確かで、その顔は輝いていました。

「どんな準備をしたの?」
「たいへんではなかったですか?」
「楽しかった?」

お一人おひとりにお話を聞いてみました。

自然を取り入れたゲームの遊び方を元気に教えてくれた低学年のお子さんに…
障害者の直面する問題をやさしい笑顔で説明してくれた中級学年のお子さんに…
将来就きたいと思う職業の発表に真剣な表情で臨んだ最高学年のお子さんに…

 

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                                       ©UNIC Tokyo/Kiyoshi Chiba

気がつけば、ずいぶん多くのお子さんにお話を聞きしていました。

「準備に3か月ぐらいかかりましたが、やりがいがありました」
「楽しかったです」
「ちょっと恥ずかしかったけど、とてもよかったです」

みなさん一人残さず、楽しんで取り組んだこと、来年の学習発表会を楽しみにしていることを話してくれました。

そして、お子さんたちの取り組みについて感想をお聞きしたご父兄や先生方のまなざしはみなやさしく愛情豊かでした。

 

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                                          ©UNIC Tokyo/Kiyoshi Chiba


温暖化、感染症、紛争、難民・移民、排外主義、テロ、貧困、格差、人口問題など、わたしたち人間が直面する多岐にわたり輻輳的に絡みあう諸問題を有機的につなげながら、みんなで考え抜き、持続可能な社会をつくって、この地球を未来の世代に引き継ぐ、そして「誰一人取り残さない」。―この持続可能な開発目標(SDGs)の精神が八名川小学校で確かに息づいていると感じました。

不覚にも涙がでそうになりました。

日本国内で、SDGsと聞いても、自分との関係性をあまり見出せない子供たちが多いと言われますが、八名川小学校では、そんなことはありませんでした。教室の廊下の壁には、自分たちの扱うテーマとともに、そのテーマに関連するSDGsの目標をデザイン化したアイコンが貼りだされ、児童のみなさんはSDGsを自分ごととして捉え、そのお子さんたちを通して、保護者、地域のみなさんもまた2030年の世界に思いを馳せていらっしゃいました。

 

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                                          ©UNIC Tokyo/Kiyoshi Chiba

八名川小学校においてESDへの取り組みが始まったのは、7年前の2010年のことだそうです。それ以降、持続可能な社会の担い手となる子どもを育てるため、すべての教科を横断的につないで年間教育カリキュラムに落とし込んだESDカレンダーを活用して、「子どもの学びに火をつける」を合言葉に主体的・問題解決的な学習に取り組まれてきたのです。

決して狭量な偏差値アップのようなことを狙っていたわけではないのにもかかわらず、主体的・問題解決的な学習の積み重ねは、ふたを開けてみれば、児童のみなさんの学力を大きく伸ばすことにつながったそうです。

驚くべきことに、全国学力状況調査において、同校の児童のみなさんの国語、算数の点数がともに、A問題で6%程度、B問題で15~18%程度アップしたのです。

 

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文科省全国学力・学習状況調査結果―八名川小学校の推移グラフ 平成22年~28年)

 

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                                         ©UNIC Tokyo/Kiyoshi Chiba

八名川小学校で子どもたち一人ひとりがそれぞれ見せる喜びと輝きの表情と、学力として目に見える成果は私を含めた大人たちに多くのことを示唆していると思いました。

さて、同校でのこの素晴らしい教育実践をご紹介する上でどうしても欠かせない方がいます。同校の取り組みをリーダーとして引っ張り、支えてこられた手島先生です。手島先生は2010年に八名川小学校に校長として着任し、その後すぐに同校のユネスコスクールとしての指定をユネスコに申請し、承認されるとともに、前任校で開発した「ESDカレンダー」をもとに、「New! ESDカレンダー」をつくって持続可能な社会に向けた教育に取り組まれました。最近ではさらにSDGsを融合させた実践を行い、昨年見事にSDGsアワードを受賞されたのです。

 

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                                      ©UNIC Tokyo/Kiyoshi Chiba

