連載第1回 10年ぶりのケニア再訪(上)
根本かおる国連広報センター所長は、毎年国連と日本との協働が展開する現場のオペレーションを訪問し、日本の皆さんに報告しています。第7回アフリカ開発会議が今年8月に横浜で開催されるのを前に、3月10日から20日までの日程でケニアにおける国連の活動を「SDGs推進の国連のチーム力、そして日本とのパートナーシップ」を主眼に視察してきました。
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国連あるいは国連広報センターを代表するものではありません。 - 写真は特別の記載がない限り、国連広報センターの写真です。
なぜ今ケニアなのか?
ケニアは前回の第6回アフリカ開発会議を2016年にナイロビでホストした国です。日本の対アフリカ外交、そして日本の様々なアクターにとってアフリカ進出の拠点です。国連にとっても、ナイロビはアフリカでの拠点「UN Office Nairobi (UNON)」、そしてナイロビ国連広報センター のある大きなハブです。また、ICTのスタートアップがナイロビに集まって「シリコン・サヴァンナ」と呼ばれるまでになっています。
それに加えて、ケニアの国連常駐調整官については、国連大学政策研究センターのリポートでそのリーダーシップの手腕が高く評価されています。国連は今内部改革 の一環で、国連常駐調整官の権限を格段に強化し、その陣頭指揮のもと、ホスト国の「持続可能な開発目標(SDGs)」推進の努力を国連チームが一丸となって後押しすることを中心とする「国連開発システム」改革がまさに進行中なのです。
新世代の国連国別チームが、どのようにホスト国とのよりきめ細かな戦略・計画の策定、ドナー国や開発アクターとのより綿密な調整、そして何よりも国連諸機関のあいだのチーム力の最大化を追求しているのか、その現場を見てみたいとかねてから思っていました。
そのような訳で、3月10日から20日までの日程で、ナイロビ、カクマ/カロベィエイ、ロドワー、モンバサを、国連常駐調整官事務と国連諸機関、とりわけ様々な国連機関で働く多くの日本人職員の方々にお世話になりながら駆け足で回ってきました。
ケニアについての基礎知識
ここで、少しだけケニアのお勉強。赤道直下のケニアは人口およそ5000万人、国土面積は日本のおよそ1.5倍、一人当たり国民総所得はおよそ1500米ドルで、低中所得国にあたり、日本にとっては日本のODA実績ではサブサハラ・アフリカの中で第1位の国です。
2017年のGDP成長率は世銀によると4.9パーセントで、東アフリカのハブとして高い経済成長の潜在力を有しています。主要産業は農業で、労働人口の75パーセントが農業に従事し、GDPのおよそ4分の1を占め、世界有数の園芸作物や紅茶の輸出国です。
43の民族からなる多民族国家で、宗教的には人口の8割がキリスト教徒、沿岸部を中心に1割がイスラム教徒です。地方から都市への移住で人口の3分の1が都市部に暮らし、その割合は2033年には5割に至ると見られます。急激な都市部への流入に都市計画が追い付かず、スラム化現象が課題となっています。
首都ナイロビは標高1800メートルの内陸部の高地にありますが、第2の都市モンバサはインド洋に面する東アフリカ全体にとっての玄関口です。日本もモンバサを起点としてウガンダ、ルワンダ、ブルンジ、コンゴ民主共和国など内陸の後背国とつながる「東アフリカ北部回廊」を重視し、域内貿易推進のための国際港モンバサの建設・機能強化や物流円滑化のためのモンバサ港周辺の道路開発などをODAで包括的に支援しています。
日本出発を前に表敬にうかがったソロモン・カランジャ・マイナ駐日ケニア大使も、海や河川、湖などを経済成長に活かす「ブルーエコノミー」という考え方にケニアが力を入れ、昨年同国主催、日本とカナダの共催でブルーエコノミーに関する国際会議をナイロビで開催したことを強調されました。日本の援助を受けて進むモンバサ港の整備がブルーエコノミーの観点からも非常に需要なインフラとなっていると感謝していらっしゃいました。
また、人口動態に目を向けると、アフリカの潜在力にあらためて驚かされます。アフリカの人口は2017年の12.5億人から2050年には25億人と倍増して世界人口の4分の1がアフリカに集中し、2100年にはそれが44億人と、世界人口108億人のおよそ4割に達すると予測されるのです。アフリカの人口はおよそ半数が18歳未満の子どもたちと大変若く、労働人口もいずれ中国とインドを抜くことになり、生産活動や市場の点で力強い「人口ボーナス」による活力が見込まれるのです。
ケニアもアフリカ全体と同様、18歳未満の子どもは人口の半分を占める一方、5歳から24歳の年齢層の有職率は33パーセントと成人の半分以下。急速に拡大する15歳から24歳の若年層に対する雇用創出が急務です。