地球規模の課題について日本の様々なアクターと活発な意見交換
激動の2022年も暮れようとしています。皆様は、どのように今年の締めくくりの時を過ごしていらっしゃいますでしょうか。
12月4日~8日、国連広報センターでは、ニューヨークから来日した、国連グローバル・コミュニケーション局(DGC)を率いるメリッサ・フレミング事務次長と同局の戦略コミュニケーション部の幹部を迎えました。
同行した幹部3人は、DGC戦略コミュニケーション部次長(キャンペーン担当)のナネット・ブラウン、同部の持続可能な開発・人権担当チーフのフランシーヌ・ハリガン、そして、気候担当チーフのマルティナ・ドンロンの3人です。
DGCの戦略コミュニケーション部は、国連グローバル・コミュニケーション局において、世界各地に置かれた約60の国連広報センターを統括する部署です。
滞在中、フレミング事務次長一行は、政府、メディア、被爆者、ユースなど、日本のさまざなステークホルダーの皆さんとお会いし、SDGsや気候変動、誤情報・偽情報などについての活発な意見交換を行いました。
その様子を写真で綴ります。
国連安全保障理事会非常任理事国、G7議長国、大阪・関西万博 ― 日本との連携強化を確認
フレミング事務次長は滞在中政府要人を精力的に表敬し、2023年―2024年の日本の国連安全保障理事会入り、2023年に日本が議長国を務めるG7プロセスで国連が取り組む重要課題が議論され大きな接点があること、そして2025年の大阪・関西万博での国連のパビリオン参加についてDGCがリードを取ることを踏まえて、日本との連携の強化を確認しました。
木原誠二内閣官房副長官への表敬では木原副長官から、国連憲章の理念と原則に立ち戻り法の支配の徹底を図ることが重要であり、安保理改革を含む国連全体の機能強化に国連と協働していきたいとの強い決意の表明がありました。また事務次長からも法の支配の重要性では国連も軌を一にしており、国連グローバル・コミュニケーション局として、SNS上の誤・偽情報の拡散等に対策を講じていることを説明しました。
山田外務副大臣との会談でフレミング事務次長は、DGC及び東京の国連広報センターに対する日本の支援に謝意を表明するとともに、日本では世界各国と比較してもSDGsの浸透が極めて進んでいることに感銘を受けたとし、2025年の大阪・関西万博に国連が参加するにあたっても引き続き日本との連携を強化したいと述べました。
フレミング事務次長は中谷真一内閣府副大臣(2025年国際博覧会担当)を表敬訪問し、、大阪・関西万博の成功に向けて今後とも国連と日本で緊密に協力していくことを確認しました。
メディアとの連携の強化
「SDGメディア・コンパクト」フォーラム
今回、事務次長一行が訪日した主な目的の一つが、「SDGメディア・コンパクト」に加盟する日本のメディアの皆さんと直接意見交換し、関係を強化することでした。
日本では現在、「SDGメディア・コンパクト」の参加メンバー数が200に迫り、世界全体の6割以上を占めています。
訪日に合わせて開催された「SDGメディア・コンパクト」フォーラムには、全国各地からおよそ80のメディアが出席し、メディアとしてSDGsを推進する中で感じる課題や他国の事例などについて、率直な意見交換を行いました。
フォーラムでは、フレミング事務次長が国連の広報戦略などについて幅広く紹介するとともに、DGCの幹部たちからSDGsをはじめとする様々なキャンペーンや気候変動への取り組みを促すコミュニケーション戦略についてブリーフィングを行いました。
日本のメディア側からの事例発表も行われ、フジテレビジョンの木幡美子CSR・SDGs推進室部長が民放キー局5局とNHKとの共同で展開した「1.5℃の約束 – いますぐ動こう、気温上昇を止めるために。」キャンペーンについて共有するとともに、博報堂の神長澄江マーケティングプランニングディレクターが同キャンペーンのインパクト調査の結果概要を報告しました。
その他の多くのメディアの方々もフォーラム会場からそれぞれのSDGsへの取り組みなどについて話しました。日本のメディアの皆さんが見せた熱意と創造性は、フレミング事務次長を大いに驚かせていました。
誤情報・偽情報に関する意見交換会
現在、誤情報・偽情報がますますオンライン上で拡散され、不信と分断が深まる中、フレミング事務次長はこの課題に対応するファクトチェック団体、メディア、プラットフォーマーの関係者との意見交換会に臨みました。同事務次長が国レベルでこの分野で様々な関係者と横断的な意見交換会を持つのはこれが初めてのことです。
国連側からは、フレミング事務次長が、世界における誤情報・偽情報の蔓延の拡大と広範な負の影響について共有するとともに、DGCがリードして、2024年9月に開催される「未来サミット」に向けて情報の健全性のための行動規範を策定する計画であることなどを述べました。
ナネット・ブラウン次長は、「事実を伝えるだけでなく、わが事として捉えてもらえるようなストーリー・テリングの必要性」、「偽情報に対抗し、こちらの信頼のおけるメッセージも視覚に訴えて魅力的であること」、「シェアする前にいったん立ち止まって考えてもらう」、「大手メディアだけでなくSNS運営側とも対話し、方針転換を求めていくダイアローグ」などが誤情報・偽情報の蔓延を防ぐ上で重要だとメディア関係者へ説明しました。
