第7回アフリカ開発会議(TICAD7)が2019年8月28-30日、横浜市で開催されます。日本では6年ぶりとなるTICADに向けて、国連広報センターはアフリカを任地に、あるいはアフリカと深く結びついた活動に日々携わっている日本人国連職員らに呼びかけ、リレーエッセーをお届けしていきます。
取り上げる国も活動の分野も様々で、シリーズがアフリカの多様性、そして幅広い国連の活動を知るきっかけになることを願っています。第27回は、国連世界食糧計画(国連WFP)に勤務する下村理恵さんと並木愛さんです。
第27回 国連世界食糧計画(国連WFP)
下村理恵さん、並木愛さん
~イノベーションで飢餓ゼロを達成する ールワンダの現場から~
下村さん:上智大学比較文化学科、国際大学大学院国際関係学科卒業後、チェコにて専門調査員、UNHCRハンガリー事務所にてJPOとして勤務。2005年に国連WFPインドネシア事務所にてインドシナ地震支援調整を担当後、ジンバブエ、スーダン事務所などでプログラム全般に携わる。2018年よりルワンダ事務所に勤務。
並木さん:法政大学法学部国際政治学科卒業後、ロンドン大学政治経済学院で国際開発マネジメント学修士号取得。官民セクターの経営コンサルティングに携わった後、2017年に広島平和構築人材育成事業の国連ボランティアとしてWFPジンバブエ事務所に勤務。2018年よりJPOとしてルワンダ事務所に勤務。
ルワンダ東部マハマ地区。国連WFPと契約している店舗の前に子どもをおぶった女性たちが続々と集まってきます。彼女たちは混乱の続くブルンジから4年前にルワンダへ逃れてきた難民です。「キテンゲ」と呼ばれる鮮やかな布を身にまとった彼女たちは、背中で眠る子どもを起こさないようにそっと、一枚の青いカードを取り出します。このカードが、彼女たちにとっての“命綱”。カードを手にした女性たちは店舗に入り、専用の機械にカードを挿入して親指をかざすと、店主からルワンダフランの紙幣を受け取ります。この紙幣で彼女たちは家族を養う食料を買いに出かけます。
みなさんはルワンダと聞いてどのようなイメージが浮かぶでしょうか。 私たちの活動するルワンダは、東アフリカ、赤道のやや南に位置し、四国より一回り大きな国土に人口1200万人が住む内陸の国です。ルワンダといえば、1994年の大虐殺のイメージが日本ではいまだに強い一方で、近年はICTや高付加価値型農業の発展により、今やアフリカで最も経済成長が著しく、最も治安が良く、そして政府が積極的にイノベーション(技術革新)を推進する国として注目を集めています。しかし、ルワンダは近隣諸国の中でも比較的政治・経済が安定しているがゆえに、隣国のブルンジ及び、コンゴ民主共和国から避難してきた約13万3000人の難民を抱える国でもあります。
ルワンダの隣国との国境近くに位置する6つの難民キャンプのほとんどが標高1500メートルを超える高地に位置しており、難民キャンプへ近づくと突如山肌に白い屋根がびっしりと集まる景色に目を奪われます。現在、国連WFPルワンダ事務所の全予算の約70%が難民支援に投じられていて、全ての難民が国連WFPの食料支援で毎日の命を繋いでいます。
国連WFPの目標であると同時に、「持続可能な開発目標(SDGs)」の一つでもある「飢餓をゼロに」を実現するためには、政府、市民、NGOなどの市民団体、そして民間セクターが力を合わせ、イノベーションを促進し、持続的な解決策を生み出していく必要があります。
では、国連WFPの担う分野、食料や栄養支援におけるイノベーションの現場とはどのようなものでしょうか。今日では一口に食料支援といっても、従来のように穀物や豆類などの定められた種類の食料が入った袋を人々に手渡しするだけではありません。国連WFPの活動する約80カ国中62カ国では、従来の食料の現物支給に代わり、食料の購入を目的とした「現金支援」をモバイルマネーや、食料引換券、デビットカードなどを使って実施しています。マスターカード社と連携したデビットカードを採用するルワンダの場合、生後6ヶ月以上のすべての難民に対して一律8.4米ドルを現地通貨で支給しています。
国から逃れ、長い道のりを経てルワンダにたどりついた難民は、国連WFPが提供する温かい食事でお腹を満たしたのちに、「指紋」をシステムに登録します。一家庭につき一つの銀行口座が開設され、専用のカードが手渡されます。その後、難民キャンプの各所に設置されている銀行の代理窓口に足を運び、設置されている機械にカードを通し指紋認証をすることで、家族全員が摂取すべき栄養を満たすために必要となる金額を毎月受け取り、難民キャンプの中にある市場や食料品店で必要な食料を自由に購入することができます。
現金支援のメリットは、(1)食材や買う店の選択肢が広がるなど人々の意思を尊重することができること、(2)輸送費用などが抑えられるため効率が良いこと、(3)人々が食べ物を購入するために市場に集まることによって地域の経済が潤うこと、などにあります。定期的に金額を受け取る人々のほとんどは女性で、受け取ったお金を計画的に、安全に管理するスキルや、家庭内暴力を防止するためのトレーニングも同時に国連WFPが実施しています。
難民キャンプではイノベーションを活用した現金支援を行うと同時に、キャンプ内で手に入る食料では得られない栄養を補うために、栄養を強化した食品の提供も実施しています。例えば、国内全ての難民キャンプで母子栄養支援プロジェクトを実施し、日本政府の支援のもと、トウモロコシ粉や、豆、CSB+(特別栄養強化食品)を難民に配布しています。また、難民キャンプと周囲の難民を受け入れる地域に住む小中学生は、日本政府の支援する学校給食でお腹を満たしています。日本は女性や子どもなど、特に弱い立場に置かれてしまう人々に対する支援を継続してきました。
現在国連WFPルワンダ事務所では、プログラムポリシーオフィサーとして私たち下村理恵と並木愛の2人の日本人が働いています。2人の共通点は、人道支援に対して強い想いを持っているということです。プログラムを統括し、事務所の複数の活動を管理する立場にある下村は、過去14年間のキャリアを国連WFPの現地事務所で積み重ねてきました。2005年にインドシナ地震の支援調整に携わった際に、被災し厳しい環境下にあっても前向きに生きる現地の人々を目にしたことが、これまで現場にこだわって活動を続けてきた原動力となっています。
また、現在JPOとしてジェンダーと難民問題に取り組む並木は、大学生の時に発生した東日本大震災のあとに向かった宮城県気仙沼の避難所で被災された方々のニーズ調査などのボランティアに参加した際、最も支援の必要な人々の声を聞き、確実に支援を届けることの必要性を身を持って感じたことが人道支援分野でのキャリアを志すきっかけになっています。
日々の現場での活動は、精神的、身体的に厳しいと思わざるを得ないこともあります。しかし、国連WFP職員としての仕事にいつもやりがいを感じられるのは、現場主義、結果重視、国連WFPファミリーとしての一体感があること、そして、「必ず支援を届ける」という使命感があるためです。今後も、様々なセクターと連携してイノベーションを加速させ、その力を最大限に活用して、世界の「飢餓をゼロに」するために力を尽くしていきたいと思います。