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国連のさまざまな活動を紹介します。 

ケニアで考える:SDGs推進の国連のチーム力、そして日本とのパートナーシップ (2)

連載第2回 「難民・地域住民 統合型の居住区」という新しいモデルを、チーム力で推進(下)

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新居住区の随所に見える「日本」の姿

 

驚かされたのは、カロベィエイ居住区の随所に「日本」の姿があることです。

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UNHCRカクマ事務所のドナー国を示す看板には日の丸も

 

UNHCR、国連WFPそして国連ハビタットへの寛大な支援を表す日の丸マークが随所に掲げられているのはもとより、都市計画のプロセスにはNGO「ピースウィンズ・ジャパン」が関わり、道路はNGO「道普請人(CORE)」が土嚢方式で難民・地元コミュニティーが参加する形で整備しました。住民たちは道路のメンテナンスなどの訓練も受けています。

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提供:国連ハビタット

コミュニティー・センターづくりには「難民を助ける会」が関わっています。若者たちに「マインクラフト」という煉瓦を動かしたりして建築を体感できるコンピューター・ゲームを通じて、どんな公共空間を作りたいかを議論してもらうなどコミュニティー参加型で推進しました。

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マインクラフトを通じて公共空間を具体的にイメージして議論 写真提供:国連ハビタット

難民と地元住民は自分たちのアイデアが詰まったコミュニティー・センターに大きな期待を寄せています。財務・会計・管理の訓練も受けて、施設内でコンピューター・センターを運営し、会議用ホールはレンタル・スペースとしてビジネス化することになっています。

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オープンを控えたコミュニティー・センター内のコンピューター・センターで。しっかりとしたつくりで、中に入ると外の暑さがうそのよう。砂ぼこりが激しいため、コンピューターにカバーを掛けていた

センターの横には、株式会社LIXILが試験的に実施している簡易型トイレがありました。これは固形排泄物と液体排泄物とを分別して回収し、固形排泄物から簡便に肥料を作り、販売するという循環を作ろうというモデルのパイロットです。運営にあたっていた地元住民の青年は、「訓練を受けさせてもらえて、とても嬉しい。仕事を任され、やりがいがあります」と語ってくれました。

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ビジネス化を念頭に、固形・液体排泄物を分別回収、肥料などに再生 

プリツカー賞を受賞した世界的建築家の坂 茂(ばん・しげる)さんは、長年にわたり国の内外で人道支援に取り組んできたことで知られていますが、彼もカロベィエイ居住区づくりにも関わっています。

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坂茂さんはカロベィエイを訪問し、現地で調達可能な資材などを調査 写真提供:国連ハビタット

住民たちとのワークショップを重ねて、住居そして公共空間として、ペーパーチューブモデル、木のフレームとブロック煉瓦モデル、そして圧縮土ブロック煉瓦モデルの3つを提案しています。 

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左から、ペーパーチューブモデル、木のフレームとブロック煉瓦モデル、
圧縮土ブロック煉瓦モデル 写真提供:国連ハビタット

そのモデルハウスを拝見しましたが、外は40度近くの暑さであるにも関わらず、中は涼しく、快適です。天気や温度にあわせて開け閉めができる通気用の小窓が設けられ、ちょっとした工夫で過ごしやすくなることに気づかされます。 

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換気の工夫がなされている 写真提供:国連ハビタット

さらに、キヤノン株式会社がカロベィエイでの世界的にも新しい一連の努力を写真で記録し、写真撮影の訓練を通じて若者たちをエンパワーする活動を国連ハビタットを通じて実施してきました。その写真集を拝見しましたが、ゼロから出発して居住区ができあがるまでの軌跡を、目に飛び込んでくる鮮やかな写真と若者たちが自分たちの日常を切り取った写真が記録しています。 

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写真提供:国連ハビタット

日本政府からの支援を受けて国連人口基金(UNFPA)ケニア政府などとともに運営するカロベィエイ居住区の産科病棟(太陽光発電でまかなわれています!)は難民・地域住民双方のコミュニティーを対象にしたもので、かつては助産婦で自宅での出産を助けていた人々が、コミュニティーアウトリーチして診療所で出産することを促しています。

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UNFPAケニア事務所のヘルスワーカーの皆さんと

8割を超える出産が今では病棟で行われるようになっていますが、目標は100パーセント。ここで出会ったのは、ガール・マザーたち。この産科病棟に通う妊産婦の2割近くが18歳以下にあたり、問題の大きさに驚かされました。 

