国連広報センター ブログ

国連のさまざまな活動を紹介します。 

SDGsを伝える仕事(1)― 「誰一人取り残さない」社会への旅路(国連広報センター 根本かおる所長)

この度2021年度の日本PR大賞「パーソン・オブ・ザ・イヤーという賞をいただき、身の引き締まる思いだ。幅広い分野の関係者の方々が、SDGsに真摯に向き合って、熱意をもって取り組んでくださったおかげで、この場をお借りして御礼申し上げたい。授賞理由に「目標年となる 2030 年までの『行動の 10 年』という新たなフェーズに入り、社会の仕組みレベルの変革が急がれる中、根本氏が率いる国連広報センターがSDGsの達成に向けての大きなムーブメントをつくることの期待を込めて」とある。つまり今後への期待に基づく授賞だ。インパクトのある運動のレベルにまで持っていかなければ、と責任の重さを感じている(受賞に際する私のメッセージはこちらのページで3月10日まで公開している)。

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国連本部を訪れる子ども。子どもたちの未来のために、SDGsを推進していきたい  
© UN Photo/Loey Felipe

 

その道のりは厳しいだろうが、アントニオ・グテーレス国連事務総長の信念でもある「ネバー・ギブアップ」の精神で、ブレークスルーの実現へのソーシャル・ムーブメントを起こしていきたい。ゼロ・サム型の思考で社会の亀裂をさらに深めてブレークダウンしてしまうのか、それとも連帯に基づくプラス・サム型の協調でブレークスルーすることができるのか、私たちは今大きな岐路に立たされている。同時に、SDGsの有用性が試されているとも言えるだろう。

 

この機会に、SDGsという小舟に乗って大海原に漕ぎ出した頃に立ち戻って記しておきたい。

 

2016年のSDGsの実施のスタート地点において、不安が無かった訳ではない。SDGsを含む「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択されるまでのプロセスにおいて、日本の市民社会の代表らが国連関係者や日本政府と意見交換しインプットを行う場面に関わる機会はあったものの、2015年9月25日の国連サミットで採択されてから、最初はどう日本で広報対応していけばいいのか考えあぐねた。17分野にわたる目標・169ものターゲットを指して「『きれいごとの羅列』の『理想論』」とする厳しい指摘もあった。

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2030アジェンダとりまとめに至るプロセスでの日本の市民社会との意見交換(2014年)。アミーナ・モハメッド国連事務総長特別顧問(当時・現国連副事務総長)の訪日時に。
筆者も参加 © UNIC Tokyo

 

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SDGs採択前夜、国連本部ビルはプロジェクションマッピングSDGsに染まった 
© UN Photo/Cia Pak

 

国連の広報アウトリーチ活動において、国連としてのグローバルなメッセージをどのようにそれぞれの国や地域の文脈に合わせて浸透させていくかは、多くが現場を司る担当者に任されている。だからこそ、知恵を絞りながら、醍醐味とやりがいを持って発信にあたることができる。野心的な目標を掲げて世界を変革しようという「歴史的な決定」である「2030アジェンダ」には、私たちのやる気に火をつけてくれる特別なメッセージがあった。

 

一つは、2030アジェンダの「誰一人取り残さない」という基本理念だ。

 

「この偉大な共同の旅に乗り出すにあたり、我々は誰も取り残されないことを誓う。人々の尊厳は基本的なものであるとの認識の下に、目標とターゲットがすべての国、すべての人々及び社会のすべての部分で満たされることを望む。そして我々は、最も遅れているところに第一に手を伸ばすべく努力する。」

 

人権に基づく「誰一人取り残さない」という理念は、取り残されがちな人々の存在を最初から考慮したSDGs推進施策を取ることを求めるものだ。過去の途上国の開発理論では、国が豊かになれば、雫がしたたるように、貧しい人々にも豊かさが行き渡ると考えられていたが、現実はそうではないと突きつけられたことが、人権に裏打ちされた包摂性に依拠するSDGsの大原則につながった。

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2015年9月、2030アジェンダを採択した国連総会のSDG Summitで、当時18歳のマララ・ユサフザイ氏ら(中央)193人の若者が、SDGsの実現を政治リーダーに訴えた
© UN Photo/Mark Garten

 

個人的なことだが、私は以前うつを患い、闘病生活を強いられたことがある(詳細は2021年6月のブログ記事を参照)。療養のため赴任先から日本に帰国中に東日本大震災に遭遇したことが、価値観の変化につながった。無理のない自分らしい生き方を模索していた私の背中を押すことになり、その結果、15年間勤務した国連機関を退職した。フリーランスで難民問題などについて「書くこと」を通じて少しずつ社会生活を取り戻していった。言葉を紡ぐことが社会復帰につながったと言っても過言ではない。

 

様々な事情やニーズを抱える人々の存在を最初から認識して仲間に入れようというSDGsの社会包摂の理念は、斜め方向の選択をした自分にとって、心に響くメッセージであり、自分としても大切にしたいと思った。SDGsについて一般の方々を対象に講演しても、一番多くの反響を得たのは、この「誰一人取り残さない」という原則への共感だ。

 

もう一つは、すべての国が取り組む「普遍性」と「統合力」というSDGsの特性だ。「開発」はややもすると、実施責任者としての途上国と実施手段提供者としての先進国という二項対立の構図であり、SDGsの前身のミレニアム開発目標MDGs)もその傾向が強い。しかし、SDGsは先進国・途上国の区別なく、すべての国連加盟国に適用されるのだ。

 

「このアジェンダは前例のない範囲と重要性を持つものである。 このアジェンダは、各国の現実、能力及び発展段階の違いを考慮に入れ、かつ各国の政策 及び優先度を尊重しつつ、すべての国に受け入れられ、すべての国に適用されるものである。これらは、先進国、開発途上国も同様に含む世界全体の普遍的な目標とターゲットである。これらは、統合され不可分のものであり、持続可能な開発の三側面をバランスするものである。」

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2030アジェンダでは、5つのP(People, Prosperity, Planet, Peace, Partnership)が柱になっている © UNIC Tokyo

 

2013年夏から日本で国連を伝える仕事に関わってきて、「国連や国際協力は海外のことが中心で、自分たちや国内課題には関係ない」と人々の心のシャッターが下りてしまうことに厚い壁を感じていたのだが、先進国にも適用されるというSDGsの普遍性がこの壁に風穴を開ける突破口になるのでは、と感じた。さらに、経済・社会・環境の調和と統合は、国連機関ごとに所管分野の「タコつぼ」にとらわれている限り、突破力を発揮し得ないと常々痛感していた立場には、セクショナリズムを打破して結集する上で力強いお墨付きでもある。よし、「誰一人取り残さない」と「普遍性」と「統合力」を格別のソースとして料理していこう ― SDGsの出発点において、そう心に決めたのだった。

 

これを起点とするその後のSDGs発信の「試行錯誤」と「手応え」についても、いずれブログに記していきたい。

 

多くの方々に、SDGsを含む「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の文書全体を読むことをお勧めする。この序文と宣言にこそ、どんな世界を目指したいのか、という願いとビジョンが打ち出されているからだ。そこには「私たちの共通の旅路」という言葉が出てくる。コミュニケーションに携わる方々には、是非その伝える力で、この「ジャーニー」に向けて人々のやる気に火をつけていただきたい。

