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国連のさまざまな活動を紹介します。 

TICAD7リレーエッセー “国連・アフリカ・日本をつなぐ情熱” (10)

第7回アフリカ開発会議(TICAD7)が2019年8月28-30日、横浜市で開催されます。日本では6年ぶりとなるTICADに向けて、国連広報センターはアフリカを任地に、あるいはアフリカと深く結びついた活動に日々携わっている日本人国連職員らに呼びかけ、リレーエッセーをお届けしていきます。

 

取り上げる国も活動の分野も様々で、シリーズがアフリカの多様性、そして幅広い国連の活動を知るきっかけになることを願っています。第10回は、国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)で学術研究官を務める齊藤修さんです。

 

第10回 国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS) 

齊藤修さん


~アフリカにおける持続可能な都市づくりに向けた課題解決 ―ガーナ、マラウィ、南アフリカでの取組みー

 

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北部ガーナの農村集落にて。左端が筆者(本人提供)

早稲田大学卒業後、米国タフツ大学にて環境政策修士号を取得。環境コンサルティング会社勤務を経て、東京農工大学にて博士学位(農学)を取得。大阪大学早稲田大学での研究教育実務を経て、2011年から国連大学にてアカデミック・プログラム・オフィサーとしてサステイナビリティ学に関する研究教育に従事。現在は、国連大学サステイナビリティ研究所のアカデミック・ダイレクターとして数多くのアフリカからの留学生(修士・博士課程)の研究指導しつつ、アフリカでの複数の研究教育プロジェクトに従事。 

 

国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)では、長年にわたり、ガーナ大学、ナイロビ大学、ザンビア大学、ケープタウン大学などアフリカの主要大学との間で研究教育を連携して行ってきました。2011年から2016年にかけては、気候・生態系変動への適応とレジリエンス(回復力)に焦点を合わせた国際共同研究「アフリカ半乾燥地域における気候・生態系変動の予測・影響評価と統合的レジリエンス強化戦略の構築(CECAR-Africa)」を実施しました。同研究では、ガーナ大学、ガーナ開発学大学等と連携して、ガーナ北部の黒ヴォルタ河流域を対象に、(1)気候・生態系変動が農業生態系にもたらす影響の予測評価、(2)異常気象のリスク評価と水資源管理手法の開発、それらを踏まえた(3)地域住民および技術者の能力開発を推進するプログラムの開発を行いました。このような取組みを通じて、統合的なレジリエンス強化戦略を構築し、最終的にはアフリカ半乾燥地域全般へ応用可能な「ガーナモデル」として提案しました。

 

ガーナモデルにはいくつかの特徴があるのですが、そのひとつは、在来植物を活用した収入源の多様化や収穫した農産物の保管・加工方法の改善等の具体的な適応策や資源管理や能力開発の取組みについて、研究者だけでなく、民間セクター、現地NPO、国際機関、行政関係者らとともに、科学と政策、地域社会の連携を強化するためのワークショップを現地密着型で何度も実施したことです。

 

開発援助のプロジェクトでは、しばしば対象集落側がプロジェクトからの支援に対して過剰な期待をかけてきて、受け身になってしまうことがあります。我々のプロジェクトに対しても当初は、同じような課題がありました。そこで、何度も現地に足を運び、干ばつや洪水への備えや対策に役立つ地域資源や農業生産の向上に関する研究成果を共有することで、徐々に信頼を得ていきました。プロジェクトでは、対象集落内に実験圃場を開設して、土壌水分・肥料とトウモロコシの品種と作付け密度をいろいろ変えて生産収量が最大になる条件を探りました。その実験圃場に参加した集落の人々の一部が、主体的に自宅のまわりに新たなミニ実験圃場を作って、他の作物について収量改善に向けた取り組みを始めるということもありました。また、収入源の多様化のひとつとして導入した養蜂も、対象集落の一部ではプロジェクト終了後集落の人々による自主的な導入が進みました。

 

このような集落でのボトムアップでの取組みには時間と労力がかかります。ただ、その一方で当初は想定していなかった研究やミニ実験圃場や養蜂のような新たな取組みが進んだほか、関係者が当事者意識を持って主体的に取組むことが促され、それによってプロジェクト終了後も取組みの継続性が自ずと担保されるという大きなメリットがありました。2016年8月のナイロビでのTICAD-VIでは、こうした一連の研究成果をナイロビ大学でのサイドイベントで報告させていただき、「ガーナモデル」の他の地域への適用について議論を深めることができました。

 

