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国連のさまざまな活動を紹介します。 

「Shared Lives, Shared Future ~ 私たちの暮らしのなかの国連 ~」展:一人ひとりのストーリーを通じて、国連を身近に

「Shared Lives, Shared Future ~ 私たちの暮らしのなかの国連 ~」展:一人ひとりのストーリーを通じて、国連を身近に 

 

国連広報センターでコンテンツ制作を担当している前伊知郎です。 

 

日本の国連加盟70周年を記念する「Shared Lives, Shared Future ~ 私たちの暮らしになかの国連 ~」展のオープニング内覧会が国連大学で開催され、国連の活動と日常生活とのつながりをテーマにしたトークセッションが行われました。 

 

この写真展は、昨年の国連創設80周年を機に国連本部に世界中の国連のオフィスから寄せられた多くの写真の中から、日本と関係の深いもの、そして国連の活動のインパクトが明白なものを国連広報センターが選んでキュレーションしたもので、私も準備に深く関わりました。 

 

内覧会の冒頭、国連広報センターの根本所長は、国連安全保障理事会による紛争解決が難航し、多国間主義が危機に直面している現状に触れながら、教育、医療、人道支援、国際的なルールづくりなど、ニュースでは取り上げられる機会の少ない国連の幅広い活動がどのように人々を支え、インパクトを与えているか、写真展が取り上げる具体的なストーリーを通じて知ってほしいと、写真展の趣旨を説明しました。 

 

 来賓としてあいさつした外務省国連課の原琴乃課長は、私たちの当たり前の日常が、国連とその専門機関の支える国際的なルールや制度によって成り立っていることを強調。日本の国連加盟70周年という節目に、国連の役割を身近に感じ、国際協力への理解と支持を深めることの重要性を語りました。 

 

続いて、会場に駆け付けた3人の写真の「主人公」がパネリストとして登壇し、自らと国連とのつながりについて語りました。 

 

農林水産省の食品安全政策課 国際基準室で国際基準専門官を務める織戸亜弥さんは、FAO(国連食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)が設立したコーデックス委員会のアジア地域調整部会で議長を務めています。食品の安全性や品質に関する国際基準づくりという側面からアジア24カ国の意見を取りまとめる立場から、国ごとに異なる事情や利害を理解し、対話を重ねることの重要性を語りました。意見が対立しても、互いの話に耳を傾け、時間をかけて信頼関係を築くことが共通の課題解決につながると説明し、国連を「世界が共通の課題に取り組むための重要な枠組み」と位置づけました。 

 

愛知県の中学生の加藤歩夢さんは、小学生の時に、コインランドリーでの洗濯が終わった洗濯物の取り扱いや盗難といった問題を解決する発明で、公益社団法人発明協会が手掛ける「全日本学生児童発明くふう展」で世界知的所有権機関のWIPO賞を受賞しました。現在も、発明クラブに所属して、花粉症治療に取り組む子どもを支援する装置や、離れて暮らす高齢者と家族をつなぐ歩数計など、生活の中の課題を解決する発明に取り組んでいます。加藤さんは、WIPO賞の受賞を通じて、自分が困っていることは世界のどこかの誰かも同じように困っているはずだと考えるようになったと振り返りました。身近な困りごとへの問題意識が世界の人々に役立つ発明につながる可能性を持っているということを、WIPO賞が気づかせてくれた、と加藤さんは語ります。 

 

ミャンマー出身で、難民として家族と日本で暮らすノー・ローズ・ヌ・マイさんは、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)のサポートのもとパートナー団体が提供する奨学金を受け、専門学校で調理を学びました。奨学金によって学費の心配をせずに学業に専念でき、現在は都内のホテルのレストランで料理人として働いています。支援なくしてはここまで来られなかった、とローズさん。将来は周囲から信頼される料理人となり、故郷ミャンマーの料理と西洋料理を融合させた料理にも挑戦したいと夢を語りました。国連については、自分のように困難な状況にある人々に学ぶ機会を与えてくれる、大切な存在だと述べていました。 

 

内覧会では、会場への出席は叶わなかった4人の主人公から寄せられたビデオメッセージも上映しました。 

 

 

フスナ・キプソイさん(UNU-IAS国連大学サステナビリティ高等研究所の修士課程を修了して、ケニア在住) 

 「UNU-IASでの学びは、私にとって非常に特別な経験でした。 持続可能性が何を意味するのか、その理解を大きく広げてくれたからです。 何が大切なのかを見極め、それを守り続けようとすることも含まれます。また、この分野では試行錯誤を重ねながら、過去から絶えず学び、現在をより良くすることで、より良い未来を築いていくのだと学びました。  」 

 

小曽宇谷はる(こそうや・はる)さん(石川県羽咋市の高校生。小学校5年生の時に「SDGs新聞」を作り始めたことが国連本部の目に留まり、その活動が国連グローバルコミュニケーション局制作のビデオで取り上げられ、世界に紹介された) 

「当時の活動が国連に取り上げられた経験を振り返り、世界への見方が大きく変わったと感じています。  それまでニュースの中の遠い存在だった国連が、自分たちの活動とつながったことで、「世界は意外と身近な場所なんだ」と実感できるようになりました。  そして、国や言葉が違っても、地球で暮らす私たちが抱えている海ゴミなどの問題は、みんな同じなんだという視点を持つことができました。  私たちの力は小さく見えるかもしれません。しかし、大好きな千里浜の海を守るローカルな一歩は、確実に世界の未来へとつながっています。  『子どもだから』と諦めるのではなく、自分たちの発信や行動が地域を変え、世界を動かす小さな原動力になると信じています。  これからも視野を世界に広げ、足元から行動を続けていきます。 」 

 

ハード麻里花(はーど・まりか)さん(2025年6月から8月にかけて、UNITAR(国連訓練調査研究所)のユース・アンバサダー・プログラムに参加し、平和教育、核軍縮、被爆者の証言といったテーマについて、同世代の参加者や講師、活動家の方々と交流した) 

「このプログラムへの参加は、私の世界の見方に大きな影響を与え、将来の進路や選択を通じて、自分自身も行動を起こしていきたいと考えるきっかけになりました。 平和教育の問題に直接関わる仕事ではありませんが、私は将来、看護師になることを目指しています。人々を助け、支えることで、一人ひとりが自分の心の中に平和を見いだせるようにしたいと考えています。 私は、そのような心の平和こそが、今日も世界各地で続いている紛争につながりかねない、人と人との争いを防ぐための第一歩だと思っています。 」 

 

キム・バンソクさん(大阪・関西万博の国連パビリオンで半年間アテンダントとして活動し、現在韓国で民間企業に勤務) 

「正直に言うと、最初は国連と国際協力について、ほとんど知識も関心もありませんでした。 また、当時は日本語にも自信がなかったため、最初は国連の皆さんが作ってくださったスクリプトを、一生懸命覚えることから始まりました。 しかし、さまざまな国連機関の活動を学び、来場者の方々に紹介していくうちに、いつの間にか自分の考え方も少しずつ変わっていきました。 世界には、私が知らなかった課題がたくさんあり、支援を必要としている人々がいること。 そして、国や文化の違いを超えて、人々が協力することの大切さを学びました。 最初は覚えた言葉を伝えるだけで精一杯でしたが、いつの間にか、その活動の意味を、自分自身の言葉で伝えたいと思うようになりました。 振り返ってみると、私は展示を説明する立場でしたが、実は、私自身が一番多くのことを学んだのかもしれません。 韓国に戻った今も、世界のニュースを見るとき、以前とは少し違う視点で考えるようになりました。」  