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産科病棟で出会ったガール・マザーたち

産科病棟で出会った少女の内、2人は性暴力被害により意図せず妊娠に至ったそうです。ガール・マザーは、難民・地域住民双方に共通する深刻な問題です。母国の様子を確認するために両親が難民居住地を不在にしている間に性被害にあった少女、また貧困問題ともあいまって現地に根付く児童婚の習慣により妊娠するに至った少女たちが少なくありません。ことの重大さを認識せずに軽はずみな性交渉から妊娠してしまったとのこと。避妊の方法やどのようにしてHIV/AIDSや性感染症などから自分のからだを守るのかについても、この病棟で初めて知ったと言います。

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この女の子の相手はすでに南スーダンに帰還してしまった。子どもを育てながらどのように自活するかが最大の課題

ケニアでは、ガール・マザーたちを出産後学校に戻すことが国の政策になっており、様々なステークホルダーと連携して、彼女たちの出産後のきめ細かなフォローアップがこれからの課題になります。家族にとって汚名・恥とされがちで、家族からサポートが得られないケースもあり、彼女たちの自立も視野に入れる必要があります。 

 

日本政府からの支援を受けて、ガール・マザーやシングル・マザーら特に脆弱な立場にある人々を対象にする職業訓練の現場を拝見しました。先に触れた難民の経済活動に関する調査でも、雇用や事業経営の面で女性の数が圧倒的に少ないことが指摘されています。ここにはその障壁を破ろうと、トゥルカナ族のビーズの伝統衣装に身を包んだ女性や、つぎはぎだらけのTシャツにカンガ布を腰に巻いただけのいでたちの女性、自分で作った服を誇らしげに着た女性が集まっていました。難民・地元双方のコミュニティーの女性を対象に行われていた洋服の仕立ての職業訓練は、UN Womenを通じた日本の財政支援で実施されているものです。

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私も学生時代、型紙をとって簡単な服をつくっていましたから、型紙から学ぶ彼女たちに感激。キャンプには障害を乗り越えて仕立て屋になり、ビジネスを拡大して人を雇い入れるほどになったコンゴ難民の女性もいて、仕立ての技術の職業訓練はニーズがあるのと同時に人々にイメージしやすく、非常に人気があります。ここで学んで、すでに自分のお店を開いた生徒もいます。 

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筆者の左隣は、案内役を務めてくださったUN Womenケニア事務所の川原えりかさん。川原さんの左のコンゴ難民の女性は、自分で仕立て屋を営むようになった

このほかにもUN Womenは日本政府の資金拠出を通じて、理髪業やマッサージの職業訓練を行うとともに、伝統的なジェンダー・ロールの枠を超えて邁進する女性の姿を追った映像を鑑賞してディスカッションを行い、女性が内包する力を引き出すというエンパワーメント活動も実施しています。

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10代のブルンジ難民の受講生のマッサージの練習台に

日本からの支援がカロベィエイ居住区という新しい難民受け入れのモデル、ならびにここで展開される様々な活動を下支えしています。さらに、日本の関係者が重層的に関わった「官民連携の実験場」でもあります。さらに、マクロの政策や支援の枠組みとミクロの側面や個々人のケースとを両にらみしながら、ここに駐在して人々に寄り添った活動を行っている日本人職員が、視察当時4人もいらっしゃいました。ちなみに全員女性。ナイロビから遠隔でプログラムを担当している人を入れると、日本人はもっと多くなります。

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右からUNFPAカクマ事務所の松本理恵さん、ナイロビからカロベィエイでの活動をコーディネートする国連ハビタットのディリー美里さん、筆者、難民を助ける会の雨宮知子さんと駒橋冴季さん。難民を助ける会からはもう一人カクマに駐在する職員がおり、カクマに駐在する日本人職員は計4人

 世界的に注目される新しい形の難民の受け入れの取り組みに多くの日本人職員の方々が関わっていらっしゃるのは、このモデルを他国に展開する上での人材の輩出と経験の蓄積という意味も含め、素晴らしいことだと思います。

 

すべての女の子たちに質の高い教育を

 

話は少し飛びますが、3月下旬にノーベル平和賞最年少受賞者のマララ・ユスフザイさんが日本を訪問したことは皆さんもニュースなどで目にしていることでしょう。ケニアでガール・マザーたちと出会い、彼女たちのこれからについて考えさせられたからこそ、ケニアから日本に戻った直後に目にしたマララ・ユスフザイさんの日本へのメッセージが強く印象に残っています。「私は世界で学校に通えないでいる1億3000万人の少女たちを代表してここにいます」とマララさんは初めて訪問した日本で訴え掛け、女子が初等教育のみならず中等教育まで進めるように強い後押しを求めました。

