国連広報センターの根本かおる所長は、2025年3月2日~9日に南スーダンを訪問し、同国に展開する国連PKOの「国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)」の活動を視察しました。国連の代表的な平和活動である国連PKOの最前線を、シリーズでお伝えします。
第2回 脆弱な和平プロセスにおける、世界最大クラスの国連PKOの活動
南スーダン共和国は、スーダン北部のイスラム教徒と自治・独立を求める南部のキリスト教徒との間の半世紀にわたる内戦を経て、住民投票を受け、2011年7月9日にスーダンから分離独立した。国際社会の祝福を受けながら生まれた、世界で一番新しい、193番目の国連加盟国だ。
ⒸUNMISS
国の誕生とともに南スーダンで展開するUNMISSは、もともとは平和構築、国家建設及び国家の機能強化をマンデートとしていた。しかし、残念ながら南スーダンは政治リーダー間・部族間の権力争いなどから武力衝突を繰り返し、それとともにUNMISSのマンデートも、文民の保護ならびに人道支援実施のための環境づくり中心に変節してきた。
2016年には、私が初めて南スーダンを訪れた直後に首都ジュバの治安状況が急激に悪化し、ディンカ族で主流派のキール大統領派とヌエル族で反主流派のマシャ―ル第1副大統領派との間で大規模な武力衝突に発展した。ようやく2018年にキール大統領とマシャール第1副大統領を含む関係者の間で「再活性化された衝突解決合意」が署名され、2020年に暫定政府が設立された。
現在のUNMISSのマンデートは、1)文民の保護、2)人道支援実施に資する環境づくり、3)「再活性化された合意」および和平プロセスの履行支援、4)国際人道法違反および人権侵害に関する監視、調査および報告、の4つの柱からなる。
バングラデシュからの平和維持要員を派遣した(2015年) ⒸUNMISS
しかし、不安定な情勢が続き、選挙の実施を含む和平プロセスの履行と本格政府の樹立は何度も期限が延期されてきた。現在、暫定政府の期限は今年2月から2027年2月にまで延期され、選挙が2026年12月に行われることになっている。延期されかたらと言っても、時間の猶予はない。本来であれば猛スピードで様々な準備が進んでいなければならないのだが、公式の憲法制定プロセスはまだ緒に就かず、選挙の実施に必要な法律の整備や区割りに向けた準備をはじめとする作業も進んでいない。軍の統合にも遅れが目立つ。
さらに、私が滞在した3月2日から9日までの間にアッパー・ナイル州のナシルで南スーダン軍と反主流派につながるとされる武装若者グループとの間で衝突が発生し、反主流派の閣僚らが逮捕され、緊張が劇的に高まっていった。さらに3月7日には、ナシルに取り残された負傷した軍関係者らの救出に向かったUNMISSのヘリが攻撃に巻き込まれ、ヘリの乗員も含め多数の死者が出るという悲劇が起こった。
An attack on an #UNMISS helicopter undertaking an evacuation process in conflict-affected Nasir, #SouthSudan resulted in a crew member killed and two other injured. Several of those being extracted were also reportedly killed. The mission urges all actors to refrain from further… pic.twitter.com/VaJYwM33rc
— UNMISS (@unmissmedia) 2025年3月7日
ナシルでUNMISSのヘリが攻撃に巻き込まれた第一報を伝えるXのポスト
独立から14年、なぜ南スーダンではこうも衝突が繰り返され、和平への道のりが険しいのだろうか?UNMISSを束ねるニコラス・ヘイソム国連事務総長特別代表に聞いた。
ヘイソム事務総長特別代表は、現在の南スーダンのように国が移行期を終え、初めての民主的な選挙を実施しようとする過程は、政治勢力の間や社会全体で競争や緊張が生じやすいとしながら、南スーダンの場合は和平合意があり、国が達成すべき相互に合意された基準が定められていることは大きなプラスだと強調した。
民主的な制度や国の安定化に関する基準として、新しい憲法の起草、選挙の枠組みの整備、そして初めての自由で公正な選挙の実施などが掲げられているが、同時にこれらのプロセスは非常に困難であり、新たな紛争の引き金になり得る、とヘイソム氏は説明した。だからこそ、国全体を強化し、包摂的な国家を築くことに貢献し、さらなる分裂を防ぐ形で取り組むことの重要性を強調した。
同時に、ヘイソム事務総長特別代表は、南スーダンを取り巻く様々な困難を挙げた。北隣りのスーダンでの戦争によって、100万以上の人々が南スーダンに流入。さらに、洪水により100万以上の国内避難民(IDP)が発生し、食料不安が国民の3分の1以上を直撃している。
また、政府にとって主な収入源である石油が、紛争下のスーダンを通るパイプラインの修復ができないため輸出が進まず、経済危機を引き起こしている。その結果、公務員や軍隊への給与未払いが続き、人々を圧迫している。内戦中の北のスーダンから食料をはじめ物資が入らず、インフレが激化。昨年のインフレ率はほぼ300%にも達し、国民生活を直撃している。
外にいてはなかなかうかがい知れないUNMISSの活動の難しさを慮った。
私の出張後も緊迫が深まる南スーダン情勢について、ヘイソム事務総長特別代表は3月24日、ニューヨークの国連本部とビデオでつないで、記者会見を行った。
#SouthSudan is teetering on the brink of a return to full-scale civil war as violence escalates and political tensions deepen, warns head of UN peacekeeping mission @UNMISSmediahttps://t.co/USuwiXZy3i pic.twitter.com/XSe5SbwRY8
— UN News (@UN_News_Centre) 2025年3月24日
ナシルの若者武装グループに対し、政府軍は、民間人居住地域への報復空爆を行った。民間人に対するこうした無差別攻撃は、女性や子どもを含む多数の死傷者と恐ろしい負傷、特に火傷を引き起こし、少なくとも6万3000人がこの地域から避難している。若者武装グループと国軍の両方がさらなる衝突に向けて動員を強化しているとされ、子どもの徴兵も行われているとの疑惑がある。さらに、政府の要請による外国軍の派遣は緊張をさらに高めている。
ヘイソム特別代表は「南スーダンは、暴力が激化し、政治的緊張が深まる中、本格的な内戦への再突入の瀬戸際に立っている」と強い懸念を示し、UNMISSは南スーダンの和平に関わる国や機関と連携しながら、シャトル外交を通じて内戦に再び陥るのを防ごうと働きかけていると説明した。同時に、その成否は、紛争当事者自身が関与し、自分たちの利益よりも人々の利益を優先することができるかに掛かっている、とも強調した。
3月26日にはキール大統領と反目するマシャ―ル第1副大統領が自宅軟禁され、さらに緊張が高まった。28日にはアントニオ・グテーレス国連事務総長が記者団へのぶら下がりの形で声明を発し、南スーダンの指導者らに対して武器を捨てて、南スーダンの人々の利益を第一に考えるよう求めるに至った。
出張から帰ったばかりの南スーダン、グテーレス国連事務総が緊急声明
— Kaoru Nemoto (@KaoruNemoto) 2025年3月29日
南スーダンに「最悪の事態の暗雲」が広がる中、@antonioguterres は同国の指導者らに対し、「武器を捨て」、「南スーダンの人々を第一に考える」よう求めた
世界の関心が集まりにくい危機について訪問記 https://t.co/N6TsMzFA1Y https://t.co/ZaO9hw4BXs
日本ではほとんど報じられない南スーダン情勢だが、是非注目していただきたい。