 

根本所長が内覧会の挨拶で触れたように、国連憲章の前文が「We the peoples(われら人民)」という言葉から始まることは、国連は世界の人々のために存在し、同時に人々自身によって支えられる組織でもあることを物語っています。 

 


 

 

 

食品の安全を守る国際的なルールづくり、若い世代の発明への挑戦、難民の教育と自立支援 ― 登壇した3人の異なる経験を通じて、国連が遠い国際政治の世界だけではなく、私たち一人ひとりの暮らしや未来に深く関わっていることが共有されました。 

 


 

 

 

私たちが日々触れる国連に関するニュースは、大国の利害が対立するウクライナやガザ、中東の紛争について安保理が有効な対応を取れないことに集中しがちです。そのことが、人道・開発支援や技術的なルールづくりといった国連の多岐にわたる活動を見えにくくしています。安保理は国連の重要な主要機関ではあるものの、安保理は国連とイコールではなく、国連は安保理とイコールではありません。今回の写真展は日頃ニュースでは語られない側面から国連の活動を理解してもらうきっかけになればと、制作に携わった担当者として強く願っています。 

 



 

 

写真展は、東京・渋谷の国連大学での展示を皮切りに全国各地を巡回することになっています。日本中の多くの方々にとって、身近な人々の物語から国連の活動を捉え直し、国際協力の意義と私たち自身が国連を支えることの大切さを考える機会となることを願っています。 

 

投票への信頼構築へ 国連と日本、サントメ・プリンシペの選挙情報を支援

国連は7月27日、サントメ・プリンシペの首都サントメで、国家選挙管理委員会(選管)、ジャーナリスト、市民社会団体を対象に、研修と意見交換会を開きました。平和裏に行われた大統領選から8日後の開催で、9月27日の国民議会選挙や地方選挙などに向け、より正確で信頼できる選挙情報の提供につなげることが目的です。

サントメ・プリンシペは、アフリカ中西部のギニア湾に位置し、サントメ島とプリンシペ島を中心とする人口約24万人の島国です。複数政党制の下で選挙による政権交代を重ねてきた一方、限られた人的・財政的資源の中ですべての有権者に必要な情報を届け、選挙を円滑に実施するため、選挙管理機関の能力強化や投票環境の整備が重要となっています。

午前の研修には、各地区の責任者を含む選管関係者約50人が参加しました。研修のため現地を訪れた在ダカール国連広報センターの斉藤洋之所長は「公式情報が見つけにくく、届くのが遅く、分かりにくければ、うわさと混乱が入り込む余地が生まれる」と指摘し、選挙情報を巡る公的で信頼できる情報源として、選管が果たす役割の重要性を訴えました。

9月の選挙に向け、有権者への情報提供を改善する具体策を検討する選管関係者
© UNIC Dakar

サントメ・プリンシペでは、選管が選挙の運営と管理を担います。委員は選挙期間ごとに臨時に任命され、常設の指導部は置かれていません。

国連は、選挙支援を担当する国連事務次長が承認した選挙ニーズ評価ミッションの結論と勧告に基づき、選管の取り組みを支援しています。

今回の研修は、選管と国連開発計画(UNDP)が共同で実施しました。日本政府が資金拠出する選挙支援事業の一環で、在ダカール国連広報センターが「情報の誠実性」に関する専門知識を提供しました。

サントメ・プリンシペでは7月19日に大統領選挙が行われました。選管の暫定集計によると、現職のカルロス・ビラ・ノバ大統領が有効投票の55・94%を獲得し、1回目の投票で再選を決めました。登録有権者14万2191人のうち、投票したのは5万8764人でした。

欧州連合(EU)の選挙監視団は、投票が平和的かつ適切に行われたと評価しました。一方、棄権率は約59%に上り、同国で歴史的に低い投票率だったと広く受け止められています。

午前の研修と午後の意見交換会では、低投票率への懸念が共通の議題となりました。原因を一つに特定することは難しいものの、参加者からは、選挙人名簿の更新の遅れや、投票所の場所、転居に伴う登録先の変更を巡る課題、継続的な有権者教育の必要性などが指摘されました。また、国外への移住が進む中、実際には投票が難しい人が名簿に残っている可能性や、政治への関心の低下を挙げる声もありました。

午前の研修に参加する選管関係者 © UNIC Dakar

公式情報を「よりどころ」に

今回の研修で重視されたのは「予防」です。混乱が広がる前に正確な情報を届け、市民の信頼を守ることが重要です。

虚偽の開票結果や選挙不正を訴える投稿など、インターネット上で拡散した事例を検証しました。有権者からは「どこで投票するのか」「選挙人名簿への登録をどう確認するのか」「公式結果はどこで見られるのか」といった質問が寄せられていました。

斉藤所長は、問題が起きた後に対応する受け身の姿勢から、必要な情報を事前に提供する広報への転換を促し、「公式情報は迅速、正確、明確に発信しなければならない。情報を発信するだけではなく、市民がどこで確認できるのかを周知することも重要だ」と強調しました。

選挙情報を積極的に発信し、誤解を招く情報に迅速に対応する方法について説明する在ダカール国連広報センターの斉藤洋之所長 © UNIC Dakar

インターネットを利用できない人への情報提供手段として、地域ラジオ、電話による案内、対面式の情報窓口なども挙げました。

選管関係者からは、9月の選挙までに対応すべき課題として、選挙人名簿の更新、初めて投票する人への有権者証の交付、転居に伴う登録先の変更、年間を通じた有権者教育などが挙げられました。

インターネットやSNSを通じて情報が急速に広がる中、選管の対応体制についても意見が交わされました。参加者からは、「現代は世界がつながり、情報がデジタルで瞬時に広がる。選挙期間中は、可能であれば24時間対応し、SNSに情報が出た時にすぐ対応できる体制が必要だ」との声が上がりました。

 

発信を急がず、確認を

午後はジャーナリストと市民団体の代表約40人が、責任ある選挙報道を巡って意見を交わしました。

確認が取れていない主張を直ちに虚偽と断定せず「未確認情報」として扱うことや、数千人が閲覧した投稿であっても、内容が正しいとは限らないことを確認しました。

人工知能(AI)を巡っては、偽画像や偽音声が本物として広がる一方、実際の映像が「AIで作られた」と否定される恐れも指摘されました。

在ダカール国連広報センターで情報の誠実性を担当するディエリ・ディアニュ氏は「正確な情報にとって、今、最大の脅威の一つは速さだ」と警告しました。締め切りに追われていても、発信前に立ち止まり、事実と情報源を確認するよう呼びかけました。

また、「誤った情報を最初に流した側の責任は重い」として、速報性よりも正確性を優先する必要性を訴えました。

オンライン上の嫌がらせや、女性を標的とするジェンダーに基づく偽情報も議題となりました。ディアニュ氏は「攻撃を恐れた女性が政治活動や公の場での発言を控えれば、民主主義そのものが損なわれる」と警鐘を鳴らしました。

ジャーナリストや市民社会の代表との意見交換会で発言する参加者 © UNIC Dakar

投票参加は社会全体の責任

意見交換では、低投票率への対応を求める意見が相次ぎました。

市民団体や専門家を交えた公開討論、学校や地域での継続的な有権者教育、教会や地域指導者との連携、選挙人名簿の不備の早期解消などが提案されました。

サントメ・プリンシペ・ジャーナリスト組合のジョルジェ・ド・オ委員長は「有権者には信頼できる情報が必要であり、必要な時に届かなければならない」と強調しました。「選挙期間中にさまざまな情報が飛び交うのは自然だが、国が目指す幸福、安定、平和に資するものでなければならない」と語り、ジャーナリストは証拠に裏付けられた情報だけを伝えるべきだとも訴えました。

