国連広報センター ブログ

国連のさまざまな活動を紹介します。 

ケニアで考える:SDGs推進の国連のチーム力、そして日本とのパートナーシップ (2)

連載第2回 「難民・地域住民 統合型の居住区」という新しいモデルを、チーム力で推進(中)

→連載第2回 「難民・地域住民統合型の居住区」という新しいモデルを、チーム力で推進(上)はこちら

→連載第2回 「難民・地域住民統合型の居住区」という新しいモデルを、チーム力で推進(下)はこちら

新しい支援モデル実施を国連のチーム力が後押し

トゥルカナ県からの土地の提供を受けて、ヨーロッパ連合から提供された資金をベースにカロベィエイ居住区が開設され、小さな規模でスタートしたのは2016年。拡張するにあたり、難民支援について調整役を担う国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、居住区の計画作成に都市計画の専門的な知見を持つ国連ハビタット(UN Habitat; 本部ナイロビ)を招き入れました。開発中心の国連機関である国連ハビタットも、2008年から積極的にアフガニスタンイラク、シリア、ソマリアなど紛争の影響下にある国々で人道支援と開発のギャップを埋めようとする支援活動に取り組んできました。今回の参画はこの大きな流れをくむものです。

f:id:UNIC_Tokyo:20190408140509j:plain

カロベィエイでの国連ハビタットの活動を日本政府が支援 写真提供:国連ハビタット

キャンプに壁やフェンスはつきものですが、国連ハビタットが計画に携わってできた居住区の周囲そして住まいの周りには壁はなく、開放型です。「通常の難民キャンプに比べると圧迫感がなく、ゆったりしている」というのが、居住区に足を踏み入れての最初の印象です。

 

 

f:id:UNIC_Tokyo:20190404125806j:plain
f:id:UNIC_Tokyo:20190404125811j:plain
カロベィエイ居住区で南スーダンから昨年逃れてきた女性のお宅を訪問(左)
古くからあるカクマ難民キャンプでは一戸あたりの面積が狭く、周囲を塀で囲っている(右)

国連ハビタットは日本政府からの支援を受けて、難民と受け入れコミュニティー双方に参加してもらって協議を重ね、UNHCRなどと協力して持続可能な居住区計画の作成を行いました。1)適切な密度の維持、2)歩行可能な居住区の奨励、3)適度なソーシャルミックスの推進、4)複合的な土地利用の分配、5)効率的な区画の階級化、という国連ハビタットの居住区計画/デザインにおける5原則に則ったものです。

f:id:UNIC_Tokyo:20190403163917j:plain

区画整理が進んだカロベィエイ居住区。目的別に色分けされている。濃い緑は農地、黄色は公共用地を指す

歩行可能な区画規模を念頭にコミュニティーの集合区域や商業集合区域、公共サービスの集まる区画を設け、区画ごとの給水、分散型再生可能エネルギーの導入、都市型農業、持続可能な排水システムを統合的にデザインしています。

f:id:UNIC_Tokyo:20190408141240j:plain

提供:国連ハビタット

緊急性・一過性ではなく、「サステナビリティ―」に力点を置いた居住区で、住まいも公共スペースも医療施設、学校もしっかりした造りになっているのが印象的です。そして、まちづくりに住民の参加を募り、住民に自分事として考えてもらい、住民の声を反映する形で決めるという徹底した姿勢です。 

f:id:UNIC_Tokyo:20190408141417j:plain

居住区のデザインには住民との協議を重ねた 提供:国連ハビタット

これには、多くのUNHCR職員から「国連ハビタットに新たな知見を提供してもらったおかげで、UNHCRだけでは成し得ないことができた」と評価する声を聞くことができました。さらに、国連ハビタットはカロベィエイ居住区にとどまらず、西トゥルカナ郡全体の都市開発・インフラ整備の努力を支えることにしています。まずは今年からカクマ難民キャンプ内で最も古くに開設されたエリアの区画整理に取り掛かることにしています。 

f:id:UNIC_Tokyo:20190408141633j:plain

遊具が並ぶ公共空間も住民との話し合いを経て作られた。周囲に木を植え、ソーラー街灯も設置 写真提供:国連ハビタット

居住区内ではソーラー街灯が広く浸透し、UNHCR職員時代に難民キャンプに安全と安心を届けようとその先駆けに関わった立場として個人的に嬉しく思いました。これもソーラー街灯を自分たちで組み立て、メンテンナンスできるように若者たちに対して研修が行われました。カクマ、カロベィエイの双方で840のソーラー街灯が設置されています。 

f:id:UNIC_Tokyo:20190408141829p:plain

若者たちを訓練し、住民の手でソーラー街灯を維持する 写真提供: 国連ハビタット

 

