HLPFでの日本政府の情報発信取材と星野大使インタビュー
みなさま、こんにちは。国連広報センターの千葉です。
前回に引き続き、ハイレベル政治フォーラム(HLPF)の取材のためのニューヨーク出張について、ブログを綴らせていただきます。
前回のブログでご説明したとおり、今年のHLPFにおいて、日本の自発的国別レビュー(VNRs)はありませんでしたが、日本による情報発信がなかったということはなく、いろいろなセクターで、日本の方々がSDGsに関する情報を発信していらっしゃいました。
今回から、HLPFを起点として、私がみた日本関連のイベントやお会いした日本人の方々を政府、ビジネス、市民社会など、それぞれセクターごとにご紹介してまいりたいと思います。
まずは、日本政府関連のイベントやインタビューをお届けします。
HLPFの閣僚会合が開催されていた16日(月)~18日(水)、日本政府代表部と環境省がそれぞれに中心となってイベントを主催されていました。まずは、それらのイベントを簡単にご紹介します。また、日本政府代表部をお訪ねして星野大使にインタビューをすることができましたので、最後に、その貴重なお話しを共有させていただきます。
日本政府代表部レセプション
ハイレベル政治フォーラム(HLPF)の閣僚会合がスタートした16日(月)は午後6時15分から国連総会ロビーで、日本政府代表部が主催した「Designing Future Society for Our Lives; Expo 2025 towards achieving SDGs」と題するレセプションが開催されました。SDGsをメインテーマに掲げた2025大阪・関西万博の招致をPRするためのレセプションです。
私はその日の午後には国連本部近くにある政府代表部などをお訪ねしたあと、少し早めに会場に着きましたが、会場では政府代表部の方々が関係者とともに忙しそうに準備にあたっておられました。
開始時刻。司会の方からレセプションの開始を宣言すると、ステージ上にビデオ映像が流れ、別所浩郎大使がご挨拶を述べ、岡本三成・外務大臣政務官をご紹介されました。
岡本政務官は、安倍晋三首相が今年6月のSDG推進本部会合でSDGsを日本の国家戦略の主軸とすることを決意し、政策の強化拡大を示したとして、その3つの柱を説明されました。まず第1に、企業と連携した科学・技術・イノベーションを通じたSDGsを促進し、人間を中心に据えた社会の実現を図り、Society 5.0などによって、経済成長と社会課題の解決の双方を達成することをめざすこと、それと同時に、日本が共同議長を務めたSTIフォーラム(multi-stakeholder forum on science, technology and innovation)での議論を踏まえて、“SDGs for STI”の推進に主導的な役割を果たしていくこと。第2に、日本国内においてSDGsによる地方創生を促進するとともに、そうした地方の努力を世界に向けて伝えていくこと。第3に、SDGsの主要プレイヤーである女性と次世代のエンパワーメントを図るべく、保健や教育の分野での国際協力を強化すること。これらが3本柱で、2025年、大阪に万博を誘致し、その実現を図りたい、と岡本政務官は流暢な英語で述べておられました。2025年という年は、今からおよそ7年後、SDGsの達成期限となる2030年までにあと5年というときです。
岡本政務官に続いて、吉村洋文・大阪市長がステージに立ち、万博の誘致、それを通じたSDGs、持続可能な未来社会の実現への貢献を訴えました。さらに、二宮雅也・経団連企業行動・CSR委員長もご挨拶され、Society 5.0を通じた経団連の取り組みを紹介するとともに、乾杯の音頭をとられました。大阪市長も二宮委員長も岡本政務官同様、雄弁な英語でのスピーチをなさっておられました。
ゲストの方々のスピーチの間に、SDGsの普及啓発に全社をあげて取り組む吉本興業に所属するKAMIYAMAさんが参加して、会場に設置されたステージで、「SDGs×大阪万博×パントマイム」というテーマでつくったオリジナルのパフォーマンスを披露しました。バーンスタイン作曲のラプソディー・イン・ブルーの音楽が会場に流れると、KAMIYAMAさんがステージに登場。パントマイムとマジックを融合させて創作したちょっと不思議でおしゃれなKAMIYAMAさんの世界が繰り広げられました。
最初はきょとんとしていた小さなお子さんたちもKAMIYAMAさんのパフォーマンスに次第に引き込まれていくのがわかりました。パフォーマンスの最後には、SDGsの17の目標をあらわすさまざまな色のカードで高く組みあげたお城がステージ中央に現れ、会場に華やかさが加わりました。