ジャーナリストのエジミルソン・ヌンベ氏は今回の取り組みを歓迎し、「これまで長年にわたり多くの選挙を取材してきたが、今回は記録的な数の有権者が棄権した。数字を減らすには、誰一人取り残さず、全員で取り組まなければならない」と語りました。

メディアは討論の機会を増やし、投票権を行使する重要性を市民に分かりやすく説明する対話の場を設けることで貢献できるとしました。

7月19日の大統領選挙で、投票を待つ有権者と、現地で投票手続きを見守る欧州連合選挙監視団の監視員 © EU EOM

日本、選挙環境整備を支援

一連の活動は、サントメ・プリンシペ政府、日本政府、UNDP、選管による選挙支援事業の一環として、2026年に行われる一連の選挙を支援するものです。事業は5月6日、日本政府とUNDPの書簡交換を受けて始まりました。

障害のある人が利用しやすい投票所の整備や、スロープ、使いやすい投票記載台の設置、女性がより安全に利用できるよう投票所の照明を改善する取り組みなどが含まれます。

若者や農村部の有権者を対象とした巡回型の啓発活動や、初めて投票する人向けの情報キットも提供します。選挙情報の発信を含む選管の能力強化も支援します。

市民による選挙監視も対象となります。少なくとも40%を女性とする200人の監視員を養成して各地に派遣し、投票日には状況をリアルタイムで把握するための情報分析室を設けます。

2026年は、日本とサントメ・プリンシペの外交関係樹立50周年に当たります。

事業は、持続可能な開発目標(SDGs)の目標16「平和と公正をすべての人に」と、目標10「人や国の不平等をなくそう」の達成にも貢献します。

UNDPのリュック・グノンロンフン常駐代表は、女性が人口の約52%を占める一方、政治への参加や政治分野での代表性は依然として限られていると指摘しました。「女性に投票を促すだけでなく、より力強い次世代の女性政治指導者が育つよう支援することが目標だ」と語りました。

新たなデジタルの脅威に直面する国連PKO要員

オンライン上の誤情報や偽情報、ヘイトスピーチは、国連PKO要員にとって脅威となります。オンラインでの有害な言論は、現実世界の分断を深め、民族間の憎悪を煽ることを可能にし、多くのPKO活動の現場での暴力につながるからです。

こうした情報リスクに対処するために、国連平和活動局(DPO)に新たに設けられた「情報の誠実性ユニット」の宮下直美チームリーダーに、国連PKO活動が直面する現状と、対策のポイントなどについて、寄稿頂きました。

宮下直美(みやした・なおみ)
国連平和活動局(DPO)情報の誠実性ユニット・チームリーダー
【略歴】 国連平和活動局(DPO)で、平和維持環境における情報の誠実性に関する活動を率いる。ルワンダやコンゴ民主共和国(DRC)、チャド、スリランカ、ハイチで国連や人道支援機関の職員として経験。日本人とスペイン人を両親として日本に生まれ、3大陸で育った経験から、旅行や異文化体験にも高い関心を持つ。ロンドン大学で学士・修士号を取得。
*記事中の写真は筆者提供

「外国からヘイトスピーチが発信されています。カナダやオーストラリア、米国からです」通訳のマヤルさんは、ブルーヘルメットの下から流れ出る玉のような汗を拭いながら語りました。通訳しているのは、アビエイ特別行政区ミオコル・アレイ国内避難民居住地のコミュニティーリーダーの言葉です。岐阜県ほどの面積を有し、スーダンと南スーダンが領有権を争うこの地域には、国連アビエイ暫定治安部隊(UNISFA)が展開しています。

刺すような日差しを避け、アカシアの木陰に立つ、このコミュニティーリーダーは、アビエムノム出身のアロル・クル・クート系の威厳ある長身の女性で、2026年3月1日に南スーダンのルウェン行政区アビエムノム郡で発生した虐殺について私と同僚たちに語ってくれました。当日の早朝、武装した若者がこのコミュニティーを襲撃し、女性と子ども、男性、少なくとも200人が殺害されたと報告されているこの事件は、まだ短い南スーダンの歴史上でも最も多くの死者を出した虐殺事件の1つ。そこで生き残った人々の一部が、アビエイに避難してきたのです。

ミオルコル・アレイ国内避難民居住地にて、国内避難民居住地の代表(右)が国連の代表団(左)に説明。中央左が筆者。

彼女はヌエル族のことを指し、「彼らは、私たちの仲間が彼らの2人を殺害したからだと言っていました」と語ります。同じくコミュニティーリーダーを務める高齢の男性が「牛の放牧と関係しているのかもしれません。ヌエル族とミッセリーヤ族が私たちの農地で放牧するので、これが戦いを助長しているのです」と付け加えました。アビエムノムのアロル・クル・クート系ディンカ族と、ヌエル、ミッセリーヤの民族グループは、遊牧民と半農半牧民が共に暮らす、この乾燥したアフリカの貧困地域で長い間、土地と遊牧ルートを巡る紛争を繰り広げてきました。

インターネットがほとんど使えないこの遠隔地でさえ、はるか遠くの国で暮らす地元出身者(ディアスポラ)がFacebookやTikTokなどのSNSを通じ、世論に影響を与えたり、暴力を煽ることがあります。この虐殺事件を受けて、オンラインではヌエル族に対するヘイトや、これに対するカウンターがいずれも軽蔑的、差別的、人間性を否定するような言葉で一気に広がりました。特にオンラインでの有害な言論は、現実世界での行動にも影響して分断を深め、暴力を助長するおそれがあります。

アビエイ地区はスーダンと南スーダンの国境に位置し、領有権が争われている

私がチームとともにアビエイを訪れたのもそのためです。誤情報や偽情報、ヘイトスピーチにどう対処すべきか、UNISFAのPKO要員と現地のメディア関係者に研修を行うことが目的でした。アビエイでは、ほとんどの情報が口コミで伝わるものの、衛星インターネットサービスのStarlinkを通じてインターネット接続ができるカフェや企業も多くあります。私たちが話を聞いたジャーナリストやメディア関係者のほとんどは、FacebookやWhatsApp、YouTube、TikTokのアカウントを持っていて、これを利用して情報を共有していました。民族的な敵対を煽るヘイトスピーチは、アビエイの人々に関わるSNS環境の大きなかく乱要因となり、これに隣国スーダンの内戦や、南スーダンでの紛争激化が拍車をかけています。

アビエイ特別行政区トダチで実施された共同コミュニティ保護委員会(JCPC)メンバーの研修

誤情報や誤解を招く情報、操作された情報は現地のコミュニティーだけでなく、国連PKO要員にとっても脅威となります。事実、2025年には、要員の圧倒的多数にあたる76%が、誤情報や偽情報、ヘイトスピーチによって、自らの安全と安心に中程度から深刻な影響が生じていると回答しています。

残念なことに、同じ状況は多くのPKO活動で生じています。レバノン南部では2022年、偽情報から生じた誤解によって、アイルランドのPKO要員1名が殺害されました。また、コンゴ民主共和国(DRC)でも、誤情報で生じた暴動により、要員が殺害されたほか、国連の施設も略奪に遭い、破壊されました。報道官や政務または人権担当官など、最前線で活動する要員が個人的に、恐ろしい脅迫にさらされることもあります。また、SNSで写真や住所が公開されてしまうケースも見られます。

