第7回アフリカ開発会議(TICAD7)が2019年8月28-30日、横浜市で開催されます。日本では6年ぶりとなるTICADに向けて、国連広報センターはアフリカを任地に、あるいはアフリカと深く結びついた活動に日々携わっている日本人国連職員らに呼びかけ、リレーエッセーをお届けしていきます。
取り上げる国も活動の分野も様々で、シリーズがアフリカの多様性、そして幅広い国連の活動を知るきっかけになることを願っています。第14回は、コートジボアールのアビジャンにある国際労働機関(ILO)アフリカ地域総局に勤務する小笠原稔さんです。
第14回 国際労働機関(ILO)アフリカ地域総局
小笠原稔さん
~子どもたちが夢を追うアフリカを ー 児童労働撲滅にむけたILOの取組み~
創価大学経営学部栗山直樹ゼミ出身。創価大学大学院にて経済学修士号取得後、在ガボン日本国大使館及び在仏大使館にて専門調査員として合計6年間勤務。JPOとしてILOジュネーブ本部勤務の後、児童労働プロジェクトのアフリカ地域コーディネーターとして7年間のナイロビ勤務、チーフ・テクニカル・アドバイザー(CTA)として4年間のハノイ勤務。2019年よりILOアフリカ地域総局(コートジボアール・アビジャン)において、ウガンダ、エジプト、コートジボアール、ナイジェリア、マラウィ及びマリの6か国で実施されているACCEL Africa児童労働撲滅プロジェクトのCTAを務める。
毎年6月12日は児童労働に反対する世界デーです。2019年は「⼦どもは働かされるべきではありません、夢を育むべきです!」というテーマのもと、世界中で児童労働に反対する様々な活動が行われる予定です(詳しくはILOのサイトを参照)。
今年100周年を迎えるILOは、1919年の創立時から児童労働の撲滅に取り組んできました。世界の未来を担う子ども達が過酷な労働にその貴重な子ども時代を浪費するのではなく、学校での勉強や課外活動などを通じて、一人ひとりの無限の可能性を伸ばしていけるよう環境を整えていくことこそが、世界の安定した発展と平和につながっていくものと私は確信しています。
ILOの報告によれば、2016年時点で世界には児童労働に従事している子どもたち(5歳から17歳までの子ども)が1億5200万人いるとされています。特にアフリカでは、7200万人の子どもたちが児童労働に従事していると推定され、この数は、およそ5人に1人(19.6%)のアフリカの子どもが児童労働に従事していることを示しています。そのほかの地域(アジア・太平洋地域:子ども人口の7.4%、南北アメリカ地域:5.3%、アラブ地域:2.9%、ヨーロッパ・中央アジア地域:4.1%)と比較すると、アフリカでの児童労働問題がいかに深刻であるかが分かります。
2015年9月に国連本部において採択された持続可能な開発目標(SDGs)では、そのターゲットの1つに、すべての児童労働を2025年までに撲滅することを掲げています。ILOの報告では、2016年時点の児童労働者数は世界全体では減少傾向にあるものの、アフリカのみ増加傾向にあることが明らかにされました。アフリカでの取り組みの強化なくしては、児童労働に関するSDGsの目標達成はきわめて難しいといわざるを得ません。
私が児童労働に関心を持ったのは、大学時代に授業で見たILOの児童労働に関するビデオがきっかけです。バックパッカーとして西アフリカのマリを訪れ、どうしようもない貧困を目にし、「どうすれば具体的にアフリカに貢献できるのか」と考えていた私にとって、そのビデオはその後の人生を決定付けるものとなりました。その関心は今も変わらず、2006年にILOで働き始めてから、一貫して児童労働問題に取り組んでいます。特に2008年から2015年までは、ケニアに駐在しつつアフリカ7か国(ケニア、ザンビア、シエラレオネ、スーダン、マリ、マダガスカル及び南スーダン)の児童労働問題を担当、その後も、ベトナムで引き続きこの問題解決に関わりました。
今年3月から、ILOのアフリカ地域総局のあるコートジボアールに転勤して新たに立ち上がった児童労働プロジェクトを統括しています。これはオランダ出資によるプロジェクト(ACCEL Africa プロジェクト)で、ウガンダ、エジプト、コートジボアール、ナイジェリア、マラウィ及びマリの6か国で実施されています。
ACCEL Africaプロジェクトでは主にカカオ、綿花、コーヒー、茶に加えて、衣服産業と金のサプライチェーンでの児童労働問題に焦点をあてています。大規模なプランテーションや工場などでは労働環境が整備され、児童労働のケースも限定的といえますが、インフォーマル経済の中に位置付けられることの多い家族単位で行われる労働の場では、未だ多くの児童が仕事に従事しているのが現状です。経済がグローバル化し、アフリカの労働者もサプライチェーンの中に組み込まれていくなかで、児童が含まれることのないよう、様々な支援を行うことを主な目的としています。
日本でも近年フェアトレードに参入する企業や団体が増えてきました。私たちが日々口にするチョコレート、コーヒー、普段身に付けるTシャツや貴金属類の原料が、アフリカをはじめとする発展途上国の子ども達の労働によってもたされている状況は、日本の消費者の誰もが望まないものではないかと思います。
コートジボアールに着任して約3か月(執筆当時)。その間、カカオ生産の現場を視察したほか、担当する国すべてを訪問し、ACCEL Africaプロジェクトにおいて、どのようにサプライチェーン内での児童労働問題に取り組んでいくかについて様々な関係者と話し合ってきました。児童労働撲滅に関するSDGsのターゲットの達成に向けて、2025年までにアフリカにおいて何ができるのかを自問自答する毎日です。
日本政府が出資する「人間の安全保障基金」を通じて、ILOはそのほかの国連機関と協力し、アフリカにおいてはセネガル(2009年から2014年)とケニア(2012年から2016年)で児童労働に関するプロジェクトを実施してきました。幸運なことに、私もこれらのプロジェクトの企画と実施にかかわらせていただきました。また、今年からはミャンマーとフィリピンにおいて、日本政府の出資によるILOの児童労働プロジェクトが新たに始まります。 TICADプロセスを通じて日本とアフリカの関係がますます深まる中で、アフリカの児童労働問題の解決に向けて、ILOと日本の協力関係もいっそう強化されるよう、日本人職員として貢献していきたいと考えています。