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ケニアで考える:SDGs推進の国連のチーム力、そして日本とのパートナーシップ(3)

連載第3回 トゥルカナで見た、新世代型の国連のチーム力(上)

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Photo: IOM/Etsuko Inoue

根本かおる国連広報センター所長は、毎年国連と日本との協働が展開する現場のオペレーションを訪問し、日本の皆さんに報告しています。第7回アフリカ開発会議 が今年8月に横浜で開催されるのを前に、3月10日から20日までの日程でケニアにおける国連の活動を「SDGs推進の国連のチーム力、そして日本とのパートナーシップ」を主眼に視察してきました。

  • 文責は筆者個人。本ブログの内容は、国連あるいは国連広報センターを代表するものではありません。
  • 写真は特別の記載がない限り、国連広報センターの写真です。

 

干ばつでケニア 国内総生産の3パーセント近くを喪失、しわ寄せは脆弱層に

気候変動は放牧や農業など自然と向き合って生計を立てている人々を直撃します。3月にモザンビークなど南部アフリカに壊滅的な被害をもたらしたサイクロン・イダイの影響で、湿った空気が東アフリカから遠のいてしまい、通常3月から5月の雨期の始まりが遅れ、降っても降雨量は少量にとどまっています。

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FEWS NETより 水ストレスが広い地域(黄色い部分)に広がる。左は2019年3-5月、右は2019年6-9月の予測

干ばつは、ギリギリの生活をしている人々に襲い掛かります。人口のおよそ9割が貧困ライン以下で暮らすトゥルカナ県を含め北部の国境地帯と東部を中心に3月末の時点で、ケニア全体で110万人が食料支援を必要とし、うち80万人が危機的な状況に直面しています。

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ロドワーではWFPからの援助食料が倉庫に運び込まれた WFP/Alessandro Abbonizio

 ケニアにとって農業は国の主要産業。労働人口の75パーセントが農業に従事し、GDPのおよそ4分の1を占め、世界有数の園芸作物や紅茶の輸出国でもあります。だからこそ、ケニアの経済と人々の暮らしは気候変動の影響を受けやすいのです。国連環境計画(UNEP)でアフリカ地域の気候変動を担当するリチャード・ムナング氏によると、干ばつによりケニアは年に国内総生産の2.8パーセント、20億米ドル相当を失い、食料不足人口が7割近く押し上げられています。 

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カクマからトゥルカナ県の県庁所在地ロドワーへの幹線道路沿いには、乾いた景色が広がる。塔のようなものはシロアリのアリ塚

また、放牧に不可欠な水と牧草はますます希少な資源となり、人々をより脆弱な立場に追い込んでいます。北部の乾燥地帯で水と牧草を追い求めて遊牧民たちが通常の境界を越えて移動することが、コミュニティー内やコミュニティー間、場合によっては国境をはさんでの諍いや衝突につながり、人々をさらに追い詰めます。干ばつが人々の生活を守る上での脅威となっているのです。カラカラに乾いたトゥルカナの大地を前に、瑞々しい緑に富んだ日本がいかに恵まれているかを実感しました。

 

食肉解体施設でトゥルカナの主産業のバリューチェーンを改善

 

放牧が人々の生計を支えているカクマ地域にあって、家畜を売り買いするマーケットや食肉解体施設などのバリューチェーンを構築することは、人々の暮らし向きを改善してレジリエンスを高めるカギとなります。この施設に日本政府の財政支援が国連開発計画(UNDP)を通じて活用されていると聞き、朝早く訪問しました。午前7時半、援助関係者が「Delivering as One(様々な国連が一つになって提供する、統合・連携型)プロジェクト」と呼ぶ屠畜場では家畜の解体が進み、あたりは新鮮な食肉を求める業者や彼らに飲み物や軽食を提供する出店などで活況を呈していました。 

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 この施設には1日にヤギ50-80頭、牛8頭、ラクダ6頭を処理するキャパがあり、県政府は施設使用料を徴収しています。県政府にとって月30万円程度の収入になり、施設の運営・維持費に充てられ、サステナブルな資金の流れができています。 

 

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カクマの食肉解体施設。屋内ではヤギなどの小さな動物を処理 Photo: UNDP Kenya

