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国連のさまざまな活動を紹介します。 

TICAD7リレーエッセー “国連・アフリカ・日本をつなぐ情熱” (12)

第7回アフリカ開発会議(TICAD7)が2019年8月28-30日、横浜市で開催されます。日本では6年ぶりとなるTICADに向けて、国連広報センターはアフリカを任地に、あるいはアフリカと深く結びついた活動に日々携わっている日本人国連職員らに呼びかけ、リレーエッセーをお届けしていきます。

 

取り上げる国も活動の分野も様々で、シリーズがアフリカの多様性、そして幅広い国連の活動を知るきっかけになることを願っています。第12回は、ニューヨークの国連事務局で活動支援局(DOS)に勤務する佐藤勝久さんです。

 

第12回 国連事務局活動支援局(DOS) 

佐藤勝久さん


~三角パートナーシップ協力の発展と課題~

 

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愛知県出身。東京大学法学部卒業、米国コロンビア大学にて国際関係学の修士号を取得。防衛省にて、ASEAN諸国との防衛協力や能力構築支援事業のほか、防衛予算及び防衛力整備に携わる。また、内閣府PKO事務局にて、自衛隊南スーダン派遣等を担当。2017年2月より国連事務局活動支援局にてTPPチームのパートナーシップ計画官。

 

 

このエッセーを読んでいらっしゃる方は、多少なりとも国連PKOに御関心がある方であると思いますが、三角パートナシップ・プロジェクト(TPP: Triangular Partnership Project)を御存知ですか。防衛省・外務省の担当以外で本プロジェクトを御存知であれば、相当の国連通であると自負して良いと思います。

 

近年の国連PKOでは,装備品(重機)やそれを操作可能な要員が不足しているため、人道支援等のPKOでの活動やPKO要員自身の安全の確保に大きな支障をきたしていることが深刻な問題となっています。これが全ての要因ではないにせよ、過去5年間では、平均して毎年120名以上の要員が殉職しています。このような深刻な事態の主たる原因として、PKOへの部隊派遣に積極的な国は任務を履行できる能力が不足している一方で、十分な能力を有する国はPKOへの派遣が少ないという点が指摘されており、これらの国々が協力し合う枠組みの構築は急務であると認識されていました。

 

こうした中、2014年9月の第1回PKOサミットにおいて,安倍総理が国連への支援を表明し立ち上がったのが、本プロジェクト、TPPです。TPPとは、端的にいえば、国連加盟国が協力してPKOに貢献できるよう、①要員派遣国(TCC: Troop Contributing Countries)、②財政的・人的貢献をする支援国、③国連(ニーズの把握、訓練計画の企画等の総合調整を国連事務局の活動支援局(DOS: Department of Operational Support)が実施。)の三者間がそれぞれの強みを発揮して協力する枠組みです。

 

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陸上自衛官による重機操作訓練。日本の訓練はどんな訓練生に対しても懇切丁寧に教える点に定評がある

 

2015年のナイロビでの訓練開始以来、2018年末までに330人の工兵に対して訓練を行い、多くの卒業生が国連PKO要員や母国の工兵学校で教官として活躍しています。2018年11月から12月にかけてはアジア及びその周辺地域の国々を対象として、ベトナムでの訓練も開始されました。これまで、アフリカからは13か国(ウガンダエチオピア、ガーナ、ケニアコートジボアールザンビアシエラレオネセネガルタンザニア、ナイジェリア、ブルンジ、モロッコルワンダ)、アジア・太平洋からは9か国(インドネシアカンボジアシンガポール、ネパール、東ティモール、フィジーブータンベトナムミャンマー)が参加しています。あるアフリカの国の代表は、PKOの工兵の能力向上は勿論、自国の土木事業の発展(途上国では工兵が道路工事等の公共事業を行うことは珍しくありません。)、アフリカの軍隊の相互運用能力の向上、参加者の見識の拡大に資する素晴らしい訓練、と会議で発表するなど、TPPは国際社会で極めて高く評価されています。また、これまでに151か国が支持を表明している「PKOのための行動(A4P: Action for Peacekeeping)」に関する共同コミットメント宣言や本年3月のPKOに関する閣僚級会合における事務総長演説でも「革新的アプローチ」として評価されています。

 

TPPに対しては、日本政府からは、TPPへの最初かつ最大の支援国として、国連への83億円の財政的な協力に加え、約150名の陸上自衛官と事務官を重機操作のための教官として派遣して頂いており、これらの支援は「PKOの能力ギャップを埋め、効率化に資する」として、参加した各国や事務総長をはじめとする国連の高官から高く評価されています。タンザニアからの訓練生は「これまでの人生でこれほどまでに親身になって訓練してくれた訓練は受けたことがない。」と卒業式で涙ながらに演説をしました。また、日本に引き続いて、スイス、ブラジル、イスラエルが支援国として参画し、ノルウェー、タイ、モロッコといった国々がTPPへの協力に積極的な関心を示していることから、今後も支援の拡大が見込まれています。更に、本年中には東アフリカで医療の訓練を実施することを予定しています。

 

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(左)スイス軍の教官と4名(出身は、ウガンダ、ガーナ、ルワンダ。)の助教。4名は2016年と2017年のスイスによる教官育成訓練の卒業生で、2018年のスイスの訓練を支援した (右)TPPでは工兵の部隊としての能力向上を目指しており、重機操作以外の訓練も提供している。写真は、ブラジル軍による施工管理訓練

 

他方、解決すべき課題も多くあります。第一に、資金や重機が不足しています。国連の多くの最近の取組みがそうであるように、TPPも加盟国からの資金援助頼みであり、資金が枯渇すると同時にプロジェクトも終了してしまいます。そのため、持続的な発展のためには、加盟国からの財政支援や訓練用の重機の寄付が急務です。第二に、訓練の成果が見えにくいことがあります。訓練生のその後のPKOでの活躍について、TCCに情報提供を呼び掛けても、回答をしてこない場合が多くあります。卒業生の活躍は、加盟国からの支援を得る上でも格好のアピールになるだけに、いかに情報を得るかには日々悩まされています。第三に、国連内での業務のスピードの遅さがあります。いかなる国や組織においても官僚機構を有する以上、調整に伴う時間的なコストは発生するものですが、国連も例外ではありません。例えば、簡単なレターを3週間以上かけて入念にチェックしたり、また、会議では支援の緊急性を強調しつつも1年以上具体策を検討しているため、当初の予定がずれ込むこともあります。勿論、スケジュール通りに進む案件も多くありますが、一人一人がもっとスピード感と責任感を持って働けば、国連の仕事はもっと評価されるはずであるのに、非常に勿体無いと感じています。

 

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TPPでは毎年、支援国、TCC、関心を有する国が集まり、プロジェクトの進捗状況や今後の方向性を議論している。これまで、スイス、ケニアルワンダ、ニューヨークで開催している。写真は、2018年のルワンダの会議での筆者


このような課題と向き合いつつ、TPPによる支援を必要としているTCCPKOのため、今後も支援国を増やし、平和な世界の実現に向け、取り組んでいきたいと思います。