このような情報リスクは、国連が平和と安全を支援できる能力に深刻な悪影響を及ぼします。SNSは民族間の憎悪を煽ることを可能にし、それによって南スーダンやアビエイだけでなく、多くのPKO活動の現場で暴力を生んでいます。紛争当事者の中には、国連安全保障理事会がPKOミッションに与えたマンデートが気に入らず、情報戦を通じて国連の役割を損なおうとする向きもあります。その手段として、AIが生成した画像や動画など、高度なデジタル技術を活用し、オンラインで有害なコンテンツを一気に拡散させることもあります。

レバノン南部で、国連PKO要員の信頼を損なうAI生成画像の一例

ブルーヘルメット(国連PKO要員)を標的とするか、その保護対象となる現地コミュニティの民間人を標的とするかにかかわらず、こうした情報は現地の住民が要員に対して抱く信頼感を弱めかねません。人々が国連に対する信頼を無くせば、人命が失われるだけでなく、士気も損なわれ、ミッションのパフォーマンスと実効性にも影響します。

現地を巡回し、コミュニティーとの意思疎通を図ることは、PKO要員の重要任務の1つです。停戦違反を監視し、民間人を保護し、存在感を示し、治安状況に関する情報を収集することがその目的です。しかし、DRCでは2022年の暴動後、要員がリスクを回避する守りの姿勢に入っているため、コミュニティーを巻き込んで、保護するとともに、信頼を構築し、国連への反感に対処できる機会も少なくなっています。

より根本的な問題として、国連PKO要員と国連という組織自体が、信頼を柱に成り立っているという事情があります。国連は、加盟国が国連に対し、その決定を実施する権限を認めるという形で与えている正当性に立脚しています。国連のフィールド活動は、受入側の当局と住民全体の同意を受けて展開されます。情報操作によってこの同意が揺らげば、ミッション展開の基盤自体が損なわれてしまいます。

ニューヨーク国連本部の平和活動局はこうした理由から、ミッションによる情報リスク対策を支援しており、最近では私が責任者を務める「情報の誠実性ユニット」も創設しました。国連が財政危機に直面する中で、私たちの活動は日本をはじめ、誤情報や偽情報、ヘイトスピーチの拡散に対して同様の危惧を有する国々からの寛大な予算外の支援によって可能となっています。

これは、2024年に国連事務総長が発表した「情報の誠実性のための国連グローバル原則」に沿った取り組みです。この原則は、すべての人に選択、自由、プライバシー、安全を提供し、世界中の人々が自由に自己表現し、情報に基づいた独立した意思決定を行える情報エコシステムを構想しています。

国連PKOミッションは現在、誠実性のある情報、すなわち、すべての人々が入手できる正確で信頼できる情報の流れに対する支援を強化しているところです。それこそが誤情報や偽情報、ヘイトスピーチなど、有害な情報形態に対する最善の防御となるからです。日本を含め、国連加盟国はこの点で合意しています。その趣旨で採択された「グローバル・デジタル・コンパクト」には政府、テクノロジー・プラットフォーム企業、市民社会のメンバーがデジタル情報領域で、信頼や安全、説明責任、人権を強化するために何をすべきかを定める一章が設けられています。

私たちは多くのミッションで、対話と信頼構築のための空間を横断的に強化しています。その目的は、事実やエビデンス、検証済みの情報に基づき、受入国での平和実現に向けた課題と国連ミッションの役割について、共通の理解を得ることにあります。例えばアビエイ北部では、国連PKO要員が共同コミュニティ保護委員会(JCPC)と連携していますが、この委員会はンゴック・ディンカ、ミッセリーヤの両民族集団出身のメンバーで構成され、治安事件の調査と解決、社会的連帯の構築を任務とするものです。

趣意書に署名するJCPCミッセリーヤ側共同議長

兵器撲滅キャンペーンの発足式でUNISFA軍事司令官に挨拶するJCPCミッセリーヤ側共同議長

情報の誠実性の強化には、人々が正確で信頼できる情報を入手できるよう支援するという意味もあります。UNISFAなどのミッションは、現地のジャーナリストやメディア関係者を支援することにより、大きな成果を上げています。噂や憶測が広まりやすく、情報の乏しい環境の中で、UNISFAはコミュニティラジオ局「アビエイFM」の再建を支援しています。アビエイFMは地域初で、唯一のコミュニティラジオ局ですが、戦闘によって2023年11月に停波していました。私のチームも現地訪問中、あらゆる民族グループ出身の現地メディア関係者に責任ある報道倫理に関する研修を行うことで、UNISFAの取り組みに貢献しました。

アビエイFMのスタジオ

UNISFAのように、民間人を保護するというマンデートを担うPKOミッションは、情報の誠実性と効果的な保護との間に関連性を見出し始めています。紛争環境下のジャーナリストやメディア関係者は特に脆弱であり、その報道に対する報復や嫌がらせ、脅迫にさらされます。ジャーナリストを保護することは、表現の自由を擁護しつつ、安全保障理事会によって与えられたマンデートを履行する具体的な方法の1つです。

情報の誠実性と民間人保護との間の関連性は、早期警報という点でも見られます。誤情報や偽情報、ヘイトスピーチは、戦闘行為や暴力の予兆となるからです。私たちはこの理由から、PKO要員に対し、誤情報や誤解を招く情報、操作された情報、暴力の扇動を含め、懸念すべきナラティブを特定、追跡するよう要請しています。そうすることによって、ミッションは問題が生じる前に、民間人や要員自身に対する脅威を予期し、これに対処できるようになるからです。

いかにして情報の誠実性に貢献すべきか、すべてのPKO要員に周知徹底させるのは、決して容易なことではありません。117カ国から派遣された5万人を超える要員が定期的にミッションに出入りする中、私たちの活動では、情報リスクへの対処方法について、誰もが基礎的な研修を共有できるようにすることが重要となります。

日本政府からの財政支援のおかげで、私たちは国連ミッションで展開する軍司令官と警察指揮官向けの研修パッケージを作成しました。このパッケージは、有害なナラティブを集め、分析する方法について、実践的な指導を行うものとなっています。例えば、司令官は「現地住民は、国連ミッションが武装集団に弾薬を提供していると言っている」といった誤った噂話がどんな結果をもたらすかを考え、自らの部隊に対する影響を把握するよう求められます。それは移動の自由や部隊の保護、後方支援、現地住民と交流する能力に影響を与えるものか、といったことです。その狙いは、SNSを通じて拡散された、たった一言が、部隊に目に見える悪影響を及ぼし得ることを示すことにあります。

そして、この活動は実を結びつつあります。ミッションは情報リスクを定期的に特定し、報告するとともに、予防策と対応策も講じるようになりました。また、デジタルメディアの新しいインフルエンサーとの架け橋となり、連携することで、国連PKOミッションの活動を広く周知させています。例えば、以前はUNISFAの活動について、誤情報に基づく漫画を描いていた南スーダンのある人気コメンテーターは現在、アビエイの平和と安全に対するミッションの貢献を示す絵を描くようになっています。

その転機は驚くほど簡単に訪れました。UNISFAの報道官がこの漫画家をアビエイに招き、ミッションが現地で行っている活動を見学させたのです。活動を目の当たりにし、コミュニティとどのように関わり合っているかを理解する機会を得たことで、PKO要員の役割に関する彼の考え方は一変しました。

