今年で、「女性・平和・安全保障に関する国連安保理決議1325」は採択20周年を迎えます。2000年10月31日に全会一致で採択されたこの決議は、国際的な女性の権利と平和、安全の問題を前進させる大きなきっかけとなりました。安全保障理事会決議としてはじめて、戦争が女性に及ぼす不当に大きな影響を具体的に取り上げると同時に、紛争の解決と予防、そして平和構築、和平仲介、平和維持活動のあらゆる段階への女性の貢献を強調したからです。
陸上自衛隊に所属し、東ティモールと南スーダンで国連平和維持活動(PKO)にも参加し、現在は国連活動支援局のニューヨーク本部に勤務する川﨑真知子さんから、平和と安全の分野でジェンダー平等を実現するための取り組みをご紹介いただきます。11月2
私は2020年8月からニューヨークにある国連本部活動支援局で勤務を開始し、国連三角パートナーシップ・プロジェクトに関する業務を行っています。
近年の国連平和維持活動(PKO)を取り巻く環境は非常に厳しく、武装勢力等の襲撃により、現地住民が厳しい生活を強いられるだけでなく、任務中のPKO要員が死亡するケースが毎年発生しています。私が2013年に国連南スーダンミッション(UMISS)で勤務をしていた時、衝突が発生し、女性及び子どもを含む多くの住民が着の身着のままで国連の施設に保護を求めて避難してきました。
そのような中、任務中のインド軍兵士2名が亡くなる事案が発生し、その地域に展開していた歩兵部隊が撤収する事態に至りました。一度重大な事案が発生してしまうと、そこでのPKO活動は縮小又は中断を余儀なくされ、その地域で困難な状況にある地域住民の保護にも多大な影響を与えます。こういった悲劇を少しでも失くし、地域に平和を根付かせるためにも、国連には不断の努力が求められています。そのため、PKO部隊には、そこで暮らす住民や人道支援活動を行う人々を守るために、また、自らの安全を確保して任務を遂行するために、高い技術及び専門的な知識が求められています。しかし、要員派遣国の中には、訓練に必要な機材や専門知識のある教官の不足により十分な訓練等の準備が実施できない国もあり、安全性及び実効性の観点から深刻な問題になっています。そこで、国連、支援国及び要員派遣国の3者が協力して質の高い要員を育成し、安全かつ効果的な任務遂行を可能とする国連三角パートナーシップ・プロジェクトが立ち上げられました。ニーズや能力ギャップを把握する立場にある国連が訓練内容を企画・運営し、技術とリソースを持つ支援国がプロジェクトへの資金拠出、教官派遣及び装備品の提供を行うとともに、PKO要員派遣国の要員に対し訓練を行うという3者の協力態勢が従来にないプロジェクトの特徴です。
2015年のプロジェクト発足以降、道路補修などの施設分野を皮切りに、情報通信分野、2019年からは医療分野に訓練範囲を拡大してきました。2019年はアフリカ、アジア及び同周辺地域から243人の要員がこのプロジェクトに参加して訓練を受け、そのうちの多くは既にミッションに派遣されています。また、訓練の使用言語を英語だけでなく、フランス語にも広げ、教官及び訓練生の双方に女性の参加を働きかけるなど、多様性ある訓練が実施できるように計画段階から着意しています。
私はこのプロジェクトのうち、特に医療分野の訓練の計画及び準備を担当しています。全世界で展開されているミッションでは毎年多くの要員が亡くなっており、2019年は101名が命を落としています。派遣される要員に救急法などの医療訓練を行うことで防ぐことのできる死を最少化することは、要員の安全を確保する上で喫緊の課題となっています。2019年に医療分野の初めての訓練が行われ、日本、ドイツ及びベルギーから教官の派遣を受け、南スーダンとコンゴ民主共和国のそれぞれのミッションに参加中の要員29名が2週間の訓練に参加をしました。この訓練を通じて得られた改善点をもとに、テキストの改訂、訓練要領や訓練生の評価法の確立などを現在実施中で、世界各国の要員派遣国でこの訓練が早期に開始できるよう準備を進めています。
残念ながら、2020年はCOVID-19の世界的流行のため、医療訓練だけでなく施設分野や情報通信分野のほとんどの訓練が中止になっています。しかし、これをマイナスにとらえるのではなく、準備の時間をもらえたと前向きにとらえて頑張っています。また、従来の対面型の訓練だけでなく、インターネットを活用したオンライントレーニングやリモート講義など新たな方法でのプロジェクトの推進も模索中です。
女性・平和・安全保障に関する国連安保理決議1325の採択から今年で20年が経過しましたが、今なおPKOが展開する国では、多くの住民が住居や仕事、教育機会を失うなど十分な生活ができない状況にあります。特に女性や女児は性的暴力を受けやすく、紛争が与える影響は男性よりも大きいといわれています。しかし、こういった状況を好転させるため、女性要員の増加など女性のPKOへの関与はこの20年で大きく変化してきました。国連では、職員の男女比率から個々のプロジェクトに至るまで、常にジェンダー・パリティに注意が払われています。私の担当するプロジェクトでも企画段階から女性の参画の視点が重視され、結果として、どのくらいの女性が参加したかについて具体的な数字での説明が求められています。また、現在全世界で展開されるPKOでも女性の警察・軍事要員の増加に向けた努力がなされ、その割合は6.6%まで上昇しています。私の友人にも、南スーダンや中央アフリカ共和国でのミッションに参加中の女性軍人やPKOセンターで教官や研究者として活躍している人もおり、世界全体でPKOへの女性の関与促進に真剣に取り組んでいることを実感します。
国連は2028年までにPKOに参加する各国軍の女性割合を15%に、警察部隊は20%まで引き上げることを目標に掲げています。この目標達成には、各国の取り組みが重要と考えます。特に、各国のリーダーが女性のPKO参画の重要性やメリットを理解して、具体的に行動することが求められていると思います。私自身も国連三角パートナーシップ・プロジェクトを通じて、これからのPKOを担う女性要員を育成し、この目標に貢献できるよう頑張っていきたいと考えています。