国連広報センター ブログ

国連のさまざまな活動を紹介します。 

国連「未来サミット」が目指すもの(1): 祖父母のために構築されたシステムから脱却し、21世紀型の多国間主義を

国連ハイレベルウィークを前に、注目が集まる「未来サミット」について、根本かおる国連広報センター所長の寄稿をお届けします。    

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

マンハッタンの街並みを背景に、国連本部ビル建設に従事する作業員 (1949年)©UN Photo

135もの国家元首・政府トップの参加のもと、来たる9月22日・23日にニューヨークで開催される国連「未来サミット」は、4年に一度、首脳レベルで「持続可能な開発目標(SDGs)」の進捗を点検する「SDGサミット」が昨年9月に開催された延長線にある。その意味では、2030年までの達成という目標の軌道から大きく外れてしまっているSDGsについて、資金面での手当てを含め、その進捗をより強固なものにすることが重要な目的だ。しかし、それだけが未来サミットの目的ではない。国連を中心とする多国間主義をより包摂的でネットワークに根差した効果的なガバナンスへとシステムレベルで改革し、地殻変動レベルで激動する21世紀の国際社会のニーズに迅速に対応できるものに再生することを射程に置くという、首脳レベルでの関与がなければ実現できない、非常に野心的な高みも同時に目指している。

2023年、国連総会ハイレベルウィークを前に、ドローンプロジェクションマッピングがNYの空を彩った ©UN Photo/Paulo Filgueiras

私たちを取り巻く国際環境を見渡してみよう。地政学的な分裂が深刻化し、猛烈な紛争と暴力が多くの民間人に途方もない苦しみを与えている。営々と築かれた、国連憲章を中心とする国際法と国際秩序が公然と破られ、不平等と不公正が拡大し、信頼が失われ、不満を悪化させ、ポピュリズムと過激主義を助長している。気候危機の現実は私たちの対応をはるかに上回る速度で進み、さらに生成AIに代表される科学技術の進歩は、暮らしを豊かにする一方で偽情報の蔓延を生み、さらには戦争の闘い方も変えている。自律型殺戮兵器をはじめとする新興技術の兵器化を含め、その暴走は社会にとって計り知れないリスクを呈している。

破壊され、がれきとなったガザの街をわずかな荷物を持って歩く家族 © UNRWA

国連の加盟国数も、1945年の創設時には51カ国だったが、多くの植民地が独立したことを受け、現在では193カ国と4倍近くになった。新興国の隆盛も相まって国際社会は多極化に向かっているものの、国連をはじめとする国際的な意思決定の制度は創設時のままだ。大陸全体で50カ国を超えるアフリカが常任理事国に入っていない国連安全保障理事会は言うに及ばず、国際金融システムも開発途上国に機動的なセイフティーネットを提供できていない。苦しい資金繰りに陥った途上国は債務返済に追われ、国民に資金を回せないでいる。また、市民社会や民間セクターという、現実社会での主要なアクターたちは限られた発言力しか与えられていない。今日の政策決定の影響を将来にわたって受けることになる若者たちの姿はほとんどなく、今世紀中に新たに加わる100億人を含め、これから生まれてくる将来世代は利益を代表されずにつけを払わされることになる。

2022年2月24日のウクライナに対するロシアの侵略を受け、軍の撤退を求めた安保理決議案は、ロシアの拒否権行使により採択されなかった  ©UN Photo/Mark Garten

これはアントニオ・グテーレス国連事務総長がしばしば口にしていることだが、私たちの祖父母のために構築されたシステムで、孫にふさわしい未来を作り出すことはできない。未来サミットは、これまでのシステムをアップデートして21世紀にふさわしい多国間協力を再構築する上で、一世代で一度のチャンスなのだ。

2024年1月17日世界経済フォーラムでの国連事務総長発言より

未来サミットに向けたプロセスは4年越しの道のりだった。世界が新型コロナウイルス感染症の大流行に見舞われ、多くの人命が失われ、ロックダウンで人の移動と物流が停止し、未知の感染症におののいていたさなかの2020年9月、国連は創設75周年を迎えた。この節目にあって、国連総会は加盟国の総意として、グテーレス事務総長に国連を中心とする国際協力のこれからに向けたビジョンをまとめることを要請した。

国連創設75周年記念会合は、新型コロナウイルス感染症の大流行を受けて、異例の全面ビデオとオンライン対応で開催された  ©UN Photo/Eskinder Debebe

これを受け、国連75周年の節目で世界150万人から優先課題と目指すべき将来像について声を聞き取った調査も踏まえて事務総長が取りまとめた提言が、2021年9月に発表した「私たちの共通の課題」報告書だ。この提言が掲げた重要項目について、国連は2022年から23年にかけて、合計11本の政策概要を加盟国の議論の参考のためにまとめ、公表してきた。若者、将来世代、緊急事態へのプラットフォーム、国内総生産GDP)を越えて、グローバル・デジタル・コンパクト、情報の誠実性、国際金融アーキテクチャー、宇宙、新たな平和への課題、教育の変革、国連2.0、の11分野に及ぶものだ。また、報告書が当初提案していた2023年9月の未来サミットの開催時期を1年延期し、未来サミットとその成果文書に関する準備の本格化を同年2月にスタートさせた。

