国連広報センター ブログ

国連のさまざまな活動を紹介します。 

国連広報センターの活動の裏側をご紹介:SDG ZONE at TOKYO開催までの道のり

10月24日は、1945年のこの日に国連憲章が発効し、国連が創設されたことを記念した「国連デー」です。今回はこの国連デーを前に、国連本部の日本における出先事務所である国連広報センターの活動の裏側を広報官の佐藤桃子が紹介します。

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朝日新聞社のスタジオで、国連広報センターのスタッフがテスト撮影を行う様子。東京にいる登壇者が一つの会場に集まる場合も、海外にいる登壇者はオンラインでつながり、ハイブリッドでの撮影が行われた (筆者、左端)©︎ UNIC Tokyo/Kaoru Nemoto

 

日本と国連をつなぐための「SDG ZONE at TOKYO」

国連広報センターが所属する国連グローバル・コミュニケーション局は、ニューヨークの国連本部の重要な部局です。その重要な使命の一つは、世界に60ほどある事務所や拠点のネットワークを通して国連の活動に対するグローバルな関心と理解を深めることです。日本の国連広報センターに置き換えれば、国連と日本社会をつなぐことを目指しています。

では、2021年、どのように国連と日本社会をより強力に繋げられるのか?私たちがカギになると考えたのは、世界も日本も今年大いに注目した「スポーツ」でした。スポーツを通して、国連と世界が2030年までに達成を目指す持続可能な開発目標(SDGs)について一緒に考えるために企画されたのが、東京2020オリンピック・パラリンピック大会に合わせて開催された「SDG ZONE at TOKYO」です。

このイベントは、ニューヨークの国連本部の私たちの同僚が2016年より国連総会などにあわせて開催してきた、「SDG Media Zone」という数人で社会の課題についてフランクに意見を交わすトークイベント・シリーズに倣ったもので、日本発のグローバル配信企画です。SDG ZONE at TOKYOは初の国レベルの事務所が主導するSDG Media Zone企画となりました。

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2018年の国連総会に合わせて開催されたSDG Media Zoneの模様 © UN

 

パンデミックが発生、どうする?

実は、SDG ZONE at TOKYOは2020年の開催を目標に数年前に発案されていました。しかし、新型コロナウイルス感染症の世界的大流行(パンデミック)により延期に。同時に、登壇者が一つの会場に集まる計画も変更を余儀なくされました。2020年以降開催された様々なオンライン・イベントを参考にしながら、海外からの登壇者が日本に来られない中でどのようにグローバルな対話を実現できるのか、検討することになりました。

2021年の春にSDG ZONE at TOKYOを具体化するために、コーディネーター1名と、動画制作担当者2名がメンバーに加わりました。共催者の朝日新聞社の皆さんとの打ち合わせも国連広報センター内の進捗状況の確認も、全てオンラインで行いました。

まず決めなければならなかったことはテーマです。気候変動やジェンダー平等、障害者の権利擁護など、世界もスポーツ界も直面している課題について話し合いました。その後、各テーマについて多様な視点を提供してくださる登壇者の候補者出しと依頼を行います。「多様な視点」とは、分野の違いだけでなく、ジェンダーや国・地域なども含みます。世界各地の方々に登壇を依頼するために、日本に加えて、日本と6~8時間ほどの時差がある欧州・アフリカ地域と13~16時間ほどの時差がある北米地域とのやり取りが続きました。

 

ついに収録スタート

最終的に、6セッションのために合計24名の登壇者とモデレーターにご協力いただくことになり、全セッションは事前収録されることとなりました。各セッション、必ずだれかがオンラインで、それも日本以外から時差を越えて参加したため、画像や音声が乱れないか、関係者一同、ハラハラしていました。幸い、致命的なトラブルもなく、最後のセッションの収録が終わった時は心の底からホッとしたものです。

収録は、このイベントの意義を再認識する契機ともなりました。私たちは、企画段階から「このテーマで重要なスポーツの価値は何なのか?」という議論を頻繁に行い、自主性や忍耐、協調性、寛容性、お互いの尊重といった言葉が上がりました。しかし、オリンピアンやパラリンピアンを含むアスリートの皆さんが試合を通じて感じた他選手との心の通じ合いや、周りの人に与えられる影響とその責任、そしてアスリートを支える皆さんが感じるスポーツの可能性と課題は、スポーツに直接関わる人々だからこそ伝えられるものでした。

「スポーツは、困難な状況にある人に、また社会課題を解決するために希望をもたらすことができる。だからスポーツももっと持続可能で『誰一人取り残されない』スポーツにならなければいけない。」

