国連広報センター ブログ

国連のさまざまな活動を紹介します。 

国連PKOの現場から、国連の存在意義と日本の貢献を考える (1)なぜ今、南スーダンなのか?

国連広報センターの根本かおる所長は、2025年3月2日~9日に南スーダンを訪問し、同国に展開する国連PKOの「国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)」の活動を視察しました。国連の代表的な平和活動である国連PKOの最前線を、シリーズでお伝えします。

 

第1回 はじめに:なぜ今、南スーダンなのか? 

南スーダンに展開する国連の平和維持活動(国連PKO)の「国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)」に受け入れてもらい、2025年3月2日から3月9日まで首都ジュバと北部のユニティ州のベンティウでUNMISSが取り組む課題とその活動を視察した。私にとっては2016年春以来、2回目の南スーダンだ。 

キプロスを巡回中の国連キプロス平和維持軍(UNFICYP)
(1964年) ⒸUN Photo/BZ

国連PKOは、紛争で傷ついた国が紛争から平和への困難な道のりを確実に歩むのを支援するため、国連が活用することのできる最も効果的なツールの1つだ。治安の維持と政治の移行プロセス、平和構築への支援を提供する国連PKO、その平和への貢献から、1988年にノーベル平和賞を受賞している。

国連は、国連憲章の前文の冒頭に記されているように、2度にもわたる世界大戦の悲哀を経験した教訓から、「戦争の惨害から将来の世代を救う」ことを最も中核的な目的として80年前に設立された。その後、東西冷戦で国連憲章が想定していたようには国連安全保障理事会が十分に機能しない中、国連の存在意義である「国際の平和と安全の維持」を推進するために、国連憲章には明確に想定されてはいないものの編み出されたのが、国連PKOだ。安全保障理事会の承認を得て、1)当事者の同意、2)不偏不党、そして3)自衛およびマンデートを守るための防衛以外の武力の不行使、の3つの原則のもと展開する。

巡回中の国連レバノン暫定軍(UNIFIL)1980年 ⒸUN Photo/John Isaac

1948年に中東に派遣された「国連休戦監視機構(UNTSC)」を先駆けとし、伝統的には国家間の戦争終了後に主に停戦監視と兵力の引き離しという軍事的任務を担うのが中心だった。それが東西冷戦終結以降、国際の平和と安全の維持での国連の役割が高まる中で、国家間の戦争から内戦、あるいは内戦と国際紛争の混合型への対応が中心となり、任務も武装解除・動員解除・社会復帰(DDR)、治安部門改革(SSR)、政治プロセスの促進、選挙支援、紛争下における文民の保護、人権・法の支配など多岐にわたる複合型ミッションへと拡大していった。

コンゴ民主共和国では国連警察(UNPOL)は地元警察と合同でパトロールも行っている
(2025年)MONUSCO/Kevin Jordan

日本の自衛隊も1992年のカンボジアを皮切りに、モザンビークゴラン高原東ティモール、ハイチ、南スーダンPKOに部隊派遣してきた。南スーダンへの部隊派遣は2017年に終了したものの、今も自衛隊員6名が首都ジュバのUNMISS司令部に派遣されている(自衛隊からの司令部要員の派遣はUNMISSのみ)。

国連PKOカンボジア暫定統治機構(UNTAC)では明石康氏(写真中央)がトップを務めた(1992年) ⒸUN Photo/Pernaca Sudhakaran

さらに、日本は国連のPKO予算に対して、米国・中国についで世界で3番目に多額の分担金を提供している。そして、アフリカでの国連PKOの撤退や縮小がある中でUNMISSは派遣部隊が1万3000人を超え、中央アフリカ共和国に展開するMINUSCAと並び世界最大規模のPKOミッションの1つになっている。

国連創設80周年であり、かつ国連も共催者である第9回国際アフリカ開発会議TICAD)が8月に横浜で開催される今年だからこそ、国連の最も根源的な存在理由である平和の分野で国連と日本のパートナーシップが際立つUNMISSを再訪し、国連の平和活動の最前線について発信したいと思った。

UNMISSでは、制服組も文民も合同で幹部会議を行う
ⒸUNIC Tokyo Kaoru Nemoto

特に南スーダンでは気候変動のしわ寄せで大洪水が起こり、気候変動のショックが人々の暮らし向きや人道状況のみならず、安全保障・治安にまで大きな影響を与えている。しかも、そこには性差があり、女性と女児の安全面への打撃が大きい。昨今Climate Securityは注目を集め、安保理でも議論されているが、UNMISSは国連PKOの中で唯一「Climate Security Advisor」を置いているオペレーションだ。Climate, Peace and Security、そしてWomen, Peace and Securityとその交差性、ならびにUNMISSの対応を見たい ― それが今回のねらいだ。

UNMISSトップのロイ国連事務総長特別代表(当時)から激励を受ける日本の自衛隊施設部隊の隊員たち(2016年)ⒸUNMISS

前回2016年に大変お世話になった南スーダンの北部のユニティ州のUNMISSベンティウ事務所の所長をしていた平原弘子さんは、首都ジュバのUNMISS本部に移り、民政部長として全国の10のフィールド・オフィスに展開する民政部門チームを統括する立場にある。彼女から南スーダン全体にわたって状況を聞けることも、非常にありがたいことだ。 

UNMISSの平原弘子民政部長(左)と国連広報センターの根本かおる所長