私はパフォーマンスを終えたKAMIYAMAさんにお話を伺ってみました。KAMIYAMAさんはとても謙虚なお人柄で、今回このレセプションで、SDGsをテーマに演技を披露できることをたいへん光栄に思います、とおっしゃっておられました。芸術家の故・岡本太郎さんが大好きで、その芸術作品におおいに触発されているというKAMIYAMAさんは今後、SDGsへの貢献をさらに考えるとともに、それに着想を得たパフォーマンスをもっと開発していきたいと意欲を示しておられました。
レセプションの後半では、ピカチュウも参加して、スピーチを終えた方々、そしてKAMIYAMAさんと全員一緒に写真撮影。そのあと、ピカチュウは会場に来られていたたくさんのお子さんたちと交流し、人気を集めていました。
日本の官民一体となったSDGsへの取り組みを情報発信したレセプションは国連総会ロビーに集う人たちを笑顔にしていました。
環境省イベント
翌17日(火)と18日(水)には、環境省が中心となって、今年のハイレベル政治フォーラムのテーマ別レビューの対象となった6つのゴールのうちの2つに焦点をあてたサイドイベントが行われていました。ゴール11(住み続けられるまちづくりを)に関連したサイドイベントとゴール12(つくる責任、つかう責任)をテーマにした2つの会議です。
まず、ゴール11(住み続けられるまちづくりを)にフォーカスした会議が、17日(火)の午後6時半―8時に開かれました。「アジア太平洋地域における持続可能な都市に向けて("Toward Sustainable Cities in Asia-Pacific")」をタイトルに冠した会議でした。日本政府が国連アジア太平洋経済社会委員会(UNESCAP)、国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)、地球環境戦略研究機関(IGS)、慶應大学SFCと共催しました。アジア太平洋地域の都市が直面する課題についての議論です。高橋康夫・環境省地球環境審議官が冒頭挨拶で、諸課題解決のために国を超えたパートナーシップの必要を訴え、慶応大学の蟹江教授が基調講演において、地方での諸行動が国およびグローバルな活動の成否のカギを握るとの旨を強調されていました。続くパネル・ディスカッションでは、国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)の竹本和彦所長がモデレーターを務め、そのなかで、内閣府岡本事務局次長が、日本における「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」発足などについて述べられていました。また、北九州市から北橋市長も参加し、同市が過去に公害を克服した歴史などの説明をされました。
ゴール12にフォーカスしたサイドイベントは、18日(水)の午後6時半―8時に開催。日本政府が、インドネシア政府、タイ政府、国連アジア太平洋経済社会委員会(UNESCAP)、アジア太平洋SCP円卓会議(APRSCP)、PECoP-Asia(環境研究総合推進費戦略研究S-16)、地球環境戦略研究機関(IGES)と共催した会議です。タイトルは、”SCP in Asia and the Pacific for Accelerated Achievement of SDGs”。前日のサイドイベントで冒頭挨拶を述べられた環境省の高橋地球環境審議官がここでは、日本のSCP(Sustainable Consumption and Production)に関連する国家戦略として、第5次環境基本計画、第4次循環基本計画を策定、実施することを通じて、取り組みを進めていることを紹介していました。また、国立環境研究所・主任研究員の田崎智宏さんも参加し、持続可能な消費と生産の取り組みを進めていくうえで、政策担当者が創造力を発揮することの必要を述べておられました。
インタビュー:星野大使
日本政府代表部のレセプションが行われた16日午後、私は国連本部近くにあるニューヨーク日本政府代表部をお訪ねして、星野俊也大使(次席常駐代表)にお話しをお伺いすることができました。
