国連ハイレベルウィークを前に、注目が集まる「未来サミット」について、根本かおる国連広報センター所長の寄稿をお届けします。
9月22・23日開催の国連「未来サミット」に向けたプロセスの中で、アントニオ・グテーレス国連事務総長はしばしば「私たちは のるかそるかの瀬戸際(breakthrough or breakdown moment )にある」という強い言葉を用いながら、国際社会の分断がますます深まる中にあって対立を乗り越えて団結の道を選ぶことを世界のリーダーたちに呼びかけてきた。
こういう時だから一層、国レベルでそして国際レベルで私たちが望む未来について語り合い、固定観念にとらわれず、柔軟に解決策を提案して実践していくことがなおのこと重要だ。その上で、エネルギー、創造性、そして新鮮な視点を持つ前向きな変化の原動力として、世界人口の半分をも占める30歳未満の存在は大きい。そして、さらにこれから生まれてくる将来世代について言えば、今世紀中に100億人以上が新たに誕生すると見込まれている。
グテーレス事務総長の若者への期待は大きい。今年4月の国連ユース・フォーラムの場では、「若者の活力や信念には、拡散力があり、これまでになく必要となっている」と力を込め、世界中の若い世代が立ち上がり、声を上げ、真の変革を求めて活動していることを称えた。同時に、事務総長自身が若者の政治的な意思決定への参加に全力を尽くしていること、そして若者の意見を聴くだけにとどまらず、その声に基づいた実践につなげなければならないことを強調している。
教育や職業訓練、格差是正、雇用や経済的機会、メンタルヘルスを含む健康の確保などは、若者に関わる最優先事項であり、また気候変動対策は彼らの将来を大きく左右する課題だ。しかし、こうした政策の立案や資金・リソースの提供を含む意思決定に、どれだけ若者が参画できているだろうか。真に変革をもたらすためには、若者の有意義な参画のためのグローバルな基準が必要だ。
国連を中心とする多国間主義への信頼、そしてより良い世界への希望を取り戻すためには、その取り組みの最前線に若者が立つことが不可欠だと、国連のすべての加盟国によって既に強く認識されている。それを背景に、国連では既にユース課題を担当する部局「国連ユースオフィス」が事務総長直属の組織として新設され、そのトップを務める事務次長補に弱冠32歳のウルグアイのフェリペ・ポーリエ氏 が昨年任命された。同オフィスは、加盟国が義務的に分担する国連通常予算で賄われ、国連の活動の中で主流化されている。
この流れをさらに確かなものにし、国レベルにも浸透させようと、未来サミットで採択予定の「未来のための協定」は、若者そして将来世代に充てた章を設け、さらに協定の付属文書として「将来世代に関する宣言」が採択されることになっている。未来サミットの前夜祭として行われる2日間の「アクション・デイズ」では、その初日はユース課題がテーマだ。
国連広報センターは、日本の若者たちの実行力が未来サミットを目指して力を結集して実現した「未来アクションフェス」にも協力し、併走してきた。今年3月24日、未来サミットに向けて、東京の国立競技場で、気候変動対策と核兵器廃絶を柱に、歌とダンスのパフォーマンスも絡めた大規模なフェスを開催して機運を高め、日本の若者の声を発信したイベントだ。社会課題を全面に掲げ、エンターテインメントと融合させた日本でのイベントとして、稀有な例でもある。
特筆すべきは、フェスで採択する共同声明の礎として、オンラインで青年意識調査を行い、12万人近くもの声を集めたことだ(注:調査は10代から40代までを対象にしている)。
現在の社会に「満足している」「ある程度満足している」(計44.1%)との回答よりも「満足して いない」「あまり満足していない」(計55.9%)との回答が多く、未来に希望を「持てる」「どちらかといえば持てる」(計43.5%)との回答よりも「持てない」「どちらかといえば持てない」(計 56.5%)との回答が多い結果となった。同時に、社会に「貢献をしたいと思う」「どちらかといえばしたいと思う」との回 答は92.9%を占め、この思いを具体的な行動へと結び付けられるかどうかが鍵だということを示している。
また、若者の声がどの程度政策に反映されているかとの問いに対して、「あまり反映されていない」 「ほとんど反映されていない」との回答が合わせて 80.7%の結果となり、若者の声が届いて いないと感じる人が多いことが分かった。さらにクロス集計では、「未来に希望が持てるか」と「国や地方自治体の政策に若者の声が反映されているか」への回答の間に正の相関関係があることがわかり、若者の声を政策に反映する仕組み作りが、未来への希望という観点からも急務だということを浮き彫りにしている。
アンケートは国連についても尋ねている。国連について「良い印象を持っている」「どちらかといえば良い印象を持っている」との回答が合わせて 78.1%を占め、また「必要だと思う」「どちらかといえば必要だと思う」 との回答が合わせて 82.6%を占めた。さらに、国連は「必要ない」とする声の中で、圧倒的に多かった理由(自由回答)は、昨今の世界情勢を踏まえ、安全保障理事会の役割を問うものが多かった。
フェス実行委員会の若者たちは、調査で得られた声をもとに提言を盛り込んだ共同声明をまとめた。フェスのクライマックスでマルワラ国連大学学長に手渡された時には、雨が激しく降っていたものの、客席は満席のままだった。
国立競技場に7万人弱、オンライン視聴で50万人を動員した未来アクションフェスは多くのメディアにも取り上げられ、未来サミットに向けた顕著な若者の取り組み事例として国連で評価されている。そして、共同声明と青年意識調査の結果は国連のみならず、日本政府(外務省と子ども家庭庁)にも提出された。さらに、5月のケニアの首都ナイロビで開催された国連「市民社会会議」でブース展示を行い、世界から集まった多くの市民社会関係者からの注目を集めた。
✨ マーヘル・ナセルさん @MaherNasserUN、国連グローバルコミニュケーション局アウトリーチ部長がブースにお越しいただきました🌍
— 未来アクションフェス (@MiraiActionFes) 2024年5月9日
彼は今回の会議の企画委員会の共同代表でもあります👏#青年意識調査 の結果をご覧いただき、共同声明もしっかりお渡ししました💬 #未来アクションフェス #2024UNCSC pic.twitter.com/dThY0HFzSh
「市民社会会議」での一コマ 青年意識調査の結果は国連本部幹部にも伝えられた
9月の未来サミットとアクション・デイズには、未来アクションフェス実行委員会のメンバーをはじめ、多くの日本の若者が当事者として出席することになっている。私自身も現地入りし、「SDGメディア・ゾーン」から、日本の若者活動家、メディア関係者とユース課題担当のポーリエ事務次長補とのディスカッションをモデレートするなど、若者課題を中心に現地から発信する予定だ。そして、一世代に一度の多国間主義強化のための機会について、日本の皆さんに報告したい。