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女性自衛官として二度のPKO派遣で活躍 ~陸上自衛隊・川﨑真知子2等陸佐~

国連平和維持要員の国際デー」特集第1弾は、東ティモールと南スーダン国連平和維持活動(PKO)に参加した陸上自衛隊の川﨑真知子2等陸佐です。国連広報センターの根本かおる所長がインタビューを行いました。

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  陸上自衛隊 川﨑2等陸佐       国連広報センター 根本所長

 

他国の隊員との間に生まれた絆

川﨑2等陸佐が初めて参加したPKO活動は、2002年2~9月に参加した東ティモール派遣でした。薬剤師の資格を持っている川﨑2等陸佐は医療職として、約670名で構成される部隊の一員として東ティモールに派遣されました。 その時に、「自衛官として、こういう仕事にも関われるんだ」という気付きを得て、実際の活動を通じて「チャレンジングで面白い」と感じたと言います。
東ティモールでの主な仕事は、自衛隊の派遣部隊内にある医務室での勤務だったため、基本的に他国の部隊と交流はありませんでした。しかし、派遣期間中に東ティモールが独立し、その記念式典が開催された時にはオーストラリアやポルトガルの部隊と協力して、任務に当たったとのことです。
「どの国の隊員も、現地の役に立ちたい、せっかくの式典なので事故なく終えたい、というひとつの目標に向かって任務を遂行していました。その時に、国が違ってもピースキーパーとしての想いはひとつなのだと感じ、これこそがグローバル化が進む中で必要な姿勢なのではと思いました」

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現地では、国連東ティモール支援団(UNMISET)孤児院も訪問。
太鼓演奏や歌、折り紙などで彼女たちと心を通わせた


■高度な技術の提供が、現地のためにもなるとも限らない

何度か宿営地の近辺で交通事故が起き、手当てをした時に川﨑2等陸佐が心がけたことは、「きちんと現地の医療機関の技術水準に合った、必要最低限の処置をすること」でした。
「私たちにできるのは、あくまでもファーストエイド(応急処置)。現地の医療レベルがそれほど高くないので、あまりにハイレベルな処置をしてしまうと、現地の病院で継続的な治療ができなくなってしまうためです。支援側が進んだ技術を持っているからと言って、それを全て提供することは必ずしも現地のためにはならない。これは、自分自身にとっても大きな発見となりました」

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UNMISET宿営地近傍で発生した交通事故対応


■再びPKO活動で南スーダン

東ティモールで7カ月活動して日本に帰国した川﨑2等陸佐。「チャンスがあればまた参加したい」と考えていました。
「これから一歩を踏み出そうとしている国への貢献というやりがいだけでなく、自分自身も国際的な活動を通じてグローバルスタンダードに目を向け、成長できるチャンスだと感じていました」
防衛省が女性自衛官PKO派遣に積極的に取り組み始めたということもあり、2013年7月~2014年1月に国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)司令部要員(兵站幕僚)として二度目のPKO派遣の機会を得ることになります。
「最近はPKOや国際緊急援助活動等の国際活動で多くの女性自衛官が活躍しています。その状況に刺激を受け、『チャンスがあれば、ぜひまたPKOに参加したい』と熱望していました。そして2013年、『女性初の司令部要員としてUNMISSに』というお話をいただき、喜んで参加しました」

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(左)UNMISSモンゴル人チーフとの調整
(右)オーストラリア人のUNMISS同僚とのディスカッション


■「女性らしさ」は求められないからこそのやりがい

「一般的な日本の感覚では、厳しい仕事の場合、女性に配慮して男性を優先的に従事させる傾向にありますが、PKOミッションでは全く状況が違っていました」と川﨑2等陸佐は話します。
「南スーダンでUNMISSの司令部要員として任務に当たっていたとき、女性らしさを一度も求められなかったことが、働きやすさに繋がっていたと思います。たとえば、シャワーやトイレがない場所への泊りがけの出張でも、『女性だから難しいだろう』という先入観なくチャンスを頂き、自分が期待されており、やりがいのある仕事を与えられているという充実感がありました」

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(左)UNMISS新着任者への教育
(右)UNMISS人事担当者との打ち合わせ


■女性が立たされている厳しい状況に関心

一方で、女性PKO要員だからこそ自然と気付くこともあったと言います。
「現地で他国の女性隊員と話をしていると、『田舎に行けば行くほど、女の子の体格が男の子に比べて小さい』『おじいさんは多いが、おばあさんはあまり見かけない』ということが話題に上ることもありました。PKOが活動する国では、女性が厳しい環境に立たされている状況が良く目につきます。治安が安定したら、より多くの女性が国際社会のアクターとしてこうした状況を是正していくべきと考えます。」

そうした気付きが、実際の支援の現場で生かされることも。
「南スーダンでは特に、家事労働を女性が担っています。水汲みのために、国内避難民キャンプにある給水施設に並ぶのも大多数が女性です。私は水の補給などの調整を担当する部署にいましたので、女性たちにとって最も水汲みのしやすい時間帯や場所を調査し、少しでも彼女らの負担を減らすため関係部署との調整に努めました」

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2013年12月にスーダン人民解放軍の闘争が起きた後、
避難場所を探す首都ジュバの一般市民たち
(C)UN Photo/Julio Brathwaite


ちなみに、南スーダンの首都ジュバで働く自衛官、JICA、日本大使館国連PKO局地雷対策サービス部(UNMAS)等で働く日本人女性による「ジュバ女子会」というコミュニティーがあるとのこと。お互いの仕事の話のみならず、「現地の食材でこんな料理を作ったらおいしかった!」といった日常の情報も活発に交換し、ジュバで働く仲間として良好な人間関係を築いていたそうです。


■ミッションへの参加のみならず、事業企画にも携わりたい

川﨑2等陸佐は、日本の南スーダンでの自衛隊の活動に期待を寄せています。
「南スーダンでは、治安が安定していないため、田舎のみならず都市部でも学校に通えない子どもが増えています。そういった状況の中、派遣部隊に求められる仕事はパトロールの強化や支援物資輸送などに必要な道路等のインフラ整備を通じて治安の安定化に努めることです。
自衛隊の派遣部隊は、今は国連施設内にある避難民キャンプで施設の整備や補修などをしていますが、道路や橋の補修などインフラ基盤の整備も、治安の安定化を図り、国際機関やNGO等にとって活動しやすい環境をつくる上で重要な任務です。そのような治安の安定化に資する活動を自衛隊が一日も早く再開できるように、南スーダン国内の情勢が落ち着くことを願っています」

最後に、今後の抱負を、次のように力強く語ってくださいました。
「今後もチャンスがあれば、ほかのPKOミッションへの参加を希望しています。また、防衛省PKOだけでなく国際緊急援助隊や能力構築支援などの国際活動も積極的に行っていますので、事業の企画者の一員としても、これまで得た経験を生かしていければと思っています」

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■本記事を担当した国連広報センター・インターン齋藤実央)の感想

日本の自衛官としてPKOミッションを二度経験された川﨑2等陸佐。「現地の人の役に立ちたい」、「国際社会の一員として自分自身も成長したい」と語る凛とした姿勢に、同じ女性として大変刺激を受けました。

また、「『女性だから』という配慮がなかったからこそ、仕事にやりがいを感じた」とおっしゃっていたのが印象的で、「男女の区別なく扱われる国際的な仕事がしたい」と考える人にとって、PKOの現場で働くことが選択肢のひとつになりうるのでは、と感じました。