UNISFAによるアウトリーチと対話前後でコメンテーターによる漫画に変化が。左:2023年に制作された漫画で、市民を盾に陣地にこもったままの国連PKO要員を表している。右:2025年に制作されたUNISFA駐屯地内の壁画で、要員が市民の暮らしを守っている様子を表現。

今日のデジタル世界で起きている有害な情報の「津波」は、圧倒的に大きく、克服不可能に感じられることもあります。しかし、アビエイでは過酷な状況と苦難にもかかわらず、現地の人々や、これを支援するPKO要員の粘り強さと希望が、インスピレーションを与えてくれます。今後の進展はこれまで以上に、国連と加盟国、そして現地の関係者が緊密なパートナーシップによって連携し、信頼を構築し、レジリエンス(強靭性)を高め、平和に投資することができるかどうかにかかっているのです。

 

情報の誠実性に関するDPOの活動について、詳しくはこちら(英語)。

UNISFAについて詳しくはこちら(英語)。

法政大学で「国連ピース・サークル」開催~"誰一人取り残さない平和"を私たちはどう実践するのか?~

 若者が中心となり、平和や地球規模の課題について対話し、ともに考える国連の「ピース・サークル」が5月23日、法政大学で開催されました。高校生や大学生など約70人が参加し、「"誰一人取り残さない平和"を私たちはどう実践するのか?」をテーマに議論しました。対話の成果は、9月に発表予定の『若者の平和への貢献に関する国連事務総長の報告書』に盛り込まれます。

法政大学で開催された「国連ピース・サークル」ⒸUNIC Tokyo

 ピース・サークルは、若者・平和・安全保障に関する国連のキャンペーン「Hear Us. Act Now for a Peaceful World (私たちの声を聞いて。平和な世界のために今すぐ行動を)」 の中心として、国連が世界各地で展開するグローバルな取り組みです。2026年5月現在、60カ国以上で約200のピース・サークルが開催されています。

 日本にいると実感しにくいものの、世界では人口の半数以上が30歳未満とされ、若者が多数を占めています。国連が提唱する「若者・平和・安全保障(YPS)」アジェンダは、若者を平和の担い手として位置づけ、その声を政策や意思決定に反映させる仕組みづくりを重視しており、若者の「意味ある参加」が必要とされています。

 はじめに、今回のピース・サークルを後援した国連広報センターの根本かおる所長が登壇。その週に日本を訪問していたアントニオ・グテーレス国連事務総長がシンポジウムで中東危機に関する学生からの質問に対して、丁寧に回答した場面を紹介しながら、「事務総長をはじめ、国連全体にとって、若者との対話は非常に重要な課題です」と強調しました。

若者との対話の重要性について語る国連広報センターの根本かおる所長ⒸUNIC Tokyo

 また、5月22日に閉幕した核不拡散条約(NPT)再検討会議で、締約国間の対立が解けず、過去2回に続き、今回も成果文書を採択できなかったことにも言及しつつ、「国連史上最多の数の紛争が起きている中、自分の立場にあまり拘らずに、オープンな気持ちでしなやかに議論に参画できる若者の力が今こそ必要とされています」と話しました。

 ピース・サークルの展開にあたり、国連広報センターと連携する一般社団法人かたわら代表理事の高橋悠太さんは、この日の議論のきっかけとして、核兵器の脅威を感性で知るためのアクティビティを実施。参加者に目を閉じてもらい、世界の核兵器の数と同じ約1万2000発のBB弾が立てる音を流し、そこから何を感じたかを話し合ってもらいました。

約1万2000発のBB弾の音を通じて、世界の核兵器の状況について考えてもらうアクティビティ ⒸUNIC Tokyo

 過去には、このアクティビティに参加した中学生から「こんなに沢山あって安全に管理できるの?」という疑問が出たことも紹介。その疑問がAIと核兵器を巡る問題の議論につながったといいます。活動では、「どうやって問いを引き出すか」が重要だとして、続く議論への期待を込めました。

 この日の対話のルールとして、参加者の意見を最後まで聴き、異なる意見を尊重し、多様な意見を歓迎することを共有。また、年齢や所属に関係なく自由に発言でき、発表でも自由にできるが、誰がその意見を述べたかは明かさない「チャダムハウスルール」についても共有しました。

発表用紙にアイデアを書き込む参加者ら ⒸUNIC Tokyo

 議論ではまず、「わたしにとっての平和」がどんな状態かを話し合い、対話の土台づくりを行いました。次に、「誰一人取り残さない」とは、どんな状態を指すのか、誰が取り残されていると感じるのかを話し合うことで視点を共有し、「何故その状況が生まれているのか」という要因を深堀りしました。最後に、「日常でできる行動」について考えることで、明日からできる一歩について話し合いました。

お互いの意見に耳を傾け合う参加者ら ⒸUNIC Tokyo

 この日は、事前アンケートにより、参加者それぞれがSDGsのどのゴールに関心を持っているかをつかみ、その関心に合わせて、「貧困・飢餓」「ヘルス」「教育」「ジェンダー、不平等」「環境・産業・労働」「平和と公正」とそれぞれ数人のグループに分かれ、異なる分野から「平和」への道筋について、議論しました。約1時間にわたって、話し合いを重ね、各グループの発表用紙には、色とりどりのペンで記されたキーワードやイラストが加わり、それぞれのグループの特徴が出た発表につながりました。

教育をテーマに発表を行うグループ ⒸUNIC Tokyo

 様々な関心分野がある中、共通のキーワードとして挙げられたのは「知る」「気付く」です。不平等な貿易システム、水不足、教育格差など、異なる課題に対して、「まずは状況を知ってもらうことが重要だ」とする意見が挙げられました。そのための手段として、ピース・サークルで学んだことを家族や友人、周りの人と共有する、SNSを通じて発信するといったアイデアも多く寄せられました。「解決策を考える人が少しでも増えることが解決の一歩」という声もありました。

平和と公正をテーマに発表を行うグループ ⒸUNIC Tokyo

 また、「自分のバイアスと向き合う」という意見も上がりました。特にSNSで見ているコンテンツには、自分の好きなこと、関心に支配されている側面があるとして、その状況に自覚的になる重要性が指摘されました。 

 平和がどんな状態か、という点について、「平和でない状態は戦争がないことだけではない」として、平和には複数の側面があるという意見が挙げられました。誰も取り残されない状態について、「誰もが意見を言えること」「当事者の声が届く環境」という考え方も共有されました。

 2時間以上に及ぶピース・サークルの終了後、国連広報センターの根本かおる所長は、「女性が参画した和平交渉は15年もつ可能性が35%増加する」というデータなどを紹介し、「多くのグループの人たちに当事者として平和を考える場に関わってもらうことが、大きなインパクトをもたらします」と白熱した議論を称えました。

一般社団法人かたわら代表理事の高橋悠太さんⒸUNIC Tokyo

 一般社団法人かたわら代表理事の高橋悠太さんは、議論の成果を実現させるため、自身が多国間会合でその想いを伝えることができると話しました。そのうえで、『若者の平和への貢献に関する国連事務総長の報告書』が出た後には、大学や地方自治体などそれぞれのコミュニティに対して提示していくことが重要と呼びかけました。

 今回のピース・サークル開催に尽力された法政大学の本多美樹教授は、あっという間の3時間を振り返り、「問題意識はあっても一歩踏み出せない人も多い中、皆さんはアクションを取って参加されました」と強調。そのうえで、「明日からも問題意識を持ち続けて、個々人のコミュニティで平和のリーダーシップを取れるようになってほしい」と力を込めました。

