国連広報センター ブログ

国連のさまざまな活動を紹介します。 

TICAD7リレーエッセー “国連・アフリカ・日本をつなぐ情熱” (8)

第7回アフリカ開発会議(TICAD7)が2019年8月28-30日、横浜市で開催されます。日本では6年ぶりとなるTICADに向けて、国連広報センターはアフリカを任地に、あるいはアフリカと深く結びついた活動に日々携わっている日本人国連職員らに呼びかけ、リレーエッセーをお届けしていきます。

 

取り上げる国も活動の分野も様々で、シリーズがアフリカの多様性、そして幅広い国連の活動を知るきっかけになることを願っています。第8回は、国連訓練調査研究所(UNITAR)広島事務所に勤務するマルタ・カリさんです。

 

第8回 国連訓練調査研究所(UNITAR) 

マルタ・カリ(Marta Cali)さん


若者のエンパワーメント ―サヘル諸国での汚職と戦い―

 

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広島でのワークショップにて南スーダンからの研修生と(右端が筆者)©UNITAR

プログラム・リーダーとして、UNITAR広島事務所「サヘル諸国のための汚職防止プログラム」に従事。国連政治局(DPA)、国連児童基金UNICEF)、国連開発業務調整事務所(UN-DOCO)等、複数の国連機関で約15年間にわたって、発展途上国、危機に瀕している国、紛争後国に焦点を当てた業務経験を有する。

 

 

国連訓練調査研究所(ユニタール)は、1965年に設立された研修を専門とする国連機関です。本部はスイスのジュネーブにあり、世界中で外交・経済発展・環境・平和・復興といった様々な分野において研修を行っています。2003年7月に開設された広島事務所では、その立地を活かし、主に紛争後の復興や世界遺産、安全保障に関する研修を実施しています。また、研修以外にも、一般公開セッションや青少年大使プログラム等、地域住民を対象としたプログラムも実施しています。今回は、ユニタール広島事務所が実施した「サヘル諸国のための汚職防止プログラム」について、参加者の一人であるマリ共和国出身の若者の視点を通してご紹介します。

 

マリ共和国カイ州はキタ山の東側のふもとに位置し、13世紀にはマリ帝国の中心地として栄えました。しかし現在、カイ州は同国の最貧州の一つです。未整備の道路やインフラ、不十分な教育機会や医療サービス、高い失業率など、急増する若年人口に対して様々な課題を抱えています。

 

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出典:UNOWAS

 

サメロウ・ディアロ(Samerou Diallo)氏(33歳)はこの地域のサナサバ村という小さな農村で生まれ育ちました。サナサバ村は識字率が極めて低く、国や地域の行政からも切り離され、公共サービスはほとんど提供されていませんでした。そのため、村民たちは中央政府や地元のリーダーを信用しておらず、特にディアロ氏のような若者世代は疎外感を感じ、自分たちが置かれている現状に幻滅さえしていました。出産証明書や卒業証書、医療サービスなどの必要不可欠な行政サービスを受けるために、お金がないのにも関わらず、賄賂を渡すよう圧力をかけられることも珍しくありません。ほとんどの村民は、これらが法律上無料で提供されるべき行政サービスであるということも知りませんでした。幼いころからディアロ氏は、自分を取り巻くこのような状況を何とか変えたいと思っていました。

 

ディアロ氏は、2019年1月に国連ユニタール広島事務所が主催した「2018年度サヘル諸国のための汚職防止プログラム」に参加した18人の研修生の一人です。本プログラムは、サヘル諸国の政府や市民社会団体、メディアの若者リーダーの汚職防止や対策強化に関する知識向上を目的としています。これまで、ブルキナファソカメルーン共和国チャド共和国マリ共和国モーリタニア・イスラム共和国ニジェール共和国及びセネガル共和国から51人の研修生が本プログラムに参加しました。

 

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セネガルの首都ダカールでのワークショップにて(左奥から3人目がディアロ氏)©UNITAR

 

UNITAR広島事務所は2015年より日本の外務省の支援を受けて汚職対策の研修を実施しており、本研修(2018/2019年度)で4回目となります。サヘル諸国を対象とした研修では、ダカールと広島で計2回のワークショップが開催されます。各ワークショップの間には、研修生は広島でのワークショップで発表する自身のプロジェクトの立案など、自主的活動も行います。研修生は様々な形で存在する汚職について理解を深めるだけではなく、汚職を減らし、そして防止するために必要なスキルや技術を習得することが期待されています。また、研修ではコミュニティレベルにも焦点を当て、汚職についてのコミュニティの意識啓発や、汚職対策に関わる新たな人材育成の手法についても学びます。本プログラムの強みの一つは官民両セクターや市民社会団体、メディアなど幅広いセクターの関係者が研修に参加していることです。その中で研修生たちは、様々なセクターが一丸となって取り組まない限り、汚職撲滅につながらないことを学びます。