SDGsを合言葉に、仲間を増やして  ~ 今年も国連寄託図書館研修会をオンライン開催<後編>

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国連広報センターの千葉です。1月20日(木)に開催された国連寄託図書館研修会の様子を綴らせていただいています。

前編は午前の部で行われた、国連広報センターからの情報提供と、図書館の皆さんからのSDGsへの取り組みに関する情報共有の様子をお伝えしました。

後編は午後の部で行われた、二つの図書館へのオンライン訪問と、図書館同士の相互交流について振り返ります。

東京大学総合図書館ツアー>

昼食休憩をはさんで、午後の部の前半は、私たちのネットワークに加わる2つの図書館をオンライン訪問しました。

まずお訪ねしたのは、東京大学総合図書館です。

国連寄託図書館に指定されている東京大学総合図書館は、東京大学総長も務めた建築家の内田祥三氏が造ったもので、テレビ番組「美の巨人たち」(テレビ東京)で又吉直樹さんが訪ねた様子が放送されるなどしていますが、今回の研修で、あらためて、同図書館の大澤類里佐さんからくわしくご案内いただきました。

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東京大学総合図書館のオンラインツアー、左上が大澤さん


参加者の方々からは、SDGsの観点から、構造の強靭化を図りながらも、意匠を含め創建当時の建物を大切にする、同図書館の建築の精神性におおいに感銘を受けたと称賛の声があがっていました。大澤さんのご説明から、リニューアルオープンした同図書館で多くの貴重な資料がしっかりと守られ、そして活用されていることもまたよくわかりました。

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東京大学総合図書館


梼原町立図書館ツアー>

次に、高知県梼原町立図書館をお訪ねしました。

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梼原町立図書館(雲の上の図書館)


梼原産の木材が活用され木のぬくもりがやさしい図書館は、建築家の隈研吾さんが設計を手掛けたもので、通称、「雲の上の図書館」として知られています。

この日の特別ツアーを準備してくださったのは、同図書館の見目佳寿子さん、大村太一郎さん、木稲沙央里さん、奥﨑麻理さん、来米優作さんの5人です。ツアーは、ライブ形式で、同図書館の入り口付近で図書館を囲む豊かな自然環境を映しだすところから始まりました。奥﨑さん、来米さんのお二人がカメラを台車に載せて、いろいろな場所にレンズを向け、大村さんと木稲さんが一緒になって館内を歩きまわりながら説明してくださいました。SDGsの各ゴールをテーマにした充実の選書コーナーについてのご案内もありました。最後は、見目さんも加わり、参加者からの質問に答えてくださいました。

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左から、梼原町立図書館の大村さん、見目さん、木稲さん

ツアー後、参加者の皆さんから、同図書館が日本十進分類法ではなくテーマごとに図書を配架していることや楽しい場所としての図書館づくりをしていること、地域への配慮、自然との調和を図っていることに大きな気づきがあったとの声が聞かれました。

今年の研修会のオンラインツアーは、東京の都心部にある大きな大学の図書館と、地方の小さな街の公共図書館という対照的なふたつの図書館を選ばせていただきましたが、参加者の皆さんは、それぞれの図書館で、地域や利用者にあわせた工夫がされていることに高い関心を寄せていました。

<図書館間の交流 ―ブレイクアウトセッション>

研修の最後のプログラムとして、図書館の皆さんがリラックスして互いに交流する場をご提供しました。約一時間半、参加者の皆さんをブレイクアウトルームに振り分け、たっぷりと交流していただきました。

やり方としては、できるだけ、地域、館種を超えて、多くの方がたと交流していただくべく、各回顔ぶれを変えて2、3人ずつ、1回につき10分ほどのブレイクアウトセッションとし、それを10回ほど繰り返しました。

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参加者はそれぞれ2、3人ずつのブレイクアウトルームへ


参加した皆さんは、10分毎に館を変えて交流するなかで、すでにSDGsに関連したさまざまな取り組みを実践している他館から、自分のところでも取りくめそうなことについてアドバイスを受けたり、地域や館種を超えて今後一緒に協力できそうなことを熱心に考えたりしていました。この交流の時間について、参加者の皆さんから、以下のような感想を聞きました。

「普段は機会がない、館種を超えた交流ができたことがとても役立った」

学校図書館との交流を通して、あらためて若い世代を巻き込むことの重要性を感じた」

「自分と同じ新人の方とお話しできたことがよかった」

SDGsの展示を行う、貸出が増えるという先に何を考えるべきかを深く議論できた」

「通常の企画展示はSDGsの目標をあわせて紹介できる機会でもあると示唆をもらえた」

「国連広報センター作成の広報物の積極的活用の経験を聞き、参考になった」

「除籍本を捨てず、SDGsの観点からNPOに再販売した経験を聞いて学びになった」

<終わりに>

今年の寄託図書館研修会を無事終えて、あらためて実感したのは、国連寄託図書館を中心としながら、SDGsを合言葉に、地域、館種を超えてゆるやかに広がる図書館ネットワークの可能性です。図書館の自由交流セッションの時間、2,3人ずつに分かれたそれぞれのブレイクアウトルームで、公共図書館学校図書館公共図書館大学図書館、あるいは学校図書館専門図書館など、館種の違いを超えて、意欲的に学びあったり、新しいコラボレーションの可能性を探りあったりしておられたことを聞いて、とても心強く感じました。今年の研修でのもっとも大きな成果は、こうして館種を超えた各地の図書館の担当者同士が情報交換する時間をたっぷりとって、その関係を一層深めるお手伝いができたことだったのではないかと思いました。SDGsを考える際に大切なキーワードの一つは「つながり」ということです。このゆるやかな図書館のつながりが、図書館のSDGsへの取り組みをさらに豊かに広げていくことを期待したいと思います。

さらに強く実感したことをあげるとすれば、やはりデジタルの強みということです。コロナ禍で、対面開催ができないのは非常に残念ですが、デジタルは、参加の幅を広げることができます。単に物理的な距離を超えるというだけではありません。今回、障害のある参加者の方から、図書館ツアーを含む研修会に他の参加者と同じように参加できたことの喜びをお聞きし、デジタルの利用の価値の大きさを感じました。

最後に、上述のとおり、公立中学校図書館が初めて私たちのネットワークに加わり、今年の研修にも参加していただいたことで、館種を超えた図書館のつながりにまたあらたな可能性を開くことになったと強く感じています。すでに全面実施された新しい学習指導要領のもと、学校において、教科横断的にSDGsを教えることが求められていますが、そうした中で、学校図書館は、まさに各教科をつなぐ主体的で中核的な役割を果たすことができます。今後、私たちのネットワークに公立学校図書館のお仲間が少しでも増え、研修の場で、取り組みの事例を共有していただけることを願っています。(了)

SDGsを合言葉に、仲間を増やして  ~ 今年も国連寄託図書館研修会をオンライン開催<前編>

 

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こんにちは、国連広報センターの千葉です。

2022年1月20日(木)、SDGs(持続可能な開発目標)を合言葉に、国連寄託図書館の年次研修会を開催し、国連広報センターから参加者の皆さんにSDGsをはじめ国連が取り組む優先課題について情報を提供するとともに、皆さんからそうした課題の啓発のための各館での実践事例を共有していただきました。