ピース・サークル終了後の集合写真 ⒸUNIC Tokyo


法政大学でのピース・サークルについてまとめた国連本部の記事は こちら。
2026年3月に行われた横浜ピース・サークルの記事はこちら。

グテーレス国連事務総長「最後の訪日」を振り返って -日本と国連の70年

国連広報センター所長の根本かおるです。
2026年5月19・20日に「国連システム事務局長調整委員会」(CEB)と呼ばれる幹部会の年次会合がアジアで初めて、東京で開催されたのに合わせて、国連のトップ、アントニオ・グテーレス事務総長が5月17日から20日にかけて訪日しました。国連難民高等弁務官ならびに事務総長としての訪日は、20回以上になります。

「国連システム事務局長調整委員会」(CEB)のファミリーフォト ⒸUNU/Curtis Christophersen

26年末の退任を前に、今回が事務総長として最後の訪日となる見込みで、日本の国連加盟70周年記念ハイレベル・シンポジウムをはじめ発言の随所に、70年前に国連に加盟してから、核軍縮や平和構築、防災、人間の安全保障をはじめとするグローバル課題について、一貫して国連の場でリーダーシップを発揮してきた日本への感謝をにじませていました。

日本の国連加盟70周年記念ハイレベル・シンポジウムで登壇するアントニオ・グテーレス国連事務総長 ⒸUNIC Tokyo/Ichiro Mae

高市早苗総理大臣とのバイ会談では、高市総理から国際情勢が不安定化する中、国連において、各国が分断されるのではなく、力を結集して課題に取り組むことは、これまで以上に重要となっていること、国連を中核とする多国間主義に対する日本の確固たる支持は不変であることについて発言があり、これに対して事務総長は、両者が共有する目標と、新たな形での効果的なマルチラテラリズム(多国間主義)を推進するため、高市総理および日本政府と引き続き緊密に協力していく用意があることを表明しました。

高市早苗総理大臣と握手するアントニオ・グテーレス国連事務総長 ⒸUNIC Tokyo/Ichiro Mae

さらに、訪日中、様々な場で、事務総長として初めて長崎と広島双方の平和式典に出席し、被爆者の方々に敬意を表することができたことを誇りに思うと語り、核兵器のない世界を目指して連帯を示していました。

日本被団協代表委員の田中熙巳さん(左から2番目)、事務局長の濱住治郎さん(左)と言葉を交わすアントニオ・グテーレス国連事務総長(右)、国連広報センターの根本かおる所長(右から2番目) ⒸUNIC Tokyo/Ichiro Mae

訪日締めくくりの5月20日に行った記者会見では、事務総長として日本で行う最後の記者会見になることから、日本のメディアに向けていつにも増して踏み込んだ発言が目立ちました。

日本記者クラブで開催されたアントニオ・グテーレス国連事務総長の記者会見 ⒸUNIC Tokyo/Yudai Hiraka

冒頭の発言では、国連安全保障理事会について、
予定稿を離れて改革の必要性に強い表現で言及しました。

「必要とされる最も重要な改革は、国連安全保障理事会の改革に他なりません。
その構成は正当性も有効性も担保できていないからです。
事実、常任理事国のうち3カ国が欧州(の国)であるのに対し、
全世界の人口の半数以上を占めるアジア(の国)はわずか1カ国、残りの1カ国は
北米の国で、アフリカとラテンアメリカ(諸国)は全く含まれていません。
これは正当性と有効性という点で深刻な問題であり、
常任理事国の数を増やすとともに、非常任理事国も増やすことで、
安全保障理事会に今日の世界の現実を反映させることが絶対に欠かせません。」

 記者会見で超大国の振る舞いをこれまで以上に批判したアントニオ・グテーレス国連事務総長 ⒸUNIC Tokyo/Yudai Hiraka

質疑応答でも、国連を中心とする多国間主義が危機に直面していることに関してコメントを求められ、超大国の振る舞いを求められ、超大国の振る舞いをこれまで以上に激しく批判しました。

「危機に瀕しているのは多国間主義そのものではありません。
危機に瀕しているのは、国際法を侵害し、時には自ら紛争を引き起こし、
安全保障理事会における拒否権を行使して自らの免責を保証する超大国の行動です。
このような状況下では、国連事務局が世界中で劇的に増加する
紛争の数を抑えることは非常に困難です。
なぜなら、超大国が悪い手本を示すと、他の中規模国もそれに倣うからです。…
紛争国に恒常的に外部干渉を行う勢力が多数存在し、
紛争の予防や仲介が極めて困難になっていることは明らかです。
だからこそ、安全保障理事会の改革は非常に重要なのです。
私が事務総長に就任した当初、安全保障理事会の改革はタブーであり、
事務総長がそれについて語るべきではないとされていました。

しかし今では、私たちはその必要性を絶えず主張し続けています。」

www.youtube.comさらに、記者会見でこの10年間の事務総長在任中のレガシーについて
(早くも)問われて、事務総長は、

1)新型コロナウイルス感染症の世界的大流行への対応で国連が主導的な役割を示したこと、
2)ロシアによるウクライナ侵攻、ガザにおける悲劇的状況、そしてイスラエルおよびアメリカによる最近のイランへの爆撃などに対して、一貫して国際法に基づき、事務総長として声を上げてきたこと、
3)気候変動対策で国連が主導的な役割を果たしてきたこと、
4)人工知能(AI)について国連が関与する場を作ることができたこと、
を挙げていました。

大阪・関西万博の国連パビリオンのテーマ「人類は団結したとき最も強くなる。」が示すように、私たちが団結すれば、難局を切り抜け、成果を出し、人々の信頼が回復できます。それには、国連の身を切る改革努力である「UN80イニシアチブ」への支持も含め、日本の強力な支援は不可欠です。

レセプションで高市早苗総理大臣と言葉を交わすアントニオ・グテーレス国連事務総長  ⒸUNIC Tokyo/Ichiro Mae

「70年にわたり、日本が目指す目標と国連が目指す目標は強く整合してきました。
国連は数十年もの間、日本の寛大さと多国間システムへの貢献から
多大な恩恵を受けてきました。
そして日本は、国連での役割を効果的に活用し、
その外交上の影響力を高めるとともに、安定的、協調的な
グローバル・システムを通じて経済的な繁栄と平和を築いてきました。」

このように日本・国連双方にとっての恩恵に触れつつ、日本の政府と人々に対して、過去70年間の特別なパートナーシップへの感謝を、グテーレス国連事務総長は繰り返し述べていました。

「国連システム事務局長調整委員会」の年次会合がアジアで初めて、東京で開催されたことは、日本の国連への揺るぎないサポートを体現するものでした。今回の事務総長の訪日で高まった機運を、日本が国連加盟を果たした当日である12月18日に向けて、高めていきたいと願っています。

レセプション直前に撮影された高市早苗総理大臣と国連側参加者との集合写真 ⒸUNIC Tokyo/Ichiro Mae

国連調達セミナー登壇を通じて考える、国連の役割と企業との協働の可能性

医療機器から、食料、ITサービスまで、「調達」は国連の多様な現場での活動を支える重要な役割を担っています。国連事務局活動支援局で勤務する望月美納子調達官に、3月に日本で開催され、多くの企業が参加した「国連調達セミナー」での経験や、日本企業が国連と連携する際のポイント、調達担当官としての経験などについて寄稿頂きました。