2024年5月、ナイロビで開催された国連「市民社会会議」で演説するグテーレス国連事務総長 ©UN Photo/Duncan Moore

ニューヨークでのコンサルテーションに加えて、今年5月ケニアのナイロビで開催された国連「市民社会会議」をはじめ、世界各地で広く市民社会から意見を聴く機会を設けてきた。全体のプロセスを国連側で統括してきたのが、ILOの事務局長を長年務めたガイ・ライダー政策担当国連事務次長だ。ライダー事務次長は今年6月訪日した際、国際問題研究所・国連広報センター共催のセミナーで未来サミットの期待値について率直に語った。その中でライダー事務次長が、未来に向けた「対話」が「圧倒的に欠如している信頼の回復」につながる契機となることへの期待を繰り返し強調していたことが、特に印象に残っている。

今年6月に来日したライダー政策担当国連事務次長は、 『効果的で包摂的、ネットワーク化された21世紀型多国間主義を目指して』と題したセミナーで日本の聴衆に向け語りかけた ©UNIC Tokyo

成果文書としてサミット初日の冒頭で採択される予定の「未来のための協定」ならびにその付属文書である「グローバル・デジタル・コンパクト」と「将来世代に関する宣言」は、それぞれの共同進行役のもとで、テキストの交渉の最終局面にある。未来のための協定はアクション中心の文書であり、前文と5つの章立て(持続可能な開発と資金調達、平和と安全、すべての人のためのデジタルの未来、若者と将来の世代、グローバルガバナンス)からなる。人権、ジェンダー平等、気候危機などは、横断的に関わる課題として前文に統合されている。また、唯一の戦争被爆国である日本で関心の高い核兵器のない世界の実現に向けた努力は、平和に向けた国際社会の行動の中で、中核として据えられている。

2022年8月6日広島平和記念式典に出席したグテーレス国連事務総長 核兵器の使用が抽象ではなく現実の脅威になりつつある中、核兵器の廃絶は、「新たな平和への課題」の中で中核に据えられている ©UN Photo/Ichiro Mae

未来サミットそのものは国連加盟国政府が主役だが、彼らは人々の代弁者として出席している。さらに、未来サミットに先立って9月20日・21日に国連本部で開催される未来サミットの「アクション・デイズ」は非国家アクターがむしろ主役であり、特に20日は若者が国連をジャックする。日本の若者も多く現地に入り、参加する予定だ。アクション・デイズを通じて、サミットの目的と未来志向 に沿ったイニシアチブについて、市民社会、民間セク ター、他のステークホルダー、加盟国などの幅広い主体からコミットメントを動員し、行動を促すことを目的とし ている。

2022年の広島訪問時、核軍縮と平和における若者の役割について対話 ©UNIC Tokyo  

国連憲章の前文が国連加盟国政府ではなく「我ら人民」という言葉から始まることを思えば、このサミットはすべての人のためのサミットであり、自分たち自身がそれに反映されていると手ごたえを感じられるものでなければならない。例えば、事務総長直属の部局として新設された「国連ユースオフィス」では、サミットに先立ち #YouthLead というプラットフォームを立ち上げて、世界中から賛同者の声を集めている。集まった声を世界のリーダーに示し、世界のリーダーたちの決定の結末を甘受しなければならない若者たちに意味ある参画の道を開くよう、訴えようというものだ。

2022年のエジプトでのCOP27に際し、事務総長は若者たちから気候アクション推進のエネルギーをもらった(事務総長X投稿より)

未来サミットで課題が完結するのではなく、むしろこれは様々なアクションの出発点だ。このサミットで蒔く種のほとんどは形になるまでに時間がかかり、サミットでの約束を果たすよう政府に説明責任を問い続けなければならない。サミットを受けて、未来のための協定に含まれる勧告や約束の実施に焦点が移ることになる。11月にはアゼルバイジャン気候変動枠組条約第29回締約国会議(COP29)が開催され、気候資金の手当てが優先議題となる。そして来年6月のスペインでの開発資金国際会議では、開発途上国に対する融資、無償資金供与、技術援助をどのように、どのような条件で提供するかを決定する世界銀行国際通貨基金などをまじえ、国際金融アーキテクチャーを改革する努力がなされることになる。

未来を私たちの手に ― そういう思いを持って、未来サミットを受け止め、サミットからの発信を見守っていただきたい。

未来サミットは幅広い分野の課題に対し、世界の指導者たちがブレークスルー(突破)のための選択をする機会となる