以下、この日の研修会について、ブログを綴らせていただきます。

<全国各地からの参加>

コロナ禍が続くなか、今年もオンライン開催とした研修会は、国連寄託図書館のネットワークと、それを中心にして国連広報センターとゆるやかにつながる図書館の皆さんから、あわせて44館(参加者数は72人)にご参加いただきました。

このゆるやかなネットワークは引き続き広がっており、昨年一年間で、北は青森県、南は宮崎県まで、全国各地から17の図書館がゆるやかにつながる図書館として加わっていただき、そのうち以下の12館が今年の研修会に参加されました。

― 墨田区立ひきふね図書館(東京)、豊島区立図書館(東京)、大正大学(東京)、墨田区立吾嬬第2中学校図書館(東京)、千葉大学附属図書館(千葉県)、千葉経済大学総合図書館(千葉県)、植草学園大学附属高校図書館(千葉県)、洲本図書館(兵庫県)、あかし市民図書館(兵庫県)、新富町図書館(宮崎県)、梼原町立図書館(高知県)、武雄市図書館(佐賀県)。

 

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(左上から時計回りで)
あかし市民図書館、梼原町立図書館、洲本図書館、新富町図書館、千葉大学附属図書館


これら12館を含め、研修に参加した図書館の皆さんと対面でお会いできないのは残念でしたが、オンライン形式で開いたからこそ、遠い地域からの参加館が増え、また各館から複数の職員の方々に参加していただくこともできました。まさにデジタルの強みです。

 

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オンライン研修会に参加した皆さん


午前10時から午後6時半まで、昼食休憩をはさんで、とても密なスケジュールでしたが、多くの皆さんに最初から最後まで参加していただきました。

研修は、まず午前の部で、国連広報センターからの講演・ブリーフィングと図書館の皆さんの活動報告が行われました。

<国連広報センターからの講演・ブリーフィング>

午前の部はまず冒頭、国連広報センターから、所長の根本かおるが参加者の皆さんを歓迎し、図書館の日頃の取り組みに感謝の言葉を述べました。ご挨拶の後、根本は講演し、グテーレス国連事務総長 の年頭メッセージをご紹介し、コロナ禍で引き続き大きな影響を受けている中で世界の連帯の必要性をあらためて強調するとともに、今年1年間を見据えた国連グローバルコミュニケーション局(DGC)の活動戦略に話を及ばせながらSDGsと国連をめぐる動向をご説明しました。

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グテーレス国連事務総長の年頭メッセージ

根本に続いて、国連広報センターの全職員からブリーフィングをご提供しました。まず広報官の佐藤が今年の広報重点分野や行事予定などについてくわしくご案内したあと、その他の職員もまた、メディアへのアプローチ、渉外対応、ソーシャルメディア、ウェブサイト、翻訳、印刷物、人事・財務など、それぞれの職域から図書館の活動に参考としていただけそうな弊センターの活動を網羅してご紹介しました。

国連広報センターからの講演・ブリーフィングについて、図書館の皆さんからは、後日、「そこから得た情報を図書館に戻ってからさっそく関係者に共有した」「今後の図書館活動に活かせるよう工夫したい」といった嬉しい声をお聞きしました。

<図書館からの活動報告>

毎年1月に行われる研修会は、図書館の実践共有のための年に一度の貴重な場でもあります。研修会に向けて、各館から提出された活動報告は事前に参加者の皆さんに共有していましたが、研修当日にも、参加したすべての図書館から、口頭報告をしていただきました。各館からの報告はリレー形式で、1つの図書館の代表者が報告を終えると、次の順番の館の名前を呼んで、発表をつないでいただきました。途中、学校図書館では授業終わりのチャイムが鳴ったり、公共図書館では業務関連の電話が入ったりしましたが、そうした現場ならではのさまざまな音が効果音となってライブ感を醸しだしました。

 

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それぞれの活動を報告する図書館の皆さん

図書館の皆さんから発表されたSDGsへの取り組みの事例報告は内容豊かでした。昨年に比べて、ウェブページの充実、SDGs関係図書のウェブ本棚、SNS発信などデジタルの取り組みにより一層力を入れようとしている様子がうかがえました。

 

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さまざまな図書館によるSDGsへの取り組み

それと同時に、今年はさまざまなパートナーと協力した取り組みの報告が多くありました。たとえば、次のような取り組みです。

広島市立中央図書館からは、一般社団法人広島青年会議所から本約280冊と本棚の寄贈を受けてSDGsコーナーを設置したこと。また、金沢市立泉野図書館からは、三菱広報委員会、公益財団法人日本ユネスコ協会連盟の協力を得たSDGsの17の目標に沿ったアジアの子どもたちの絵日記パネル展示を実施したこと。東北大学附属図書館からは、留学生スタッフ(大学院生)の協力を得たSDGs啓発図書展示。国立国会図書館からは、国連広報センター所長と国際子ども図書館長との対談やSDG Book Clubブックリストに掲載された絵本の作者(天童荒太氏、Oge Mora氏)へのインタビュー動画掲載。千代田区立日比谷図書文化館からは、障害者福祉センター、児童館、NPOミュージアム等と連携して海洋プラスチックごみ問題と地球環境、環境アートの世界へ誘う展示実施。豊島区立図書館からは、図書館敷地内のミニガーデン(野菜等を栽培)を利用し庁内環境関連部署と連携した生物多様性を学ぶ事業・展示。相模原市立図書館からは、相模原市SDGs推進室と相模原事務用品協同組合の協力によるSDGs読書感想画コンクールの開催。新富町図書館からは、小中学校のSDGs関連授業の図書支援の実施。長野県上田染谷丘高等学校図書館からは、上田市立上田図書館とのコラボ企画「SDGsえほん展」の実施。千葉市男女共同参画センター情報資料センターからは、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)駐日事務所の協力による写真パネル展・図書展示の実施が共有されました。

公立中学校の図書館が初参加したことも今年の研修会を特徴づけたことの一つでした。参加したのは、墨田区立吾嬬第二中学校図書館。図書館長を兼任する駒田るみ子校長先生から、公共図書館からの司書派遣事業やSDGsを取り扱う授業への図書館支援などの実践が共有されました。

 

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SDGsを学ぶ中学生たち @墨田区立吾嬬第二中学校


図書館の活動報告の共有の時間について、皆さんから次のような感想をお聞きしました。

「それぞれの発表が大変刺激的で興味をかきたてられた」

「コロナ禍にもかかわらず広がったネットワークに目を見張った」

「館種を超えた集まりだからこその情報共有の可能性や広がりの重要性を感じた」

「オンラインだからこそ、幅広い皆さんの取り組みが聞けて良かった」

「各館の活動状況をお聞きしながら、頭の中にいろいろなプランが湧いてきた」

昨年に引き続き、参加者の皆さんの多くは、対面参加が叶わないことのマイナスよりも、デジタルだからこそ、距離や障害を超えて、日本各地の多くの館員たちが参加することができた、多忙な現場から参加する多くの人の臨場感あふれる報告を聞けた、と喜びを口にしておられました。

気が付くと、あっという間にお昼の時間を過ぎて、研修前半が終わりました。

昼食休憩をはさんで、研修後半が行われました。

研修後半のプログラムは館種の異なる二つの図書館へのオンライン訪問と、図書館同士の相互交流でした。

後編へと続く。

2021年を振り返って 国連広報センター所長

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今年9月の国連総会ハイレベルウィークで、SDGs推進の機運を高める会合「SDGモーメント」に特別ゲストとして出席したBTS ©︎ UN Photo/Cia Pak