スポーツ以外の分野を専門とする登壇者もこうしたスポーツの価値に共鳴し、不思議なことに別日に収録された全セッションで、このメッセージが共通して浮かび上がってきました。

セッション2では、日本・イギリス・インドをつなぎ、ハンナ・ミルズ オリンピック選手およびBig Plastic Pledge創立者野口聡一 宇宙航空研究開発機構JAXA)宇宙飛行士、アルチャナ・ソレン 気候変動に関する国連事務総長ユース諮問グループメンバーが登壇し、竹下隆一郎 ハフポスト日本版前編集長がモデレーターを務めて、気候変動や持続可能性について話し合った ©︎ UNIC Tokyo

 

さあ、日本と世界の人々に届けよう

ここまでは全体の作業の前半部分にすぎません。後半は収録動画の編集と、動画を人々に見てもらうための発信に向けた準備です。

収録された動画は、不要な箇所を省いたり関連写真を追加したりと編集を行い、登壇者が話している内容の字幕を日本語と英語でつけました。この過程でも登壇者の皆さんから写真や動画素材を提供してもらったり、適切な翻訳を行うために朝日新聞社の皆さんと相談したりと、細かい調整が続きました。国連広報センターの中でも、文字の大きさから画面のレイアウトまで毎日議論しながら「ライブ感を残しつつ、ただ話すだけではない面白味のある動画」とは具体的に何なのかを模索し続ける工程となりました。

加えて、30秒程度の予告動画やSNS用のGIFや登壇者のコメントを引用した画像など、各セッションの対話を象徴するコンテンツも作成しました。 

ピュール・ビエル UNHCR親善大使、北澤豪サッカー日本代表および日本サッカー協会理事、
中満泉 国連事務次長・軍縮担当上級代表が登壇したセッションの予告動画 ©︎ UNIC Tokyo

 

同時に、そのほかの国連広報センターのスタッフも、特設ウェブページの開設、プレスリリースの発信、パートナーへの告知、SNSの発信といった様々な面で準備を進めました。本イベント発案者である所長も本部や関係者と密な連携を加速化させていました。また、経理や人事の担当者は、発案時からこの活動に必要な資金やサービス、人材の確保に奔走してきていました。インターンも動画の文字起こしを担いました。文字通り国連広報センター総出でSDG ZONE at TOKYOの開催に向けて動いていたのです。さらに、ニューヨークのSDG Media Zone担当者、ウェブ担当者、動画配信担当者らとも連携し「日本とグローバルの同時配信」実現にむけて協力しました。

こうして7月21日にSDG ZONE at TOKYOの開催を発表する日を迎えました。朝日新聞社のウェブサイトや紙面でも本イベントを取り上げていただき、国連本部からもプレスリリースを配信し、7月28日から開発と平和、気候変動、ジェンダー平等、障害者の権利、イノベーション、ポスト・コロナの社会にスポーツの力と価値がどう貢献するか、人々にお届けすることとなりました。

国連本部からもグローバルにSDG ZONE at TOKYOの開催が発信された

 

つなげるとは、双方向の対話

SDG ZONE at TOKYOの発信は、最後の動画が公開された8月27日以降もSNSなどで続いています。この一連の発信は、共催者の朝日新聞社、登壇者とモデレーターの皆さんの継続的なご協力、拡散を手助けいただいているパートナーの皆さん、そして、SNSで私たちの投稿を共有してくださっている個人の皆さんのお力によるものです。

今回、総勢24名の皆さんによる対話を通じて、国連広報センターの仕事とは一方的なものではないことを実感しました。登壇者・モデレーターの皆さんがそれぞれの立場から、私たちは社会をより良い場所にすることが出来るのだというメッセージを伝え、他の登壇者の視点やアイディアに共感を示されたことで、連帯の輪を感じることができました。元エジプト代表のオリンピアンがスポーツとジェンダー平等の日本の研究者とともに女性の指導者が足りないことを問題提起したり、シエラレオネと日本のパラリンピアンが「障害にこそ可能性がある」ということに頷き合ったり、包摂的なスポーツを開発する団体の日本人の代表が米国のスペシャル・オリンピック選手と障害のある人もない人も一緒に楽しめるスポーツをもっと広めるべきだと主張したり、、、視聴者の方から、登壇者のコメントに胸を打たれたと感想をいただいたのですが、それは対話から生まれたコメントに他なりません。そして、それは、国連広報センターだけで成し得たことではありません。

今回ご協力いただいた皆さん、また動画をご覧いただいた皆さんに心より御礼申し上げます。SDG ZONE at TOKYOが皆さんとの対話を深め、広めるきっかけとなっていくよう、尽力してまいります。

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SDG ZONE at TOKYOの全セッションはこちらから