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ジェンダーと気候変動 南スーダン共和国から

水や薪を求めて、南スーダンの女性たちは遠方まで歩かざるを得ない
©UNMISS Patrick Orchard 

気候変動の深刻化は、気候災害の大幅な増加や多くの国内避難につながっています。さらには安全保障に大きな影響を与え、国連安全保障理事会で気候変動が安全保障の文脈で議論されると同時に、国連PKOの現場では、気候変動が安全を脅かす中でその打撃を受けている女性たちに対して、特別な対応が求められています。国連南スーダンミッション(UNMISS)ジェンダーセクションのチーフを務める、西谷佳純(にしがや・かすみ)シニアアドバイザーの報告です。

 

西谷佳純(にしがや・かすみ)
国連南スーダンミッション(UNMISS)
シニアジェンダーアドバイザー・ジェンダーセクションチーフ
ジェンダー政策アドバイザー。軍事衝突・政変後の鎮静化、和平合意の交渉プロセス・実施促進、復興への移行期、緊急人道支援の開始時の戦略策定における助言、プログラム化、資源の動員やパートナーシップを専門とする。2015年から現職。国連機関(国連開発計画、国連人口基金国連難民高等弁務官事務所JPO)の他、国際協力機構-JICAインドネシア・カンボディアにおいて政策アドバイザー、また、本部にて国際協力専門員を務めた。哲学博士・政治学国際関係学修士・東南アジア研究学修士オーストラリア国立大学)、英文学士(明治学院大学文学部)。千葉県立長生高等学校出身。

南スーダンと気候変動

南スーダン共和国は、気候変動による影響に対する脆弱性が最も高い国々の一つである。一口に気候変動の影響といっても、それは、地域、国、また、人によって、影響や深刻度は、異なるが、ここでは、平和、及び、安全保障に対する脅威を増長させるような繰り返し起こり、また、予想がつきにくい気候事象について焦点をあてる。

ここ数年特に顕著なのは、降雨期と雨量の変化や不安定さ、洪水、干ばつ、害虫の蔓延などの気候事象で、既存の紛争促進要因、紛争に対する脆弱性、紛争によって引き起こされる不満や怒りをさらに増長させている。また、これら気候事象は、社会・経済面での負荷を増加し、すでに悪化している人道的な危機に、さらなる負荷を加えている。南スーダン共和国の人口の約95%ほどが、気候に敏感な経済活動に従事し生活の糧を得ていると考えられるが、気候変動によるショックは、ショックを乗り越え対処していくメカニズムにさえ、新たな挑戦を突き付けている。

また、南スーダン共和国は、すでに前代未聞の食糧不足に見舞われている最中だが、気候変動によるショックは、紛争やパンデミックによって引き起こされた課題や日々悪化を続ける価格の高騰にも深刻な負荷を加えている。

2019年 大雨による洪水被害の出た南スーダン南東部  UN Photo/Nektarios Markogiannis

ジェンダーによって異なるインパク

平和や安全保障に対する脅威をさらに増長させるような気候事象がもたらすインパクトは、男女によって異なる、という報告が少なからず挙がってきている。南スーダン共和国は、他民族で60以上の部族が存在するため、必ずしも男性・女性と一括りにして議論をすることはとても困難である。しかしながら、こうした複雑さを理解した上で言えることは、気候変動ショックは、すでに存在する男女間の不平等や女性・女子の阻害化を明らかに悪化させている、ということだ。

例えば、数多くのコミュニティーで、水汲み、また、薪集めは、女性や女子が行う仕事であるが、気候変動ショックが続くことにより、こうした無償労働の負担が増加し、その道すがら正体不明の武装勢力による攻撃・性暴力、また、強盗などの一般犯罪に巻き込まれる危険性が高まる。

また、南スーダン共和国では、和平合意が包括する政府側と野党勢力たちによる政治的対立と並行して、コミュニティー間の紛争や対立も顕著であり、気候変動によりこれらコミュニティー間の紛争周期がより頻繁になってきている。特に、土地や飲み水を求めた家畜と遊牧民による移動は、移動先の住民社会全体に脅威を与えるだけでなく、農業や役畜の世話を行う女性や女子にとっては、誘拐や性暴力などの危険を伴う。

さらに、長く続いた紛争により、南スーダン共和国では、女性世帯主の増加が顕著である。女性世帯主は、家族を養うためにこれまで以上の努力をしなくてはいけないため、気候変動によるインパクトで、さらに大きな負荷がかかっている。

南スーダン、ジョングレイ州の光景  UN Photo/Martine Perret

UNMISSに期待されていること

他のミッションに先駆け、2021年、UNMISSのマンデートである国連安保理決議2567号は、「気候変動は、紛争をさらに悪化させることになる脅威である」という認識を示す前文を含め採択された。さらに、2022年のマンデートである国連安保理決議2625号では、気候変動、自然環境の変化、自然災害などが、南スーダンの人道状況や安定に影響を与えるという認識が示され、気候変動・自然環境・自然災害対策プログラムには、南スーダン共和国政府や国連によるリスク評価・リスク管理戦略が必要と強調し、気候変動対策のための国連枠組み条約・パリ協定について認識を新たにした。