 

今年の「DIME トレンド大賞」で、持続可能な開発目標(SDGs)がライフスタイル部門ならびに大賞に選ばれました。大賞の授賞理由として、2021年は世界各地で立て続けに気候災害が起きるとともに、人種差別、ジェンダーギャップ、貧困、飢餓など、地球規模で解決していかなければならない様々な問題を身近なニュースとして目にする機会が増えた1年となったこと。それらの課題を統合的に捉えて世界を大きく変革することを目指すSDGsは、2016年に実施こそ始まっているものの、今年は「誰かがやる」のではなく「自分たちでもできるんだ」と生活者一人ひとりに浸透した年になったこと、が挙げられています。家で過ごす時間が増えて、工夫しながら暮らすことが定着したことも背景にあるのでは、と個人的には見ています。

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12月15日に発表された2021 第34回 小学館DIMEトレンド大賞でも、今年生活者ひとりひとりに意識が浸透したとしてSDGsが選ばれた ©︎ 小学館DIME 

 

「ユーキャン 新語・流行語大賞」でも、SDGsをはじめ、「ジェンダー平等」、「ヤングケアラー」、「親ガチャ」というような社会課題に関する言葉が、その年の世相を表す「ユーキャン 新語・流行語大賞」の30のノミネートに入り、ジェンダー平等と親ガチャはベスト10にも選ばれています。昨年のノミネートは、「BLM運動」こそ入っていますが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が始まって未知のウイルスとの闘いに明け暮れた年だけあって、コロナに関連して新たに広く使われるようになった言葉が中心でした。それに対して今年は、コロナが長期化する中で明らかになった深刻な貧困・格差や日本の構造問題とそれに伴う不平等感につながる言葉のノミネートが増えた、とも言えるでしょう。

ギリギリの生活をしていた女性、子ども、若者、高齢者、外国人、障害者などの「取り残されがちな人々」が、長びくコロナ禍で昨年以上に苦境に陥り、見えにくかったその存在と直面する課題が可視化され、人々が格差や不平等に敏感になるとともに、だからこそ「誰一人取り残さない」を大原則として掲げるSDGsに共感が集まったのでは、と感じています。

SDGsがここまで浸透したのは、まだ誰も関心を示してくれなかった頃から、この17もの分野にまたがる野心的な世界目標を推進するという、国連にとっても世界にとっても初めての「ニュー・フロンティア」に真摯に向き合い、SDGsの実践にエネルギーを注いできてくださった多くの関係者の方々の努力の結晶だと思っています。

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2015年にSDGsが採択されたときの国連総会議場の様子 ©︎ UN Photo/Cia Pak

 

日本政府と各地の自治体のSDGsの取り組みはもとより、企業や金融機関の経営戦略に盛り込まれ、ESG投資が浸透し、脱炭素社会実現への道筋が議論され、子どもたちが学校でSDGsについて学ぶようになり、メディアで大規模なキャンペーンが展開されるようになりました。「誰一人取り残さない」という大原則に基づいて、貧困や様々な格差の課題を政府や自治体の施策に盛り込むことを市民社会が粘り強く働きかけてきました。サーキュラー・エコノミー型の事業を若い起業家たちが立ち上げています。実施が始まってからまる6年のプロセスの中で、私自身、思ったように浸透が進まなくて気持ちが萎えることが何度もありましたが、その度に多くの関係者の熱意や思いに励まされていました。この場をお借りして、同志の皆様、多くの関係者の皆様に心から御礼申し上げます。

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今夏国連広報センターが開催したSDG ZONE at TOKYOでは、アスリートをはじめとした様々な分野の方々にご登壇いただいた ©︎ UNIC Tokyo

 

アントニオ・グテーレス国連事務総長が今年9月、彼の2期目に向けたビジョンとも言える「私たちの共通の課題(Our Common Agenda)」報告書を発表する中で強調したように、私たちの選択によって、2つの対照的な未来が待っています。1つは、ブレークダウン(崩壊)と絶え間ない危機に見舞われる未来。もう1つは、より環境に配慮した、より安全な、ブレークスルー(突破)が備わった未来です。私たちの世界は、岐路に立っているのです。

厳しい現状があります。コロナ禍に陥る前から、2030年までのSDGs達成の目途は立っていませんでしたが、コロナによって達成はさらに遠のいてしまっています。例えば、2020年にはこの数十年で初めて極度の貧困が増加し、1億2000万人規模の人々が新たに極度の貧困に追いやられました。SDGsは2030年に誰も極度の貧困という状況にいないことを目指していますが、このままでは2030年の世界の貧困率は7パーセントとなる見込みです。さらに撲滅をめざしている飢餓についても、飢餓人口は増加しています。コロナ・気候変動・紛争の三重苦で、2020年には世界で最大1億1600万人規模の人々が新たに飢餓を経験したと推定されます。これは、たったの1年でおよそ2割も増えたことを示しています。女性についても、雇用の面では、コロナで職を失う確率が女性は男性より24パーセント高く、収入が減る可能性が50パーセントも高いとの研究結果があります。女性と女児に対する暴力もコロナ禍で増加しています。

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SDGsの17の目標一つ一つの状況をデータも交えて示す「SDGs 報告 2021」概要のインフォグラフィックスこちらから ©︎ UNIC Tokyo

 

SDGsの礎とも言える気候変動を「人類最大の脅威」と位置付け、最優先で取り組んでいるグテーレス事務総長は、先月グラスゴーで開かれた気候変動枠組条約第26回締約国会議「COP26」で2度現地入りしています。

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COP26における世界リーダーズサミットにて演説するグテーレス事務総長 ©︎ UNFCCC

 

COP26が「グラスゴー気候合意」を採択して閉幕したのを受けて発表したビデオメッセージの中で事務総長は、会議の成果に言及しながらも、「今日の世界の利害や矛盾、政治的意思の現状を反映しています。これは重要なステップですが、不十分です」と落胆をにじませました。

気候変動をはじめいずれの社会課題にも、簡単な解決方法はありません。巨大なジグゾーパズルを前に、ピースを一つずつ丁寧にはめ込んでいく忍耐力と諦めない精神が必要になります。事務総長はビデオメッセージの中で、COP26の結果に失望しているであろう若者、先住民リーダー、女性たちに対してこう呼びかけ、メッセージを締めくくっています。

「決して諦めないでください。決して後退しないでください。前進し続けようではありませんか。私はこの道のりをずっと皆さんと共にあります。COP27は今始まったのです。」

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国連総会中に開かれた気候変動とエネルギー貧困に関するハイレベル対話でも、グテーレス事務総長は各国に気候変動対策の強化を訴えた ©︎ UN Photo/Manuel Elías

 

SDGsの推進や格差への関心を一過性のトレンドや流行、ブームで終わらせてはなりません。是非多くの方々に「ネバー・ギブアップ」の精神で人々の理解・選択・アクションを支え合い、SDGsが2030年までに到達しようとする高みを一緒に目指し続けていただきたいと願っています。来る2022年は、SDGs実施推進の15年間の中で「折り返し地点」となる2023年を控え、非常に重要な準備の年となります。一緒にSDGsを継続的なトレンドにしていきましょう!