起業家精神とビジネス原理を追及

カロベィエイ居住区の支援事業や医療施設や学校は、難民と地元住民の双方を対象にしているのが特徴で、それは開発から取り残されてきた地域の人々にとってより質の高いサービスへのアクセスを意味しています。もう一つの特徴は、ビジネスの市場原理を大切にして運営されていることです。

f:id:UNIC_Tokyo:20190408142219p:plain

カクマとカロベィエイでは3300世帯が家庭菜園を営む。自家消費し、余ったものはマーケットで販売し、現金収入に Photo: UNHCR Kenya

今回の私のカクマ/カロベィエイ訪問は、UNHCRカクマ事務所が車両やアテンド要員、そして宿舎などを提供してくれたからこそ実現したもので、そのUNHCRカクマ事務所のシュクル・ジャンズズオール所長は、何を隠そう私がUNHCRトルコ事務所でJPOとして国連職員の道を歩み始めたときの同僚。彼の鉄則は第一に難民たちに選択肢を与えること、そして第2に彼らの起業家精神を尊重すること(そして第3に、楽しさを大切にすること!)です。

f:id:UNIC_Tokyo:20190408142223j:plain

UNHCRカクマ事務所のシュクル・ジャンズズオール所長と嬉しい再会

彼が案内してくれたカロベィエイ居住区の一角では、ブロックごとの連帯責任で一定の規格にあった資材と工法で家を建て、管理する「キャッシュ・フォア・シェルター」という取り組みが昨年から試験的に実施されています。

家づくりに関するトレーニングを経て、難民たちがUNHCRのサポートを受けて銀行口座を開設すると、進捗に伴ってキャッシュが何回かに分割して振り込まれます。難民たちはコミュニティーの資材店や大工などと掛け合って、一定の規定に沿いながら自分たちの選択に基づいて住まいづくり、まちづくりを進めます。トレーニングには電子マネーの使い方も含まれます。UNHCRがNGOなどに委託して建設するよりも、この方式のほうが1割程度コストを削減できることがわかっています。

 

 

南スーダン難民の女性は、「IDの代わりにもなるし、すごくハッピーです。人間らしさを取り戻した気持ちになります」と誇らしげに銀行のキャッシュカードを見せてくれました。銀行口座開設が銀行からの小口融資につながり、人々の金融アクセスを促しています。 

f:id:UNIC_Tokyo:20190408142815j:plain

青い銀行のキャッシュカードを見せてくれた

国連WFPを通じた食料支援も、カロベィエイ居住区では従来型の食料の現物支給ではなく、現金を携帯の電子マネー送金システムで受益者に送る「バンバ・チャクーラ(スワヒリ語で「get your food(食料を入手しよう)」という意味)」という形で提供されています。1人あたり月額1400ケニア・シリング(およそ1500円)が支給されます。受け取った現金の使途は食料に限定され、あらかじめ定められた居住区・地域の小売店で食べ物を購入することができるのです。小売店は周辺から食料支援に必要な食料品をあらかじめ調達し、小売店のみならず地域の経済を支える構図になっています。

 

f:id:UNIC_Tokyo:20190408143200j:plain

カロベィエイ居住区内の契約小売店 Photo: WFP

従来型の現物支給では、小麦粉・油など決まったものが一人当たり何グラム/リッターという基準に従って提供されますが、それぞれの事情を考慮する余地はなく、人々は往々にして欲しいものと交換したり、売って得た小銭でまかなったりしなければなりません。 

f:id:UNIC_Tokyo:20190409113657j:plain
f:id:UNIC_Tokyo:20190409113702j:plain
「バンバ・チャクーラ」システムで食料品を購入 Photo: WFP

