今年の「DIME トレンド大賞」で、持続可能な開発目標(SDGs)がライフスタイル部門ならびに大賞に選ばれました。大賞の授賞理由として、2021年は世界各地で立て続けに気候災害が起きるとともに、人種差別、ジェンダーギャップ、貧困、飢餓など、地球規模で解決していかなければならない様々な問題を身近なニュースとして目にする機会が増えた1年となったこと。それらの課題を統合的に捉えて世界を大きく変革することを目指すSDGsは、2016年に実施こそ始まっているものの、今年は「誰かがやる」のではなく「自分たちでもできるんだ」と生活者一人ひとりに浸透した年になったこと、が挙げられています。家で過ごす時間が増えて、工夫しながら暮らすことが定着したことも背景にあるのでは、と個人的には見ています。
「ユーキャン 新語・流行語大賞」でも、SDGsをはじめ、「ジェンダー平等」、「ヤングケアラー」、「親ガチャ」というような社会課題に関する言葉が、その年の世相を表す「ユーキャン 新語・流行語大賞」の30のノミネートに入り、ジェンダー平等と親ガチャはベスト10にも選ばれています。昨年のノミネートは、「BLM運動」こそ入っていますが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が始まって未知のウイルスとの闘いに明け暮れた年だけあって、コロナに関連して新たに広く使われるようになった言葉が中心でした。それに対して今年は、コロナが長期化する中で明らかになった深刻な貧困・格差や日本の構造問題とそれに伴う不平等感につながる言葉のノミネートが増えた、とも言えるでしょう。
ギリギリの生活をしていた女性、子ども、若者、高齢者、外国人、障害者などの「取り残されがちな人々」が、長びくコロナ禍で昨年以上に苦境に陥り、見えにくかったその存在と直面する課題が可視化され、人々が格差や不平等に敏感になるとともに、だからこそ「誰一人取り残さない」を大原則として掲げるSDGsに共感が集まったのでは、と感じています。
SDGsがここまで浸透したのは、まだ誰も関心を示してくれなかった頃から、この17もの分野にまたがる野心的な世界目標を推進するという、国連にとっても世界にとっても初めての「ニュー・フロンティア」に真摯に向き合い、SDGsの実践にエネルギーを注いできてくださった多くの関係者の方々の努力の結晶だと思っています。
日本政府と各地の自治体のSDGsの取り組みはもとより、企業や金融機関の経営戦略に盛り込まれ、ESG投資が浸透し、脱炭素社会実現への道筋が議論され、子どもたちが学校でSDGsについて学ぶようになり、メディアで大規模なキャンペーンが展開されるようになりました。「誰一人取り残さない」という大原則に基づいて、貧困や様々な格差の課題を政府や自治体の施策に盛り込むことを市民社会が粘り強く働きかけてきました。サーキュラー・エコノミー型の事業を若い起業家たちが立ち上げています。実施が始まってからまる6年のプロセスの中で、私自身、思ったように浸透が進まなくて気持ちが萎えることが何度もありましたが、その度に多くの関係者の熱意や思いに励まされていました。この場をお借りして、同志の皆様、多くの関係者の皆様に心から御礼申し上げます。
アントニオ・グテーレス国連事務総長が今年9月、彼の2期目に向けたビジョンとも言える「私たちの共通の課題(Our Common Agenda)」報告書を発表する中で強調したように、私たちの選択によって、2つの対照的な未来が待っています。1つは、ブレークダウン(崩壊)と絶え間ない危機に見舞われる未来。もう1つは、より環境に配慮した、より安全な、ブレークスルー(突破)が備わった未来です。私たちの世界は、岐路に立っているのです。
厳しい現状があります。コロナ禍に陥る前から、2030年までのSDGs達成の目途は立っていませんでしたが、コロナによって達成はさらに遠のいてしまっています。例えば、2020年にはこの数十年で初めて極度の貧困が増加し、1億2000万人規模の人々が新たに極度の貧困に追いやられました。SDGsは2030年に誰も極度の貧困という状況にいないことを目指していますが、このままでは2030年の世界の貧困率は7パーセントとなる見込みです。さらに撲滅をめざしている飢餓についても、飢餓人口は増加しています。コロナ・気候変動・紛争の三重苦で、2020年には世界で最大1億1600万人規模の人々が新たに飢餓を経験したと推定されます。これは、たったの1年でおよそ2割も増えたことを示しています。女性についても、雇用の面では、コロナで職を失う確率が女性は男性より24パーセント高く、収入が減る可能性が50パーセントも高いとの研究結果があります。女性と女児に対する暴力もコロナ禍で増加しています。
SDGsの礎とも言える気候変動を「人類最大の脅威」と位置付け、最優先で取り組んでいるグテーレス事務総長は、先月グラスゴーで開かれた気候変動枠組条約第26回締約国会議「COP26」で2度現地入りしています。
COP26が「グラスゴー気候合意」を採択して閉幕したのを受けて発表したビデオメッセージの中で事務総長は、会議の成果に言及しながらも、「今日の世界の利害や矛盾、政治的意思の現状を反映しています。これは重要なステップですが、不十分です」と落胆をにじませました。
気候変動をはじめいずれの社会課題にも、簡単な解決方法はありません。巨大なジグゾーパズルを前に、ピースを一つずつ丁寧にはめ込んでいく忍耐力と諦めない精神が必要になります。事務総長はビデオメッセージの中で、COP26の結果に失望しているであろう若者、先住民リーダー、女性たちに対してこう呼びかけ、メッセージを締めくくっています。
「決して諦めないでください。決して後退しないでください。前進し続けようではありませんか。私はこの道のりをずっと皆さんと共にあります。COP27は今始まったのです。」
SDGsの推進や格差への関心を一過性のトレンドや流行、ブームで終わらせてはなりません。是非多くの方々に「ネバー・ギブアップ」の精神で人々の理解・選択・アクションを支え合い、SDGsが2030年までに到達しようとする高みを一緒に目指し続けていただきたいと願っています。来る2022年は、SDGs実施推進の15年間の中で「折り返し地点」となる2023年を控え、非常に重要な準備の年となります。一緒にSDGsを継続的なトレンドにしていきましょう!