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今夏、中満国連事務次長が出演したBS日テレ「深層ニュース」にて、出演陣の皆さんと記念撮影 ©︎ Kaoru Nemoto

 

「みんなで乗り越えよう、新型コロナパンデミック:私はこう考える」(34) 杢尾雪絵さん (後編)

国連諸機関の邦人職員幹部をはじめ、様々な分野で活躍する有識者を執筆陣に、日本がこのパンデミックという危機を乗り越え、よりよく復興することを願うエールを込めたブログシリーズ。第34回は、杢尾雪絵(もくお ゆきえ)さん(UNICEFレバノン事務所代表)からの寄稿の後編です。

 

新型コロナウイルスパンデミックが子どもたちに与えた多大な影響 (後編)

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大学卒業後、都市計画建築コンサルタントとして就職後、青年海外協力隊員(JOCV)や国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の国連ボランティア(UNV)を経て、1991年から1994年末まで米コーネル大学地域計画学科に留学。国連食糧農業機関(FAO)ローマ本部インターンを経て、1995年にジュニア・プロフェッショナル・オフィサー(JPO)として国連児童基金UNICEF)モンゴル事務所に勤務。UNICEFコソボ事務所長(1997年〜)、モンテネグロ事務所長(1999年〜)、タジキスタン事務所代表(2001〜2008年)、ウクライナ事務所代表(2009年〜2014年)、キルギス共和国事務所代表(2014年~2019年)。
2019年7月より現職 © UNICEF

前編でみてきたように、子どもたちへのパンデミックの影響は多様です。ですから、私たちの対応も同様に多様で多層的である必要があります。社会全体で、すべての子どもたちへのより高いレベルの持続的な投資を確保する必要があります。では、「子どもたちへの持続的な投資」とはどういうことなのでしょうか。

 

世界の指導者たちは、将来の人的資本である子どもたちの健全な成長を、国の復興計画の中心に置くべきです。また、国家間の経済格差を考えると、国際協力との連帯がさらに重要になります。世界が一体となってSDGs(持続可能な開発目標)を成し遂げるにあたっても、子どもを中心とした社会政策が必要となります。

 

具体的には、いくつかの優先事項を掲げる必要があります。まずはメンタルヘルスとメンタルウェルビーイングに対処できる社会を創ること。子どもたちに限らず、誰もがコロナ禍において、何らかの形でストレスをためてきました。精神医療に対しては、今現在でもスティグマ(差別や偏見)が伴うといわれていますが、このパンデミックを機に、世界がそうした偏見を克服して、人々の、特に子どもたちと青少年の精神医療と心理的サポートを優先事項にする必要があります。

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感染予防対策を講じ、コロナの隔離病棟で子どもたちや若者向けのメンタルヘルスセッションを行う様子(ネパール、2021年6月撮影)© UNICEF/UN0472876/Nepal

 

次に、デジタル化された情報を正しく有効に、そして効率的に普及する、デジタル情報社会を構築することです。過去18カ月間は、オンラインによる情報交換とデジタル格差の大きな社会的影響が顕著になりました。学校教育だけでなく、多くの職場でもデジタル化が熱心に採用され、高く評価されてきました。その一方で、多くの貧しい国の子どもたちは同等の恩恵に預かることはできませんでした。国家間および国内における「デジタル格差」を克服すべく、世界の情報網を有効に活用することが大切です。デジタル化された子育てと教育に関する資料のより広範な普及は、教育・児童福祉現場で役立つだけではなく、子どもと青少年が、この過去一年半の教育の遅れを取り戻すことにも有効でしょう。

 

また、ソーシャルメディアを有効的に使うことは、21世紀の情報社会には欠かせないことです。ソーシャルメディアは正しく使用されれば、最も有効な情報発信と情報交換が可能なメディアです。たとえば、質の高いメンタルヘルス支援やキャリアプランニングに関する資料を青少年に普及したり、誤った情報を信頼性のある情報元からの発信で訂正する際などにも有効です。デジタル情報技術はこの先ますますの発展を成し遂げると思いますので、デジタル情報を有効に駆使する政策は将来的な持続性も高いでしょう。

 

さらには、母子保健医療の新たな優先事項を掲げることも大切です。新型コロナウイルスに関する情報は今でも医療情報の大半を占めていますが、通常の母子保健医療サービスの定期的な受診がないがしろになってはいけません。パンデミック前には、世界中でポリオや麻疹などのワクチン接種が進むことによって、予防可能な病気の根絶に大きな進歩がありました。 しかし、新型コロナウイルスパンデミックは、各国で子どもの定期予防接種事業を停滞させてしまいました。根絶間近のポリオや麻疹などの感染が再び起こらないよう、世界的に定期予防接種の接種率を上げていくことが緊急に必要とされています。また、日本でも妊娠中に新型コロナウイルスに感染した妊婦が、入院先が見つからないまま自宅での出産を余儀なくされ、新生児が死産に至るという悲しいニュースがありました。新型コロナウイルスへの感染によって、女性の妊娠出産、また新生児医療などにかかるリスクを、国や自治体は包括的に管理する必要があります。

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UNICEFとWHOの協力の下、レバノン保健省が主導する麻疹とポリオの全国予防接種キャンペーンで、子どもにポリオワクチンを接種する筆者 © UNICEF Lebanon/2020/Choufany

 

そして、パンデミックによる子どもへの暴力の急増はまだ終わっていません。それは、私たちが一体となって意識を高め、その効果とその保護策について率直に話し合っていかない限り、解決策は見込めないでしょう。先にも述べましたとおり、発育過渡期にある子どもや青少年への心理的なストレスや悪影響は回復に時間がかかり、この先の社会の発展に大きな影を落としてしまいます。子どもたちが直面している状況を早急に把握して、予防策を講じることが必要です。

 

こうした推奨事項を述べるにあたって、一つ重要なことがあります。それは社会全体が一丸となって、多層的に問題に取り組んでいく必要があるということです。教育、児童福祉、母子保健医療など、国や自治体が子どもたちの健全な発育を促していく政策を優先事項に掲げていかないといけないことは、言うまでもありません。そして直接子どもたちと関わる社会サービス提供者や学校関係者、児童福祉士、医療従事者などが、既に追われている多大な責務に潰されないよう、余裕を持って子どもたちの危険信号を察知できるように、働く人々のスキルアップと職場の改革も必要です。その一方で、市民社会やコミュニティでのサポートと助け合いも非常に重要です。より多くの市民が子どもたちを守っていくという意識を高めることで、子どもたちが安全に暮らしていく環境づくりができるのです。そして一番大切なのは、各家庭での子どもたちとのふれあいとコミュニケーションでしょう。おとなも多くのストレスを抱えて生活しているコロナ禍では、私たち一人ひとりが子どもと向き合って暮らしていく家庭環境を整えていくことが重要です。

 

ここに述べている様々な推奨事項は、多岐にわたる社会政策のごく一部であり、当然これだけで子どもたちを守ることはできません。

 

新型コロナウイルスの感染対策には、世界的な対応がまだまだ続くことでしょう。コロナ禍の経験から教訓を学び、子どもたちがより安全に、そしてその能力を最大限に発揮できる社会を守り、築き上げていく責務が、おとなである私たち一人ひとりにあります。そうした意識を高めるためにも、「この社会は子どもの発育にとって最適なのか?」といった問いかけを、私たちは常に一貫して自問していく必要があるのです。

