国連広報センター ブログ

国連のさまざまな活動を紹介します。 

ケニアで考える:SDGs推進の国連のチーム力、そして日本とのパートナーシップ (5)

連載第5回(最終回) プラスチックごみとのたたかい

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Photo: IOM/Etsuko Inoue

根本かおる国連広報センター所長は、毎年国連と日本との協働が展開する現場のオペレーションを訪問し、日本の皆さんに報告しています。第7回アフリカ開発会議 が今年8月に横浜で開催されるのを前に、3月10日から20日までの日程でケニアにおける国連の活動を「SDGs推進の国連のチーム力、そして日本とのパートナーシップ」を主眼に視察してきました。

  • 文責は筆者個人。本ブログの内容は、国連あるいは国連広報センターを代表するものではありません。
  • 写真は特別の記載がない限り、国連広報センターの写真です。

 

第4回国連環境総会でプラスチックの船が注目を集める

 

今回のケニア訪問は、2年に1度の世界最高レベルの環境会議「国連環境総会」と期せずして重なり、世界中から関係者が4回目となる国連環境総会出席でナイロビに集結した熱気に直接触れることができました。 

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今回の国連環境総会で使い捨てプラスチックごみ・海洋プラスチック汚染が中心議題であることは、会場でひときわ注目を集めた展示からもうかがえます。ゲートから会議場への目抜き通りに堂々と展示された「フリップフロッピ号」は、海洋プラスチックごみに警鐘を鳴らすことを目的にし、カラフルなビーチサンダルの「フリップフロップ」にちなんだ船名です。使い捨てプラスチックの課題をわかりやすく訴えたいと考えた市民らのプロジェクトで、これに国連環境計画のClean Seasキャンペーンが協力しています。

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全長9メートル、重さ7トンの船体はプラスチック製。ケニアの海岸で回収されたプラスチックごみとビーチサンダルから造られています。回収された10トンのプラスチックごみをもとにした材料を使って、インド洋で活躍した「ダウ船」という伝統的な木造船の船大工が造り上げたものです。外装には海辺に捨てられていたビーチサンダルを貼り付けています。今年はじめケニアのラムからタンザニアザンジバルまでを航海し、寄港地では船上で子どもたちに環境教育活動を行い、地域住民にプラスチック製品の再利用についてセミナーを開いてきたそうです。

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Photo: UNEP

安くて軽くて、加工も簡単なプラスチックは便利な素材ですが、非常に頑丈にできていて自然のなかに捨てられると微生物が分解できず、残ってしまうやっかいなものなのです。下記のインフォグラフィックスにあるように膨大の量の使い捨てプラスチックごみが発生しています。毎年800万トンものプラスチックごみが海に流れ込み、このままでは2050年までに海の中は重量ベースで魚よりもプラスチックのほうが多くなってしまうとみられています。さらに、海に流れ込んだプラスチックごみが紫外線や波の力などで砕かれて5ミリ以下の「マイクロプラスチック」になりますが、これが有害物質を吸着しやすいとされているのです。魚に取り込まれ、さらに食物連鎖で人間を含む動物に悪影響を及ぼす危険性も指摘されています。 

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エチオピア航空機事故を受けての開幕

 

第4回国連環境総会が始まる前日の3月10日午前、アジスアベバからナイロビに向かうエチオピア航空機が墜落するという痛ましい事故があり、21人の国連職員や多くの会議への出席予定者を含む157人が命を奪われました。3月11日、国連環境総会の開会に先立ち追悼式典が開催され、犠牲者に黙とうを捧げました。

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黙とうを捧げる国連環境総会関係者たち

 

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3月11日、国連の旗は半旗に  

このように重苦しい雰囲気の中で始まった第4回国連環境総会ですが、3月11日から15日までの日程でおよそ4700人の参加、そして170を超える加盟国からの閣僚レベルの出席があり、これまでの国連環境総会として最多となりました。

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Photo: UNEP

アミーナ・モハメッド副事務総長は同総会首脳会合でのスピーチの中、気候変動をはじめとする環境面での危機的状況を指摘して警鐘を鳴らすとともに、様々なアクターがイノベーションを通じて持続可能なモデルへの転換を加速化している例を挙げ、「私たちのグローバル経済を、慎重な管理に報い、浪費と汚染を罰するものへと作り変えていくことは必要なだけでなく、明らかに可能であるということを、私たちは世界に示さなければなりません。2019年を転換へとつながる解決の年にしようではありませんか」と強く訴えかけました。

