国連広報センターの千葉です。1月20日(木)に開催された国連寄託図書館研修会の様子を綴らせていただいています。
前編は午前の部で行われた、国連広報センターからの情報提供と、図書館の皆さんからのSDGsへの取り組みに関する情報共有の様子をお伝えしました。
後編は午後の部で行われた、二つの図書館へのオンライン訪問と、図書館同士の相互交流について振り返ります。
<東京大学総合図書館ツアー>
昼食休憩をはさんで、午後の部の前半は、私たちのネットワークに加わる2つの図書館をオンライン訪問しました。
まずお訪ねしたのは、東京大学総合図書館です。
国連寄託図書館に指定されている東京大学総合図書館は、東京大学総長も務めた建築家の内田祥三氏が造ったもので、テレビ番組「美の巨人たち」(テレビ東京)で又吉直樹さんが訪ねた様子が放送されるなどしていますが、今回の研修で、あらためて、同図書館の大澤類里佐さんからくわしくご案内いただきました。
参加者の方々からは、SDGsの観点から、構造の強靭化を図りながらも、意匠を含め創建当時の建物を大切にする、同図書館の建築の精神性におおいに感銘を受けたと称賛の声があがっていました。大澤さんのご説明から、リニューアルオープンした同図書館で多くの貴重な資料がしっかりと守られ、そして活用されていることもまたよくわかりました。
<梼原町立図書館ツアー>
次に、高知県の梼原町立図書館をお訪ねしました。
梼原産の木材が活用され木のぬくもりがやさしい図書館は、建築家の隈研吾さんが設計を手掛けたもので、通称、「雲の上の図書館」として知られています。
この日の特別ツアーを準備してくださったのは、同図書館の見目佳寿子さん、大村太一郎さん、木稲沙央里さん、奥﨑麻理さん、来米優作さんの5人です。ツアーは、ライブ形式で、同図書館の入り口付近で図書館を囲む豊かな自然環境を映しだすところから始まりました。奥﨑さん、来米さんのお二人がカメラを台車に載せて、いろいろな場所にレンズを向け、大村さんと木稲さんが一緒になって館内を歩きまわりながら説明してくださいました。SDGsの各ゴールをテーマにした充実の選書コーナーについてのご案内もありました。最後は、見目さんも加わり、参加者からの質問に答えてくださいました。
ツアー後、参加者の皆さんから、同図書館が日本十進分類法ではなくテーマごとに図書を配架していることや楽しい場所としての図書館づくりをしていること、地域への配慮、自然との調和を図っていることに大きな気づきがあったとの声が聞かれました。
今年の研修会のオンラインツアーは、東京の都心部にある大きな大学の図書館と、地方の小さな街の公共図書館という対照的なふたつの図書館を選ばせていただきましたが、参加者の皆さんは、それぞれの図書館で、地域や利用者にあわせた工夫がされていることに高い関心を寄せていました。
<図書館間の交流 ―ブレイクアウトセッション>
研修の最後のプログラムとして、図書館の皆さんがリラックスして互いに交流する場をご提供しました。約一時間半、参加者の皆さんをブレイクアウトルームに振り分け、たっぷりと交流していただきました。
やり方としては、できるだけ、地域、館種を超えて、多くの方がたと交流していただくべく、各回顔ぶれを変えて2、3人ずつ、1回につき10分ほどのブレイクアウトセッションとし、それを10回ほど繰り返しました。
参加した皆さんは、10分毎に館を変えて交流するなかで、すでにSDGsに関連したさまざまな取り組みを実践している他館から、自分のところでも取りくめそうなことについてアドバイスを受けたり、地域や館種を超えて今後一緒に協力できそうなことを熱心に考えたりしていました。この交流の時間について、参加者の皆さんから、以下のような感想を聞きました。
「普段は機会がない、館種を超えた交流ができたことがとても役立った」
「学校図書館との交流を通して、あらためて若い世代を巻き込むことの重要性を感じた」
「自分と同じ新人の方とお話しできたことがよかった」
「SDGsの展示を行う、貸出が増えるという先に何を考えるべきかを深く議論できた」
「通常の企画展示はSDGsの目標をあわせて紹介できる機会でもあると示唆をもらえた」
「国連広報センター作成の広報物の積極的活用の経験を聞き、参考になった」
「除籍本を捨てず、SDGsの観点からNPOに再販売した経験を聞いて学びになった」
<終わりに>
今年の寄託図書館研修会を無事終えて、あらためて実感したのは、国連寄託図書館を中心としながら、SDGsを合言葉に、地域、館種を超えてゆるやかに広がる図書館ネットワークの可能性です。図書館の自由交流セッションの時間、2,3人ずつに分かれたそれぞれのブレイクアウトルームで、公共図書館と学校図書館、公共図書館と大学図書館、あるいは学校図書館と専門図書館など、館種の違いを超えて、意欲的に学びあったり、新しいコラボレーションの可能性を探りあったりしておられたことを聞いて、とても心強く感じました。今年の研修でのもっとも大きな成果は、こうして館種を超えた各地の図書館の担当者同士が情報交換する時間をたっぷりとって、その関係を一層深めるお手伝いができたことだったのではないかと思いました。SDGsを考える際に大切なキーワードの一つは「つながり」ということです。このゆるやかな図書館のつながりが、図書館のSDGsへの取り組みをさらに豊かに広げていくことを期待したいと思います。
さらに強く実感したことをあげるとすれば、やはりデジタルの強みということです。コロナ禍で、対面開催ができないのは非常に残念ですが、デジタルは、参加の幅を広げることができます。単に物理的な距離を超えるというだけではありません。今回、障害のある参加者の方から、図書館ツアーを含む研修会に他の参加者と同じように参加できたことの喜びをお聞きし、デジタルの利用の価値の大きさを感じました。
最後に、上述のとおり、公立中学校図書館が初めて私たちのネットワークに加わり、今年の研修にも参加していただいたことで、館種を超えた図書館のつながりにまたあらたな可能性を開くことになったと強く感じています。すでに全面実施された新しい学習指導要領のもと、学校において、教科横断的にSDGsを教えることが求められていますが、そうした中で、学校図書館は、まさに各教科をつなぐ主体的で中核的な役割を果たすことができます。今後、私たちのネットワークに公立学校図書館のお仲間が少しでも増え、研修の場で、取り組みの事例を共有していただけることを願っています。(了)