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レバノンのブルジュ・バラジネにあるパレスチナ難民キャンプにおいて、UNICEFが支援する
新しい学習スペースで子どもたちと交流する筆者(中央) © UNICEF Lebanon/2019

レバノンベイルートにて

杢尾 雪絵

「みんなで乗り越えよう、新型コロナパンデミック:私はこう考える」(33) 杢尾雪絵さん (前編)

国連諸機関の邦人職員幹部をはじめ、様々な分野で活躍する有識者を執筆陣に、日本がこのパンデミックという危機を乗り越え、よりよく復興することを願うエールを込めたブログシリーズ。第33回は、杢尾雪絵(もくお ゆきえ)さん(UNICEFレバノン事務所代表)からの寄稿の前編です。

 

新型コロナウイルスパンデミックが子どもたちに与えた多大な影響 (前編)

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大学卒業後、都市計画建築コンサルタントとして就職後、青年海外協力隊員(JOCV)や国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の国連ボランティア(UNV)を経て、1991年から1994年末まで米コーネル大学地域計画学科に留学。国連食糧農業機関(FAO)ローマ本部インターンを経て、1995年にジュニア・プロフェッショナル・オフィサー(JPO)として国連児童基金UNICEF)モンゴル事務所に勤務。UNICEFコソボ事務所長(1997年〜)、モンテネグロ事務所長(1999年〜)、タジキスタン事務所代表(2001〜2008年)、ウクライナ事務所代表(2009年〜2014年)、キルギス共和国事務所代表(2014年~2019年)。
2019年7月より現職 © UNICEF

 

新型コロナウイルス感染症の発生から、この年末には早くも2年が過ぎようとしています。世界各地でワクチンの普及が進む中、一見、子どもたちは新型コロナウイルスによる最悪の健康被害からは免れたように思われています。しかしながら、実は新型コロナウイルスパンデミックは子どもたちの毎日の暮らしに多大な影響を与え、今でもそのリスクは衰えていません。一般的には、新型コロナウイルスの医療的リスクや被害は少ないと思われている子どもたちですが、コロナ禍において最も顕著な犠牲者になっているともいえます。世界的な新型コロナウイルスパンデミックは、全世代の子どもたちに大きな影響を及ぼしており、回復には何年もかかる可能性があります。

 

新型コロナウイルスに関する知識が世界的にもまだ行き渡っていなかった初期段階の2020年7月。その時点で、世界的にも評価の高い医学誌「ランセット」は、「パンデミックの間接的な影響として食料と必須医療サービスへのアクセスが断たれることで、100万人を超える子どもが死亡する危機が起こるリスクが有る。」という警鐘を鳴らしていました。開発途上国の大部分で感染が更に広まっていますので、場合によっては100万人という数字も過小評価ということにもなりかねません。実際、新型コロナウイルスがもたらした社会的影響を世界的に見ると、このパンデミックは既存の不平等を拡大し、さらに多くの貧困層や社会的弱者に広範囲での打撃をもたらしたとも言えます。

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COVID-19対応を行うための物資が保管されている、レバノンベイルートの倉庫を訪れた筆者(左端) © UNICEF Lebanon/2020/Choufany

 

では、新型コロナウイルスパンデミックが子どもたちの生活に与える最も深刻な影響とは何なのでしょうか。やはり、一番懸念されるのは子どもたちの精神にきたす影響です。成長過渡期にある子どもや青少年が、心身ともに健康に発育していくためには、心理的な安心感や、社会とのつながりといったことが、言うまでもなく大変重要となります。しかし、新型コロナウイルスパンデミックは、子どもたちの日常生活、特に社会生活に劇的な変化をもたらしました。

 

新型コロナウイルスは、全世界で15億人以上の子どもや若者の継続的な教育を妨げてきました。多くの国で長期間の学校が閉鎖が行われ、この過去1年半の間、子どもたちの日常の活動は、ほぼ完全に家の中に限られてしまいました。私が現在暮らしているレバノンでも、学校は小中学校から高校・大学まで、全国的にすべての学校が1年半閉鎖となりました。ようやくこの9月に再開しましたが、場所によってはまだ閉鎖されている学校もあります。

 

コロナ禍の都市閉鎖中のレバノンでは、家にいて課外活動のできない青少年をサポートすべく、国連児童基金UNICEF)の青少年活動の一環として、10代の若者たちからいろいろな声を聞いてきました。青少年たちの声はとても切実でした。ある若者は、「今年は大学受験のための統一試験を控えているのに、このままだとどうなるのかとても心配です。半年以上も何も勉強できていない気がします。イライラする気持ちが募って、誰かから話しかけられてもつい大声を出したり、ドアを閉めてしまったりします。どうして良いのかわかりません。」と言っていました。また他からは、「友達と集まったりできなくなったし、結婚式などの冠婚葬祭も行われない。お葬式さえも電話のみ。まるでボトルに閉じ込められているような生活。」といった声も聞こえてきました。

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唯一自宅に一台ある携帯電話を使って、勉強に取り組む11歳のサムエルくん(右)とジャネットさん(左)兄妹(ケニア、2020年7月撮影) ©︎ UNICEF/UNI362244/Everett

 

学校での活動は子どもや青少年の日常生活の大半を占めており、学校は教育を受ける場所を提供するだけでなく、社会との繋がりや人間関係の構築など、子どもの成長に大きな役割を担っています。子どもが学校に行けないということは、まずオンライン学習のようななじみのない遠隔教育に適応するという課題が子どもたちに課せられます。それに加えて、生活パターンの変化や孤立感、教育の遅れなどによる、子どもたちのストレスレベルが非常に高くなりました。直接目には見えにくいものの、こうした面での子どもへの影響は、多大なものがあると言って過言ではありません。さらに、多くの子どもたちが、通常の身体運動の機会を失いました。自由に外で遊べない子どもたちのストレスは想像しがたいものがあります。こうした心理的ストレスは、子どもたちの将来の可能性と人生の展望にも影響を与えてしまいます。パンデミックによる心的外傷や不安神経症うつ病等を乗り越えるには時間がかかり、この後も長い期間にわたって人々を苦しめるかもしれません。特に子どもたちは、より敏感にメンタルヘルスの長期的な影響を受けるでしょう。

 

また、学校閉鎖と遠隔教育により、貧困格差や社会的差別がさらに顕著になりました。学校閉鎖期間中、いろいろな国で遠隔教育を通じて教育プログラムが提供されてきましたが、遠隔教育を通して子どもたちがどの程度の学習効果を出せたのかは、はっきりとわかっていません。また、遠隔の教育の多くはインターネットを通じてのオンライン教育が多く、こうした教育方法は国家間での格差を生むだけにとどまらず、国内での貧困格差や教育格差を生むという構造がますます顕著になりました。インターネットやデバイスへのアクセスが、すべての子どもたちに平等に与えられたとは言い難く、「デジタル・ディバイド(情報格差)」という言葉まで出てきて、教育へのアクセスが以前にも増して格差社会を浮き彫りにした形です。

 