望月美納子(もちづき・みなこ)
【略歴】大学卒業後、民間企業勤務を経てフランスへ語学留学し、フランス語を習得。子育て期間を経て、1999年よりグローバル金融機関にて調達業務(Procurement)に従事する。約10年間の経験を積み、2006年8月ニューヨーク駐在員として2年間グローバルプロジェクトに携わった後、2008年9月に国連調達部へ採用される。国連調達部では多岐にわたる調達活動に従事し、エボラ危機における緊急調達業務にも対応。コロナ禍においては、国連ソマリア支援事務所(United Nations Support Office in Somalia)において、現地調達員と連携しながらリモートによる調達代行チームのリーダーを務め、緊急調達を支援した。現在は車両およびFLEET管理分野を担当し、国際連合事務局 活動支援局 サプライチェーンマネージメント部 調達部の調達官(Procurement Officer)として勤務。

2026年3月16日および17日に外務省主催で開催された「国連調達セミナー」に登壇する機会をいただきました。本セミナーは、日本企業に対して国連の調達活動や参入機会について理解を深めてもらうことを目的としており、今年は、全体セミナー参加企業数:63企業、総参加者数:76名が参加されていました。私自身、この場での経験を通じて、国連の現在の役割、調達の仕組み、そして企業との協働の重要性について改めて考える契機となりました。

近年、国連の役割は大きく広がっています。従来の平和維持活動や人道支援に加え、持続可能な開発目標(SDGs)の推進、気候変動対策、パンデミックへの対応など、国際社会が直面する複雑かつ多層的な課題に包括的に取り組んでいます。特に新型コロナウイルスの世界的大流行は、保健、経済、社会のあらゆる側面に影響を及ぼし、国連機関の役割をさらに重要なものとしました。このような状況下で、迅速かつ効率的に物資やサービスを提供する「調達」の重要性は一層高まっています。

国連システム全体での調達規模は年間数兆円にのぼり、医療機器、食料、インフラ、ITサービスなど対象分野は多岐にわたります。特徴的なのは、その多くが緊急性や不確実性の高い環境下で行われる点です。紛争地域や災害被災地など、通常のサプライチェーンが機能しにくい場所においても、必要な物資を確実に届ける必要があります。そのため、国連調達では単なる価格競争ではなく、品質、信頼性、持続可能性、そして倫理性が重視されています。

国連事務局調達額の推移(2021年~2025年)

ここで重要となるのがサプライチェーンの視点です。近年、グローバルサプライチェーンは効率性を追求する一方で、その脆弱性も露呈しています。パンデミックや地政学的リスクによる供給途絶も少なくありません。国連はこうしたリスクを踏まえ、多様な供給源の確保、現地調達の強化、デジタル技術の活用などを通じて、よりレジリエントな調達体制の構築を進めています。

また、環境や社会への配慮も欠かせない要素となっています。いわゆる「持続可能な調達(サステナブル・プロキュアメント)」の考え方に基づき、環境負荷の低減や人権の尊重、多様性への配慮などが調達基準に組み込まれています。近年では、女性が所有・経営に主導的役割を持つ企業や、障害者雇用を推進する企業への関心も高まっており、調達においても社会的価値を重視する流れが強まっています。これは企業にとっても重要なポイントであり、単に製品やサービスを提供するだけでなく、その背景にある生産プロセスや企業姿勢が問われる時代となっています。

車両・運送運輸分野は、日本からの輸出および提供サービスにおいて上位2分野を占める重要な分野です。 

この他にも、日本国内の国連関連機関の施設や運営にあたっては、オフィス業務サポート、国際会議やイベントの運営、広報活動支援、WEBサイトや動画制作、旅行手配など、多岐にわたる分野で日本企業にとって引き続き大きなビジネス機会があります。

また、セミナーで多くの関心が寄せられましたが、日本企業が国内外でどのように国連と関わり、連携していけるのかについて、いくつか重要なポイントがあると感じています。

第一に、国連のニーズを正確に理解することです。国連調達は一般市場とは異なる要件や手続きが存在するため、事前の情報収集と準備が不可欠です。例えば、ベンダー (UNGM)登録や入札プロセス、各機関ごとの調達方針などを理解することで、参入のハードルを下げることができます。

第二に、自社の強みを明確にし、それを国連の課題解決にどのように結びつけるかを考えることです。日本企業は品質の高さや技術力に強みを持つ一方で、それを国際的な文脈でどのように対応するか課題となる場合もあります。現場のニーズに即した形で提案する力が求められます。

第三に、パートナーシップの構築です。国連との協働は単発の取引にとどまらず、長期的な関係構築が重要となります。また、他企業やNGO、現地組織との連携を通じて、より効果的なソリューションを提供することも可能です。複雑な課題に対しては、単独での対応よりも協働によるアプローチが有効である場合が多いです。

一方で、日本企業が国連調達へ参入・拡大していく上では、いくつかの課題も存在します。日本企業は高品質で信頼性の高い製品・サービスを提供する力を有していますが、その強みを国際競争の中で十分に発信しきれていないケースも見受けられます。また、国連特有の調達制度や英語による入札対応、価格競争力、継続的な情報収集への対応が負担となる場合もあります。

国連調達の現場では、防災、医療、インフラ、環境配慮型技術、デジタル分野など、日本企業が強みを持つ領域への関心が高まっています。すべての案件に包括的に応札する必要はなく、一部の分野や専門性に特化して参加することも可能です。日本企業の皆様には、ぜひ積極的に国連のニーズを理解し、国際入札へ参加していただきたいと考えています。

私自身、日本出身の調達担当官として国連の現場に携わる中で、日本企業や日本の技術・品質に対する国際的な信頼の高さを実感する場面が数多くありました。一方で、その強みが十分に国連市場へ届いていないと感じることもあります。セミナーでは、日本企業の皆様が非常に真摯に国際貢献を考え、積極的に質問や意見交換をされていたことが印象的でした。

また、私自身、民間企業で調達業務に携わっていた頃は、積極的な市場調査や企業訪問を比較的自由に行うことができましたが、国連調達員は公的機関としての厳格な規則のもとで業務を行っているため、こちらから企業の皆様と直接意見交換できる機会は、セミナーや展示会など非常に限られています。その意味でも、今回のセミナーのように多くの企業の皆様から直接ご意見を伺い、製品や技術をご紹介いただける機会は大変貴重でした。こうした対話を今後も継続していくことが、私たちの活動の向上にもつながると感じています。

最後に、2025年、大阪・関西万博の国連パビリオンに調達の立場から携わり、構想段階から最終的な運営計画に至るまで、そのプロジェクトの一端を担当する機会をいただきました。しかし、実際に完成したパビリオンを自分の目で見る機会はこれまでなく、今回初めて家族とともに訪問することができました。

 

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(大阪・関西万博の国連パビリオンでは、国連のマーヘル・ナセル総代表ら国連チームが筆者家族を歓迎)

 

実際にパビリオンの中を歩き、形となったプロジェクトを目の前にしたときには、大きな感動を覚えました。特に、多くの関係者とともに積み重ねてきた努力が一つの形として実現していることを実感し、胸が熱くなりました。

また、日頃は家族に仕事内容を具体的に見せる機会が少ない中で、自分が携わった成果を家族と共有し、その喜びを分かち合えたことは、私にとって非常に特別で忘れがたい経験となりました。調達という仕事は表に見えにくい分野ではありますが、その先に実際の活動や人々の体験がつながっていることを改めて実感しました。

国連調達は、単なるビジネス機会にとどまらず、国際社会への貢献に直接つながる大きな可能性を持っています。今回の登壇経験を通じて得た学びを活かし、今後も日本企業と国連との橋渡し役として、双方の連携と相互理解に貢献していきたいと考えています。