ラクダなどの大きな動物は屋外の施設で解体しているのですが、これに屋根を取り付けること、そして施設の汚水処理システムの改善が今後の課題だと、ケニア政府担当者が語ってくれました。 

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様々な食肉の中でも、ラクダは「ごちそう」

意外に感じたのは、現場の働き手には予想以上に女性が多いことでした。主に解体された食肉を選り分けたり、内臓から汚物を取り除いてきれいにしたり、皮をはいだりという仕事を担っています。トゥルカナ族の女性は、「この施設ができたおかげで、ここで少額でもお金を稼ぐことができます。今では子どもたちに栄養のある食事を作り、文房具を買ってやることができて、大変ありがたいです」と仕事の手を休めて話してくれました。 

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水汲みや薪集めが女性の役割とされる地域では、干ばつのしわ寄せは女性たちに集まります。干ばつの影響で近隣の水源が干上がり、森林や牧草がなくなると、女性は水汲みや薪集めのためにより遠くまで行かなければなりません。長時間にわたる移動は女性たちを性暴力のリスクにさらすことになります。さらに、無償労働の時間と量が増加し、教育や経済活動の機会を奪われ、女性のエンパワーメントの妨げになってしまうのです。この食肉解体処理場がカクマに建設され、具体的に人々の暮らしを守ることにつながっているという声に触れ、大いに勇気づけられました。

 

食肉の解体処理には水が不可欠です。ボアホールを掘って、太陽光発電で地下水をタンクに汲み上げ、屠畜場はもちろんのこと、地域住民や近くの学校をはじめ、隣に作られた家畜の売買のためのマーケットにも水を提供しています。日本政府からの支援はこの水システムに活用されています。

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地下水のくみ上げは太陽光発電でまかなう。後ろに見えるのは家畜市場

アメリカ政府の支援を受けて家畜市場をカクマに建設する計画についても、UNDP、県、そして国と協議した結果、屠畜場の隣に建てられることになりました。家畜の売買・食肉解体・食肉売買・皮なめしという一連のバリューチェーンが効率化され、カクマ地域の地元住民およそ6万人と難民19万人を支えます。また、県政府にとっては施設を一元管理しやすいシステムになっています。このように様々なアクターが連携して一体としての開発が行われたからこそ、「Delivery as Oneプロジェクト」と関係者から呼ばれようになったわけです。 

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家畜市場に集められた家畜は売買され、隣の食肉解体施設に持ち込まれる。家畜市場の使用についても、県政府が料金を徴収

さらにトゥルカナ県の県庁所在地のロドワーには、皮なめし訓練施設・加工工場に加え、ICT技術、中小企業経営やマーケティング、政府系の小口融資スキームの活用などのノウハウについて「ワン・ストップ」で訓練するビジネスセンターが、県とUNDPとの協働で運営されています。

 

前回のストーリーで、ケニアではトゥルカナ県において国連チームと綿密に調整しながら、統合型の開発計画づくりがいち早く進んでいることをお伝えしましたが、効率的な家畜のバリューチェーンの構築は国連側との協議の上、トゥルカナ県の脆弱層のレジリエンス向上と産業育成の観点から、県の統合開発計画に重点課題として盛り込まれているものです。国連をはじめとする援助組織はこの計画の優先課題に沿って協力を実施しています。それは幹部のみならず現場レベルでも強く意識されていることで、食肉解体処理場で出会ったケニア政府ならびにUNDPの担当者と話す中でも、彼らから県の統合開発計画に何度も言及がありました。 

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ケニア政府の担当者は「日本政府からの支援のおかげで、人々の暮らし向きと干ばつに対するレジリエンスを具体的に高めることができた。日本の人々に伝えてほしい」と感謝していた

 

ケニアで初めての統合型の国連オフィス

 

今年2019年は、国連にとって新たなスタートの年です。と言うのも、アントニオ・グテーレス事務総長が就任時の公約に掲げた国連の組織改革が、2年にわたる議論を経てこの1月1日からいよいよ実施段階に入ったからです。

