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New Normalと国連常駐調整官システム ~TICAD8に向けて

8月27日―28日、日本、国連、国連開発計画(UNDP)、世界銀行アフリカ連合委員会(AUC)の共催のもと、チュニジアで第8回アフリカ開発会議(TICAD8)が開かれます。

そこで、TICAD8の開催を前に、2020年8月から2022年年8月までウガンダの国連常駐調整官事務所・所長を務めた古本建彦さんから、ブログのご寄稿をいただきました。現地での2年間の貴重なご経験をもとに、ウガンダにおける国連活動を束ねる事務所の位置づけとその具体的な仕事、とくにコロナ禍における取り組みの様子などについて説明してくださっています。(役職名は2022年7月の執筆当時のもの)

古本建彦(ふるもと・たつひこ) 筑波大学国際総合学類卒、ブラッドフォード大学紛争解決学修士共同通信社記者、平和構築分野の人材育成事業によるUNHCR南スーダン派遣を経て、2009年よりJPOとしてUNDPネパール事務所および本部に勤務。2012年より外務省にて開発援助、気候変動、二国間外交(南米)を担当。2017年、日本政府国連代表部参事官(人権人道担当)。2020年、国連ウガンダ常駐調整官事務所。

新型コロナウイルスによるパンデミックが始まってから、およそ2年半が経ちました。国連ウガンダでは、国内感染状況に落ち着きがみられたことから4月以降急速にスタッフのオフィスワーク回帰、そして数十人から百人規模の対面会議の開催が進みました。依然としてスタッフの感染者は散見されるものの、当地国連ではマスク、換気、消毒や手洗いの徹底、ソーシャルディスタンスの確保などのコロナ対策に関するSOP(Standard Operating Procedure)の順守に気を付けながら通常業務を進めていく「New Normal」が急速に進んでいます。この機にコロナ禍で国連内の新しい組織である国連常駐調整官事務所(RCO:Resident Coordinator’s Office)を束ねる立場にあった過去二年間を振り返りつつ、コロナ対応を例としてRCOの機能を紹介しながら、近く開催されるTICAD8も念頭に今後の課題等について考えてみたいと思います。

2022年、ウガンダ首相府・国連共催の会議で改革について説明する筆者。©UN RCO Uganda

国連常駐調整官事務所は、国連総会決議によって国連開発システムにもたらされた様々な改革の一端として2019年に刷新された事務所です。それまでは、国連常駐調整官(RC:Resident Coordinator)が国連一機関の国代表を務めながら国連全体の調整を担っていました。この改革はRCの中立性を高め調整の効果をさらに発揮するためにRCを国連機関から独立させ、国連事務総長へとつながる報告ラインを強化しました。RCOは従来から規模は小さいながらもUNDPに連なる形で存在していました。しかしこの改革に伴いRCの活動を各国で統一的に戦略計画、経済分析、パートナーシップ、開発資金、データ分析、アドボカシーの各分野に渡って支え国連全体を調整するために新たな国連の組織として新生RCOが立ち上がったのです。RCOは開発システム改革推進の中枢に位置し、当該国における国連全体の活動に関するプログラム調整からオペレーションの支援まで担う、いわば国連全般の効率化を進めるハブ事務所と言えます。私はその事務所の長として2年間活動してきました。そのカバー範囲は非常に広くあらゆる課題に関与することからしばしば「国連ウガンダのChief of Staff」などと呼ばれることもありました。

2020年9月、新しい開発枠組み(UN Sustainable Development Cooperation Framework)立ち上げを記念し、国連カントリーチームと大統領。©UN RCO Uganda

RCOのコロナ下での役割は非常に多岐にわたります。パンデミック初期は多くの空路が封鎖されつつも、ウガンダへは当時例外的に人道支援要員の移動のために国連の「人道フライト」が認められていました。WFPが実際のフライトの運行を、RCOはフライト日程の調整や現地外務省等関係機関との調整を担い、2020年10月の商用便再開に伴って人道フライトが収束するまでロックダウン中に34回のフライトで約1800人の移動を支援しました。また、ロックダウン下でも国連の国内活動が阻害されないよう、人道支援など緊急性の高いプログラムを国連全体で洗い出し、政府と調整して移動・支援の継続を担保し、パンデミック下でも必要な支援が必要な人々に継続されることを確保しました。

アジュマニ地区のアメロ小学校できれいな水を飲んでいる生徒たち。水道システムの動力源はソーラーパワー。水と衛生(WASH)プロジェクトで実現した。資金拠出はアイスランド。 © UNICEF Uganda