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3月23・24日に東京で開催された第5回国際女性会議(WAW!)とW20の合同会議でマララさんは、「持続可能な開発目標が採択され、あらゆる女子に12年間の教育を確約することを誓いましたが、現時点では大きく出遅れています。女性が将来活躍するために、指導者は質の高い女子教育に投資しなければなりません」と政治的な指導力を強く求めました。これに対して安倍総理大臣は、日本政府として2020年までの3年間で少なくとも400万人に上る途上国の女性たちに質の高い教育、人材育成の機会を提供していくと表明。さらに、6月に大阪で開催されるG20サミットで、議長国として女子への質の高い教育機会の拡充を提起する考えを示しています。

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同じく東京での会議に出席したミチェル・バチェレ国連人権高等弁務官

マララさんが父親とともに設立した「マララ基金」と世界銀行のレポートによると、世界中の全ての少女が中等教育まで終えられれば、女性の生涯収入は合計で最大30兆ドル(3300兆円)増えると見込まれています。女性への質の高い教育機会の提供は単なる社会政策にとどまらず、持続可能な経済成長のための効果的なマルティプライヤーなのです。マララさんがマスコミとのインタビューの中で、「初等教育を受けても、多くの女子が結婚や出産などを理由に、その後の教育機会を奪われている。中等教育まで受けることの大切さを伝えていきたい」と答えているように、中等教育を修了できるかどうかがその後の人生を大きく左右します。

 

圧倒的に学校が、教室が足りない! 

 

さて、話をカロベィエイに戻しましょう。カロベィエイの難民・地元住民双方が通うFuture Primary Schoolには、マララさんが指摘した問題の縮図がありました。連載第1回で、ケニアの人口は50パーセントが18歳未満できわめて「若い」とお伝えしましたが、それをカロベィエイの難民・地域住民統合型の小学校「‘Future Primary School‘」で実感しました。

 

 

どの教室も子どもたちでギューギューで、小学校に上がる前の幼稚園は、教室に200名以上。床に座るだけのスペースしかなく、教室内を子どもたちが動き回ることはできません。 先生も一緒に歌を歌うなど、教室内を移動せずに可能な活動に腐心していました。

f:id:UNIC_Tokyo:20190404125822j:plain 幼稚園児たちが手に持っているのは、給食のおかゆ用の容器です。食料支援として学校給食が支給され、それが親が子どもを学校に通わせるインセンティブになり、かつ栄養改善にもつながります。

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食料支援として提供される学校給食が子どもが学校に通う呼び水になっていると先生が話してくれた

幼稚園レベルの生徒では女の子の割合は4割程度でしたが、小学校になると上の学年の教室になるほど女子が減っていくのが短時間の見学でもわかります。勉強よりも家事の手伝いなどが優先され、女子が学校に通わせてもらえなくなるのです。 

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教室に女の子が少ないのがわかる

「子どもたちの就学率も向上しつつあり、卒業試験の成績はケニア平均を上回っています。しかしながら教室、教員(特に女性教員)の圧倒的な不足に加え、小学校を卒業した子どもたちが進める中学校が圧倒的に少なくて、勉強を続けていけません。せっかく頑張っても報われないのです。これを是非日本の人たちに伝えてください」と学校を案内してくれたUNHCRの教育担当者が、切羽詰まった表情で切々と私に訴えました。

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史上最年少でノーベル平和賞を受賞し、のちに国連ピース・メッセンジャーに任命されたマララさんは、彼女を標的にした暴力を発端に、故郷のパキスタンを離れイギリスで暮らしています。故郷を離れて避難生活を営む難民たちには人一倍共感を持つ彼女は、「マララ基金」を通じて難民の女の子の教育支援に力を入れていることを強調したいと思います。ふるさとを追われて避難先でゼロから再出発せざるを得ない中では、教育こそが未来を切り開く上での希望の光です。強制移住と女性に対する不平等という複合的は脆弱性を背負った少女たちにとっては、なおさらです。

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2016年7月ルワンダブルンジ難民の少女たちを激励、彼女たちの声を世界に届けることを誓った @Photo: UNHCR

マララさんの日本での講演やインタビューに触れ、カロベィエイの教室で、目をキラキラさせながら、「大きくなったらパイロットになりたい」と大きな笑顔で答えてくれた少女のことを思いました。

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Future Primary Schoolで出会った、先生になったばかりの女性教員。女子生徒たちのロールモデルになりたいと語ってくれた

 

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連載第2回では上・中・下にわたってカロベィエイ統合型居住区という新たな難民受け入れの場で、国連がクリエイティブにチーム力を発揮している様子をお届けしてきました。次回はカクマ、トゥルカナ県の県庁所在地ロドワー、そしてナイロビを舞台に、国連チームの新世代型のアプローチについてお伝えします。

 

→連載第3回 トゥルカナで見た、新世代型の国連のチーム力(上)はこちら