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ケニアで考える:SDGs推進の国連のチーム力、そして日本とのパートナーシップ (4)

連載第4回 青い海、白い砂浜、そしてテロとのたたかい(下)

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IOMチームには、ケニア第2の都市・モンバサに職を求めて移り住んだ人々が多く住むジョムヴ地区にも案内してもらいましたが、トタン屋根の家々が無秩序に立てられ、まるで迷路のような路地が続きます。麻薬の常習が深刻とも聞き、ケニア政府としてはこの地域を暴力的過激主義のリスクを受けかねない地域と見ています。 

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このコミュニティーには水道などのインフラは整っておらず、人々は大きな水の貯蔵タンクを備えた「水屋」から水を買って暮らしています。水屋は、生活用水には地下水をポンプでくみ上げた水(塩分を含んでいるため、飲み水には使えません)を、そして飲み水には給水車が地域に運んできた水を、それぞれタンクに貯蔵して、小売りするわけです。視察した時にも、給水ポイントには人々が群がっていました。 

 

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水ビジネスから身を起こしたジョナサン。容器に水を詰めて宅配している

自分のコミュニティーのためになる仕事がしたいと、ジョナサンはIOMのビジネス開発研修の支援を受けて貯蔵タンクを1つ用意して「水屋」を始めました。彼なりの市場調査で地域のお年寄りたちから「高低差のある路地を重たい水を持って運ぶのがしんどい」と聞き、水を容器に詰めて「宅配」するサービスを考えました。これが当たり。今では完全に自立し、マイクロ・ファイナンスでお金を借りてビジネスを拡大し、貯水タンクを4つも所有するまでになっています。

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後ろの二つのタンクもジョナサンのもの

さらに、野菜や日用品を売るキオスクや様々な用具のレンタル業なども多角経営し、収入は水ビジネスだけで、以前衣料品メーカーで働いていた時の6倍になりました。店には人を雇い入れ、雇用創出につなげています。

 

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水ビジネス、雑貨店、ブティック、レンタル業と多角経営するジョナサンから、煮干しと干したサメ肉をゲット。煮干しからは濃い出汁がとれた

「起業を考えている若者たちから助言を求められますが、人生の目標を持ってチャレンジしてほしい」と語るジョナサンの新しい目標は、不動産業・貸家業に進出して、若者たちに機会を提供することです。「IOMのプログラムを通じた日本からの支援のおかげで、僕は従業員から人に雇用を提供できる経営者になりました」と、充実した笑顔で応えてくれました。

 

コミュニティーの底上げを通じた、テロへの包括的な社会経済対策

 

この地区ではIOMはさらにコミュニティー・センターでの仕立てや機械編み、理髪、コンビューター・スキルなどの訓練を支援し、「ジョナサンに続け」と人々の背中を押して応援しています。 

非常にベーシックな器具を使っての訓練ですが、一人ひとりの暮らし向きを大きく改善する可能性を持ったセンターで、熱気にあふれていました。 

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この日機械編みのコースを無事終了した受講者に修了証書を手渡す。自分の店を始めたいと語ってくれた Photo: IOM/Yoko Fujimura

「この隣近所には何もしないで暇を持て余している若者が大勢います。周りの女の子たちは学校にも行かず、早くに結婚しますが、私はそうはなりたくなかったのです。だからここでコンピューターの勉強をしてます」と、小学校に通いながら、コンビューター・スキルの訓練に参加している女の子が話してくれました。このセンターでは、地域の課題を映像で紹介するプロジェクトを立ち上げているそうです。 

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このようなコミュニティーの収入創出支援を通じて若者が過激主義に走る温床となっている貧困を緩和・解消することで、テロの発生の予防につなげる活動は、日本の支援を受けて国連開発計画(UNDP)ケニア沿岸部で行っています。モンバサの北のキリフィ県で、放置すれば非行・暴力的過激主義に走りかねない脆弱層の若者たちを対象に収入創出を支援する活動を視察しました。カラフルなビーズをあしらったサンダルや刺繍をほどこした革製品、はちみつ、そして沿岸部に暮らす民族の連帯のメッセージを機械でプリントしたTシャツをつくっていました。