さらに、新型コロナウイルスがもたらした大きな懸念の一つは、家庭内暴力の増加です。子どもたちが家で遠隔教育を受ける一方、多くの親たちが在宅勤務となりました。家族が一緒に家にいて活動をするというのは、家族間のコミュニケーションと家庭内の活動の機会が増えるという前向きな部分がありますが、すべての家庭がスムーズにそのような環境を保っているとはいえません。残念ながら場合によっては、必ずしも家庭が子どもにとって安全な場所であるとは限らず、中には様々な種類の虐待の被害を受けている子どももいます。貧しい家庭における限られたスペースは、過密状態のためにストレスレベルを上昇させ、欲求不満や、家庭内の諍いの増加、そしてしばしば精神的および身体的暴力をもたらします。親は子どもたちの前で日常生活を送ることを余儀なくされ、おとなたちも心理的ストレスを蓄積する中、子どもたちに影響を与える家庭内紛争や暴力が増えているという現状があります。

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母親が仕事を失った後、義父からの嫌がらせを受け家庭環境が悪くなったため、家出をした15歳のバリアさん。UNICEFがサポートするヘルプラインに電話をし、助けを求めた
ウクライナ、2020年11月撮影)© UNICEF/UN0399563/Filippov

 

新型コロナウイルスは経済活動にも大きく影響しました。多くの人が失業したり労働時間が短縮されたりしている中、親たちの焦点は、子どもの世話を中心とするよりも、各家庭の経済的安定性を確保することに移っています。さらに核家族の家庭では、親がウイルスの被害に遭った場合に、誰が子どものを世話するのかという問題も出てきており、子どもの放置やネグレクトにもつながっています。

 

たとえば、レバノンには150万人ものシリア難民や、50万人のパレスチナ難民が暮らしていますが、難民への影響はさらに大きなものでした。難民の多くは居住権をもたないため、定職につくことができません。実際、殆どの難民は、日雇労働と人道支援で家庭を支えているのが現状で、コロナ禍の過去一年半の間に、シリア難民の貧困率は、9割以上が極度の貧困に達しているという非常に憂慮される調査結果が出ています。また、児童労働に従事する難民の子どもの数はここ1年の間で倍に増えてしまいました。コロナ禍で親御さんの失業が増える中、農作業や廃棄物収集など過酷で危険な労働に携わる子どもがたくさんいる状況です。

 

社会における経済格差の構造は、貧困層であるほど、こうした問題に直面せざるを得ないという問題を抱えています。貧困と子どもへの暴力やネグレクトがつながっているという状況は、貧困の世代間連鎖を生み出す要因ともいえ、この悪循環を断ち切るような社会政策が必要となります。さらには、こうしたコロナ禍における社会経済格差は、貧困レベルを増加させるリスクを伴っており、国連世界食糧計画(WFP)は「飢餓の大流行」が起こるという警告も出しています。同声明によると、世界中の何千万人もの子どもたちが極度の貧困に直面する可能性があると予測されており、妊娠中および幼児期の栄養不良と貧困が子どもの身体的健康に悪影響を与える可能性があることを指摘しています。

 

また、世界のあらゆる国で、新型コロナウイルス感染予防のための緊急事態宣言や都市封鎖といった政策がとられてきましたが、こうした期間は、老いも若きも同様に、多くの人にとって、パソコンやスマートフォンを見る時間の増加をもたらしました。オンラインで遠隔教育を受けていた子どもたちも例外ではありません。パンデミックに関係なく、オンライン上のエンターテイメントにはリスクが伴いますが、新型コロナウイルスの感染の蔓延で、情報伝達に新たな脅威が発生しました。フェイクニュースです。特に新型コロナウイルス感染予防やワクチンの効果などに関して、有害な誤った情報が多く出回りました。このように情報に関するリスクが高くなるだけでなく、睡眠パターンの混乱や一般的な社会不安の高まりは、子どもたちの心身に悪影響を与えます。

 

このようにみると、新型コロナウイルスが社会にもたらした影響は、医療面にとどまらず多岐にわたって人々の暮らしに、特に子どもたちの健全な成長に脅威をもたらしたと言っても過言ではありません。特に貧困層の、社会から取り残された子どもたちに対するパンデミックの影響がさらに大きくなっていることが懸念されます。すべての子どもたちが日常生活の大きな変化を経験しましたが、貧困格差は子どもたちの毎日の生活に大きな影を落としているのが事実です。パンデミックに対処できる状況にあるのはごく一部の子どもたちだけで、実際は世界中の多くの子どもたちがあらゆる面で過酷な状況を強いられ、さらには将来への展望にさえも影響を及ぼしているという現実に直面しているのです。

 

こうした危機的状況が子どもたちに与える最終的な影響は、パンデミックが終わるまでにどれだけの時間がかかるかにかかっているともいえます。私たちが今行動しない限り、この社会的危機に巻き込まれた子どもたちは、そこから抜け出すのに大きな労力と時間を必要としてしまうでしょう。このパンデミックの悪影響が、子どもたちのこの先の生活を変えてしまうというリスクを認識して子どもたちを守っていかない限り、社会の将来の発展にも弊害が出てきます。

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レバノンのカランティーナ公立公園で、10歳の少女と話す筆者。カランティーナは、
2020年8月のベイルート港での爆発の影響を最も受けた地域の一つ 
© UNICEF Lebanon/2020/Choufany

 

では、パンデミックの危機がまだ終わっていない今、世界の子どもたちのために何をしなければいけないのでしょうか?

後編では、その具体策や子どもたちを守るための包括的な取り組み、そして課題についてお伝えします。

レバノンベイルートにて

杢尾 雪絵

国連広報センターの活動の裏側をご紹介:SDG ZONE at TOKYO開催までの道のり

10月24日は、1945年のこの日に国連憲章が発効し、国連が創設されたことを記念した「国連デー」です。今回はこの国連デーを前に、国連本部の日本における出先事務所である国連広報センターの活動の裏側を広報官の佐藤桃子が紹介します。

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朝日新聞社のスタジオで、国連広報センターのスタッフがテスト撮影を行う様子。東京にいる登壇者が一つの会場に集まる場合も、海外にいる登壇者はオンラインでつながり、ハイブリッドでの撮影が行われた (筆者、左端)©︎ UNIC Tokyo/Kaoru Nemoto

 

日本と国連をつなぐための「SDG ZONE at TOKYO」

国連広報センターが所属する国連グローバル・コミュニケーション局は、ニューヨークの国連本部の重要な部局です。その重要な使命の一つは、世界に60ほどある事務所や拠点のネットワークを通して国連の活動に対するグローバルな関心と理解を深めることです。日本の国連広報センターに置き換えれば、国連と日本社会をつなぐことを目指しています。

では、2021年、どのように国連と日本社会をより強力に繋げられるのか?私たちがカギになると考えたのは、世界も日本も今年大いに注目した「スポーツ」でした。スポーツを通して、国連と世界が2030年までに達成を目指す持続可能な開発目標(SDGs)について一緒に考えるために企画されたのが、東京2020オリンピック・パラリンピック大会に合わせて開催された「SDG ZONE at TOKYO」です。

このイベントは、ニューヨークの国連本部の私たちの同僚が2016年より国連総会などにあわせて開催してきた、「SDG Media Zone」という数人で社会の課題についてフランクに意見を交わすトークイベント・シリーズに倣ったもので、日本発のグローバル配信企画です。SDG ZONE at TOKYOは初の国レベルの事務所が主導するSDG Media Zone企画となりました。

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2018年の国連総会に合わせて開催されたSDG Media Zoneの模様 © UN

 

パンデミックが発生、どうする?

