第7回アフリカ開発会議(TICAD7)が2019年8月28-30日、横浜市で開催されます。日本では6年ぶりとなるTICADに向けて、国連広報センターはアフリカを任地に、あるいはアフリカと深く結びついた活動に日々携わっている日本人国連職員らに呼びかけ、リレーエッセーをお届けしていきます。
取り上げる国も活動の分野も様々で、シリーズがアフリカの多様性、そして幅広い国連の活動を知るきっかけになることを願っています。第13回は、UN Women ケニア事務所の川原えりかさんです。
第13回 UN Women
川原えりかさん
~平和と安全保障、カギを握るのは女性のエンパワーメント~
私が初めてケニアを訪れたのは2016年、前職である国連人道問題調整事務所(UNOCHA)での任務中のことでした。今まで見たこともない広大な自然の姿はもちろんですが、それ以上に私をひきつけたのは、ケニアの人々の心の温かさでした。こういうところで一度働いてみたいと思っていたところ、幸運なことにその後UN Women ケニア事務所での任務が決まり、2017年に着任しました。初めてのアフリカ生活です。
UN Womenはジェンダー平等と女性のエンパワーメントのための機関です。アフリカではケニアを含む26か国で事業を行っています。UN Women ケニア事務所は主に、女性のリーダーシップと参画、経済的エンパワーメント、女性に対する暴力の撤廃、そして平和と安全保障に関連した業務を行っています。平和と安全保障行動への女性の参加に向けては過去4年にわたり、日本政府補正予算の拠出を受けています。私はプログラムアナリストとして、2年間日本政府補正予算プロジェクトを推進する中で、日本の援助がケニア、そしてケニアに住む難民の女性の大きなサポートになっていることを目のあたりにすることができました。
担当したプログラムは、暴力的過激主義の防止 (2017-2018年)、平和維持活動 (2018-2019年)、並びに人道支援活動において、ジェンダー平等を推進していくための取り組みです。この経験を通じ、私は女性の知識や能力がいかに安全保障を促進する上で重要かを目のあたりにしてきました。しかし、そのためにはまず、彼女らの身の安全を守られなければなりません。そして経済的な支援も不可欠です。
暴力的過激主義防止とそのための対策を進める中で、地域社会における女性の役割が非常に複雑だということが見えてきました。女性は紛争の被害者であるだけでなく、衝突や不安を助長する場合があります。家族や地域社会を過激化させ、過激主義者たちに食物や物資を与え、情報を収集する。そして、ときには自ら進んで、時には意に反しながら、ソマリアを拠点とするイスラム過激派組織アルシャバブ(ソマリアを拠点とするイスラム過激派組織)の兵士の妻にさえなるのです。
ワジール(ケニア北東部、ソマリア国境近く)やモンバサ(ケニア沿岸部)での任務で、私は過激派組織から脱出した女性たちに会いました。彼女らはアルシャバブ兵士の妻となり、そしてアルシャバブに家族を奪われた女性たちです。彼女らの多くは、自身をテロの被害者だとは思っていません。地域社会の平和のために身を粉にして働くリーダーだと思っているのです。彼女らの話を通じて、私は女性の柔軟さや、トラウマを克服し、地域社会を復興させる高い能力を再確識させられました。
UN Womenは2018年、代表的なグローバルプログラムである「危機対応のための女性のリーダーシップ及びエンパワーメントの促進、アクセスの向上、プロテクションの強化- Women’s Leadership, Empowerment, Access and Protection (LEAP) 」の事業を開始しました。当プログラムは南スーダンからの難民と国内避難民の支援のために、南スーダン、エチオピア事務所と連携して実行しています。
また、同プログラムはアフリカ、中東、そして日本政府の多大な援助を受けています。プロジェクトはカロべイエイ統合型居住区で実行されており、私もNGOであるフィルムエイドなどのパートナーと共にプロジェクトに参加しました。同居住区はケニア北部トゥルカナ県の北西部に位置し、南スーダンやソマリア、コンゴ民主共和国等から逃れてきた難民と受け入れコミュニティー双方に開放されています。日本政府の援助により、UN Womenは、難民から映画撮影スタッフを雇うことができ、彼らは、カロべイエイ難民女性たちの復興ドキュメントを撮影しました。
完成したドキュメント映画は、石工や自動車整備士など、以前では女性の仕事ではないとみなされていた分野で、難民女性や地域の女性たちが働いている姿を映し出しています。映画鑑賞会を開催した際には、映画の放映が終わるとともに、観ていた多くの女性たちから「どこで訓練を受けたの? 私たちもその訓練が受けられたら、ああやって働けるのに!」という声を聞きました。
また映画では、女性のエンパワーメントを支える男性たちも描かれています。彼らは女性たちを暴力から守ること、女性たちの労働参加、そして収入を得る方法を多様化させることでより多くの女性たちが自立することを提唱しています。こういった提唱は、女性の権利とその可能性を広げるものであり、ジェンダー平等を実現させるために必要不可欠です。私にとってカロベイエイでの経験は、ケニア生活の中でも最も大切な経験の一つになりました。なぜなら、人々にジェンダー平等への理解を深めさせるプロジェクトを通じて、ジェンダー平等は私自身のためでもあることを強く認識したからです。
自身でお金を稼ぐ技術を学びたいという女性たちの声に応え、UN WomenはDanish Refugee Councilと提携し、収入手段となる洋裁技術や美容技術訓練を与えています。こうした技術はカロベイエイでは需要が高く、これまでに多くの女性たちが専門技術を習得しています。
私のUN Women ケニア事務所での勤務はそろそろ終わりを迎えます。ここで目にした多くの事実、そしてジェンダー平等実現につとめた経験を、今後の国連勤務のなかで生かしていけたらと思っております。ケニア、そして世界各国でジェンダー平等が推進され続けることを願ってやみません。