 

 

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広島でのワークショップで研修生にレクチャーを行う筆者©UNITAR

 

生まれ育った村で家族や友人、そして自分自身が置かれている状況を何とか変えたいと願うディアロ氏は、法律の勉強をするために首都のバマコに移りました。これがディアロ氏のサナサバ村から広島への旅路の始まりでした。バマコでは行政学と市民権を専攻するとともに、女性や子どもが家族のために数時間かけて水汲みをする貧困地域にあるSikoro-Sourakabougou地区で、アクティビストとしての活動も始めました。2008年には、村民自身がコミュニティ開発に携わるために「Dugu Yeelen(村を照らす光)」という団体を立ち上げました。しかし、その4年後の2012年、マリ国内で紛争が勃発し、国内情勢はさらに不安定化します。

 

2015年5月にマリ政府とマリ北部武装勢力との間で和平・和解合意が調印されましたが、4年近くが経過した現在でもマリ国内の情勢は依然として不安定です。このような危機的状況に陥った要因は様々挙げられますが、多くの専門家は汚職がその要因の一つであり、汚職によって武装勢力やジハード主義者が資金及び兵士を確保することが可能になっていると考えます。実際に、現在でもマリ社会のあらゆるレベルにおいて汚職や買票、縁故主義収賄がはびこっています。マリでは農村部を中心に、国家が福祉サービスを提供できておらず、家族や親戚が国際社会の支援を受けながら市民社会団体のネットワークと協力し、国家の代わりに福祉サービスの提供主体となっています。このような状況下で、当然多くの国民は国家に対して懐疑的になり、政府と政府に幻滅する若者の間の隔たりはますます広がっています。

 

この11年あまり、ディアロ氏は責任ある市民としての行動や社会的な責任説明の促進、選挙期間中の汚職防止キャンペーンなど様々な方法で汚職との戦いを続けてきました。現在は、選挙参加運動や民主主義と表現の自由を推進する「Democratie 101 (民主主義101)」という組織のコーディネーターとして活躍中です。また、人権をテーマとした映画祭「Ciné Droit Libre Mali(法と自由の映画)」や、演劇や寸劇を通じて市民の汚職に関する意識向上を目指す劇団を主宰するなど、その活動は多岐にわたります。

 

長年積極的に汚職防止活動に携わってきたディアロ氏ですが、これまで正式な研修に参加したことはありませんでした。ユニタールの研修プログラムに参加したことは、自身の人生を変えるような出来事だったとディアロ氏は言います。研修を通じて、複雑な汚職問題についての理解を深めることができ、汚職撲滅のために必要な行動変化にかかわる新しいアイディアを得ることができただけではなく、プロジェクトの計画立案やコミュニケーション手法、研修の実施方法についても学ぶことができました。ディアロ氏は、「地方議員の有権者に対する説明責任の強化」というテーマを個人課題のプロジェクトに選びました。同プロジェクトでは、コミュニケーションやアドボカシーを通じて、市民の権利や選出された議員の責任に関する意識向上を図ります。更に、有権者と議員をつなげ、両者間の信頼と責任説明を強化する「ウォッチ・クラブ」というネットワークをバマコで立ち上げたいと考えています。

 

 

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広島でのワークショップでプレゼンテーションを行うディアロ氏 ©UNITAR

 

ディアロ氏にとって広島でのワークショップは、本プログラムの中でもとりわけ目を見張るような経験となりました。市民としての義務感を持ち、公共のものを大事にするという姿勢が、日本人にとって当たり前になっていることに大きな感銘を受けました。広島でのワークショップを通じて、ディアロ氏や研修生たちは日本の公務員が順守する倫理や戦後の広島の驚異的な復興の経緯、市民の結束力などについても学びました。また、親近感を持って気さくに接する政府関係者や様々な人々との日本での出会いは、良い刺激となり、今後、汚職対策の活動をする上での励みにもなりました。

 

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広島での被爆者との交流は研修生にとってかけがえのない時間となった ©UNITAR

 

最も重要なことは、ディアロ氏は研修に参加することによって汚職との闘いに仲間がいることに気づいたことです。ディアロ氏は自身と決意を共にするサヘル諸国の若者たちとネットワークを築き、その成果として18人の研修生は「広島共同宣言」を起案しました。共同宣言では、お互いをサポートすること、オンライン上のグループを通じてお互いのアイディアや経験を共有することが約束されています。そして、サヘル諸国で汚職撲滅活動に取り組む若者のネットワークを拡大していくために、ユニタールに対して同様の研修を継続して実施するよう強く要請しています。

 

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広島平和記念公園原爆死没者慰霊碑で献花を行うディアロ氏 ©UNITAR

 

研修生も、そしてユニタールも、個人が結集すれば仲間やコミュニティの行動に影響を与え、汚職を減らし、それがアフリカでも最も恵まれない地域の人々の生活向上につながると信じています。