国連広報センター ブログ

国連のさまざまな活動を紹介します。 

グラフィックスで見る「気候変動」ファクト

猛暑厳しい夏だった2023年、世界各地で最高気温を記録、世界気象機関(WMO)によると、今年の6~8月は観測史上最も暑い3か月となりました。各地で山火事や豪雨などの異常気象が頻発し、これまでにない気候を実感した方が多いのではないでしょうか。

気候変動とは、気温および気象パターンの長期的な変化を指します。世界中の専門家が執筆に加わった「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の報告書は、地球温暖化の主因は人間の活動によるものだと明記しています。最近では、人間の活動による気候変動が異常気象などの発生率や強度をどの程度変えたか定量評価する「イベント・アトリビューション」の研究もさかんに行われるようになっています。

人間の様々な活動による温室効果ガスの継続的な排出が地球温暖化を進行させている中、それをなんとか止めようと、各国は世界の平均気温の上昇を産業革命以前と比べて1.5度に抑えるよう努力することを目標に掲げています。気温上昇が1.5℃以上になると、連鎖的で不可逆的な気候になる恐れがあるとされているからです。すでに、1.1℃の気温上昇に至り、今世紀末までに2.2℃~3.5℃ 上昇する可能性もあるとIPCCは報告しています。

気温上昇の度合いによって、未来のシナリオは変わってきます。いま何が起きているのか、どんなことが予想されるのか、科学に即したグラフィックスで見ていきます。(2023年10月4日時点で発表されているデータに依拠しています。)

 

数度の差が未来を変える

1.気温が2℃以上上昇すると、サンゴ礁が消える恐れ

今年、海洋の熱波も過去最高に達し、海洋生態系に壊滅的影響を与えていると専門家は警告しています。サンゴ礁は特に気候変動の影響を受けやすく、平均気温が1.5℃上昇すると、その70~90%が、2℃上昇すると99%が消滅すると言われています。水温の上昇で起こるサンゴの白化現象を防ぐなどの保護活動も各地で進められています。

 

2.山火事の範囲が広がる

今年の夏は、カナダ、中国、地中海沿岸諸国などで、大規模な山火事が起きました。カナダでは制御不能な山火事が660件以上も同時に起きる緊急事態となりました。これも気候変動の影響とされています。気温が高い気候条件では、山火事が発生しやすく、急速に拡大しやすくなるのです。地中海の夏の平均気温が1.5℃上昇すると、山火事で焼失する面積が41%、2℃上がると62%、3℃の場合は97%増加すると予測されています。

 

3.哺乳類の生息域に大きく影響

気温上昇が進むと、陸上の動物の大半の生息域が劇的に縮小すると予測されています。 1.5℃上昇で哺乳類の4%が 、2℃で哺乳類の8%が、 3℃で哺乳類の41%が、生息地域の半分を失います。生息域の変化によって種の入れ替わりが激しくなり、世界的な絶滅のリスクを大幅に高める可能性があります。

 

4.海面上昇は、この30年で2倍以上に

世界の平均海水面は、2013年から2022年に年間平均で4.5mm上昇し、過去最高となりました。これは1993年から2002年までの2.1mm上昇の2倍を超えており、主に氷床から氷塊が失われる速度が速まったことに起因しています。海面の上昇は沿岸に住む数億人に多大な影響を及ぼします。2050年には、世界の人口の10人に1人が洪水が起きやすい沿岸部に住むことになると2022年のIPCC報告書は述べています。

 

IPCC報告書の数字から見る人類への影響

1.世界の人口の45%が気候変動に対して非常に脆弱

気候変動に影響に対して非常に脆弱な人々の数は33~36憶人にのぼると推測され、世界の人口の半数近く45%にあたります。異常気象による災害や干ばつなどによって、避難を余儀なくされる人の数は増加し、武力紛争によって生まれる避難民の3倍とも言われています。

また、いま気候変動は人類が直面する最大の健康上の脅威となっています。大気汚染、疾病、異常気象、強制避難、食糧不安、メンタルヘルスへの圧迫などによって、人々の健康にすでに大きく影響しています。毎年、環境要因によって約1300万人の命が奪われています。

 

2.世界で3人に1人が致命的な熱ストレスにさらされている

熱波は毎年、何千、何万もの人々の命を奪っています。世界の人口のおよそ30%が、年に20日以上致命的な熱波にさらされ、致命的な熱ストレスを受けています。今年7月、世界各地で最高気温が更新されました。アメリカ、中国の一部では、気温が50℃を超えました。異常な高温は、命の危険や、暮らしの困難に直結しています。地球温暖化が進めば、熱波はさらなる頻度を持って発生すると予想されています。

 

3.世界で2人に1人が深刻な水不足を経験

いま、世界の2人に1人が、気候変動が影響した洪水、干ばつなどの異常気象の影響で、年間のある時点で深刻な水不足を経験しています。地球温暖化は、以前から水が乏しかった地域の水不足を悪化させており、農地の干ばつのリスクを高め、農作物の収穫に影響をもたらし、さらに生態系の脆弱性を高めています。気候危機は、水の危機でもあり、水の危機はさらなる環境の悪化や食料の不安定化にもつながります。

 

4.気候変動に最も寄与していない人々がより大きな被害

過去10年で洪水、干ばつ、嵐などによって命を落とした人々の数を比較すると、気候関連の災害に対し、非常に脆弱な地域と、それほど脆弱ではない地域では15倍の開きがあり、アフリカ、南アジア、中南米の人々や小島嶼国の住民は、気候関連災害で亡くなる可能性が15倍高くなっています。その多くは、気候変動に最も寄与していない人たちです。アフリカの温室効果ガス排出量は世界全体の4%ですが、気候変動の最悪の影響を受けています。

