第7回アフリカ開発会議(TICAD7)が2019年8月28-30日、横浜市で開催されます。日本では6年ぶりとなるTICADに向けて、国連広報センターはアフリカを任地に、あるいはアフリカと深く結びついた活動に日々携わっている日本人国連職員らに呼びかけ、リレーエッセーをお届けしていきます。
取り上げる国も活動の分野も様々で、シリーズがアフリカの多様性、そして幅広い国連の活動を知るきっかけになることを願っています。第1回は、今年設立100周年を迎える国際労働機関(ILO)のダカール事務所に勤務する齋藤萌さんです。
第1回 国際労働機関(ILO) 齋藤萌さん
~若者たちが平和の担い手 ー ガンビアのディーセント・ワーク~
公立大学法人国際教養大学を卒業後、国際協力に係るコンサルティング会社勤務を経て、ジュネーブ国際開発学研究院(Graduate institute of international and development studies)にて労働と平和に関する研究を行う。ILO本部の後、2017年よりILOダカール事務所にてJPOとして勤務を開始。2018年よりプロジェクト・オフィサーとして「ガンビアにおける持続的な平和構築のための若者の雇用機会促進プロジェクト」に従事。
私がプロジェクト活動を行っているガンビアでは、22年にわたる専制政治が続きましたが、2016年12月に大統領選挙が実施され、民主主義政権が誕生しました。この政治移行では周辺諸国の軍事介入が一時的に行われたこともあり、また前政権時代にエボラ危機の影響も受けていたため、2017年の経済成長は更なる落ち込みをみせました。その年の失業率は29.8%に達し、とりわけ女性は38.6%、若者は43.9%と高い割合を示しました。
こういった状況下の緊急ニーズに応えるため、ILOは日本政府の資金協力をうけ「ガンビアにおける持続的な平和構築のための若者の雇用機会促進プロジェクト」を2018年4月に開始しました。このプロジェクトでは、雇用集約型投資 (EIIP)という40年以上にわたって培われたILOの知見を活用することで、インフラ建設工事を通じた雇用機会最大化と地元の資源活用を図っています。また雇用機会創出が持続的平和構築に資するものとなるように、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)とインクルーシブネス (包摂性)を強化しています。
そもそも雇用はどのように平和に資するのか、という問いに対しては、エビデンスに基づく研究結果はあまり多くはありませんでした。そこで2016年に国連開発計画(UNDP)・ILO・世界銀行・国連平和構築支援事務所(PBSO)がその関係性を調査し、雇用創出はそれ自体で平和と社会安定に貢献するわけではなく、雇用が人生における多くの機会を与え、平等性を実感する場を提供し、社会との接点を広げることができた場合、雇用が平和に直接作用するということが分かってきたのです。つまり「雇用」はディーセント・ワークであり、インクルーシブであることによってはじめて持続的平和に資するということです。
私は政治移行がなされたすぐ後にガンビアに入り、政府・地方政府・コミュニティー・若者や女性団体グループ等と協議を重ねました。この頃に新政権による国の開発計画が設定され、政府は活発にそして主体的に国をよりよくしていこうという方向に進もうとしていました。そのため開発計画に沿うように経済成長に資するセクターである農業、観光、漁業に資するインフラ建設地を特定しました。また国の現状に即した平等でより良い雇用条件となるように賃金や労働時間を設定し、ガンビアではいまだ普及していない労災・健康保険も適用することで、ディーセント・ワークの促進を図りました。さらに土のうなどの道路建設技術に秀でた日本のNGO道普請人(CORE)の協力を得て、革新的かつその地域にあった労働集約型建設技術を取り入れ、またガンビアの若者がCOREのチームの一員として働くことで技術移転がなされる工夫もなされました。
唯一の懸念事項として国の関係者に指摘されたのは、インフラ建設工事の労働者雇用においてジェンダーの平等をうたうことでした。建設工事は男性の仕事と認識されていることが多く、女性は力仕事ができない、そもそも建設工事に関心をもっていないのでは、というコメントが多かったのです。しかしながら関係者と協議を重ね、労働者を募集する際には様々なチャンネルを通して公募することで、情報が女性を含む多様な人々にいきわたるようにし、また女性の応募も歓迎することを強調しました。その結果多くの女性が応募し、ILOが支援したインフラ建設工事では女性50%・男性50%という比率で雇用することができました。また女性も男性も同様に働いているところを目のあたりにすることで、当初懸念していた人たちもジェンダー平等の必要性を強調するようになっていきました。
更にこのプロジェクトは帰還民の参画にも焦点をおいています。経済・政治的理由などからガンビアを離れたものの、リビアなどから送還・帰国している若者の数が2017年初期から急増していました。そのため帰還民も他の若者と一緒にプロジェクトに参加し、インフラ建設工事での雇用と実地トレーニングをうけられるように取り計らいました。また雇用募集を音声でも文字でも閲覧できるようにしたことで、文字での読み書きが得意でなかったり、聴覚に障碍のある人もともにプロジェクトに参加することができました。
「仕事」は生活のための経済活動であるだけでなく、社会と個人を繋ぐ窓口ともなり、個人の尊厳を高めるものです。仕事をとおして不平不満や不平等が発生することもあれば、転じて平等と持続的な平和構築に貢献することもできます。ILOはこの考えのもと「Jobs for Peace and Resilience (平和と強靱性のための仕事計画/JPR )というILOの旗艦プログラムを様々な国で実施しています。また2019年の今年、ILOは創立100周年を迎えており、引き続き雇用と平和そしてディーセント・ワークの促進を支援していきます。