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Photo: UNEP/CyrilVillemain

最終日に採択された閣僚宣言は、すべての国に対して2030年までに使い捨てプラスチックの大幅削減を求めることを含め、環境危機に持続可能な消費と生産とイノベーションで立ち向かうことを目指しています。また、日本・ノルウェー・スリランカの共同提案に基づく「海洋プラスチックごみ及びマイクロプラスチック」に関する決議など、これまでで最多の計23本の決議を採択しました。今年9月23日に国連事務総長の呼びかけでニューヨークの国連本部で開催される「気候行動サミット」にむけて、アジェンダ・セッティングにつながる成果を示すことができました。

 

市民ら様々なアクターがソリューションを提起

本会議場のすぐ横に設けられた特設テントを会場とする「Sustainable Innovation Expo」では、市民の力が目立っていました。NGOや民間企業などが主役となって、緊急性の高い環境課題への先進的な解決策についてブース展示とともに多くのトーク・セッションを行っていました。シロクマが入口付近で存在感を示す、扇風機対応の緑に囲まれた特設会場です。

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様々なアポの合間を縫って、Sustainable Innovation Expoでの使い捨てプラスチックごみをテーマにしたパネルディスカッションをのぞくことができたのですが、若者たちが活発に質問し、解決策をパネラーたちに提案する姿が印象的でした。

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パネルディスカッションの場では「プラスチック汚染への対策として一番必要なのは?」とのオンラインでのアンケート調査があり、観客の回答をリアルタイムで見ることができる仕掛けになっていました。最初は政府による規制や業界の対応を選ぶ人が中心でしたが、議論が進むにつれて消費者への教育・啓発の回答率が増えていき、こうしたアウトリーチ活動が人々に主体性を持って自分事として考えてもらう上で有効な手立てであることを示していました。

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国連環境計画本部のカフェテリアの食器類は陶器で、飲み物もペットボトルではなく、瓶入り。テイクアウトには紙製の容器が使われています。こういう環境に身を置くと、持続可能な生産と消費に対して、自ずと自分事として問題意識が向くようになるでしょう。 

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日本でも環境省をはじめとする中央官庁が食堂や会議で使い捨てプラスチックを使用しないようになりましたが、1人あたりのプラスチック容器ごみ発生量がアメリカに次いで世界2位の日本は、もっと生活者の問題意識に訴えてライフスタイルを見直してもらう必要があるでしょう。

 

脱・使い捨てプラスチックの世界的潮流と日本への期待

10年ぶりにケニアを訪問して気付いたこととして、プラスチックごみを街中であまり見かけなくなったということがあります。それもそのはず、ケニアは2017年8月にプラスチック製袋の全廃に踏み切っているのです。使い捨てプラスチック袋の製造・輸入・販売・使用に関わった場合、数百万円相当の重い罰金刑が課されます。使い捨てプラスチック汚染をめぐる事態の深刻さと緊急性から、法規制・禁止は世界的な流れになりつつあります。国連環境計画の昨年の報告書によると、プラスチック製レジ袋についてすでに127ヶ国が法規制を行い、83ヶ国が無料配布を禁止し、脱「使い捨てプラスチック」が国際的な潮流になっているのです。

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インドの最大都市ムンバイの浜辺。2018年、インド政府は2022年までに使い捨てプラスチックを禁止することを宣言 Photo: UNEP

ケニアでプラスチック袋の代わりに広がったのが不織布製の袋です。連載第4回で国際移住機関(IOM)からの支援を受けて水ビジネスを始め、今では事業を拡大して小売店まで経営するようになったモンバサのジョナサンのことをご紹介しましたが、彼の店でもプラスチックのレジ袋は皆無、不織布の袋で代替していました。 

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ジョナサンの生活用品店の壁には不職布製の袋が

 

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ジョナサンの店で煮干しを買ったところ、この不織布の袋ではもろく、また、バッグの中で煮干しの臭いが他のものに移ってしまった

ところが、3月19日、ケニア政府はプラスチック製レジ袋に続き、ポリプロピレン製の不織布製の袋の全廃を発表したのです。代替として導入された不織布の質が低くて再利用できず、使い捨てが蔓延しているため、4月1日からポリプロピレン製の不織布の製造、輸入、販売、使用を全面的に禁止するとの決定でした。ところがさらに紆余曲折が。この新たな禁止措置は4月4日に裁判所から差し止められ、今後に委ねられることになったのです。

 

