第7回アフリカ開発会議(TICAD7)が2019年8月28-30日、横浜市で開催されます。日本では6年ぶりとなるTICADに向けて、国連広報センターはアフリカを任地に、あるいはアフリカと深く結びついた活動に日々携わっている日本人国連職員らに呼びかけ、リレーエッセーをお届けしていきます。
取り上げる国も活動の分野も様々で、シリーズがアフリカの多様性、そして幅広い国連の活動を知るきっかけになることを願っています。第9回は、国連児童基金(UNICEF)ニジェール事務所で教育チーフを務める渋谷朋子さんです。
第9回 国連児童基金(UNICEF)
渋谷朋子さん
~ニジェールで希望の光をともす日本・JICAとUNICEFの教育協力~
サハラ砂漠に面するニジェール共和国。2018年の人間開発指数では世界最下位になる程生活は厳しい上に、近年ではボコハラムとマリの過激グループのテロ脅威にもさらされています。そんな中、教育分野も課題が多くなっています。7歳から16歳の学齢児童の53%が就学していない上、仮に就学したとしても6年生で満足に語学と算数を習熟できたのは8%のみです。
そこで、2017年末から国連児童基金(UNICEF)と国際協力機構(JICA)による連携が始まりました。ボコハラムの被害を受け約25万人が難民避難民生活を強いられている同国ディファ州において、学校に行けなかった子どもたちを対象としたノンフォーマル学校14校で、JICAが開発した算数ドリルによる学力改善手法を導入。普通の小学校でも先生が黒板に書いたことをノートに書き移しているだけの授業が多い中、このプロジェクトの対象校では各児童がそれぞれのレベルにあったドリルを自ら解き、その場で採点・指導されて、1つのレベルを習得した後、次に進んでいきます。こうした取り組みの結果、約300人の生徒の算数テストの平均正解率が3カ月で19ポイントも上がりました。2018年にはこのプロジェクトに日本政府の補正予算からのご支援をいただいています。
「この試みにより、(ディファ州の)子どもたちでも確実に学べることがわかりました。今後対象校の数を増やし、普及していきたいです」とディファ州の初等教育局長、アサン・ハムザ氏は満足そうに語ります。同州の平均学力は国で最下位だったので、初等教育局にとっても子どもの学力を上げることは大きな課題でした。そんな中、このプロジェクトは希望の光をもたらしたのです。
しかし、この結果に至るまでの道程は容易ではありませんでした。JICAのこの手法はニジェールの安定している他州で既に成果を出していましたが、紛争被災地では予期せぬ障害に直面しました。まずボコハラムの攻撃が未だに続くディファ州では安全上の行動規制が多く、予定していた出張が何度も土壇場でキャンセルされ、はじめの教員研修の前半には担当官が立ち会えなかったほか、モニタリングも望ましい頻度で行えませんでした。そこで、配布された算数ドリルが効果的に活用され、学力改善につながるようJICAとUNICEFが共同で打開策を模索しました。現場スタッフと州教育局の能力が強化するように方向転換し、同時に担当視学官と教員たちの間でWhatsApp(日本のLINEのようなメッセージアプリ)グループを作り、ドリルを採点・指導中に直面した疑問点をリアルタイムで意見交換ができるなどの工夫を導入しました。こうした粘り強く柔軟な技術協力により、今回の成果が出たのです。
同時に、日本政府の2018年補正予算支援によって、上記のノンフォーマル学校での算数ドリルを使った学力改善活動に加え、約400人の未就学青少年への職業訓練、さらに20の村ではコミュニティーでの子どもの保護システム作りが行われました。ボコハラムの勧誘・攻撃の危機に日々さらされているこの地域では、青少年がボコハラムの活動に勧誘されるリスクを予防すると同時に、被害を受けた子どもたちを見つけて保護する仕組みを各村で持つことが必要だからです。こうした取り組みの結果、同プロジェクトの成果が評価され、2019年度の日本政府補正予算の成立で、資金援助が今年2月末に決定しました。また、JICA・UNICEF間の学力改善の技術協力もさらに創造的に展開し、紛争地域だけでなく低学力に苦しむニジェールの一般の生徒のための算数ドリルの普及や、ドリルをアプリ化して子どもが楽しみながらタブレットで学べる試みの準備も始まりました。
このように、日本の財政・技術支援はUNICEFとの効果的な連携を通し、地球の反対側・ニジェール共和国の紛争被災地においても、将来の平和へ希望の光をともしています。
このような連携に携わっている私も、はじめは青年海外協力隊員として1999年にガーナの村に赴任しました。以来気付けば20年間アフリカの教育開発に携わり、ニジェールは赴任7カ国目です。この間、猛暑に見舞われて断水・停電が何週間にも及んだり、クーデターやテロなどで外出禁止の日々が続いたりすると、「もうそろそろ日本に帰ろうか」とくじけそうになる時も何度かありました。でも、生まれて初めて教材を手にして踊って喜ぶ子どもたちや、かやぶきの教室でも目を輝かせて嬉しそうに学んでいる生徒たちを見たり、教育省の職員に「トモコと一緒に働けて良かったよ」と言ってもらえると、「この仕事に就けて、やっぱり私は幸せだ」と改めて思えます。
日本は特に資源に恵まれていないにも関わらず、戦後のゼロに近い状態から国民の教育を通して急成長を遂げた国として、私が出会った多数のアフリカの人々から尊敬されています。そんな日本からの教育支援への関心と期待は高く、その期待に応えるべく成果を出さなくてはいけないというプレッシャーも感じます。私も微力ながら、アフリカの開発に今後も一日本人として貢献していかれればと思います。