 

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コミュニティー内の人々を対象に作るグループもあれば、e-コマースで積極的にマーケティングを考えているグループもあり様々です。革細工に携わる男性は「この活動のおかげでコミュニティーの間のいさかいが少なくなり、麻薬中毒から生活を立て直すことができました。やっと自己嫌悪から抜け出すことができました」と誇らしげでした。コミュニティーの安定化に貢献する日本からの支援に対して、感謝の気持ちが強く伝わる視察でした。

 

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ユース・グループから購入した品々。右上の革財布には、日の丸とケニアの国旗とがあしらわれている

日本がこの沿岸部で大規模インフラ事業とともに、このような地域の安定化と脆弱層の底上げに資する支援を国連機関を通じてケニアと協働で行っていることが視察を通じてよく理解することができました。 

 

日本の顔認証技術がケニアの空の玄関の安全を支える

 

さて、今回のケニア出張では、日本への帰国の途に就く直前まで視察を行っていました。日本の民間企業の顔認証技術が、年間700万人が利用するナイロビのジョモ・ケニヤッタ国際空港での出入国管理を支え、安全に貢献していると聞き、3月20日ケニアでの日程を終えて同空港から出国する直前に現場を視察することができたのです。 

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ケニア政府の出入国・国境管理改善のための包括的な取り組みの一環として、 日本政府の資金援助を受けたIOMからの協力のもと、ケニア入国管理局は新たなセキュリティシステムを2017年に同空港に導入。これはIOMと NECアフリカ社との官民連携に基づくもので、顔認証技術による監視システムの導入はアフリカの空港としては初めてだそうです。バングラデシュをはじめとする導入を検討する国々から視察があったと聞きました。

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サーバー・ルームには、日本メーカーのロゴが

最前線で活躍するのは、テクノロジーを駆使できる若手の職員たちです。自信あふれる表情で案内してくださいました。「より高性能のカメラがあれば、取り締まり強化につなげることができます」と話していました。

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ブラックリストとの突合について説明を受けた

IOMはケニアの国連チーム内で政治部門の共同リードを務め、コミュニティーの安定化と帰還者への社会統合支援を柱とした暴力的過激主義の予防と対策に加え、出入国管理・国境管理、ならびに人身売買の撲滅や国境をまたいだコミュニティー間の衝突の防止などを包括的に担っているのです。

 

2017年9月4日にジョモ・ケニヤッタ国際空港で行われた除幕式で、入国管理局のゴードン・キハラングワ局長は、「世界は多くの治安問題に直面しているので、強固な協力と安全対策が全ての国境で必要です。ジョモ・ケニヤッタ国際空港は非常に大きな空港で、我々はそれを誇りに思っていますが、その規模や誇りと同じぐらい、全ての旅客の安全について非常に留意しています。そして、この新しい技術によって、既に導入されていた強固なセキュリティシステムがさらに盤石になります」と新しいシステムへの期待を語っています。

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ジョモ・ケニヤッタ国際空港のスタッフの皆さん、そしてIOMケニア事務所のマイケル・ピリンジャー所長、井上悦子プロジェクト・マネジャーと

顔認証システムはIOMを通じた日本政府からの支援を受けて、ケニアタンザニアとの間のムフルベイ国境でもより簡便な方式で太陽光発電によって稼働しています。今後はモンバサの空港などにも導入が検討されています。 

ピリンジャー所長が指摘するように、テロ対策と暴力過激主義の予防は地域の安定のために地域全体での取り組みが不可欠です。こうしたことを受けて、今年7月ケニアのナイロビで、テロ対策と暴力的過激主義予防のためのアフリカ地域ハイレベル会合が開催されることになっています。

 

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