国連広報センター ブログ

国連のさまざまな活動を紹介します。 

パレスチナ難民のヘルスケアに取り組む ~清田明宏UNRWA保健局長~

国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)は1949年に設立された、パレスチナ難民を救済する国連機関です。教育や保健、救済、社会福祉など、主に基礎的なサービスを提供し、中東における安定の力となっています。支援の対象は、パレスチナ難民約500万人です。

UNRWAではパレスチナ難民を「イスラエル建国で家と生計を失った者とその子孫」と定義しており、パレスチナガザ地区ヨルダン川西岸に約200万人、隣国のヨルダンに約200万人、シリアとレバノンにそれぞれ約50万人が暮らしています。その3分の1がいまだに難民キャンプにいます。

ローカルのニーズをまずは把握し、それを診療に反映させることの重要性を強調する清田明宏UNRWA保健局長に、パレスチナ難民の医療支援やご自身が大切にしていることを聞きました。

f:id:UNIC_Tokyo:20140219173757j:plain

UNRWAの役割について語る清田保健局長

 

■「21世紀の難民の健康問題は慢性疾患」

UNRWA保健局の最大の課題は、パレスチナ難民の死因の7~8割を占める「生活習慣病」(慢性疾患)です。生活習慣病とは、糖尿病や高血圧、ガン、呼吸疾患などを指します。難民と聞くと、食料が不足し飢餓状況にあると思いがちですが、パレスチナ難民については必ずしも当てはまりません。実際には、栄養が偏ると体重が増えるという現実があります。貧しいために、パンや菓子中心の食生活を続けることで栄養素摂取が偏り栄養失調になる上、運動する場所がないことや喫煙することで、生活習慣病が進むのです。

この問題に立ち向かうために、UNRWAは「家庭医制度」を導入しています。この制度は、まさに清田保健局長が着任して取り入れたものです。医師を疾患別でなく地域別に割り振ることで、患者は常に同じ家庭医(医師、看護士、助産婦から成るファミリー・ヘルス・チーム)に診てもらうことができます。生活習慣を改善するには患者が医師、家族と一体になって取り組む必要があります。

清田保健局長は「自分ではあまり料理をしないため、医師から妻に食事の改善の必要性を伝えてもらう必要があります。私は、すぐジャンクフードに走ってしまうので(笑)」とご自身のエピソードを交えながら、家庭医制度の利点を強調しました。2年前に始まった同制度は現在、139カ所の診療所のうち、60カ所に導入。2015年末までに導入率100%を目指しています(シリアを除く)。

 

f:id:UNIC_Tokyo:20140520153310j:plain

2014年2月、家庭医制度を導入したヨルダン・パレスチナ難民キャンプの診療所

 

ただ、医療だけで生活習慣病が治る訳ではありません。昨年には糖尿病キャンペーンで、料理教室と運動教室を開催。清田保健局長は、難民の方に連れられてジムへ行き、走っている姿を見せ付けられた!と当時の様子を語ってくれました。体重を減らすことができた難民からは「床でお祈りができる」と喜ばれるそうです。UNRWAは今年、これまでの取り組みに加え、生活習慣改善を啓蒙するために健康教育のアニメを制作し、テレビで放映する予定です。

UNRWAの診療所は、ほかの地域に比べてスタッフがまじめに仕事をしているという印象を受けるといいます。その理由はUNRWAの職員はほとんどが難民で、「同じ同胞に仕えている」という誇りにあります。清田保健局長は、スタッフの考え方を変えることで貢献したいと意気込みます。「同じことを長くやっていると士気が下がるため、どうやって希望を与えられるかが大切だと思っています。問題を単純化させて、単純な答えを導く。難民の健康面では生活習慣病だけが問題なのではありませんが、問題を整理して、道筋をつけてあげるとUNRWAのスタッフは進むことができます」

 

f:id:UNIC_Tokyo:20140520154343j:plain

世界糖尿病デー(11月14日)の啓発イベントに参加

 

  ■「大切な人は誰か」を心に留めて

UNRWAは患者の一次医療(外来診療)を、パレスチナ暫定自治政府は二次医療(入院)を行っていますが、サービスの重複化をなくすために、電子カルテを導入するなど、相互に協力しあっています。現場では、日本の技術も生かされています。例えば、診療所で配られる母子保健手帳は国際協力機構(JICA)によって導入されました。グローバル・ヘルスでは、資金と頭脳が重要になるといいます。日本は、安さの実現や技術の高度化だけでなく、そうした技術や医薬品をどう売り込んでいくかが課題だそうです。

パレスチナで活動を続ける清田保健局長には、大切にしている信念があります。「いつも自分にとって大事な人は誰かを考えています。私の場合は患者さんです。UNRWAの仕組みでは、難民がボスで、本部よりも、難民の診療を実際に行う診療所がうまく行っているかどうかが重要なのです」

f:id:UNIC_Tokyo:20140219172707j:plain

 

なお、清田保健局長は以前、国連広報センターの広報誌に医療サービス改革について寄稿してくださっています。こちらも併せてお読みください。

「すべてのパレスチナ難民に家庭医を~UNRWA医療サービス再生計画~」

国連広報センター広報誌『Dateline UN 』Vol.80, 2012年)