国連環境計画アフリカ部のモハメッド・アタニ広報担当チーフが「多くのアフリカの国々が使い捨てプラスチックの使用を禁止していますが、課題は持続可能な代替品を見付けることです。技術立国であり、かつ発達したごみ処理システムを持つ日本には、アフリカに適用できるノウハウを民間セクターも含めて提供してもらえればと思います」と語るように、日本の貢献が期待される技術やシステムが少なからず存在します。

 

この脱「使い捨てプラスチック」の国際的なうねりから感じるのは、回収・再利用のシステムや生分解性プラスチックなどの代替品を他に先んじて開発してコストを下げて提供できれば、大きなビジネスチャンスにつながるということです。先進的な技術を持つ日本企業にこそ、先見性を持ったリーダーシップを発揮していただきたいと強く感じました。

 

そして同時に、活動を一過性のものにせず、長期間にわたって続けることによって初めてインパクトが生まれるということも強く印象に残ったことです。ケニアのギフトショップでは、浜辺で回収したカラフルなビーチサンダルの「フリップフロップ」(ダウ船のフリップフロッピ号にも活用されていた、あのビーチサンダルです)をリサイクルして、カラフルな動物としてよみがえらせた素敵な置物が人気を博しています。 

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ナイロビの国連広報センターの事務所でフリップフロップを再生してできたキリンを発見。ケニアを代表する土産物の一つになっている

これは20年前、ビーチサンダルによる海辺のごみが深刻な環境問題になっていたことに心を痛め、これを資源化して収入創出につなげる活動から始まったそうです。1999年に海辺のコミュニティーの女性グループのための収入創出プロジェクトから出発したOcean Soleは、2017年には50万個、2018年は75万個、累計で1000トンのフリップフロップを回収し、これを加工して様々な置物に再生してきました。今ではケニアを代表する土産物の一つになり、ヨーロッパやアメリカにも販路を広げています。貧困層の雇用につなげ、さらには売り上げの10パーセントを海辺の清掃活動や環境教育や保全活動に充て、コミュニティーに還元することを続けてきたそうです。

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国連環境総会の会場でもフリップフロップが生まれ変わってできた鳥が

これは10年前にケニアを訪問した際に足を運んだギフトショップで見かけることはありませんでしたが、動物の愛らしさと環境保全と脆弱層への雇用創出という3点セットの付加価値が多くの人々に支持されてここまで成長したのでしょう。ケニアの思い出の品として買ってきたキリン、ゾウ、そしてサイを見るにつけ、先見性と持続性のチカラを思わざるを得ません。 

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8月のTICAD7にむけて5回にわたってケニア訪問記をお伝えしてきましたが、今回が最終回です。

 

モバイル革命によるキャッシュレス社会への移行がケニアで実際のものになっている現状や脱「使い捨てプラスチック」の最前線に触れるとともに、慢性的な干ばつや水不足が人々の暮らしを圧迫していることをひしひしと感じました。さらに、よりパワーアップした国連常駐調整官が国連ファミリーの努力を統合的に束ね、ケニア政府と県政府に寄り添いながら持続可能な開発を推進し、トゥルカナ県のカロベィエイ統合居住区の実施やDelivering as Oneオフィスの開設などの好事例が生まれています。暴力的過激主義の予防という地域全体に関わる重要課題にも、国連はケニア政府と密接に協働して取り組んできました。そこには、献身的に活動を行う国連の邦人職員はもとより、日本政府からの資金拠出をはじめとする様々な形での支援や、日本・日系企業の技術力や社会貢献活動、日本を代表する建築家の貢献など、日本の姿が随所に見られました。

 

TICAD7の日本開催がこのような国連・アフリカ・日本の連携をさらに促進していくことを願っています。

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国連ナイロビ本部にて。UNをあしらったkaribuniは、スワヒリ語で「ようこそ」の意味  

 

→第1回 10年ぶりのケニア再訪(上)

→第1回 10年ぶりのケニア再訪(下)

 

→第2回 「難民・地域住民 統合型の居住区」という新しいモデルを、チーム力で推進(上)

→第2回 「難民・地域住民 統合型の居住区」という新しいモデルを、チーム力で推進(中)

→第2回 「難民・地域住民 統合型の居住区」という新しいモデルを、チーム力で推進(上)

 

→第3回 トゥルカナで見た、新世代型の国連のチーム力(上)

→第3回 トゥルカナで見た、新世代型の国連のチーム力(下)

 

→第4回 青い海、白い砂浜、そしてテロとのたたかい(上) 

→第4回 青い海、白い砂浜、そしてテロとのたたかい(中)

→第4回 青い海、白い砂浜、そしてテロとのたたかい(下)