気候変動に関する意思決定の中核に、公平性と人権を起き、不平等をなくしていく「気候正義」がますます問われています。

 

気候変動対策:やるべきこと、その先の未来

1.温室効果ガスの排出を2030年までに約半分に

人が住みやすい気候を維持するためには、2010年時と比較して、2030年までに温室効果ガス排出を43%削減し、2050年までに正味ゼロ・エミッションを達成する必要があります。その軌道に乗せるためには、気候変動の最大の要因とされる化石燃料からの脱却をただちに進めなくてはいけません。

再生可能エネルギーへの投資を2050年までに3倍、クリーンエネルギーからの電力供給を今後2030年までに2倍にしなければなりません。

 

2.再生可能エネルギーのコストは10年で大幅に低下

今年5月のG7 広島サミットでは、再生可能エネルギー導入拡大の数値目標が掲げられました。資源エネルギー庁によると、日本でも、水力、太陽光、風力、バイオマス、地熱などの再エネの導入は2012年から2020年の間に3.9倍と世界トップクラスのスピードで進んでいます。しかし、日本の再エネ普及率は 20.3%(2021 年度)で、40%前後の欧州主要国との開きがあり、化石燃料への依存度は依然として高い状況が続いています。

再エネはコストがかかるという理解はいまや過去のものとなっています。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)2021年の発表によると、2010年から2020年の間に、再エネ技術の価格は急速に下落し、太陽光発電の電力コストは85% 、陸上および洋上風力エネルギーのコストは、それぞれ 56% 、48% 低下しました。

再エネはいま、最も安価な電力供給源の一つとなっています。国際エネルギー機関(IEA)最新報告書は、いまクリーンエネルギーへの投資が業界をけん引し、今年、太陽光発電への投資額が石油生産への投資を初めて上回るとの見通しを示しました。

一部の国では、すでに電力のほぼ100%を再生可能エネルギーで賄っています。日本でも、再エネで地域の世帯数分のエネルギーをまかない、さらに売電事業により収益を得ている自治体も出てきています。IRENAは、2050年までに世界の電力の90%を再生可能エネルギーで賄うべきであり、それは可能だとしています。

 

3.再生可能エネルギーによる雇用の可能性

世界の再エネの雇用は、2019年時点で1150万人に達しました。この数は2050年までに4200万人、化石燃料産業で失われた雇用の3倍となるとの予想もあり、再エネシステムの製造、設置、運用、保守などに従事する機会を生み出すことができます。

同時に、脱炭素社会に向けてのキーワード「公正な移行」も守られなければなりません。化石燃料産業に従事する労働者や地域が取り残されてはならないのです。

国際労働機関(ILO)は、2016年に「環境面から見て持続可能な経済とすべての人のための社会に向かう公正な移行を達成するための指針」を策定しました。2021年の国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)では、この指針に沿って、「公正な移行宣言」が発表されています。持続可能な経済と社会の実現、そしてすべての人のディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)につながる機会の創出でなくてはなりません。

 

4.上位20か国が排出量の75%を占める現実 

2022年の国連環境計画(UNEP)の排出ギャップ報告書によると、上位20カ国の温室効果ガス排出量が、世界全体の排出量の75%を占めており、日本もその中に含まれます。(アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、カナダ、中国、フランス、ドイツ、インド、インドネシア、イタリア、日本、韓国、メキシコ、ロシア、サウジアラビア南アフリカ、トルコ、英国、米国)

一方、最も排出量の少ない100カ国での排出量は全体の3%のみです。より多くの問題を生み出している国々や人々は、行動に対する責任がより大きくなっています。グテーレス国連事務総長は、G7各国に対し、石炭の利用を2030年までに段階的に廃止することや、途上国の脱炭素化の加速に向けて支援するよう求めています。

先進国の私たちのこの10年の行動が未来を変えると言っても過言ではありません。そして私たちにできることはまだあります。

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5.気候危機は人権の危機:人権と気候変動に関連する裁判がこの5年で2倍に

いま、人権と気候危機の強い関連性が世界各地の法廷で取り上げられています。UNEPの最新の報告によると、去年末時点で2180件の気候関連訴訟が提起され、人々が政府や企業の責任を追及しています。子どもや若者の主導するものもあり、気候変動、生物多様性 の損失、汚染という3つの地球規模の危機に、その訴えは5年で2倍以上になっています。

国連総会は2022年7月、クリーンで健康、かつ持続可能な環境へのアクセスは普遍的人権であると宣言する歴史的な決議を採択しています。ヴォルカー・ターク人権高等弁務官は、「気候変動への対応は人権問題」だと述べました。2020年は、気候が原因で3070万人が故郷を追われ、そうした人々が、食料、水、衛生、住居、健康、教育への権利、さらに生きる権利まで脅かされる状況もあります。基本的人権の観点から、こうした人たちへの包括的な保護が必要だと専門家は述べています。

今年、国連子どもの権利委員会は、健全な環境への子どもたちの権利を認め、各国に化石燃料の段階的廃止や再エネへの移行など、実行すべき指針を出しています。気候危機の解決を次世代に託すのではなく、迅速かつ大規模な行動が、今求められています。誰もが人権を守られ、健全に生きていくためにも、気候変動は、私たちがどの未来に向かうのかを問いかけています。

 

グラフィックスで気候変動を見つめてきました。基本的な情報から、関連国際機関のリンク、これまでの気候変動に関するUNニュースやビデオなど、気候変動に関する情報を日本語でこちらにまとめています。

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国連本部ウェブサイト(英語)の気候変動に関する参考ページはこちらより。

Causes and Effects of Climate Change (気候変動の原因と結果) 

Climate Action Fast Facts (気候アクションとファクト)

Global Issues Climate Change (世界的課題 気候変動)