プログラム面では、コロナ対応緊急対応計画の取りまとめとハイレベルドナー会議開催が例に挙げられます。国連には様々な関連機関が存在します。従来国連の資金動員については、各機関が個別に対応計画策定やドナーへのアプローチを行ってきたために対応に一体性がなく、必ずしも真に必要な分野に必要な資金が届いていないのではないかという批判がありました。今回の改革によってRCとRCOが中立的立場からこうした計画やドナー対応をする役割を与えられたことによって、各組織の利害を超えた調整が可能になりました。ウガンダにおいては、パンデミック初期に緊急アピールを取りまとめたほか、2021年6月に対応計画の修正版を作成し、ワクチン配布がカギとなり始めた2021年10月には保健大臣も参加したハイレベルドナー会合を開催しました。これらは国内外及びドナー各国からの要請に応じRCとRCOがけん引してきたものでした。。最後に「Duty of Care」と呼ばれる職員のコロナ対応が挙げられます。コロナ禍で活動を続けるということは、職員のコロナ対応へも組織としての義務が生じます。RCOが中心的役割を果たしつつ、迅速に検査・陽性時のモニタリングと予防接種を行う体制を作ったほか、上級医務官を臨時雇用して重症患者の入院手配や国外退避(Medical Evacuation)を行う体制などを整えました。

ウガンダタンザニア国境近くの刑務所で、囚人にコロナワクチンの接種をしている看護師  © UNODC Uganda

こうした活動を続けてきた中、ウガンダでは本年3月から4月ごろより急速に「New Normal」が浸透してきています。商業活動が全面的に再開され、対面形式の会議も頻繁に行われるようになりました。そうした中、社会・経済面での対応が急務となっています。例えばウガンダでは学校閉鎖が2年近くに及んだため、就学の機会を逃した子供たちへの対応が大きな課題となっています。ウガンダは人口増加率が高く若者人口が多い国ですが、若者のスキル向上や雇用に向けた支援も社会の安定のために急務です。また、ウガンダは世界第三位の難民ホスト国(150万人・2022年7月時点)ですが本年春以降さらに増改傾向にあり、、難民とローカルコミュニティの双方に配慮した支援が引き続き求められます。またウクライナ情勢による食料価格高騰等は、アフリカなど、より脆弱な国・地域での大きな影響が懸念されます。一方で本年11月の気候変動COPはエジプトで開催されることから「アフリカのCOP(African COP)」と呼ばれ、緩和・適応の両分野においてアフリカ各国からの期待が高まっています。

コボコ地区のヤンブラで、世界食糧計画(WFP)の支援のもとに活動する女性を中心とした農業団体。アブディラマン・メイガグWFP現地事務所長が視察。©WFP Uganda

国連には、こうした社会・経済情勢に柔軟かつ迅速に対応していくことが求められます。例えばAfrican COPに関し、国連として加盟国をどのように支援していくのかという議論はすでに毎週のように行われています。また、コロナ禍でオンライン学習・会議が進んだことなども念頭に、例えばデジタル化の推進強化による可能性を追求したり、国を超えて地域の国連システム全体で知見を結集して様々な開発課題に対してより洗練された効率的な対応をするための仕組みの構築など、New Normalの中で見いだされつつある新たな「機会」もあります。RC・RCOはこうした議論をけん引する役割も担っています。

2022年、RCO能力強化のためのワークショップで議論をファシリテートする筆者。 ©UN RCO Uganda

8月にはTICAD8が開催されます。すでに本年3月に開催された閣僚会合では、経済的不平等の是正、人間の安全保障を基盤とした持続可能かつ強靭な社会の実現、持続可能な平和と安定の構築などが議論されています。アフリカと世界の情勢を踏まえつつ、New Normalの社会・経済情勢に即した課題が議論されることが大いに期待されますし、国連RCシステム(RC・RCO及び本部・地域事務所をまとめた呼び方)としてもTICAD8の成功とそのフォローアップに最大限の力を発揮する必要があります。ウガンダにおいてもまさに今現在、東部で干ばつと食糧危機が発生し、被害が拡大しつつあります。これに対しRCOはいち早く国連本部からの緊急資金を確保し、5機関による緊急対応の調整を担っています。また本稿執筆中には、洪水による被害も報告されました。気候変動の影響ともとらえられ、TICADやCOPをてこに、緩和・適応それぞれの支援がさらに進むことが期待されています。

国連ビデオ「複雑な諸課題の解決には国連活動の調整が不可欠」、©UN Sustainable Development Group

新生RC・RCOにはまだまだ課題も山積みです。その中心的役割である「調整」の付加価値については国連内で広く認識されつつあるとの実感があるものの、その理念を現場においてさらに深化させ、国連職員すべてに「One UN」の意識が浸透し、有機的な議論、計画、実施に結び付けていく必要があります。つい6月にも、ウガンダすべての国連機関が集まる「カントリーチーム」の会議において、そのカントリーチーム内の協力強化、意識改革などに議論が集まりました。真の改革の成果は、効率性を高めつつ効果を最大化することによって示されます。New Normalの開発の在り方をよく見据えつつ、TICADの成果などをアフリカの裨益者に広く行きわたる果実としていく上でも、その役割にはさらなる期待がかかっているといえます。

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