また、人道援助のために、気候変動による負の影響の評価においてジェンダーに敏感なリスク評価を含むことを指針として示した。さらに、2023年のマンデートでは、上記に加え、事務総長の報告書に、気候変動がミッションのマンデート執行に与えるリスク、及び、南スーダンの平和・安全保障に与えるインパクトについて言及することが求められている。

国連西バヘルエルガゼル州病院に設置されたジェンダー暴力被害者支援を目的とするワンストップセンターのハンドオーバーセレモニー 出典:UNMISS広報部

「女性・平和・安全保障(WPS)」に関する国連安保理決議1325号が2000年に採択されたことにより、国連のフィールドミッションには、それぞれジェンダーアドバイザー、及び、セクションが配置されていて、ミッションマンデートのサイクルにおいて、WPS分野の安保理決議によって期待されている成果、及び、ジェンダー視点の統合を促進する責任を担っている。

当ミッションでは、ジェンダーセクションに、私を含め計18名のスペシャリストが、配置されている上、軍と警察にも、それぞれジェンダー担当官が配置されていて、女性の保護アドバイザーセクションのアドバイザー達と協力しながら、文民保護、和平合意の支援、人権問題の調査・検証、人道支援に資するような環境の創出という4つのマンデート分野で活躍している。

ジェンダーセクションとして特に目指している方向性は、紛争解決から復興・開発へと続く公的意思決定のすべてにおいて、女性の参加と意見の尊重が担保されること、そのリーダーシップが見事に発揮できるようにすること、女性の社会・政治参加を阻むジェンダー暴力などの危険からの保護、法による統治・説明責任の強化、被害者の正義へのアクセスの強化、並びに、すべての紛争分析にジェンダー分析を統合することである。

 

さらに、マンデートにも含まれているジェンダーパリティーの視点から少しコメントをすると、当ミッションは、困難で家族を帯同できない任地であるにもかかわらず、各国からの女性職員が数々のフィールドオフィスでトップを務め、文民保護の中心に女性の保護を据え、コミュニティーの安全を確保してきた。中でも、ユニティー州の紛争や洪水の被害から立ち直ろうとしている女性達の多くを継続して支援してきた日本人職員平原弘子氏が、昨年、本部民生部のディレクターとして昇進し、ミッション本部へ移動となり、これまでに以上に近い距離で一緒に仕事ができるようになったのは大変ありがたい。

国連本部から平和オペレーション担当のラクロワ国連事務次長が南スーダンを訪問した折に、UNMISSミッション本部の女性シニアオフィサーとミーティング 右から6人目が筆者
出典:UNMISS広報部

女性を中心・全面に据えた平和・安定化プロセスへ

南スーダン共和国では、すでに2018年に採択された再活性化された和平合意、及び、2022年に採択されたロードマップをもって、現在ゆるやかに和平プロセスを進めている。和平合意に向けたプロセスでは、50以上の女性市民団体からなる連合「平和のための南スーダン女性連合(South Sudan Women Coalition for Peace)」の活躍により、和平合意実施にかかるメカニズムや機構すべてに、少なくても35%までのレベルに女性を指名せよ、という文言が含まれた。

現在、憲法改定・選挙プロセスのフェーズにまで何とかこぎつけたが、メカニズムや機構への女性の指名は、必ずしも35%以上というところまでは達していない。しかしながら、南スーダン共和国は、その固有の歴史上強い女性リーダーたちが存在し、現在の和平プロセスでも、副大統領、閣僚ポスト、国会議長、知事などのポストにつき、優先法案の可決、地域紛争の仲裁、ジェンダー暴力撤廃などで、女性としてのお手本となりうるリーダーシップや手腕を発揮してきた。さらに、最近では、国際人権条約を次々と署名・批准し、それらの国内化プロセスを進めようという明らかな動きがみられる。

近く予定されている当ミッションの新なマンデートにおいても、平和・安全保障に対する気候変動インパクト、また、南スーダン共和国に対する人道的支援におけるインパクト評価とジェンダー視点の必要性は、以前と同様有効な文言として考えられる。

ミッションとして実質的に関与できうる活動としては、

(1)女性市民社会、及び、任国政府意思決定者、国会議員、治安部門の女性リーダーを対象とした平和・安全保障に対する気候変動インパクト評価、女性の社会進出を踏まえたジェンダー視点の必要性、ジェンダー分析の作成手法などのキャパシティービルディング

(2)コミュニティー紛争を防止するための女性紛争調停者の能力形成、女性紛争調停者ネットワークの構築、女性紛争調停者による紛争解決ベストプラクティスの共有

(3)気候変動対策パイロット事業を通じたコミュニティー女性のエンパワーメント

(4)市民社会団体、伝統的リーダー、地方政府の平和・安全保障に対する気候変動インパクトとジェンダー視点の強化

などが考えられる。当ミッションジェンダーセクションとしては、ミッションや国連事務局の幹部の指導の下、ミッションや国連内での協力はもとより、アフリカ連合、地域間開発協力機構、ドナーによる女性・平和・安全保障についてのコンパクト、各界の女性リーダーやそのネットワークを通じて任国政府・市民社会とパートナーシップや協力関係をさらに深めて、女性・平和・安全保障に係るアジェンダを推進していく所存である。

平和と安定の促進におけるUNMISSの役割を啓発するイベントに参加する女性たち
UN Photo/Martine Perret