実は、SDG ZONE at TOKYOは2020年の開催を目標に数年前に発案されていました。しかし、新型コロナウイルス感染症の世界的大流行(パンデミック)により延期に。同時に、登壇者が一つの会場に集まる計画も変更を余儀なくされました。2020年以降開催された様々なオンライン・イベントを参考にしながら、海外からの登壇者が日本に来られない中でどのようにグローバルな対話を実現できるのか、検討することになりました。

2021年の春にSDG ZONE at TOKYOを具体化するために、コーディネーター1名と、動画制作担当者2名がメンバーに加わりました。共催者の朝日新聞社の皆さんとの打ち合わせも国連広報センター内の進捗状況の確認も、全てオンラインで行いました。

まず決めなければならなかったことはテーマです。気候変動やジェンダー平等、障害者の権利擁護など、世界もスポーツ界も直面している課題について話し合いました。その後、各テーマについて多様な視点を提供してくださる登壇者の候補者出しと依頼を行います。「多様な視点」とは、分野の違いだけでなく、ジェンダーや国・地域なども含みます。世界各地の方々に登壇を依頼するために、日本に加えて、日本と6~8時間ほどの時差がある欧州・アフリカ地域と13~16時間ほどの時差がある北米地域とのやり取りが続きました。

 

ついに収録スタート

最終的に、6セッションのために合計24名の登壇者とモデレーターにご協力いただくことになり、全セッションは事前収録されることとなりました。各セッション、必ずだれかがオンラインで、それも日本以外から時差を越えて参加したため、画像や音声が乱れないか、関係者一同、ハラハラしていました。幸い、致命的なトラブルもなく、最後のセッションの収録が終わった時は心の底からホッとしたものです。

収録は、このイベントの意義を再認識する契機ともなりました。私たちは、企画段階から「このテーマで重要なスポーツの価値は何なのか?」という議論を頻繁に行い、自主性や忍耐、協調性、寛容性、お互いの尊重といった言葉が上がりました。しかし、オリンピアンやパラリンピアンを含むアスリートの皆さんが試合を通じて感じた他選手との心の通じ合いや、周りの人に与えられる影響とその責任、そしてアスリートを支える皆さんが感じるスポーツの可能性と課題は、スポーツに直接関わる人々だからこそ伝えられるものでした。

「スポーツは、困難な状況にある人に、また社会課題を解決するために希望をもたらすことができる。だからスポーツももっと持続可能で『誰一人取り残されない』スポーツにならなければいけない。」

スポーツ以外の分野を専門とする登壇者もこうしたスポーツの価値に共鳴し、不思議なことに別日に収録された全セッションで、このメッセージが共通して浮かび上がってきました。

セッション2では、日本・イギリス・インドをつなぎ、ハンナ・ミルズ オリンピック選手およびBig Plastic Pledge創立者野口聡一 宇宙航空研究開発機構JAXA)宇宙飛行士、アルチャナ・ソレン 気候変動に関する国連事務総長ユース諮問グループメンバーが登壇し、竹下隆一郎 ハフポスト日本版前編集長がモデレーターを務めて、気候変動や持続可能性について話し合った ©︎ UNIC Tokyo

 

さあ、日本と世界の人々に届けよう

ここまでは全体の作業の前半部分にすぎません。後半は収録動画の編集と、動画を人々に見てもらうための発信に向けた準備です。

収録された動画は、不要な箇所を省いたり関連写真を追加したりと編集を行い、登壇者が話している内容の字幕を日本語と英語でつけました。この過程でも登壇者の皆さんから写真や動画素材を提供してもらったり、適切な翻訳を行うために朝日新聞社の皆さんと相談したりと、細かい調整が続きました。国連広報センターの中でも、文字の大きさから画面のレイアウトまで毎日議論しながら「ライブ感を残しつつ、ただ話すだけではない面白味のある動画」とは具体的に何なのかを模索し続ける工程となりました。

加えて、30秒程度の予告動画やSNS用のGIFや登壇者のコメントを引用した画像など、各セッションの対話を象徴するコンテンツも作成しました。 

ピュール・ビエル UNHCR親善大使、北澤豪サッカー日本代表および日本サッカー協会理事、
中満泉 国連事務次長・軍縮担当上級代表が登壇したセッションの予告動画 ©︎ UNIC Tokyo

 

同時に、そのほかの国連広報センターのスタッフも、特設ウェブページの開設、プレスリリースの発信、パートナーへの告知、SNSの発信といった様々な面で準備を進めました。本イベント発案者である所長も本部や関係者と密な連携を加速化させていました。また、経理や人事の担当者は、発案時からこの活動に必要な資金やサービス、人材の確保に奔走してきていました。インターンも動画の文字起こしを担いました。文字通り国連広報センター総出でSDG ZONE at TOKYOの開催に向けて動いていたのです。さらに、ニューヨークのSDG Media Zone担当者、ウェブ担当者、動画配信担当者らとも連携し「日本とグローバルの同時配信」実現にむけて協力しました。

こうして7月21日にSDG ZONE at TOKYOの開催を発表する日を迎えました。朝日新聞社のウェブサイトや紙面でも本イベントを取り上げていただき、国連本部からもプレスリリースを配信し、7月28日から開発と平和、気候変動、ジェンダー平等、障害者の権利、イノベーション、ポスト・コロナの社会にスポーツの力と価値がどう貢献するか、人々にお届けすることとなりました。

国連本部からもグローバルにSDG ZONE at TOKYOの開催が発信された

 

つなげるとは、双方向の対話

SDG ZONE at TOKYOの発信は、最後の動画が公開された8月27日以降もSNSなどで続いています。この一連の発信は、共催者の朝日新聞社、登壇者とモデレーターの皆さんの継続的なご協力、拡散を手助けいただいているパートナーの皆さん、そして、SNSで私たちの投稿を共有してくださっている個人の皆さんのお力によるものです。

今回、総勢24名の皆さんによる対話を通じて、国連広報センターの仕事とは一方的なものではないことを実感しました。登壇者・モデレーターの皆さんがそれぞれの立場から、私たちは社会をより良い場所にすることが出来るのだというメッセージを伝え、他の登壇者の視点やアイディアに共感を示されたことで、連帯の輪を感じることができました。元エジプト代表のオリンピアンがスポーツとジェンダー平等の日本の研究者とともに女性の指導者が足りないことを問題提起したり、シエラレオネと日本のパラリンピアンが「障害にこそ可能性がある」ということに頷き合ったり、包摂的なスポーツを開発する団体の日本人の代表が米国のスペシャル・オリンピック選手と障害のある人もない人も一緒に楽しめるスポーツをもっと広めるべきだと主張したり、、、視聴者の方から、登壇者のコメントに胸を打たれたと感想をいただいたのですが、それは対話から生まれたコメントに他なりません。そして、それは、国連広報センターだけで成し得たことではありません。

今回ご協力いただいた皆さん、また動画をご覧いただいた皆さんに心より御礼申し上げます。SDG ZONE at TOKYOが皆さんとの対話を深め、広めるきっかけとなっていくよう、尽力してまいります。

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SDG ZONE at TOKYOの全セッションはこちらから