「バンバ・チャクーラ」は国連WFPによる大規模な運搬と保管に伴うコストを効率化できるとともに、食糧支援を受ける人々の尊厳を尊重し、一定の範囲内でそれぞれの選択肢やニーズに応えることができます。さらに地域の経済の活性化につながり、ウィン・ウィンの関係が生まれます。立ち上がったばかりの居住区での難民と地域コミュニティーとの統合に少しでも貢献しようと、国連WFPはこの居住区では他の地域に先駆けて全面的にバンバ・チャクーラに切り換えています。

f:id:UNIC_Tokyo:20190408143634j:plain

自分が欲しい食べ物を手に入れてハッピー Photo: WFP

現金支給にもとづいた食料支援システムへのシフトは国連WFPの世界的なトレンドで、そのためのインフラにも投資を行ってきました。2009年には1000万ドル相当にとどまっていたものが、2018年には17億ドル、62か国での食料支援事業の35パーセントにまで達しています。2019年にはさらに増えて、22億ドル、40パーセントにまで拡大する見通しです。 

f:id:UNIC_Tokyo:20190408143739j:plain

Photo: WFP

電子マネーというテクノロジーがUNHCRのシェルター事業と国連WFPの食料支援活動を大きく効率化し、「選択の自由」を通じて援助を受ける脆弱な立場にある人々に人間の尊厳を回復している様子を見ることができました。避難生活という苦しい状況ではありますが、「普通の生活」の感覚をわずかながら取り戻すものでもあり、大いに勇気づけられました。

 

干ばつに負けない農地を

トゥルカナ県は、難民と地元住民が共用で使える農地用にも土地を提供し、灌漑施設の工事がコミュニティー総出で行われていました。大きなため池は重機が必要になる規模で、何とか雨期が始まるまでに完成させたいと張り切っていました。

f:id:UNIC_Tokyo:20190408143913j:plain
f:id:UNIC_Tokyo:20190409113709j:plain
水をますせき止め、近くに建設中の貯水槽に流し込む

国連の農業食糧機関(FAO)はトゥルカナ県の農業/灌漑指導員やコミュニティーに入って人々に力を貸すスタッフらを訓練し、難民・地元住民コミュニティーの農民たちの底上げを図っています。カロベィエイ居住区に9つの灌漑システムを整備する態勢を作るとともに、居住区内で人々が家庭菜園をつくり、採れた野菜を食事の栄養補強につなげています。

f:id:UNIC_Tokyo:20190408144245j:plain

乾燥地帯だが、灌漑用水が行き届くと豊かな農地に

「水不足が深刻なので、雨が降ればすぐに芽を出すソルガムや、水をあまり必要としないオクラなどの野菜が中心です」と案内してくれたFAOの担当者が説明してくれます。「心配なのはバッタの発生による害で、これが起こるとせっかくの努力が水の泡になってしまう。害虫駆除には化学薬品ではなく、オーガニックのものを使うように指導しています」と話します。FAOではグローバルにバッタの脅威についてモニターし、バッタ予報を出しています。 

「私はコンゴ出身で、ふるさとでは農家だったから、ここで再び農業ができるのはとても嬉しい。売れる野菜をたくさん作りたい」と顔を輝かせる人もいます。気温37度の炎天下での作業ですが、ケニアでの再出発への希望が支えになっているのでしょう。 

 

 FAOでは雨期の始まりを前に、少量の雨でもすぐ生育するソルガムの種まきをするよう促しています。FAOの農業指導で畑に張った紐に沿い、等間隔にソルガムの種をひとり黙々とまいているトゥルカナのおばあさんがいました。以前は畑に種をばらまいていたそうですが、この作業はひとりではきつそうです。

f:id:UNIC_Tokyo:20190408144547j:plain

足元に張られた紐に沿って等間隔で種をまく

「家族がいれば、数人で分業して作業できるのに、私だけだと大変ですよ」とおばあさん。トゥルカナの人々の間では、相互扶助は隣近所のつながりではなく、家族のつながりが基本だそうです。「私の出身の日本でも独居老人が増えているので、お悩みがよくわかります」という言葉に、おばあさんは私に手を差し伸べ、意気投合してくれました。 

f:id:UNIC_Tokyo:20190408144736j:plain

おばあさんと意気投合

特筆すべきは、カロベィエイで活動する国連諸機関の担当者から繰り返し「カロベィエイ統合社会経済開発計画(KISEDP)」や「国連開発援助枠組み(UNDAF)」という言葉が飛び出したことです。目の前の活動が大きな枠組みにどのように貢献するのか、結びつけながら実施しています。ナイロビのヘッドオフィスや幹部にとどまらず、末端の現場レベルにまで足元のアクションと幅広い視野とを繋ぐ思考力が浸透している様子を目にすることができました。

 

→連載第2回 「難民・地域住民統合型の居住区」という新しいモデルを、チーム力で推進(下)はこちら