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平和と安全、持続可能な開発を支える国連開発システム、そして内部マネジメントという3つの柱での改革ですが、今回のケニア訪問では、国連開発システム   の新体制がどのように動き出しているかをうかがうことができました。新しい体制では、途上国の現地で開発分野のオペレーションをとりまとめて陣頭指揮する「国連常駐調整官」(UN Resident Coordinator、略してRC)を「国連事務総長の名代」として格段に権限を強化。新生RC体制のもとで諸機関をぐっと束ねての、新世代の国連国別チームがスタートしています。 

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ケニアの国連チームの代表者たち。国連改革により、今年1月1日から「新世代」の国連国別チームに移行した。前列右から3人目がシッダルタ・チャッタジー国連常駐調整官 Photo: UN Kenya

様々な機関からなる国連諸機関が共通の目標に向かってより綿密に連携し、事務所管理費などを効率化する目的で事務所を共有し、まさにOne UNを体現する統合型の「Delivering as One (DaO)」事務所のケニア第1号が、トゥルカナ県の県庁所在地ロドワーにあります。 

 国連諸機関が一緒に策定した「一つのプログラム」、調整を促す「一つのオフィス」、統合された「一つの予算」、「一人のリーダー」を旗印に、そして「声を一つ」に主張する、というものです。ロドワーで私を迎えてくれたのも、この統合型オフィスから、国連常駐調整官事務所・UNDP・UNICEF・国連WFP・UN Womenの合同チームでした。 

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ロドワーでは国連チームが合同で案内してくれた  

ケニアでこのモデルがまずトゥルカナで立ち上がったのには、理由があります。国内で最も開発が遅れている地域の一つで、慢性的な干ばつの影響などから人々の暮らしが脅かされているのと同時に、非常に多くの難民を受け入れている地域であり、人道支援レジリエンス向上・開発とを切れ目なく統合する必要に迫られていました。 

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トゥルカナ県副知事を表敬

また、連載第2回でご紹介したように、元国連WFP職員で国連を内側から知り尽くしているトゥルカナ県知事が国連からの協力を基盤に、カロベィエイ居住区の開設をはじめ、この県の統合型開発の陣頭指揮に立っています。2010年のケニア憲法改正を受けてケニア中央政府から県レベルへの地方分権がなされ、トゥルカナ県政府との交渉でものごとを進めやすくなったという追い風もありました。

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ロドワーの皮なめし工場を視察するチャッタジー国連常駐調整官(白い帽子をかぶった人物) Photo: UN Kenya

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左からシッダールタ・チャッタジー国連常駐調整官、第4回国連環境総会出席のためにナイロビを訪問したアミーナ・モハメッド副事務総長 Photo: UN Kenya  


さらに、トゥルカナ県と国連との共同開発計画への資金調達のために、「マルチ・パートナー信託基金」を創設し、ドナー国からの協力を積極的に呼び掛けています。シッダールタ・チャッタジー国連常駐調整官は多くのドナー国の大使や国連機関の幹部を動員してロドワーでワークショップを開催するなど、資金提供をはじめとする協力の取り付けにナノック・トゥルカナ県知事と二人三脚で邁進してきました。 

国連側も従来型の「サービス提供」型の支援から脱皮し、政府・県の政策立案や計画レベルでの働きかけを行うことへと重点をシフトしています。例えば、県が運営する性暴力被害者へのワン・ストップ型支援センターにはUNICEFを通じた日本政府からの資金援助がかつてありましたが、ドナー国からの資金提供に頼り切るのはサステナブルではないだろうと、県から主体的に予算配分されるように、県の予算書にジェンダー関連の項目を入れてもらうことを国連側から働きかけ、ジェンダー関連予算項目を入れ込むことができたと聞きました。小さなステップではありますが、サステナビリティーのためには重要な一報です。 

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ロドワーの病院に併設された性暴力被害者のためのワン・ストップ支援センター。日の丸のステッカーが

ロドワーで始まった「Delivering as One」Officeモデルは、トゥルカナ県の東隣のマルサビット県とエチオピアとの国境をはさんだ地域一帯で、安全保障と開発との両面から国連チームが活動を本格化するのに伴い、モヤレにも展開する計画です。モヤレはマルサビット県最北の町で、町の中を国境が通り、エチオピアにもまたがっています。この地域も開発が遅れているのに加え、水や放牧地をめぐりコミュニティー間の対立が起こり、国境を越えた衝突につながりかねません。 

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地図提供: 国連ハビタット



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