当日、日本ファクトチェックセンター、ファクトチェックイニシアチブ(FIJ)、BuzzFeed Japan News、読売新聞、NHK、ヤフーから誤情報・偽情報との闘いの第一線で活躍する関係者が参加し、日本での動向、この課題に関する報道や社としての対応、市民への啓発の取組などについて意見交換を行いました。
SNSの隆盛とそのビジネスモデルの変貌によって新たに浮かび上がってきた問題だけに、話は尽きませんでした。
メディアへの表敬訪問
フレミング事務次長は訪日の機会にメディア幹部とも意見交換を行いました。NHKの林 理恵 専務理事・メディア総局長への表敬では、「1.5℃の約束」キャンペーンでのNHKと6つの民放キー局との連動番組の放送・配信や国連の「SDG Media Zone」への参画など、メディアとしての取り組みに加えて、NHKにおける温室効果ガスの削減など環境経営の取り組みについて説明を受けました。フレミング事務次長はNHKのこれらの取り組みに対して感謝を伝えるとともに、新型コロナウイルス感染症のパンデミックや気候変動などに関する誤情報・偽情報の蔓延や不信の増大に対処する上で、アジア太平洋地域を代表する公共メディアであるNHKは非常に重要な役割を担うとの期待を示しました。
「SDGメディア・コンパクト」創設メンバーでもある朝日新聞社の中村史郎社長への表敬では、朝日新聞社が実施しているSDGs認知度に関するアンケート調査をはじめ、日本で一早くSDGsを取り上げてきたメディアとしての知見を基に、SDGsの認知度がが日本でこれだけ高まった背景や今後の課題などについて伺いました。フレミング事務次長は、国連も人々にSDGsを自分事化してもらえるように引き寄せる説明を行うよう常に心がけていると説明するとともに、情報発信におけるメディアとの連携の重要性を強調しました。
被爆者、ユース、クリエイターとともに平和を考える
平和のための行動のための非公式対話
フレミング事務次長一行は日本の被爆者、ユースの方々と対話し、被爆者の方々の個人的なストーリーに直接触れるとともに、高齢化する被爆者のレジリエンスを今後につなげる革新的な活動をリードする若者たちから刺激を受けました。世代を超えて、参加者の皆さんがそれぞれの平和への強い思いと取り組みを語りあい、核兵器のない世界、平和な世界を守り、つくるために何ができるかを考え、対話しました。
日本の被爆者は、日本原水爆被害者団体協議会 (日本被団協)の田中熙巳代表委員、木戸季市事務局長、濱住治郎事務局次長、和田征子事務局次長が参加しました。ユースは、KNOW NUKES TOKYOの高橋悠太さん、中村涼香さん、Peace Culture Village(PCV)のメアリー・ポピオさん、そして「記憶の解凍」プロジェクトに取り組む庭田杏珠さん。また、デジタル技術を駆使して戦争や災害体験者の記憶をつなぐ活動について東京大学の渡邉英徳先生がビデオメッセージで、そして対話の会場となったUniversity of Creativityで平和教育プロジェクトに取り組む近藤ヒデノリさんが加わりました。
被爆者・ユースとの対話の場となったUniversity of Creativity
被爆者やユースとの対話が行われたのは東京・赤坂にある創造性の研究機関、University of Creativityです。
対話の開始前に、一行はこの研究機関の主宰・市耒健太郎さんから説明を受けながら、創造性を刺激する展示に囲まれた施設内を案内していただきました。
市民に向けたメッセージ
フレミング事務次長は、日本での日程の締めくくりに国連大学主催のUNU Conversation のイベントに臨みました。演題は、“Cutting Through the Noise: How the UN is Building Trust in an Age of Disinformation”。偽情報が拡散する時代における国連の信頼構築のための取り組みについて講演しました。特に新しいメディアのトレンド、COVID-19パンデミックから学んだ教訓から、国連がコミュニケーション戦略をどのように再構築しているか、 国連大学のコミュニケーション責任者であるキキ・ボウマンさんとともに対話を通して説明しました。講演の後半では参加者からの偽情報に関する質問に答え、参加した市民の偽情報に対するさらなる理解に努めました。
日本で働く国連職員たちと
滞在中、フレミング事務次長一行は、駐日国連機関の代表たち、そして、東京の国連広報センターの職員たち、インターンたちとも懇談しました。日本に拠点を置く国連機関にとって、広報アウトリーチは活動の柱の一つ。ウクライナ戦争と食料・肥料・エネルギーなどへのグローバルな影響、気候危機、SDGs実施の中間点など、国連が一丸となって取り組むべき課題が山積し、広報アウトリーチでのチーム力の結集が不可欠です。
今年もあと少し、どうぞ良いお年を
グローバル・コミュニケーション担当の国連トップとして4年ぶりに訪日し日本の様々なステークホルダーと直接意見交換し深い対話を行ったフレミング事務次長は、8日、大きな手応えを感じ取りながら、国連本部のあるニューヨークへと旅立っていきました。
国連の取組や国連の場で議論されるグローバル課題について、日本の方々に自分事化していただけるよう、日本における広報アウトリーチに誠心誠意努めてまいります。
来年もまたどうぞよろしくお願いいたします。
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