国連広報センター ブログ

国連のさまざまな活動を紹介します。 

TICAD7リレーエッセー “国連・アフリカ・日本をつなぐ情熱” (4)

第7回アフリカ開発会議(TICAD7)が2019年8月28-30日、横浜市で開催されます。日本では6年ぶりとなるTICADに向けて、国連広報センターはアフリカを任地に、あるいはアフリカと深く結びついた活動に日々携わっている日本人国連職員らに呼びかけ、リレーエッセーをお届けしていきます。

 

取り上げる国も活動の分野も様々で、シリーズがアフリカの多様性、そして幅広い国連の活動を知るきっかけになることを願っています。第4回は、アフリカ東部のソマリアに展開する国連ソマリア支援ミッション(UNSOM)に勤務する窪田朋子さんです。

 

第4回 国連ソマリア支援ミッション(UNSOM)

窪田朋子さん


ソマリアでの国家づくり。平和構築を見据えて

 

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ガルムドゥグ連邦州の首都ドゥサマレッブの空港で、筆者(中央)(本人提供)

神奈川県出身。上智大学卒、英ブラッドフォード大学院修了。日本貿易振興会アジア経済研究所で研究員、アフガニスタン日本大使館で専門調査員、国連アフガニスタン支援ミッション(UNAMA)で政務官、県事務所長。その後、UNSOMプントランド地域事務所で政務官を経て、2015年よりモガディシオにて上級政務官として勤務。

 

 

ソマリアは30年以上の内戦・混乱期の後、移行期を経て2012年に正式な政府を樹立し、2016年に行われた上下院議員選挙を踏まえて2017年2月に大統領選挙を実施した。同年の平和的な権力移譲は、ソマリアが着実に「破綻国家」「無政府状態」という負のレッテルを過去のものとし、政府としての機能を再構築するのみならず、国家としての誇りを取り戻そうとする意欲の表れである。現政権はとくに経済改革に力を入れ、税基盤の強化などを通じて国内歳入は次第に増加している。また、政府は「国民和解に関する枠組み」の作成に着手しており、内戦と混乱によって残された行き場のない怒り、喪失感をいかに認め合い、癒し、国づくりに必要な社会的紐帯を編みなおすかという課題に取り組もうとしている。これは「弱肉強食」色がいまだ強いソマリア社会では、長期的に国家づくりを成功させるうえで重要な課題である。

そのようなソマリアの努力を後押しすべく、2013年6月、国連ソマリア支援ミッション(UNSOM)は、ソマリア連邦政府の平和・和解プロセスに関する調停および平和構築、国家づくりに際しての戦略的助言を行うことを目的として設立された。近年の活動は、連邦制を採用するソマリアにおける連邦州の立ち上げにかかわる政治過程、連邦制度の定義づけとそれを踏まえた暫定憲法の見直しおよび改訂、そして紛争解決に関する支援を中心とする。治安、司法、財務、教育など数多くの分野は「設計」途上であり、ソマリアは自らに適した連邦制度のあり方を模索している。

 

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紛争当事者間の対話を促進し、信頼醸成を図るのは平和構築の基本ともいえる仕事だ。
問題解決に向け、プントランド連邦州とガルムドゥグ連邦州の政府関係者による直接対話を促す(ソマリア中部ガルカイヨ市にて)(筆者提供)

 

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出典:OCHA

  

国連の主要課題の一つは紛争予防、紛争解決であり、その分野でソマリア政府、市民社会の能力を強化することである。2016年10月にソマリア中部のガルカイヨ市で武力衝突が勃発し、国連事務総長代表による仲介が行われ停戦合意に至ったのち、私は武装勢力の引き離し、紛争当事者の対話および信頼醸成を担当した。ガルカイヨ市は分断されており、南部はガルムドゥグ連邦州、北部はプントランド連邦州の管轄下にあり、敵対する氏族が住む。これまで冷戦状態が続いていたが、住民間で土地の所有権をめぐる対立が近年顕在化し、武力衝突にいたった。私は現地に赴き、紛争当時者、その他関係者と意見交換し、対話の促進に尽力した。結果としては、当初は直接対話ができなかった紛争当事者が、国連等の介入の結果、信頼関係を築くようになり、ガルカイヨは分断された町から平和の町に少しずつ転換しつつある。今後も平和構築の視点から、地元政府、住民の支援を続けたい。 

 

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南・北ガルカイヨ両市長より感謝状を授与される(筆者提供)

 

第二の主要課題は、ソマリアで国連事務所がない唯一の連邦州であるガルムドゥグに事務所を立ち上げることである。治安上比較的落ち着いているプントランドソマリランドを除き、国連事務所はすべてアフリカ軍(AMISOM)の駐在地に位置しているが、ガルムドゥグにはアフリカ軍が展開していない。職員が現地にいない分、情報量が限られる。政治状況が不安定かつアフリカ軍が駐在しないという地域に国連事務所を立ち上げるのはたやすくない。緻密な政治・治安分析から始まり、国連内の関連部署の代表者からなる視察団を組織し、現地政府と土地の選定、交渉を行い、計画を練り上げている。今年中に暫定事務所を立ち上げ軌道に乗せるのが私の目標である。

 

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ガルムドゥグ連邦州の首都ドゥサマレッブにて、国連の暫定事務所候補地の視察を行う(筆者提供)

 

UNSOMには、私のほかに2人の日本人の政務官が勤務し、地域事務所で政治情勢の分析および連邦州政府との関係づくりに従事している。彼らは他の国連特別政治ミッションで地方事務所での勤務経験があり、良好な対人関係をつくるうえで安定感がある。日本政府は2016年度の補正予算で、UNSOMの「平和と和解を支援するに関する信託基金」を通じ、UNDPが実施機関となり、政治対話、和解の促進、連邦政府および連邦州政府の能力強化などを支援してきた。これは連邦制度の土台づくりに大きく貢献した。

日本に戻ると「なぜ危険な国で働くのか」とよく聞かれる。おそらく、紛争国・脆弱国から安定・平和への移行、転換期になる(かもしれない)国づくりに関与することで、歴史の一頁のどこかに刷り込まれているような感覚のせいだろう。私の仕事は支援物資を配ることではない。あらゆる出自の人々が国の設計に関与し、それに基づいて国づくりが進めば、自然災害のみならず人的災害に対する耐久性が高まり、政府の統治能力が強化され、テロリストの余地が狭まり、より安定した生活が送れるだろう。しかし、ソマリアのような国ではそのようなビジョンが共有されても、それを達成する過程で行きづまる。その困難な道のりを伴走し、助けとなることは、私はやりがいのある仕事だと思う。