国連広報センター ブログ

国連のさまざまな活動を紹介します。 

ケニアで考える:SDGs推進の国連のチーム力、そして日本とのパートナーシップ(3)

連載第3回 トゥルカナで見た、新世代型の国連のチーム力(下)

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合同で活動することの効果

 

前回、国連諸機関が一丸となった「Delivering as One」という基本姿勢について見てきました。日常の活動のレベルでは、チームとして一緒に関係者を訪問して意見交換する中で、それぞれの知見が補完されます。例えば、国連WFPが私を案内してくれた女性グループは穀物の製粉を事業化し、最近では栄養補強を行う機材を導入して栄養強化して製粉することができるようになり、国連WFPに納入するまでに育っています。 

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製粉に栄養強化をほどこす行程をプラスして、付加価値をつけている。UN Womenの担当官が見入っていた

このグループの成長ぶりには驚かされました。国連WFPとの契約を見せてもらうと、その取引額は数十万円規模万円で、現地では非常に大きな額です。さらに、この女性グループは、製粉担当ならびに門番として男性を雇い入れるまでになっています。同行していたUN Womenの職員がこのグループに感銘を受け、ワークショップなどでスピーカーを務めてほしいと女性グルーブに連携を持ちかけていました。 

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手前の小屋一つから活動を始めたこのグループは、今では奥に見える事務所棟を構えるまでに

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グループのミーティングは木陰で

グループのメンバーは30人。一人月額200ケニア・シリング(およそ220円)を会費として納めています。グループは以前国連WFPから支援を受けていましたが、今ではすっかり自立し、製粉の事業収入とメンバーの会費などをもとに女性たちへの小口融資を行い、ビジネス意欲を支えています。

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グループのメンバーたちと

事業収入は運転資金と貸し付けに充てられると同時に、一部がメンバーに分配され、「町に店を開くことができた」「子どもを大学にやることができた」「夫にすごく感謝されている」「栄養のあるものを食べられるようになった」などの声が聞かれました。具体的に人々の暮らし向きの改善につながっています。 

 

彼女たちは国連WFPを通じて会計などオフィス経営のトレーニングを受けて「透明性」の大切さを実感したと言います。それを示すように、製粉を行う小屋の壁の張り紙には、製粉の料金体系や毎月の収入・支出・収支バランスが大きく書かれていました。 

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張り紙にはの収支が一目瞭然に書かれていた

この女性グループのケースは食料支援を柱とする国連WFPはもとより、女性のエンパワーメントを担うUN Womenにとっても好事例になるわけで、今回の合同視察による情報共有をベースに様々な機会をとらえて具体的な事例として多くの女性たちに参考にしてもらえるでしょう。 

 

トヨタケニアアカデミーとして初めての国連チームとの連携 

 

国連のチーム力は民間部門との連携においても発揮され、持続可能な開発のためには民間部門を積極的に関わってもらうことが必要です。

 

ケニアを10年ぶりに訪問して驚いたのが、ケニアで走る車のほとんどが日本車になったこと。以前にも増して他を圧倒し、厳しい道路環境に耐えられる品質への信頼の高さを示しています。特に存在感を示しているのがトヨタで、サービス網も発達しています。ロドワーにもサービス・ステーションがしっかりありました! 

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ロドワーのトヨタのサービス・ステーション

ナイロビには、そのトヨタの人材育成施設である「トヨタケニアアカデミー」が2014年に開設されています。トヨタのアフリカ東南部地域の技術者へのトレーニングに加えて、経営人材の育成、建設機械・農業機械などの自動車分野以外の技術者育成も行う施設です。このたび社会貢献事業として、あらたに難民と難民キャンプを受け入れている地元コミュニティーの若者たちを対象にした自動車修理の職業訓練が、日本政府からの支援を受けてUNDPとUNHCRと連携して行われることになりました。

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ナイロビのトヨタケニアビジネスパーク内にある、トヨタケニアアカデミー

同アカデミーが国連とタッグを組んで実施するトレーニングは、これが初めてで、国連側も一つの機関単体ではなく、UNDPとUNHCRが連携し、難民・受け入れ側コミュニティーの双方のニーズを汲んだ内容になっています。試験フェーズとなる今年は、難民から11名、地元コミュニティーから7名の計18名で、うち少なくとも3割は女性に割り当て、女性に門戸を開きます。トレーニング修了後には自動車整備に必要なトゥールキットあるいは事業立ち上げの資金を提供し、サステナブルな雇用につなげるという手厚いサポート体制があります。 

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トヨタケニアファウンデーションのトップのフローレンス・スジさんの案内で訓練施設を視察

ナイロビ滞在中にトヨタケニアアカデミーを訪問し、研修内容の概要について説明を受ける機会に恵まれました。「カイゼン」システムを徹底すると同時に、自動車整備・修理の研修、そして起業家支援の講座をみっちり提供する内容です。事前の調査から難民キャンプのあるカクマ、ダダーブなどでは技術力のある自動車整備・修理工が強く求められていることがわかっており、地域のニーズに応えるものです。 

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自動車整備訓練施設にて

アフリカの人口は10億人を超え、2050年には世界人口の4分の1を占めるまでになり、労働人口が中国やインドを抜くと予想されています。その一方で、急速に拡大する15歳以上24歳以下の若年層に対する雇用創出が大きな課題となっているのです。今回の研修プログラムは民間部門と国連チームとの連携を通じて、成長の原動力として現地の民間セクターの能力を強化し、自立を促進するものです。持続可能な開発目標(SDGs)を推進するとともに、ケニア政府の長期国家戦略「VISION2030」が掲げるグローバル人材育成のための能力開発に貢献します。さらに、ケニアの国連国別チームでまとめた「国連開発支援枠組み」の目標に寄与するもので、お互いに連関するケニア側・国連側の開発の枠組みへの貢献を強く意識してインパクトが測られます。

 

 

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