第7回アフリカ開発会議(TICAD7)が2019年8月28-30日、横浜市で開催されます。日本では6年ぶりとなるTICADに向けて、国連広報センターはアフリカを任地に、あるいはアフリカと深く結びついた活動に日々携わっている日本人国連職員らに呼びかけ、リレーエッセーをお届けしていきます。
取り上げる国も活動の分野も様々で、シリーズがアフリカの多様性、そして幅広い国連の活動を知るきっかけになることを願っています。第19回は、国際労働機関(ILO)雇用政策局に勤務する塚本美都さんです。
第19回 国際労働機関(ILO)
塚本美都さん
~インフラ投資を通じて、未来へつながる働きがいのある仕事を~
1994年にILOでの勤務を開始。脆弱性、人道的な暮らし、雇用政策、及びインフラ開発を連結させた形でのアフリカ、アジア、ラテン・アメリカ諸国における労働集約型投資を用いたコミュニティ・ベースの活動支援に12年間携わる。格差是正に向けた経済・社会・環境インパクトとディーセント・ワークの創出を重視しつつ、公共事業プログラムにおける複数の目的に対応するため、公的雇用プログラム(PEP)、社会的保護の土台(SPF)、気候変動適応策のシナジー強化に向けてチームを主導。ILOでの勤務以前は、世界銀行においてセクター別戦略研究に従事し、ビジネス・教育・貿易分野で企業の社会的責任(CSR)に関する政策提言に寄与。
雇用集約型投資プログラム(EIIP)という仕事
私がILOでの勤務を開始してから22年が経ちますが、これまでのキャリアの半分以上は雇用集約型投資プログラム(EIIP)という事業に携わってきました。EIIPは、雇用の創出を通じた経済・社会・環境格差の是正という「人間中心の(human-centered)」アプローチの取組であり、そこに私は非常に大きなやりがいを見出しています。
EIIPチームの具体的なタスクは、失業の問題や不完全雇用、つまりもっと働きたいのに働けないという状況に対処することができるような公共投資政策の立案・実施・評価を各国で支援することです。この投資先は、道路建設や維持管理などのインフラ整備・開発が中心ですが、環境や社会セクターにおいても私たちは支援活動を行っています。
こうした公共投資は、雇用保障と経済循環の両方の意味合いがあります。まず、働きがいのある仕事と収入を即座に生み出すことは、インフォーマル経済、つまり法律が十分に適用されない環境において、社会保障の役割を担います。特にサブサハラ・アフリカにおいては、現在でも全ての雇用形態のうち約3分の2がこうしたインフォーマルなものであることからも、その重要性は明らかです。こうした支援はそうしてインフォーマル経済からの脱却、労働スキルの獲得、そして中小企業の支援へとつながっていきます。また、公共投資を通じて整備・開発されたインフラはそのものが資産であり、それは地域経済を循環させ、地域での相乗効果をも生みだします。
ILOでの仕事、特にEIIPの醍醐味は、脆弱な状況に置かれた人々に対する支援の効果を間近で見て、聞くことができることです。それは人々の生活環境の改善であったり、所得保障であったり、人里離れた農村地域の人々のアクセス向上であったりと様々ですが、どれもが目に見える効果としてすぐに表れます。また、こうした物理的な成果だけでなく、例えば、ある女性の労働者は私たちのプロジェクトを通じて、初めて職場で様々な人たちと交流し、自身の社会への貢献に誇りをもてるようになったと話してくれました。こうした人々の生の声を聞くたびに、私たちの取組への情熱は高まります。
アフリカ地域の課題とEIIPの支援
私たちは様々な国と地域で活動を行っていますが、アフリカ地域におけるEIIPは、最もポテンシャルが高いといっても過言ではないかもしれません。アフリカは2000年以降、平均4.6%の経済成長率を誇り、この高度経済成長はインフラ投資に大きく支えられたことは事実です。しかし、その割合は実はアフリカ全体のGDPの7.2%程度でしかありません。インフラに対する投資が少なければ、それは雇用の脆弱性として影響を受け、それはまた貧困や社会的格差の拡大、そして様々な形態での脆弱性へとつながってしまいます。こうした質の高いインフラ投資と幸福度(Well-being)、あるいは生活の質との関係性は、私も参加しているG20開発作業部会会合でも広く議論されています。
こうした状況を受け、私たちが行っている投資手法への関心は、年々アフリカ各国で高まってきています。現在、13カ国において雇用集約型アプローチの訓練施設が設立され、それらの多くが現在は国内資産で賄われています。私たちも、こうした努力に応えるべく、1万を超える出版物を収容するデータベースの維持・管理を通じて活動を支援しています。