このような実績を踏まえて、2018年1月からは国際協力機構(JICA)からの支援を受けて、UNU-IASは東京大学との連携のもと、「アフリカにおけるSDGsの相互連関分析を踏まえた都市問題対応型の開発戦略」という政策提言研究を進めています。特に、サハラ以南のアフリカでは、南部アフリカを中心に過去10年で主要都市の人口がほぼ倍増するなど顕著な都市化傾向が見られ、市民の生活向上及び持続的かつ包括的な経済成長と貧困削減・格差是正を達成する上での足枷となっています。本研究は、都市化が進むアフリカにおいて、持続可能な開発目標(SDGs)のゴール9が掲げる「強靭なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化(工業化)の促進及びイノベーションの推進」、およびゴール11が挙げる「包摂的、安全、強靭で持続可能な都市と人間住居の構築」の達成を推進するための協力・支援のあり方、そしてこれを実現するための具体的な融資対象事業案についてJICAとアフリカ諸国の開発パートナー、特に地域金融機関に対し政策提言を行うことを目的としています。

 

一方で、SDGsには17のゴールと169のターゲットがありますが、それらは相互に関連しており、特定のゴールを進めることが他のゴールの達成を犠牲にしてしまうようなトレードオフを避け、できるだけ多くのゴール間で相乗効果(シナジー)を生みだしていくことが重要です。たとえば、インフラとして道路整備を進めることが、場合によっては交通事故の増加による健康被害や交通渋滞による大気汚染を引きおこすというのは、トレードオフのひとつです。他方、安全な水供給システムを確立することは、健康維持に役立つだけでなく、多くの場合女性が担う水汲みの時間を減らし、それがひいては女性達の教育機会の増進につながるというシナジーが期待されます。本研究では、SDGsの相互連関分析や体系化を通じて、SDGs間でのトレードオフを回避し、シナジーを生みだしていく仕組みを提示し、産業界をはじめとする様々なステークホルダーと連携した社会実装を目指しています。

 

研究対象国は、これまで研究実績が豊富なガーナ、マラウィ、南アフリカを選びました。これらの対象国における都市化、インフラ構築、産業化に関する課題とニーズ、関連する科学的知見、および過去に実施された政策や事業等の分析を行ったうえで、2018年8月から2019年3月にかけて3カ国で2回ずつ、計6回の多様なステークホルダーが参加するワークショップを行いました。

 

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(左)マラウィ、リロングウェでの第1回ワークショップ (2018年8月10日)
(右)ガーナ、アクラでの第1回ワークショップ (2018年8月15-16日)

 

具体的には、2018年8月のそれぞれの国での最初のワークショップでは、SDGゴール9と11に関する主要課題の絞り込み、絞り込んだ課題に対する解決策候補の特定と優先順位付け(ランキング)を行いました。その過程で、それぞれの対象国で20以上の解決策候補が参加者との議論を通じて抽出されました。ワークショップ参加者に、これらの解決策候補について、それぞれ上位1位から10位までの優先順位付けを行ってもらい、それを集計して最終的には上位5位までの解決策を特定しました。なお、優先順位付けをする際には、社会への影響、経済への影響、環境への影響という3つの側面からそれぞれの解決策候補を評価してもらいました。その結果、例えばガーナでは、①ジェンダー包摂性、②基盤的・経済的なインフラへの投資、③農業の近代化と持続可能な農業の推進、④効果的な分権システムの推進、⑤革新的な金融システム(作物保険等)が上位5位の解決策になりました。

 

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ガーナにおいて優先順位が高いとされた解決策(社会・経済・環境の3側面でのスコア順)

  

それぞれ対象国での2回目のワークショップでは、初回のワークショップで優先順位が高かった解決策(主に上位5位までの解決策)の具体的な内容について、必要とされる技術、能力形成、制度設計、効果的と考えられる協力・支援のあり方等について、これも多様なステークホルダー参加のもとで検討しました。最終的には、こうした成果を対象国毎の3つのポリシーブリーフ(政策提言書)にまとめたほか、2019年3月18日にはTICAD7の公式サイドイベントとして、「国際シンポジウム:アフリカにおける持続可能な都市開発への対応」を東京大学にて開催しました。同シンポジウムでは、それぞれの対象国で優先順位が高かったジェンダー包摂性(ガーナ)、水資源のスマートな流域管理(マラウィ)、歩行者や自転車のための交通インフラ整備(南アフリカ)を進めるための今後の研究と政策のあり方、そしてそれらを進める場合に想定されるシナジートレードオフについて、一般参加者も交えて活発に議論しました。

 

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国際シンポジウム:アフリカにおける持続可能な都市開発への対応(2019年3月18日、東京大学

 

今後は、これらの政策提言を当該国の政策決定者、ビジネスリーダーらに広く届けて、提案した解決策の社会実装を進めるとともに、解決策の抽出から優先順位付け、解決策の具体的な事業化までの一連のプロセスを他の地域でも活用できるように「都市SDGsのアフリカモデル」として汎用化していく予定です。