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国連総会ハイレベル・ウィーク報告記:SDGs後半戦 挽回に向けた決意

 

国連広報センター所長の根本かおるです。

国連総会ハイレベル・ウィークに合わせてニューヨークに出張してきました。今年は2030年までの持続可能な開発目標(SDGs)の実施期間のハーフタイム。SDGsのターゲットのうち順調に進捗しているものは15パーセントにしか過ぎず、多くが逆行している中、4年ぶりに開催される「SDGサミット」で「SDGs救済計画」に合意し、後半戦につなげるということが、今年のハイレベル・ウィークの中心テーマでした。

国連本部の敷地に設けられた仮設の「SDGパビリオン」から 多くの関係者が世界に向けて語りかけた UN Photo/Mark Garten

私は2019年に前回のSDGサミットが開かれた際にもニューヨークに入っていたのですが、その時に感じられたお祭りムードや「何とかなるさ」的な楽観論は影を潜め、厳しい後半戦をともに闘おうという同志たちが危機感をもって集い、スクラムを組み、機運を高め合うという側面が強かったと感じています。

「“誰一人取り残さない” どころか、私たちはSDGsを置き去りにするリスクを冒しています」

ハイレベル・ウィーク初日の18日に開幕したSDGサミット冒頭あいさつでのアントニオ・グテーレス国連事務総長のこの言葉に、SDGsの直面する厳しい状況が凝縮しています。

SDGサミットで発言するグテーレス国連事務総長 UN Photo/Cia Pak

そのような中、加盟国がSDGサミットの成果としての政治宣言に、紆余曲折を経てギリギリで合意することができ、グローバルなSDGs救済計画を打ち出せたことは、大きな成果と言えるでしょう。

特にグテーレス事務総長が最も胸を張ったのが、先進国が途上国に対して少なくとも年間5,000億ドルを拠出することを呼び掛ける「SDG刺激策(SDG Stimulus)」への支持が、今回の政治宣言に明確に盛り込まれたことです。さらに、支払い猶予、融資期間の延長、利率の軽減を支える効果的な債務救済の仕組みや、開発途上国に恩恵をもたらすために、国際金融機関が民間資金を利用可能な利率で大規模に活用できるよう、同機関への新たな資本の注入とビジネスモデルの変更の呼びかけが盛り込まれています。グテーレス事務総長がかねてから「時代遅れで、機能不全に陥っており、不公正」と指摘してきた国際金融アーキテクチャを改革する必要性への支持も含まれ、SDGsの前進を加速させる打開策となることが期待されます。事程左様に、今回はSDGsの実施手段としての資金について優先度がより一層高まり、様々なハイレベル会合での中心議題になっていました。

次のステップにどう立ち向かっていけばいいのか、国連では複雑に絡み合ったSDGsを整理して「ハイ・インパクト・イニシアチブ(High Impact Initiative)」として提示しています。

 

SDGs実施の取り組みを後半戦でスケールアップする上で、ゲーム・チェンジャーとして大きなインパクトが見込まれる6つの分野での移行(1.食料システム、2.再生可能エネルギー、3.デジタル化、4.教育、5.社会的保護と雇用、6.気候変動・生物多様性の喪失・汚染との闘い)と、そのすべてに横断的に必要とされる完全なジェンダー平等の実現、そしてこれらのハイ・インパクト分野での移行の実現を後押しする5つの分野(SDG刺激策・貿易・地域での実施・公共セクターの能力強化・データの恩恵)という統合的に整理された枠組みが、議論の流れを方向付けるものです。

SDGサミット閉幕の様子 UN Photo/Paulo Filgueiras

2日間にわたったSDGサミットの締めくくりにあたり、グテーレス事務総長は「開発の“やることリスト”(development to-do list)」として7つの主要分野での前進に取り組むことを求めました。事務総長のスピーチがわかりやすいので、該当部分を抜粋します。

第1に、「SDG刺激策(SDG Stimulus)」に対する支援を、開発途上国に向けた実際の投資へと移行してください。

私たちは、国際金融機関などのメカニズムからの資金も含めて、持続可能な開発のために毎年少なくとも5,000億ドルに届く必要があります。

このイニシアチブを前進させるため、私は、2024年末までにこの5,000億ドルの継続拠出を開始できるように、一連の明確なステップを実行するリーダーズ・グループの編成を呼びかけています。

 

第2に、今回のサミットでのコミットメントを、具体的な政策、予算、投資ポートフォリオ、行動に落とし込んでください。

そして、自発的国別レビュー(VNR)の重点を、説明責任を推し進め、今回のSDGサミットでのコミットメントに対する進捗状況を一覧にするように、変更してください。

 

第3に、今回注目された6つの主要なSDG移行、つまり食料、エネルギー、デジタル化、教育、社会的保護と雇用、そして生物多様性にわたる行動に対する支援を強化してください。

国連の開発システムでは、今後数カ月にわたりこうした取り組みを次の段階へと進め、来年7月のハイレベル政治フォーラムでその進捗を評価します。

 

第4に、社会的保護への投資を大幅に増額する計画を今すぐ作り始めてください。

私たちは、「(公正な移行のための)雇用および社会的保護のグローバル・アクセラレーター」を実現させ、2025年までに新たに10億人、2030年までに40億人を、その対象としなければなりません。

 

第5に、政治宣言が明らかにしているように、先進国が、政府開発援助(ODA)を国民総所得(GNI)の0.7%にする目標を達成すべき時が来ています。

来年の年間予算における優先支出項目を計画するにあたり、この目標達成を実現させてください。

 

