ニューヨークの国連本部でプレスオフィサーとして働く須賀正義さんを招き、「国連『伝える仕事』の舞台裏 広報局プレスオフィサーの奮闘」と題するイベントが1月10日に開催されました。
47才で国連デビューを果たすまでの経緯や、国連本部で開かれる会議や記者会見の内容を伝える舞台裏について語っていただきました。当日は、学生や社会人を含む70名以上が参加。イベント終了後には多くの参加者が須賀さんを囲み、質問が途切れることのなかった熱いイベントの様子をお伝えします。
■「0%でない限り、可能性はある」
大学卒業後から国連に就職するまでの間ずっと、マスコミでキャリアを積んできた須賀プレスオフィサー。「一度しかない人生、限られた時間をどう過ごすか」と考えた時に、「国連で働きたい」という思いが強くなり、2011年より国連就活に本腰を入れました。 しかし、その道のりは平坦ではありませんでした。
週1回のペースで応募し、現職を得るまでに応募したポスト数はなんと18。その中で書類審査を通過したのはたったの2つで、書類審査の段階で何度も挫けそうになったと、当時の心境を振り返りました。しかし、「可能性は0ではない」と自分に言い聞かせ、目標を突破するために努力と勉強を続けて現在のポストを勝ち取りました。47歳で念願の国連デビューとなりました。
■ ポストに合った実績作りを
国連ではポストに空きが出ると、採用の募集がかかります。新たな募集が出ていないか日々チェックし、応募書類は念入りに、丁寧に。重要なのはポストごとに「自分の言葉」で仕事に合ったものを書くことだといいます。また、ポストの職責にあった実績を作ることが大事と強調されていました。求人を見ると、仕事内容や求められる素質が箇条書きで書かれています。それに対して、自分がどう応えられるか、どう貢献できるかをマッチさせると、自身のアピールにつながります。
採用に至るまでには書類選考、筆記試験、面接という長い道のりがあります。6時間に及ぶ筆記試験は、現在のポストに即し、会議のテープや資料をもとにプレスリリースを書くといった内容でした。筆記試験の通過後には45分間の面接があります。国連の面接は日本の一般的な面接とはスタイルが異なり、「具体的な回答」が求められます。チームワークや専門性、計画性など、職務に必要な資質について、どのように実践したか、柔軟に、かつ要点をおさえて具体的に応えることが面接突破につながるといいます。
国連本部で開かれる総会や安全保障理事会、経済社会理事会などの会議や記者会見などを傍聴し、決議・決定や参加者の発言の要旨、内容を広報資料(プレスリリース)にまとめ、伝えることが仕事の中心です。 プレスオフィサー就任後も、須賀さんにとっては努力と勉強の日々が続いています。
「伝える」仕事で求められるのは、即座に文字にできる力と英語力、集中力です。会議は基本的に2人1組で傍聴し、1人がノートテイクを行う間、もう1人は自分が書いた前の発言者のメモをまとめます。会議終了から90分以内にエディターに原稿を提出しなければならないため、時間的にかなりのプレッシャーを感じるそうです。まさに時間との勝負です。
■「採用を勝ち取るまでやる」
須賀さんのプレゼンテーションに続き、国連広報センターの根本かおる所長とのトークセッションが行われました。まず話題にのぼったのは、面接時に聞かれる日本では馴染みの少ない “コンピテンシー”(=国連職員としての能力)に基づく質問です。
須賀さんは面接時、マスコミ勤務時代に同僚と2人でスポーツイベントの取材を担当したことを例に挙げ、リーダーシップを発揮しつつも、協調性を持って働くことができるという、プレスオフィサーにとって重要な資質を強調したというエピソードを紹介しました。
また、根本所長からジャーナリズムとプレスオフィサーの仕事で似ている点について聞かれると、重要なポイントを判断する力と答えていました。一方、異なる点は、記者の場合は情報の取捨選択や取り上げるアングルを決められますが、プレスオフィサーは取捨選択をあまりせず、まんべんなくポイントをまとめるところといいます。
つづく質疑応答では、参加者から、「国連職員として働き続けるのはどれくらい難しいのか」「年齢制限はあるのか」「英語で書く力はどうやって鍛えたのか」など具体的な質問が投げかけられました。 須賀さんは、「希望を捨てずに、採用を勝ち取るまでやることが大切」と力強く語ります。夢を叶えた後も、自分のやりたいことと国連のやりたいことの方向性が合致しているため、それが働く原動力となっているそうです。
充実感に満ちた笑顔で終始話をする須賀さんからは、国連で働くことの喜びややりがいが伝わってきました。自分の可能性を信じることで、夢や目標を達成するために努力を重ねる須賀さんの姿は勇ましく、多くの参加者が勇気づけられたことでしょう。
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