手島先生は先生方、ご父兄、子供たちから深い信頼を寄せられています。

手島先生と直接お会いしてお話していると、理由がわかります。穏やかで謙虚なお人柄でありながら、教育に傾ける情熱は人一倍あつく、子供たち一人ひとりを大切に考え、また、ともに働く先生方お一人ひとりを大切に思うやさしい気持ちが伝わってくるのです。

「ありがとう」「ありがとうございます」

私がお伺いした日も、手島先生から児童や教員のみなさん、外部の方々に、分け隔てなく、惜しみなく発せられるていねいな感謝とねぎらいの言葉には温かみがありました。

そんな手島先生がESD教育のアドバイスを受け、師と仰ぐ方が多田孝志・金沢学院大学教授です。多田教授は長年にわたって国際理解教育などを研究し、日本国際理解教育学会会長や日本学校教育学会会長を歴任しておられます。

 

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                                        ©UNIC Tokyo/Kiyoshi Chiba

八名川小学校での催しの最後を飾ったのが、多田教授と手島校長先生の対談「日本の教育とその未来を語る」でした。


対談をお聞きしていると、子供たちの教育と未来の展望を描き考える多田教授と手島先生のお二人の間の深い信頼関係が伝わってきました。

そして多田教授と手島先生の信頼関係がお二人の間のそれを超えて、手島先生と八名川小学校の教職員お一人ひとりとの深い信頼関係、また子供たち一人ひとりに寄り添う先生方と児童のみなさんとの信頼関係、そして学校と保護者、地域の方々との信頼関係へと重層的、多面的に広がっていることを思いました。

多田教授と手島先生の対談が終わり閉会してもなお、子供たちの未来のためにひとつでも多くのヒントを得ようとする先生方であふれた会場はしばらくの間、その冷めやらぬ熱気に包まれていました。

実は、同校を最後に、手島先生は2018年3月、ご退職の日を迎えられるそうです。

まだ現役で十分にご活躍いただけるはずなのにと残念に思えてなりませんが、今後はその活動の幅をさらに広げて、日本の小学校でのESD、SDGs普及にご活躍いただけることと願っております。

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             ©UNIC Tokyo/Kiyoshi Chiba

私の拙いブログに最後までおつきあいいただいた皆様のなかで、ESD教育とSDGsを活かした教育実践にご興味がわいたという方におかれましては、手島先生が昨年12月30日、「学校発・ESDの学び」(教育出版)という本をご上梓されていますのでご紹介いたします。ESD教育実践とSDGsに関する興味深いご本です。お手にとってみてはいかがでしょうか。

―――

最後に卑近な話で恐縮ですが、私が7歳の頃に死別した父は小学校の教師でした。若干37歳の若い教師でまだこれからというときでしたが、次の転任先が決まってその学校の校長先生にご挨拶に伺って意気揚々と自宅に帰ってきたその日に脳溢血で倒れました。無念だったろうと思います。父の魂が存在するとしたら、自分の息子がこうして八名川小学校の教育実践について綴らせていただいていることをずいぶんと喜んでいるのではないかと思います。同校で教室を回りながら、不覚にも涙がでそうになったとき、一番感激していたのは私自身である以上に、半世紀のときを経て、先駆的な取り組みを行う小学校で子供たちが輝く姿を、私の目を通して見ることができた、若い小学校教師の父だったのかもしれません。八名川小学校を後にしながら、手島先生をはじめとする素晴らしい先生方にお会いできたご縁に感謝しつつ、心の中で亡き父にそっと手を合わせました。

(千葉のブログを読む)
「国連ガイドツアーでSDGsの啓発促進」
「SDGsを舞台裏で支える日本人国連職員たち」
「HLPFでの日本の市民社会の情報発信、そしてインタビュー」
「HLPFでの日本企業、経団連の情報発信について」
「HLPFでの日本政府の情報発信取材と星野大使インタビュー」
「ニューヨーク国連本部でみたハイレベル政治フォーラム」
『子どものための2030アジェンダ:ソリューションズ・サミット』参加報告会 
「アウトリーチ拠点としての図書館と持続可能な開発目標(SDGs)」
「国連事務局ヤング・プロフェッショナル・プログラム(YPP)をご存知ですか」 
「佐藤純子さん・インタビュー~国連の図書館で垣間見た国際政治と時代の変化~」
「北海道にみた国連につながる歴史ー国際連盟と新渡戸稲造」
 「国連学会をご存知ですかー今年の研究大会に参加してきました」
「沖縄の国連寄託図書館を想う」
「国連資料ガイダンスを出前!」
「国連資料ガイダンスをご存知ですか」
「国連寄託図書館をご存知ですか」

 

 

島ぜんぶでおーきな祭 第10回沖縄国際映画祭(2018年4月19日~22日)「JIMOT CM REPUBLIC 2018」CMアイディアの募集中!

