第7回アフリカ開発会議(TICAD7)が2019年8月28-30日、横浜市で開催されます。日本では6年ぶりとなるTICADに向けて、国連広報センターはアフリカを任地に、あるいはアフリカと深く結びついた活動に日々携わっている日本人国連職員らに呼びかけ、リレーエッセーをお届けしていきます。
取り上げる国も活動の分野も様々で、シリーズがアフリカの多様性、そして幅広い国連の活動を知るきっかけになることを願っています。第18回は、国連工業開発機関(UNIDO)エネルギー部で途上国技術移転担当課長を務める永澤剛さんです。
第18回 国連工業開発機関(UNIDO)
永澤剛さん
〜日本の技術でアフリカのエネルギー・環境問題解決に貢献〜
国連工業開発機関(UNIDO)は開発途上国や市場経済移行国において包摂的で持続可能な産業開発を促進し、これらの国々の持続的な経済の発展を支援する国際機関です。私はウィーン本部のエネルギー部に所属し、日本の技術を活用した、アフリカにおける環境・エネルギー関連のプロジェクトを担当しています。日本政府と協働し、世界に誇る日本の技術をアフリカへ移転することを通して、アフリカのエネルギー・環境問題の解決のみならず、アフリカの産業開発にも貢献したいという思いで、日々取り組んでいます。
技術を持っているのはUNIDOではなく民間企業のため、プロジェクトを実施するためには、日本企業との協力が不可欠です。UNIDOの特徴のひとつとして、国連の組織でありながら、民間セクターに近い存在であることが挙げられます。UNIDOのマンデートは、アフリカ等において、包摂的で持続可能な産業開発(ISID: Inclusive and Sustainable Industrial Development)を促進し、これらの国々の経済発展、貧困削減を支援することなので、民間セクターとの協業は、ある意味、当然かもしれません。日本企業は、特にアフリカについてまだまだ知らないことが多いため、何度も話し合いを重ねていくことで、多くの企業にご協力いただくことができました。
農業用水を活用する発電システム
例えば、ケニアとエチオピアでは、低落差マイクロ水力発電システム(小規模な河川や水路に水車を設置し、自然エネルギーを有効活用するシステム。低落差でも高効率な発電を可能にする)の実証に取り組んでいます。
低落差マイクロ水力発電システムは、従来の水力発電に比べて、容易かつ短期間で設置することができます。灌漑用水路のような一般的な用水路に加え、飲料水路や排水路といった既存の水設備にも設置可能です。この技術によって、農村部においても、再生可能エネルギーの生産活動への利用が可能となることが期待できます。
ケニアでは、ナイロビの北東約100キロに位置するキリニャガ郡ムエア地域(Mwea, Kirinyaga Country)の灌漑用水路(農地に外部から人工的に水を供給する水路)に本システムを設置しています。
また、エチオピアでは、アジス・アベバの東約160キロに位置するオロミア州ファンターレ地域(Fentale, Oromia Region)の灌漑用水路に本システムを設置しています。
本システムは、設置後の操作やメンテナンス作業が比較的容易であり、アフリカに導入しやすいということから、JAGシーベル株式会社と協力しつつ、技術の実証に加え、システム運営にかかる現地住民に対するキャパシティビルディング、同技術の普及に向けた官民パートナーシップの枠組みの構築も行なっています。また、発電された電力は、それぞれの地域の産業活動に使用されることになっています。
太陽光電池と蓄電池
さらに、モロッコでは、マラケシュの南東約200キロに位置するワルザザートの既存の太陽光発電プラントにおいて、レドックスフロー蓄電池(イオンの酸化還元反応を利用して充放電を行う蓄電池。長寿命で、常温運転が可能であるため安全性が高い)の実証を行っています。
本プロジェクトは、住友電気工業株式会社と協力しつつ、また、モロッコのMASEN(モロッコ王国持続可能エネルギー庁)とパートナーシップを組みながら、技術の実証を実施しています。モロッコは、太陽光をはじめとする再生可能エネルギーの拡大に注力しており、日本の蓄電池の技術が電力系統の安定化に寄与することが期待されいます。またMASENは、他のアフリカ諸国とのパートナーシップ協定を締結しているため、私としては今後、モロッコで実証した日本の技術をアフリカ内で横展開していくことも視野に入れて取り組んでいきたいと思っています。
アフリカで進む地熱開発
そして今熱いのが、地熱プロジェクトです。アフリカ大陸は、地熱資源に恵まれています。とりわけ、ジブチ、エチオピア、ケニア、モザンビーク等をまたがる大地溝帯(The Great Rift Valley)周辺に見られる地熱エネルギーは、その周辺国にとって、大変重要なエネルギー源となる可能性を秘めています。前回のアフリカ開発会議(TICAD)でも、安倍総理より、「質の高いインフラ投資」の推進の一環として、アフリカの地熱発電開発を支援する旨の表明がありました。これを踏まえ、UNIDOは日本の経済産業省の支援を受けつつ、日本の地熱発電技術を移転・普及させることにより、アフリカのエネルギー開発を後押しするプログラムを開始しました。
本プログラムでは、第一弾として、IoT(Internet of Things)を活用した既存の地熱発電所の運営・管理の高度化を図るプロジェクトを実施する予定です。
具体的には、日本企業の参画を得ながら、IoTを活用して、現在稼働している地熱発電所の運用・メンテナンス(Operation and Maintenance: O&M)能力の強化を図るプロジェクトです。日本のJICAとの協働によって実施する予定です。UNIDOは、IoTシステムの導入を行い、JICAはUNIDOが導入したIoTシステムをベースとし、専門家派遣による人材育成、プロセス改善といった技術協力を行うことによってO&M能力の強化を図り、それにより対象の地熱発電所の稼働率の維持又は向上を目指すというものです。このように、日本の技術を活用することにより、アフリカ諸国が抱えるエネルギー・環境問題をはじめとした様々な問題を解決したいという思いで日々奮闘しています。
おわりに
プロジェクト現場では、現地の村の子供達が出てきて、私達の活動などを見学に来ることもあり、子供たちの将来に少しでも貢献するようなプロジェクトにするぞ!という思いに駆られることもあります。
様々な国の人達と協働しながらプロジェクトを実施することは、もちろんそれぞれの国の文化や考え方の違いがあるため、それなりに困難を伴うことも事実です。また、時差や通信環境といった壁もあり、現地とのコミュニケーションを緊密に取ることが難しいこともしばしばあります。そんな中でも、現地スタッフや相手国政府、現場の人々とひとつの目標に向かっていくというUNIDOの仕事に、非常にやりがいを感じております。
今年のTICADの期間中には、これらの成果の紹介や、今後の技術移転のあり方などをディスカッションするためのサイドイベントも企画しています。ご関心のある方は、是非とも、ご参加頂ければ幸いです。