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スポーツが持つ力を語る  ~初開催!「開発と平和のためのスポーツの国際デー」記念イベント~

国連にスポーツの日があることをご存知ですか。昨年、国連総会で「開発と平和のためのスポーツの国際デー」(4月6日)が決まり、国連広報センター(UNIC)は「なんとかしなきゃ!プロジェクト」との共催で、一足先の4月4日にトークセッションを東京丸の内で開催しました。

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北澤さんはサッカーを通じた国際協力などを積極的に行っています(写真左)。パネル・ディスカッションの様子。左からモデレーターの根本かおる国連広報センター所長、北澤豪さん、白井貴子さん、峰村史世さん、山口拓さん(写真右)。

「スポーツ競技力の面で、日本はアジアのリーダーです。2020年の東京オリンピックパラリンピック開催を受け、日本はリーダーシップを発揮し、スポーツの持つ価値を東京に留めずにアジア全体、世界に広めなければいけません」と、北澤豪さん。北澤さんは日本サッカー代表として活躍後、JICAオフィシャルサポーター、そして、「なんとかしなきゃ!プロジェクト」メンバーとして、パレスチナやヨルダンなどの国々でサッカーを通じた国際協力などを積極的に行っています。2020年に向け、スポーツと開発の分野で、日本が世界のために果たすべき役割を強調しました。

「現地で子どもたちにサッカーを指導する時、私は最初に敢えてうまくいかない設定を用意します。すると子どもたちは自然に、ルールの改善を提案し始める。そうして自分たちで自発的に、ドリブル練習などをより効率的にできるように創意工夫を行うのです。子どもたちは自ら問題の設定をし、その解決に取り組む力を秘めていると言えます」北澤さんは、教育や開発分野におけるサッカーの可能性を熱く語りました。

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子どもたちとサッカーを通じて交流する北澤さん、カンボジアで。

スピーカーとして、モントリオール五輪バレーボールの金メダリスト、白井貴子さんにもご登壇いただきました。白井さんはある日、難民キャンプで裸足でサッカーをする少女の写真と出会い、大きな衝撃を受けました。それがきっかけで、難民のためのスポーツ支援へと動いていったのだそうです。白井さんは、当時UNHCRネパール・ダマク事務所の所長を務めていた根本かおる(現在、国連広報センター所長)のアレンジで、ネパールの難民キャンプを訪れることに。バレーボールや運動靴などの物資提供や現地での難民たちへのバレーボール指導を通じ、難民支援に関わることになりました。

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モントリオール五輪での金メダルを披露する白井さん(写真左)。難民たちに指導する白井さん、ネパールの難民キャンプで(写真右)

現在、白井さんは、バレーボール・モントリオール会(モン・スポ)の代表も務め、地域レベルでのスポーツ活動を支援しています。日本に暮らす難民たちへのバレーボール指導もその一つです。「目下の悩みは、モン・スポのような草の根活動をいかに継続していくかです。特に資金面でのサポートがもっとあればと願っています」 2020年の東京オリンピックパラリンピックに向けて、日本で新たに大きなうねりを求める声も多い中、既にある様々な草の根活動を今一度活気づける必要性を指摘しました。白井さんは会場でモントリオール五輪の金メダルも披露し、参加者からは大きな歓声が上がりました。

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独立式典スポーツ祭: 投票を呼びかけるサッカー試合に集った人々、東ティモールで(左:写真提供: 認定NPO ハート・オブ・ゴールド, HG)。マレーシア代表団との2国間スポーツ協力協定会合に出席する山口さん(右端)、東ティモールで(右:写真提供: 認定NPO ハート・オブ・ゴールド, HG)

「紛争の勃発、和平交渉、復興期、開発期という流れの中で、これまでスポーツは、開発期にのみ活用できるとされてきました。しかし、スポーツは今や、紛争期や平和構築期の段階でも、大いに役立つことがわかってきました」と山口拓さん(筑波大学体育系助教授)は語ります。当時、山口さんはJICA専門家(HG専門員兼任)として独立移行期の東ティモールに赴任し、国連東ティモール暫定行政機構のスタッフとしてプロジェクトに携わりました。「東ティモールの独立を問う選挙の際、多くの住民は以前に起きた選挙後の武力衝突の再来に脅えていました。そのような人々が投票所へ向かいやすいように環境を整え、東ティモール住民投票を促すべく、多政党横断型のサッカー試合が開催されました。その成果からか90%を超える投票率であったようです。未だ、その実質的な効力が検証されていないものの、スポーツが民主化の助けになり得ることを実感した出来事でした」と振り返ります。

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青年海外協力隊員として障がい者水泳チームを指導する峰村さん、マレーシアで(写真左)。パネル・ディスカッションで指導員としての活動を紹介する峰村さん(右から二人目・写真右)

障がい者への水泳指導を国内外で行っている峰村史世さんは、「心のバリアフリー」について語りました。峰村さんは大学卒業後、マレーシアで青年海外協力隊員として障がい者水泳チームを指導しました。「マレーシアでは障がい者に手を貸してくれる人が常にいて、彼らが不自由することはありません。施設面などで物理的バリアはまだあるけれど、人々の心のバリアの除去は日本よりもずっと進んでいます」 マレーシアの社会に広がる「心のバリアフリー」から、2020年の東京オリンピックパラリンピック開催を見据えて日本も学ぶべきところは多いという指摘が印象的でした。帰国後も障がい者への水泳指導を続けるなか、2008年北京パラリンピックでは指導する選手が金メダルを獲得しています。「日本の障がい者スポーツはリハビリから始まり発展してきましたが、オリンピックとパラリンピックが並列に扱われるようになった今日、『パラリンピック』という舞台にある障がい者スポーツは、当然競技スポーツとして確立・発展させていかなければなりません」

初めての「開発と平和のためのスポーツの国際デー」記念イベント。多くの関係者の方々のご協力で大盛況となりました。北澤さんも強調したように「人の心と心を近づけられるのもスポーツの持つ大きな力」――これからも、ここ日本でそんなスポーツの力を感じられる場面が増えていくに違いない、と確信しました。

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会場となった東京丸の内の「3×3labo」では、イベントに先立ち、ドキュメンタリー映画「カブールの女子ボクサー(The Boxing Girls of Kabul, 2011年)」が上映されました。

以下の関連リンクも是非、ご覧ください。

国連広報センター(ウェブ) 「国連とスポーツ」

「なんとかしなきゃ!プロジェクト」

 

国連広報センター・インターン(鉢呂健太)からの感想

今回は「スポーツと開発・平和」というUNICにとっても初めてのテーマのイベントとなり、私も新たな学びを沢山得ることができました。トークセッションを通じて強く感じたのは、スポーツを楽しむ喜びは万国共通であるということ、そして、それによって広がる人の輪にはとても大きな可能性が秘められているということです。時にそれは、途上国の子どもたちのライフ・スキルを育み、難民キャンプに元気をもたらします。また、女性や障がい者のエンパワーメントを促し、紛争後の平和構築にも大きく貢献します。スポーツという私たちの普段の生活にも身近なものが、よりよい世界のための確かな道しるべとなるのです。2020年の東京オリンピック開催を控え、日本がこうした「スポーツと開発・平和」の分野により貢献していくことを願います。