アフガニスタン訪問記の第2回は、
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国連アフガニスタン支援ミッション(UNAMA)広報部のアウトリーチ部門チーフのアンナに、私はリクエストのトップに「アフガン女性たちを取り巻く状況について知りたい」と挙げていました。女性の権利推進とエンパワーメントは、アフガニスタンにおける国連の活動の重点項目の一つとなっています。4月29日、日本の支援で建設されたカブール国際空港に降り立ち、宿舎にスーツケースを置いた直後には、私は女性団体で働くアフガン女性たちとのミーティングに臨んでいました。
日本からのお土産「柿ピー」を食べながら、ジェンダー論議。右の男性はUNAMAのジェンダー担当官 (UNAMA/Anna Maria Adhikari)
面会に応じてくださったのはAfghanistan Justice Organizationの創始者であり副会長を務めるライルマさんと、Medica Afghanistanのサイフォラさんです。お二人とも女性に対する暴力の根絶や男女の機会均等などに関する法制度の整備・改正に関わり、サイフォラさんは個別ケースの救済にも関わっていらっしゃいます。アフガニスタンでは、女性を暴力から守り、女性の権利を保障する活動は、まさに命がけの仕事です。社会のあらゆる側面において女性の権利を唱えることは伝統的な文化や社会規範に楯突くものと見なされるからです。タリバンなど武装組織のみならず、政府関係者、軍、軍閥らが加担することもあり、家族からの反対・反発もあります。ライルマさん、サイフォラさんもこうした圧力から無縁ではなく、そんな厳しさにも関わらず私との面会に応じてくださったことを心からありがたく思いました。
2009年に決定された「女性に対する暴力廃絶法」を骨抜きにしようという議会の動きがあることや、女性省や各省のジェンダー・ユニットがあるものの限られた影響力しかなく、公務員の採用において腐敗や縁故主義がはびこって実力を持った女性が登用されないこと、職場でのセクシャル・ハラスメントが蔓延していること、司法制度が男性中心である上、腐敗が激しいことなどについて、熱を帯びた口調で語ってくださいました。女性の司法へのアクセスを考える際、女性の裁判官の有無が重要ですが、タリバン政権下にはゼロだった女性の裁判官は、現在260名にまで増えたものの、女性の裁判官が任官されたのはカブール、ヘラートなどの5つの県に限られています。多くの障害を乗り越えて活動を続けてきたお二人からは、野太いたくましさが感じられます。
Afghanistan Justice Organizationの創始者であり副会長を務めるライルマさん(UNAMA/Anna Maria Adhikari)
UNAMAはこうした女性団体・女性の代表が活動の幅を広げ、声を上げることを、国連だからこその役割と調整力を発揮して側面支援してきました。「アフガニスタンの女性を取り巻く環境は、道半ばです」とライルマさんは言います。「政府は治安問題や和平交渉のことで頭がいっぱいで、教育や医療サービスを含む女性の課題は後回しにされがちです。2014年で多国籍軍のほとんどが撤退し、国際社会からの援助も減る傾向にあり、女性団体の数もピーク時の半分ほどに減っています。是非国際社会には粘り強く支援を継続すること、アフガニスタンの女性たちを取り巻く状況に関心を持ち続けることを強くお願いしたい」と苦境について説明してくれました。
治安の悪化を受けて、ただでさえ制約されている女性の移動の自由がさらに制限されるようになったとサイフォラさんは言います。「北部の重要都市のクンドゥスが2015年にタリバンの手に陥落したことは、人々を不安に陥れ、カブールでも安心できなくなりました。事実、私たちの事務所のすぐそばでも爆発がありました」と語るサイフォラさんは、イギリスとスウェーデンでそれぞれ修士号を取得した才媛です。「父親は医者ですが、母親は読み書きができません。父親が私の留学を応援してくれて、反対する家族や親せきを説得してくれました。単身スウェーデンに留学した時は、すでに結婚していましたが、夫が大変理解があったおかげで実現しました」
Medica Afghanistanのサイフォラさんには、アメリカとスウェーデンへの留学経験が(UNAMA/Anna Maria Adhikari)
もし是正するとしたら何から着手したいですかと尋ねると、ライルマさんは「強い公務員任用委員会」を挙げ、「改革への強い政治的な意志に加えて、それを担える人材を育成することが必要で、今のアフガニスタンには特に後者が欠けています」と、最大の雇用供給元である政府機関に対して注文を付けました。日本からの支援への感謝の気持ちを述べる中で、ライルマさんが語った言葉にハッとさせられました。「アフガニスタンは1970年代から平和を求めて苦しんでいますが、もとはと言えば外から持ち込まれた紛争のために傷ついてきたのです。日本も含めた国際社会には、是非そのことを忘れないでほしい」と訴えるライルマさん。ふるくはロシア・ソ連と大英帝国にはさまれ、多くの国々と地続きで、世界・地域の大国に振り回されてきたアフガニスタンの歴史に、島国・日本がいかに幸運であったかを感じずにはいられませんでした。
実は、女性の政治参画や公務員に占める割合などにおいて、アフガニスタンは日本の上を行っています。議会下院で女性議員が占める割合は、クオータ制を設けて推し進めてきたアフガニスタンが27.7パーセントなのに対して、日本は9.3パーセント。国家公務員の幹部職員に占める女性の割合は、アフガニスタンは9.8パーセント、日本はおよそ4パーセントです。こうした数字の比較をアフガニスタンでラジオ出演した際に紹介したところ、ほかの出演者から随分と驚かれました。カブールから小型飛行機で西に30分のところにあるバーミヤンのFMラジオ局、「ラジオ・バーミヤン」で女性の社会参画を取り巻く課題についてのディスカッション番組に出演したときのことです。