国連PKOの現場から 揺らぐ国際協調の中で再考するPKOと日本の貢献

国連平和維持要員は、国連平和維持活動(PKO) で、平和のために奉仕し、過酷な状況の中で、人々を支援しています。日本は1992年に国連平和維持活動協力法を制定して以来、これまでに延べ11,500人以上を国連PKOに派遣してきました。国連PKOの現場と国連本部平和活動局の両面で活動経験がある荒木順子さんに、日本の自衛官の立場から寄稿頂きました。

【略歴】軍事計画官 1等陸佐 荒木 順子
2004年防衛大学校卒業。陸上自衛官。2004年陸上自衛隊入隊以来、第8高射特科大隊(北熊本)、国際活動教育隊(駒門)、陸上幕僚監部(市ヶ谷)等で勤務。2014年1月に国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)情報幕僚として国連平和維持活動(PKO)へ派遣。2022年から2025年までニューヨークの国連本部 平和活動局軍事部で軍事計画官を務め、2025年9月から防衛省防衛研究所で研修員として勤務。
※クレジットのない写真は筆者提供

 2014年1月、背中に日本の国旗が縫われた迷彩服を着て初めて南スーダンに降り立った。現地の厳しい情勢と、初めて経験する海外任務への緊張。それでも言いようのない大きな高揚感があった。あの経験が、PKOというものを自分自身の問題として考えるきっかけになった。

2014年 UNMISS JMAC勤務時代の同僚と

 陸上自衛官としてUNMISSに派遣された私は、UNMISS本部の統合ミッション分析センター(JMAC)で司令部要員として、情報管理や治安事象の統計作成を担った。どこまでも広く澄んだ青い空と照りつける太陽の下、時に滝のような大雨に打たれながら、各国から派遣された軍人・警察職員・文民の仲間たちとともに、内戦後の不安定な情勢の中で派遣期間を全うした。その経験は、PKOの現場が抱える現実を自分の肌に刻み込んでくれた。 

 あれから約10年。2023年2月、国連の航空機で再び南スーダンに降り立った瞬間、眼前に広がる青い空と緑の木々とともに迫ってきた熱風は、UNMISSで勤務していた頃の記憶を思い出させてくれた。このとき私はニューヨークの国連本部でDPO(国連平和活動局)軍事部の軍事計画官としてUNMISSを担当しており、軍事部のナンバー2である副軍事顧問の少将とともに、出張で再び南スーダンを訪れていた。役割も立場も変わったが、あの暑さと青い空は変わっていなかった。

2023年 副軍事顧問との南スーダンでの出張。前列の一番右が筆者。

 2023年の訪問は一つ一つのミッションは短期の出張だったが、副軍事顧問とともに複数のミッションの現地に赴き、実態を直接把握することには大きな意味があった。本部にいると見えにくいミッション横断的な課題も、現場に足を運ぶことで問題点が浮き彫りになる。現地訪問後に国連本部内での議論を経て改善につながった取り組みの中には、歩兵部隊が基地から離れてパトロールなどのために前方に展開する中隊レベルの作戦拠点の運用要領や生活環境の改善、軍司令部内の女性要員の比率向上などがあり、こうした取り組みを振り返ると、現地訪問という出張のもつインパクトの大きさを改めて感じる。

 南スーダンでは、自身の派遣から10年経ち、変わっている部分と変わっていない部分の両方を直接肌で感じた。歩兵大隊の数も増え、セクター司令部も整備され、文民保護を主体とするマンデートのもとで、一見すると軍の作戦は円滑に進んでいるように見えた。しかし、現地で丁寧に聞き取りを重ねると、女性司令部要員の生活環境、地方へのパトロール時のトイレなど衛生面での問題、歩兵部隊が臨時に展開する拠点の強度、河川部隊の夜間行動能力、訓練場と訓練予算の不足など思った以上に多くの課題が浮かび上がってきた。

2023年 副軍事顧問との出張時における派遣部隊要員との対話

 その後も、軍と警察の現地能力評価という2~3年に一度の大きな事業を担当し、2週間をかけてミッション全体をつぶさに見て回った。こうした一連の経験を通じて感じたのは、PKOの任務遂行には現場における地道な努力の積み重ねと試行錯誤があるということである。予算や作戦規模など、国内の任務とは大きく異なる制約の中で、目に見える即効性のある成果を出すことは難しい。それでも、平和維持要員一人一人の努力と貢献が現地の平和と安定の基盤を支えているという事実は、忘れてはならない。

 国連では毎年5月29日を平和維持要員の日として、世界のPKOの現場と国連本部でセレモニーを実施している。このセレモニーではその年にPKOの現場で殉職された仲間を称え追悼する意味がある。PKOは国連創設当時、想定されていなかった活動であるが、1988年にノーベル平和賞を受賞しており、武力によらない紛争解決と平和構築の重要性は現在も現実的かつ有効な選択肢である。ニューヨークの国連本部でも、事務総長の臨席の下、厳粛にセレモニーが行われ、献花の他にも、その年にPKOでジェンダーの観点から功績のあった女性軍人・警察要員の表彰や、半年以上勤務した軍人・警察職員へのメダル授与式が行われている。

2025年の平和維持要員の日に開かれたセレモニーで献花を行う国連事務総長
ⒸUN Photo/Manuel Elías

 日本は、1956年12月に国連に加盟しており、今年で70年が経つ。この70年にわたり、日本は国連加盟国の一員として、財政・人的両面から国連の様々な活動を支えてきた。特に国連事務局の通常予算とPKO予算に関する義務的に負担する分担金や任意拠出金においては主要拠出国としての地位を維持し、PKOだけでなく、開発や人道、保健衛生など幅広い分野で実質的な影響力を行使している。PKOへの貢献は、加盟当初から積極的だったわけではないが、1992年のPKO協力法を契機に、自衛隊をカンボジア、モザンビーク、東ティモール、ハイチ、南スーダンなどへ派遣し、施設、輸送、衛生など活動の幅も少しずつ広がっていき、国連や現地住民の他、PKOの部隊派遣国からも高い評価を受けてきた。

 グローバル化の進展により、世界各地で発生する紛争は、地理的な距離に関わらず、日本経済、エネルギー、社会生活にまで直接的な影響を及ぼしやすい時代になっている。こうした環境において、PKOの多くが展開する中東やアフリカの平和と安定に寄与することは、間接的に日本の安全保障の確保につながる。現在も自衛隊は南スーダンへ司令部要員を派遣しており、2026年5月からは新たにUNMISSの参謀長に日本から初めて自衛官を派遣することも決定した。国連本部でも平和活動局(DPO)やオペレーション支援局(DOS)で自衛官が勤務しているが、こうした関与を継続的かつ主体的に取り組む姿勢は不可欠である。

2024年2月 UNMISSに関するブリーフィングを行う筆者(国連軍事参謀委員会)

 近年では、国際秩序を巡る環境は複雑化し、大国間競争の激化や価値観の対立により、国連を中心とした国際協調の枠組みに一定の揺らぎが生じている。こうした状況において、日本は日米同盟を基軸とする安全保障環境を維持しつつも、多国間協力を補完する手段として、PKOを戦略的に活用していくことは、外交・安全保障の両面において有効であり、同時に国連の機能維持・強化の観点からも望ましい方向性である。国連という普遍的枠組みを軽視するのではなく、日本の安全保障に資する実務的な協力の場として再評価した上で、これまで日本が貢献してきた分野、枠組みにとらわれず、よりイノベーティブな方法で主体的に取り組むことが今まさに期待されている。