昨年に引き続き、国連広報センターは「島ぜんぶでおーきな祭 第10回沖縄国際映画祭」(2018年4月19日~22日)でのSDGsの取り組みを応援します! 

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                   今年のテーマはSDGs「みらいへつなぐ、じもとのちから。」

           JIMOT CM REPUBLIC 2018

                                    1月22日からCMアイディア募集開始

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島ぜんぶでおーきな祭 第10回沖縄国際映画祭(2018年4月19日~22日)恒例の地域発信型プロジェクト「JIMOT CM COMPETITION」が今年は「JIMOT CM REPUBLIC 2018」と名称変更、装いも新たに実施され、1月22日からいよいよCMアイディアの募集が始まります。

このプロジェクトは海外を含む地元のアイディア発案者たちと、そこに住む“住みます芸人”、よしもとスタッフらが交流しながら、各地のCMを一緒につくりあげ、地方の魅力を伝えようという試みです。過去8回行われましたが、今回は、大切なものや気持ちの詰まった「じもとのちから」をさらに、みらいの子どもや人々に受け継いで欲しいという思いを込めて

(1)「SDGs」をテーマに設定(世界共通17の目標達成の実現にむけたきっかけ作りのために)

(2)SNSでの応募を実施(より多くの人が参加できるよう)

と2つの点を改良し、よりバージョンアップしたプロジェクトにしたいと考えています。

 

【本件についてのお問合せ】

島ぜんぶでおーきな祭 広報・宣伝チーム(株式会社よしもとクリエイティブ・エージェンシー) 担当:永井・大竹(03-3209-8290)

 

「JIMOT CM REPUBLIC 2018 募集要項」

この企画は、一般の人から地元の魅力を盛り込んだCMのアイディアを募集し、各部門の優秀作については、よしもとスタッフらが実際のCMに仕上げるお手伝いをするものです。CMは、島ぜんぶでおーきな祭(4月19日~22日)のイベントで上映し、各部門のグランプリ作品が選ばれ賞金が授与されます。

 

実施部門

  • 全国46都道府県の作品(優秀作5作品をCM制作、グランプリ賞金47万円)
  • 沖縄県全41市町村の作品(優秀作41作品をCM制作、グランプリ賞金41万円)
  • アジア・ASEAN諸国の作品(優秀作10作品をCM制作、グランプリ賞金未定)

テーマ

CMアイディアのテーマは、吉本興業グループが普及に取り組むSDGs(持続可能な開発目標)にちなんで、

   SDGs「みらいへつなぐ、じもとのちから」

です。参加者の身近なところにある、みらいへ残したいものを映像に収めてCMをつくります。よしもとのSDGsへの取り組みについては、

コチラ→http://www.yoshimoto.co.jp/sdgs/

応募方法

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参加者は、テーマに合った動画(30秒以内)をTwitterやインスタグラムに

「 #JIMOTCM 」のハッシュタグを付けて投稿します。

【スケジュール】

募集期間: 1月22日(月)~3月4日(日)/審査期間:3月5日(月)~

CM制作作品発表:3月中旬

 主催:沖縄国際映画祭実行委員会 ©沖縄国際映画祭/よしもとラフ&ピース

 

詳細は島ぜんぶでおーきな祭ホームページをご参照ください。http://oimf.jp/jimot/ 

 【本件についてのお問合せ】

島ぜんぶでおーきな祭 広報・宣伝チーム(株式会社よしもとクリエイティブ・エージェンシー)担当:永井・大竹(03-3209-8290)