ラジオは、アフガニスタンで最も有力なメディアの一つ(UNAMA/Jaffar Rahim)
アンナがチーフを務めるUNAMA広報部のアウトリーチ部門は、アフガニスタンのメディアに対して客観的な報道や番組の作り方、ソーシャル・メディアの使い方などについて研修を行うとともに、女性団体をはじめとする市民団体についても、社会変革を担うエージェントとして、マスコミを通じて意見表明することに対して背中を押してエンパワーする支援を行っています。
ラジオ・バーミヤンにて。アフガニスタンの職場では、子どもを連れて出勤するお母さんに寛容だ(UNMA/Anna Maria Adhikari)
ラジオ・バーミヤンは、アフガニスタンで最初の独立系ラジオ局として2002年に開局しました。コミュニティーに根差したラジオ局で(電力はすべて太陽光発電で賄われています)、地域の課題を丁寧に取り上げ、UNAMAと様々な形で連携しています。ラジオ・バーミヤンではスタッフの半数近くが女性で、私がバーミヤンを訪れているタイミングをとらえて、女性ディレクターの発案によりバーミヤン県庁の女性問題担当官、地域の女性活動家、女性の元県議会議員、女性の宗教家を集めてディスカッション番組を収録したのです。大学時代にラジオの深夜番組でDJを務めていた私は、ラジオというメディアが活躍していることを個人的にとても嬉しく思いましたし、UNAMAが女性の宗教家が社会に対して影響力を持っていることに着目して発言の場づくりに貢献していることに感心します。
左は女性の宗教家、左から2番目は女性活動家(UNAMA/Jaffar Rahim)
バーミヤン県からは2005年にアフガニスタンの歴史の中で初めての女性の知事が生まれ、アフガニスタンの中では比較的リベラルな風土として知られ、女性たちが番組づくりに深く関わっていること、ラジオというメディアの場で臆せず意見を述べる女性たちがいることに大変勇気づけられます。国全体の民族・宗教構成の中ではマイノリティーにあたるイスラム教シーア派のハザラ族が多く住み、開発が最も遅れている県の一つではあるものの、教育全般ならびに女子の就学に関連した指標では、全国平均を大幅に上回っていることに女性たちは胸を張ります。ハザラ族の間で女性に対して進歩的な意識が強いことは、アジア財団の世論調査でも明らかになっています。
右はバーミヤン県の女性問題担当官、左はラジオ・バーミヤンのプロデューサー(UNAMA/Jaffar Rahim)
収録後5月17日に放送になった番組の中で話題になったのは、県の職員に占める女性の割合が17,5パーセント、意思決定を行えるレベルには3人にとどまっていること、女性の採用を推進するために県の人事センターから採用情報や面接の受け方、コンピューター・トレーニングなどの実務的なサポートの提供が必要であること、役場という職場からハラスメントをなくして安全な環境にすることが重要であることなど、次々に意見が出され、県の職員が防戦に回っていました。
ジェンダーについて語ると、国境を越えた連帯感が生まれる(UNAMA/Jaffar Rahim)
私からは、女性の課題の推進には先進国・途上国を通じてやはり男性トップのコミットメントが必要だと、安倍総理の進めるウィメノミクスの例をひいて訴えました。女性の元県議会議員の「女性が教育を受ければ、家族全体が教育を受けることにつながる(if a woman is educated, the whole family is educated)」という言葉が強く印象に残りました。番組収録が終了すると、出演者たちは「女性の課題に先進国・途上国の別はないのですね!」と語り、そこには同志としての連帯感が溢れていました。
右は、元県会議員の活動家(UNAMA/Jaffar Rahim)
バーミヤンは雪山の連なりに囲まれて近くにスキー場まであります。標高2,500メートルの高地の町バーミヤンのUNAMAのフィールド・オフィスのヘッドは、フィリピン出身のアイリーン・ヴィラレアルさんです。
バーミヤンの空港に出迎えに来てくれたアイリーン(UNAMA/Jaffar Rahim)
バーミヤンに赴任する前は、スーダンの国連アフリカ連合ダルフール派遣団で勤務していました。「ダルフールに比べれば、バーミヤンのオフィスや宿舎、住環境はずっと快適よ」と言うツワモノで、フィリピンに大学教授の夫を残しての単身赴任です。UNAMAの12のフィールド・オフィスのうち5つを女性の所長が率いていますが、これも「lead by example」、つまり実例をもってして女性でもリーダーになれるということを周囲に示すことにつながるでしょう。「バーミヤンという県庁所在地だけを見て判断しないでほしい。はるか離れた地区に行くと、まだまだ伝統的な価値観が支配的で、女の子が学校に行かせてもらえないという現実がある」とアイリーンは口を酸っぱくして言います。
バーミヤン県知事をアイリーンとともに表敬。県知事との関係構築もUNAMAフィールド・オフィスのヘッドの重要な任務(UNAMA/Anna Maria Adhikari)
アフガニスタンの厳しい環境の中にあって、少なくとも女性たちが置かれた状況はゆるやかにではありますが、確実にタリバン政権のころと比べて前進しています。これは2004年からアフガニスタンの人々の意識調査を行ってきたアジア財団の分析にも表れていることでもあります。紛争による避難生活や女性として意見を主張することによる身の危険などを乗り越えてきた女性の代表たちの経験に裏打ちされた堂々とした態度に、大いに励まされました。