第6に、来月の国際通貨基金IMF)・世界銀行の総会を、「これまでと同じやり方」にしてはなりません。

資本増強に加え、私たちは未使用の特別引出権(SDR)1,000億ドルを、緊急かつ追加的に振り向ける必要があります。

また、各国の政府代表は、開発途上国の支援に民間資金を大規模に活用するための具体的な提案を携えて臨むべきです。

これには、政治宣言で求められている、官民のブレンドファイナンスや債務スワップの活用といった、革新的な融資メカニズムに関する提案も含めるべきです。

より広範には、私たちはグローバルな債務メカニズム全体を改善する必要があります。その手段としては、手続きを迅速化させること、即時の債務停止を可能にすること、緊急の必要性に迫られた国々に対しより長期かつ支払い可能な条件で債務を再編することが含まれます。

そして私たちは、政治宣言に沿ってグローバル金融アーキテクチャを改革し、来年(2024年)の「未来サミット」や2025年開催予定の次の「開発資金国際会議」に間に合うように、具体的な提案を作成する必要があります。

 

第7に、気候変動の最悪の影響を回避し、必要不可欠な支援を提供するというグローバルな約束を守り、開発途上国再生可能エネルギーへの公正かつ公平な移行の達成を支援するための、具体的な計画と提案を携えて、今年11月の「気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)」に臨んでください。

特に今回のCOP28は、新たな「損失と損害基金」と、「生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)」で呼びかけられた「「生物多様性枠組基金:Global Biodiversity Framework Fund (GBF Fund)」」の運用を開始する時となります。

大きな後退を見せているSDGsを前に諦めムードに浸る余裕など、とてもありません。SDGサミットだけではありません。市民社会や活動家、企業関係者やメディア関係者らが主役となって、外壁に17のSDGゴールの扉(扉を開けると、そのゴールの進捗に関する最新データと関連アート作品が見られる)をあしらった「SDGパビリオン」やメディア関係者が中心的な役割を担う「SDGメディア・ゾーン」を拠点にしたセッションでも、次のレベルに移行するためのヒントの詰まったストーリーやアイデアを積極的に発信していました。

SDGパビリオン内で行われた熱い議論 UN Partnerships/Pier Paolo Cito

大きな壁をどう乗り越えていけるのかという解決策提案型の議論は、あらゆる人が必要としあらゆる人に与えられるべき持続可能な未来に向けて前進するため、反転攻勢に必死で取り組もうという決意に満ちていました。

SDGメディア・ゾーンには、ナタリー・ポートマン氏をはじめとする著名人、国連機関の長、グローバル企業や研究機関、市民社会団体の役員等が登壇 UN Photo/Mark Garten

SDGメディア・コンパクトに加盟する世界のメディアが司会やスピーカーなどで参画した「SDGメディア・ゾーン」では、繰り広げられた多くのセッションのラインアップにまじり、日本の皆さんへの緊急報告を日本語でお届けしました。

国連の事情をご存じの方々から、国連公用語ではない日本語で発信したことを快挙だと評価していただきましたが、慶応大学の蟹江先生、TBSとフジテレビの代表、ならびに国連本部の邦人幹部職員のご協力があったからこそ実現したものです。SDGs推進の後半戦や気候アクションのスケールアップとスピードアップに向けたセッションをコーディネートして発信することができました。

いずれも10分から20分のコンパクトなセッションではありますが、スピーカーの方々の大切なメッセージが詰まった内容となり、私も大きくうなずきながら司会進行をしていました。セッションの模様は、いずれも国連のUN Web TVからアーカイブを視聴していただけます。

SDGs実施の後半戦:変革のてこがカギ(9月18日)

UN Photo

SDGs最前線:ニューヨークからの緊急報告(9月19日)

UN Photo

Code red: commitments on the "Promise of 1.5℃” climate action campaign (9月20日)

@UNIC Tokyo

待ったなし!「地球沸騰化」時代の気候アクション(9月22日)

@UNIC Tokyo

どのセッションも、国連総会で共有された危機感を日本の皆さんに緊急報告の形で伝えつつ、同時にアクションと解決策を提示し、そして希望と連帯のメッセージを大切にしています。これからの気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)やSDGs推進の後半戦に向けた発信の在り方を考える上でも、大いに参考になる内容かと思います。

日頃SNSでフォローしているウガンダ出身の気候活動家バネッサ・ナカテさんをはじめとする著名人や、気象情報を気候変動につなげながら伝えているアメリカの気象専門テレビ局の「ウェザー・チャンネル」の気象キャスターらの思いを、SDGメディア・ゾーンという息遣いのわかる至近距離の場で聴けたことも、大きな収穫でした。気候変動について声を上げる彼らがSNS上での個人攻撃に晒されながら、心のケアも含めていかに対処しているかというは、日本で活動する私たちにとっても大いに参考になるヒントになります。

ウガンダの気候活動家バネッサ・ナカテさん(右から2人目)やウェザー・チャンネルのキャスター、ポール・グッドロー(左)さんも登壇 @UNIC Tokyo

SDGsを含む持続可能な開発のための2030アジェンダが採択されて以降、広報の立場からずっとSDGsに関わってきた一人の国連職員としても、次のステージに向けたやる気にエネルギーを再注入することになり、実り多いニューヨーク訪問となりました。

引き続き、国連での議論にご注目していただければ幸いです!

「1.5℃の約束」キャンペーンについてグローバル発表してくださった、TBSホールディングスの井上波さん(右)とフジテレビの木幡美子さん(左) @UNIC Tokyo