星野大使は 今年6月5日(火)~6日(水)にニューヨーク国連本部で開催された、「第3回STIフォーラム(the third annual multi-stakeholder forum on science, technology and innovation)」の共同議長を務められた方です。各国政府代表、科学者、イノベーター、テクノロジー専門家、ビジネスリーダー、起業家、市民社会組織代表など、多様なステークホルダーが参加し、持続可能な開発目標(SDGs)の実現を後押しする科学技術やイノベーションの役割を討議する場で、ハイレベル政治フォーラム(HLPF)を前に、毎年2日間の会期で開かれます。政府代表部のレセプションでのスピーチで岡本外務大臣政務官がその重要性を指摘したのがこのSTIフォーラムです。今年が3回目で、参加者数はこれまでを上回り、およそ1,000人に達したそうです。
日々超過密なスケジュールでお忙しいのにもかかわらず、星野大使はお優しい笑顔とゆったりした雰囲気で迎えてくださいました。
とても興味深いお話しをお聞きすることができましたので、ご紹介したいと思います。
星野大使は、まず、日本政府がその推進に努力する「人間の安全保障」の理念が持続可能な開発目標(SDGs)に反映されていることの意義にふれ、誰一人取り残さずに持続可能な世界を実現するためには、SDGsと人間の安全保障が「車の両輪」となっていくことが大切、とりわけ、「誰一人取り残されない」という目標を目指しながらも、恐怖や欠乏、尊厳の欠如のなかに取り残されていたり、取り残されかねない状況におかれていたりしている世界の人々を実際に保護し、潜在力を高める人間の安全保障のアプローチはこれからますます重要になると強調されました。
大使は、また、今後、人口知能(AI)をはじめとする最先端の科学技術がわたしたちの日常生活に入り込むなか、人間にしかできない役割や人間の存在理由そのものにかかわる根源的な問いかけにこたえていく視点としても人間の安全保障の理念が役立つのではないかと述べられました。
そして、SDGsについては、それが政治的な交渉を経て生まれた妥協の産物であることから不備がないわけではないわけではないにしても、幅広いステークホルダーを巻き込み、加盟国の間のハイレベルでの合意を通じて国際社会の共通の目標を設定するという国連ならではの外交の成果物としての正統性が最大の強みであり、それを最大限に活かすべきと指摘しておられました。かつてリンカーン米大統領がゲティスバーグ演説で、人民の人民による人民のための政治を訴えたが、今はまさにSDGsこそ、人々の、人々による、人々のための取組であると考えて、各国政府も自治体も民間セクターも市民一人ひとりも、全員参加で、SDGsを合言葉に共同して行動することが大切であると強調されました。
SDGsの実現に果たすビジネス界の大きな役割をさらに前進させるため、星野大使は、企業の方にお会いになるたびに、SDGsの目標やターゲットを自社の本業に取り込むこと、本業との接点がすぐに見えなければあえて結びつきを探るなかに新しいビジネスチャンスやイノベーションが見出されるはずとお話されるそうです。大使は、さらに、SDGsは2030年を当面のゴール年にしてはいますが、大切なのは2030年を超えた先の世界で人々が持続可能な生活を送れているかどうかだと述べ、わたしたちが2030年を超えた未来への思いを胸に現在の日々の暮らしや活動を見直し、必要な行動をとる意義を語ってくださいました。
気がつけば、あっという間に30分以上の時間が経っていました。貴重なお話しとともに、星野大使のあたたかく気さくなお人柄も強く印象に残った30分でした。
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今回のニューヨーク出張に際して、私は日本政府代表部の岸守一参事官(下写真)にとてもお世話になりました。
岸守参事官は冷静かつ誠実にお話しになる方です。そして誰に対しても分け隔てなくお優しい方で、ニューヨークを訪れるのが初めてで、ひとり不安な私を昼食にお誘いくださったり、また代表部を恐縮するほどていねいに案内してくださったりしました。星野大使のお話しを伺うことができたのも岸守参事官のご配慮によるものでした。
日本政府代表部の報道官としてお忙しい日々を送っていらっしゃるはずなのにと思うと、感謝の念に堪えません。この場をお借りして、あらためて岸守参事官に深い謝意をお伝えしたいと思います。
次回のブログは、HLPFにおける日本の企業の情報発信に関する取材をお届けします。
(参照)
第6回 ~ 国連ガイドツアーでSDGsの啓発促進
第5回 ~ SDGsを舞台裏で支える日本人国連職員たち
第4回 ~ HLPFでの日本の市民社会の情報発信、そしてインタビュー
第3回ブログ ~ HLPFでの日本企業、経団連の情報発信について
第1回ブログ ~ ニューヨーク国連本部でみたハイレベル政治フォーラム