また、各国のオーナーシップの顕在化は訓練所の建設だけではありません。1990年にEIIPの実務者が20数名程度集まり開催された「労働基盤型事業実務者対象地域セミナー」でしたが、2017年の第17回目では、9カ国からの大臣を含む520人以上が参加し、各国大臣は持続可能な開発目標(SDGs)に向けて雇用集約型アプローチを用いることにコミットする旨を宣言しました。このように、現在では同セミナーは南南協力に向けた国際プラットフォームとして機能しており、私たちの活動の輪がこうして大きく広がってきていることを嬉しく思っています。第18回目となる次回の地域セミナーは2019年9月9日から13日にかけてチュニジアの首都チュニスにおいて開催されます。更に多くの参加者が活発な議論を行えるよう、私たちも関係者との協議を進めているところです。
職業安定と社会保障、そして気候変動適応策をつなげる
私たちは2010年から職業安定プログラム(Public Employment Programme)、略してPEPという用語を使い始めました。PEPは、労働市場が十分に仕事を生み出すことができない場合に、公共投資を通じて仕事の需要を強制的に高めるために用います。すなわち、PEPは社会保障と表裏一体の取組と言えます。私たちはこれまで、エチオピアにおける「生産的セーフティネット・プログラム(PSNP)」や、南アフリカの「拡大公共事業プログラム」などと共に、効果的なPEP計画の考案に注力してきました。例えば、PEPに関するガイドブック(IPEP)の執筆(2012年)などを通じてILOはG20社会保障機関間協力委員会(SPIAC-B)の活動に携わることとなり、2015年からは私がその作業部会(ISPA)の指揮をとっています。
こうしたPEPの活動を指導しているうちに、脆弱な農村部の人たちの生活にとって、気候変動による影響が年々増大していることを目の当たりにしてきました。これを受け、公正な移行に向けた環境セクターにおける取組の強化に私は取り掛かりました。開発途上国においては、特に農業のように気候に左右されやすい産業は気候変動による影響が甚大であることは容易に想像できるでしょう。私は、このように最も脆弱な農村部の人々が気候変動に適応できるよう支援すべく、「気候変動適応策に向けたILOのアプローチ」の策定等に寄与しました。各国のプロジェクト・レベルでは、異常気象に対応する排水設備工事や水保全、干ばつ等に対する灌漑や水・土地資源管理、洪水に際する農村地域交通網強化などの分野で、雇用創出と気候変動適応策の双方の観点から取り組んでおり、こうした需要はアフリカ諸国で高まっています。
終わりに
以上のように、EIIPの取組を通じて、私はこれまで①社会保障の拡大に向けた職業安定プログラム(PEP)の強化、②気候変動への適応に向けた「公正な移行」、そして③南南協力支援のための訓練資料の提供やシステム構築、といった3つの分野において貢献してきたと感じています。
私は昨年から雇用政策局内の開発・投資部(DEVINVEST)の部長に就任しました。同部署では、EIIPという公共投資を通じた雇用創出だけでなく、貿易やセクター別の雇用インパクト評価、平和とレジリエンス、そしてフォーマル化への転換など多岐に渡るテーマを扱っています。
私たちは皆、生産的で働きがいのある人間らしい仕事、つまりディーセント・ワークが必要です。それは権利が保障され、十分な収入があり、適切な社会的保護が与えられる仕事を意味します。これを達成するためには、上述の全ての分野に総合的に取り組むことによって、包摂的な構造改革(Inclusive Structural Transformation)を実施していくことが求められています。これは、持続可能な開発目標(SDGs)の目標8そのものでもあり、私たちの活動は全てこのような地球規模の取組につながっているのです。
また、ILOはTICAD7オフィシャルサイドイベントとして、8/29(木)15:30-17:00、パシフィコ横浜アネックスF201において、ILO仕事の未来ダイアローグ「Jobs4Youth:若者と仕事~アフリカの投資、生産性向上と人間中心のアジェンダ」(要事前登録)を開催します(詳しくはこちら→https://www.ilo.org/tokyo/lang--ja/index.htm)。イベントには、ガイ・ライダーILO事務局長参加の下、ハイレベルパネル討論が行われます。若者の仕事(Jobs4Youth)は経済成長と平和の実現の鍵であり、毎年1000万以上が新たに労働市場に参入するアフリカで、「人間中心の仕事の未来」の実現は重要な政策課題です。皆さんぜひ奮ってご参加ください!