ホロコーストの生きた記億を残す - 若手デザイナーたちがポスターを作成

 ~1月27日は ホロコースト犠牲者を想起する国際デー」

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ユダヤ強制収容所アウシュビッツが開放されたのが、1945年の1月27日。国連総会はこの1月27日を「ホロコースト犠牲者を想起する国際デー」と定めました(2005年11月1日)。ユダヤ人の3分の1、そして無数のマイノリティーの人々が殺害されたホロコーストを再確認し、憎悪、敵対感情、人種差別、偏見がもつ危険性を永遠に人々に警告することがこの国際デーの目的です。

今年の国際デーに向けて、ポスター・デザイン・コンテスト:「生きた記憶を残すために:私たちが共有する責任 (Keeping The Memory Alive – Our Shared Responsibility)」が開催されました。これは、国連広報局の「ホロコーストと国連アウトリーチ・プログラム」イスラエルホロコースト記念館(ヤド・ヴァシェム)の国際ホロコースト研究院が共同で企画したものです。世界から150点を越える作品が集まり、以下に入賞作品12点のポスターをご紹介します。

第一位  –  ジュリア・ブランカロニ・クリストフィ (ブラジル)

First Place - Julia Brancaglione Cristofi; Brazil

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作者のことば:

「生きた記憶」は、三部作からなる「ホロコースト – 命、記憶、そして抵抗」の一つ。これは、記憶を生かし続けることを目的としたコレクションである。 この作品は、ホロコーストで生き残った人々の肖像画を用いており、それは紛れもなく大虐殺の永遠なる証拠だ。人類の共同責任として、全ての人々によって長く留めるべき生きた記憶だ。命と自由の大切さが示されている。

第二位  –  ヤエル・ボヴェルマン (イスラエル

Second Place - Yael Boverman; Israel

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作者のことば:

子どもの頃にホロコーストを経験した私の祖母。彼女の家族写真を用いて殺伐で痛々しい印象を与える作品を描いた。

第三位  –  アデリーナ・シェイドリーナ (ロシア)

Third Place - Adelina Shaydullina; Russia

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作者のことば:

私たちの多くは、携帯電話で映画を観たりフィクションの本を読むことで、ホロコーストの犠牲者をしのんでいる。もちろん、何もしないよりは良いが、実際に起きた出来事と、こういった画面の中のストーリーに、一体なんの共通点があるのだろう?21世紀に生きる人間によって生みだされる写真や言葉が、一体どのようにホロコーストの犠牲者の苦しみを伝えられるというのだろう?それは不可能だと私は思う。だから時には、目で見える文字で表された情報から離れ、立ち止まって、黙祷の時間を持ちたい。

その他の入賞作品

べラ・ぺスコベット (ロシア)

Vera Peskovets; Russia

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作者のことば:

記憶を留めるということは、次世代の子どもたちにその記憶を伝えることだ。私はこの作品にホロコーストの記憶を未来の世代に伝えたい、という思いを込めた。黒い煙はホロコーストの暗い記憶を表し、ヘッドフォンは世代間のつながりを象徴している。

 ドラ・フェレンツィ (ハンガリー

Dora Ferenczy; Hungary

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作者のことば: 

私はユダヤ人家族に生まれた。このテーマに対し、慎重で、意義があり、あまり固定観念にとらわれない取り組みをすることは私にとってとても難しい。私は、叔父と父親と共に1つの長期プロジェクトに取り組んだ。集められる限りの写真や情報を用いて家計図を作成することだ。この図からみえる彼らの生誕地と人生の終焉の地が、一目で多くを物語っている。地名からも明らかだが、数多くの命に与えた戦争の影響を示すために写真を含めた。また、タイトルである「生きた記憶を残すために」にも見事にマッチしている。というのは、私たちの生きる今は、過去の世代と深く関わっているから。

エリック・フラヴィオインドネシア

Eric Flavio; Indonesia

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作者のことば:

タトゥーとは、ある出来事や物事の象徴的な記憶である。手首に傷(自殺未遂を示すもの)を負った少女の右腕にはダビデの星が「タトゥー」されている(ダビデの星とは、ユダヤ人であることを示すために腕章に縫い付けられたもの)。ホロコーストの恐怖は何年も前に終わったものではなく、今なお次世代の人々に付きまとう。彼らを取り巻く環境やその家族にさえ、ホロコーストの恐ろしい記憶は宿っている。タトゥーをした少女はその重さに潰されそうになっているのだが、隣には男性が寄り添い彼女を支えている。このように、心の支えによって今のユダヤ世代を支えることができる。

