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ケニアで考える:SDGs推進の国連のチーム力、そして日本とのパートナーシップ (1)

連載第1回 10年ぶりのケニア再訪(下)

 →連載第1回 10年ぶりのケニア再訪(上)はこちら

 

ナイロビの発展ぶり

実は今回の視察は、私にとって2009年3月以来、ちょうど10年ぶりのケニア再訪でした。お目にかかったマイナ駐日ケニア大使から、「それはさぞかし変貌ぶりに驚くことでしょう」と言われたのですが、まさにその通りでした。

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ナイロビの市内にはスタイリッシュなショッピングモールがあちこちに

ナイロビに到着してまず驚いたのは、話には聞いていましたが、ケニアの通信会社サファリコムの提供する携帯による送金システム M-PESAスワヒリ語で、モバイル・マネー)が、ほぼキャッシュレスの社会になっていることでした。

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いたるところにM-PESAのエージェントが。番号が店番号 Photo: UNDP/Ayaka Ishihara

 

銀行口座がなくても、携帯さえあれば利用できるのが特徴で、買い物のほか、出稼ぎで得た収入の送金や受取など、貧困層を中心に爆発的に広まったのです。国連の同僚も、買い物の代金やタクシーの料金をM-PESAで支払っていました。

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タクシー代金の支払いもM-PESAで Photo: UNDP/Ayaka Ishihara

電子マネーが人々の暮らしに欠かせない社会インフラとなり、GDPのおよそ半分が電子マネー取引によるものと推計されています。

 

また、素敵なショッピングモールも増え、品ぞろえも以前に比べてスタイリッシュなものが豊富になり、日本でアフリカについて講演するときなどのために、アフリカの生地を用いたメイド・イン・ケニアの洋服を買い揃えることができました。

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アフリカのテイストを残しながらすっきりとした都会的なデザインの品々が。ここではアフリカの模様の布のバッグを購入

1万円以上と一般の人々には決して安くない価格帯のものが中心でしたが、ブティックのオーナーは「外国人だけでなく、地元の人もよく買ってくれる。店の売れ行きは、文句を言えばバチが当たるわ」と語っていました。

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ケニアをはじめアフリカのデザイナーにこだわったセレクトショップのオーナーと。講演やインタビュー用に、ケニアらしいワンピースを見つけた

ナイロビで宿泊したホテルの横のショッピングモールにはボウリング場があり、地元の人たちでにぎわっていました。首都ナイロビでは、こうしたお店や施設を利用する所得層が育っていることがうかがえます。 

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ボウリング場は週末には大混雑する

地方との格差

10年前との違いに狐につままれたような気持ちになりながら、国連諸機関からもらっていた資料を読んでみると、短いナイロビ滞在からは見えない現実が浮かび上がってきます。

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トゥルカナ県、カクマからロドワーへの幹線道路沿いの集落

国全体での貧困率は2005/2006から2015/2016の10年間で46.6パーセントから36.1パーセントにまで下落したものの、ナイロビと国境地帯の辺縁の県との間に深刻な格差があります。健康・教育・生活水準の面から多角的に貧困をとらえる国連開発計画(UNDP)の「多次元貧困指数(Multidimensional Poverty Index)」の2015/16の数字では、最も貧困指数が高いのが訪問予定の辺縁部のトゥルカナ県の79.4パーセント、最も低いのがナイロビの16.7パーセントで、教育・電気・水・衛生・健康・住まいの面で著しい格差があります。 

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カロベィエイ居住区で出会った子どもたち

世界銀行によると、社会内の所得分配の不平等を示すジニ係数は47.7パーセントとサブサハラ・アフリカの43.8パーセントよりも高く、深刻です。ケニア政府の家計調査でも、支出の6割が最高位の2割の世帯によるもので、最下位の2割によるものは3.6パーセントにしか及びません。SDGsを実施する上での大原則「誰一人取り残さない」に則った包摂性のある成長をいかに実現していくかが大きな課題です。

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県別貧困ライン以下人口の割合(UN Kenya Common Country Assessment, January 2018より)

さらに、農業・放牧・畜産への依存は、気候変動などによる降雨パターンの大きな変化や慢性的な干ばつの影響を直接に受け、人々をより脆弱な立場に追いやります。それとともに、放牧に不可欠な水と牧草は希少な資源となっています。水と牧草を追い求めて遊牧民たちが通常の境界を越えて移動することが、コミュニティー内やコミュニティー間、場合によっては国境をはさんでの諍いや衝突を生んでいます。

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干ばつなどの影響で、3月末現在、ケニアでは乾燥地帯を中心に110万人が食糧不足、うち80万人が危機的状況に。トゥルカナ県の県庁所在地ロドワーでは、援助用食糧が国連WFPの支援を受けた倉庫に運び込まれた WFP/Alessandro Abbonizio

それに加えてケニアに重く圧し掛かっているのは、記憶に新しいところでは今年1月高級ホテルなどが入るナイロビの複合施設がイスラム過激派武装勢力「アル・シャバーブ」に襲撃されたように、テロによる襲撃事件が大きな懸案です。テロへの脆弱性を示す「Global Terrorism Index」(10に近いほど脆弱)を見ると、ケニアは、2013年版以降6を超え、ピークは2015年版の6.66で、その前後では2013年のウェストゲート・ショッピングモール襲撃事件、2015年のガリッサ大学襲撃事件という多数の死傷者を出したアル・シャバーブによる襲撃事件が起きています。最新の2017年の状況を踏まえた2018年版では6.114と世界19位、順位を3位上げています。彼らの勧誘に乗った若者の多くが、教育機会の欠如、貧困、雇用機会の欠如などを主な理由として挙げています。安全保障・治安維持とあわせて、暴力的過激主義の温床になりかねない貧困層の底上げや都市部と農村部の格差の解消など総合的な対策が至上命題となっています。

 

こうした中、2017年の大統領選挙で再選されたウフル・ケニヤッタ大統領は2期目となる次の5年間の主要課題として(1)食料・栄養の保障、(2)手ごろな住宅の確保、(3)製造業の推進、(4)ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の4つの柱を、「ビッグ・フォー(Big 4)」として打ち立てるとともに、2030年までに全国民が高い生活水準を享受する産業中所得国入りすることを目指す「ビジョン2030」を推進しています。

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ナイロビの国際空港近くの工業団地を上空から

では、こうしたケニアの努力を国連チームとしてどのように一体感をもって支援しているのか、新しいモデルが生まれつつあると聞き、国連機でいざその現場に向かいます。乞うご期待!

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ロジに強い国連WFPが人道支援活動の拠点などに国連機を運航

 

→連載第2回 「難民・地域住民 統合型の居住区」という新しいモデルを、チーム力で推進(上)はこちら