 ヒラー・ウィルチェック&ロテム・ゲズンテルマン(イスラエル

Hila Wilchek and Rotem Gezunterman; Israel

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作者のことば:

このポスターでは、ホロコーストの犠牲者による手書きのサインによって1つの肖像画が形作られている。各人はそれぞれ個人としての象徴となるサインを持っている - サインの向こう側にある人間の顔。

リロン・テヴェット(イスラエル

Liron Tevet; Israel

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作者のことば:

この作品は、ホロコーストを生きる一人ひとりについての物語を語っている。登場人物は、ヤド・ヴァシェムに保管されている資料や日記をもとに設定されており、ホロコーストが始まる前とその時代における生活を記録している。その日記は、実際にホロコーストを経験した人々の物語であり、彼らの世界がつまっている。ホロコーストによって彼らの人生は閉ざされ、まだ語られていない物語は数え切れないほど多い。この作品は、ホロコーストを生き延びた者、そして、資料や写真として記録されず語られないままの犠牲者を表している。今も健在の、ホロコーストを経験した人々から直接話を聞くことは、とても重要だ。ホロコーストが決して忘れ去られることなく、ヨーロッパのユダヤ人家族とコミュニティーについて私たちの記憶に留まるだろうから。

エンゲル・ベガ(ペルー)

Angel Vega; Peru

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作者のことば:

私たちは平和に暮らしている。それは、ホロコーストによって平和を奪われた人たちの記憶を、私たちは失うことがないから。この作品の中の足を鎖に繋がれた鳩は、子どもたちを表している。平和に生きることを願いつつもホロコーストの犠牲となった子どもたちや人々だ。2羽の鳩は、死後、苦しみや幽閉から解き放たれ自由になった人々を表している。

エカチェリーナ・カルジャナヤ(ロシア)

Ekaterina Kalujnaya; Russia

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作者のことば:

ホロコーストは、残酷さの極みである。そのようなことが起きた、ということを考えただけで恐ろしくなる。この「ダビデの星」は神から私たちへのかけがえのない贈り物だ。一体どうしたら囚人と決めつけて憎むことができるであろうか。すべての星には命があり、家族がいる…彼らはまさに、非人道的行為の犠牲者だ。ホロコーストユダヤ人にとっての惨事だ。全ての人々はその恐ろしい時代について知るべきであり、記憶に留めなければならない。 

ヨアブ・カハナ(ロシア)

Yoav Kahana; Russia

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作者のことば:

ダビデの星の穴は、ユダヤ人が地球上で迫害されてきた歴史の奥深さを表している。穴から伸びる根には、その記憶を残したいという願いが込められている。この星の上部の三角形は、砕けた墓碑として、今もなお起きている反ユダヤ主義行為を表している。

パンナ・ペトロ(ハンガリー

Panna Petro; Hungary

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作者のことば:

ホロコーストに関する多くの恐ろしい出来事の中で、誰もが身近に感じられるものを探してみた。ホロコーストは、ユダヤ人だけでなくユダヤ人以外の人々の日常生活においても起きたものだからだ。この作品には、ひっそりと隠れながら沈黙のなかで生活するという非人間的な状態と、他の家族から受ける善意が描かれている。暗やみの中で、まるで存在しないかのように振る舞うような生活。ナチスに占領された町における一般的だが隠れ家である住居。ホロコーストについて不毛で間接的な視点と、1940年代の市民が直面しなければならなかった突然の変化との対照が強調されている。

ホロコースト犠牲者を想起する国際デー(1月27日)に寄せるグテーレス国連事務総長のメッセージはこちら

 国連広報局「ホロコーストと国連アウトリーチ・プログラム」のウェブサイトはこちら>>>

http://www.un.org/en/holocaustremembrance/2018/calendar2018.html

 ポスター・コンテストに関するホロコースト記念館(ヤド・ヴァシェム)のウェブサイトはこちら>>>

http://www.yadvashem.org/education/international-projects/posters.html

ジャパンSDGsアワード受賞団体そろい踏みの会は、会場も巻き込んですごい熱気でした!

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国連広報センター所長の根本です。2018年もどうぞよろしくお願いいたします。

新しい年になってからも、様々なセクターからSDGsに関する企画のご提案が次々と弊センターに寄せられています。SDGsの実施3年目の今年はSDGsが日本社会に一層定着して広がっていくだろうと年初から手ごたえを感じている次第です。  

そんな中、先日個人的にも感慨深い会合がありました。日本政府はSDGsの推進について顕著な功績のあった団体を顕彰する「ジャパンSDGsアワード」を設け、その第一回の受賞者の発表が年末の12月26日にありました。内閣総理大臣賞1団体、内閣官房長官賞3団体、外務大臣賞2団体、SDGsパートナーシップ賞6団体の計12団体表彰されましたが、その全受賞団体の代表が全国各地から勢ぞろいしてプレゼンテーションするという政策分析ネットワーク主催のシンポジウムが1月20日に開催されたのです。私も外務省でSDGsを統括している地球規模課題総括課の甲木課長、朝日新聞SDGs取材チームの北郷記者とともにコメンテーターの一人として参加しました。 

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左から外務省国際協力局地球規模課題総括課 甲木 浩太郎 課長、国連広報センター 根本かおる所長、朝日新聞社 北郷 美由紀 報道局デスク

「ジャパンSDGsアワード」に関しては、審査員の一人として280余りの応募書類を読み込んで採点するという「産みの苦しみ」に携わってはいるものの、当事者によるプレゼンテーションに触れるのは初めてでしたから、大いに刺激を受けるとともに、苦労して審査した甲斐があったと感じ入った次第です。会場に補助椅子を多数用意するほどの満席で、3時間という長丁場ながら集中して聞き入ってほとんどの方がプログラムの最後まで残り、スピーカーの情熱と会場からの発表者に向けられる熱い視線との相乗効果で、会場は実に熱かったです!組織のトップが遠方から駆けつけてプレゼンテーションしてくださるケースも多く、トップの思いがチームに共有されてチームからの問題意識と共感に裏打ちされるという、トップ・ダウンとボトム・アップのバランスが取れていると感じられました。

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満席の会場

今回各審査員の審査を集計してみると、図らずも上位に企業、自治体、協同組合、NPO、大学、小学校と多様なアクターが選ばれ、また業態・文脈も化学製品、飲料メーカー、流通、エンターテインメント、国内での障害のある被災者支援、妊産婦支援の国際NGO、ESDを核にした大学、イノベーションを核にした大学、ユネスコスクールのネットワークを広げた小学校、公害を乗り越えた工業都市、山間地の自治体と、実に多岐にわたるものでした。まさにマルチ・ステークホルダーで取り組むSDGsの美しさと新しさを体現するような受賞結果となりました。

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第1回ジャパンSDGsアワード報告会に登壇した参加者とともに

さらに、MDGs、ESD、環境未来都市など、SDGsができる前からあった枠組みを活用して長年活動を蓄積してきた団体も多かったのも特徴です。SDGsという新たな武器・世界共通の物差しを得て、SDGsの新たな切り口、すなわち「誰も置き去りにしない」という包摂性の原則や「普遍性・統合性」という国内と国外、分野間を密接不可分につなぎながら取り組む姿勢や、様々なアクターを巻き込む「参画型」などを通じてそれまでの活動の積み重ねにさらに付加価値をつけて取り組もうという気概がビンビン伝わってきました。SDGsには、世界レベルの議論に政府の対応をまたずに民間や地方自治体が直接つながることのできる「窓」の役割もあり、やる気のある団体はどんどん行動を先に進めていることが見て取れました。さらに、それぞれの団体で核になる分野・ゴールをいかに有機的に総合力で推し進めているのかという点は、自分自身の日頃のマネージメントを考える上でも大いに参考になります。

発表してくださった受賞団体の代表の方々は以下の通りです。

ジャパンSDGsアワードは今後も続きますから、より多くの団体の方々にチャレンジしていただきたいと願っています!

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報告して下さった第1回ジャパンSDGsアワード受賞者のみなさん