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リレーエッセイ「人権とわたし」(2)大谷美紀子さん:なぜ子どもの人権問題に取り組むのか

 

今年は「世界人権宣言」が採択されてから75周年の節目です。国連創設の3年後に現代人権法の礎となる文書が生まれた背景には、第二次世界大戦中で特定の人種の迫害や大量虐殺などを許してしまった経験から、人権問題が国際社会全体にかかわる問題であり、人権の保障が世界平和の基礎であるという考え方が主流になったことがあります。30条からなる人権宣言は、すべての国のすべての人が享受すべき基本的な市民的、文化的、経済的、政治的および社会的権利を包括的に規定するものです。

採択から75年経った今、国連人権条約機関の委員や国連の人権特別報告者を務める専門家の方々に「人権とわたし」をテーマに、国連での活動や所管する人権分野の動向などについて、シリーズで寄稿していただきます。シリーズ第2回は、国連子どもの権利委員会委員を務める大谷美紀子さんです。

 

なぜ子どもの人権問題に取り組むのか

1987年、上智大学法学部国際関係法学科卒業。1990年より弁護士。人権問題に関心を持ち、子どもの権利条約について学んだことがきっかけで、人権教育、国連の人権活動、国際人権法に関心を持ち、米国に留学。国連人権高等弁務官事務所ニューヨーク事務所でインターン。1999年、コロンビア大学国際関係公共政策大学院修了。帰国後、2003年、東京大学法学政治学研究科修士課程専修コース修了(国際法専攻)。弁護士として、また、NGO活動を通して、子どもの人権、女性の人権、外国人の人権問題に取り組む。2017年から、日本人初の国連子どもの権利委員会委員(2025年まで)。2021年5月から2023年5月まで、同委員長。

 

 私の職業は弁護士です。それとは別に、私は、2017年から、国連子どもの権利委員会の委員を務めています。また、2021年5月から2023年5月までの2年間は、委員長も務めました。いずれも、日本人として初めてということで、インタビューを受け、新聞でも取り上げていただきました。その中で、どうして国連の委員になろうと思ったのか、また、子どもの人権問題について取り組む思いについて、よく質問されました。そこで、改めて、私が子どもの権利条約について取り組むようになったきっかけや思いについて、書かせていただきます。

 国連子どもの権利委員会は、1989年に国連総会で採択された「子どもの権利に関する条約」(子どもの権利条約)を批准・加入(条約に参加する手続)した国(締約国)による条約の実施状況を監視し、改善のための勧告を行う活動をしています。委員会には、締約国から指名された候補者の中から締約国による選挙で選ばれた18人の委員がいます。委員は、自国の代表でもなく、国連の職員でもなく、個人専門家として活動します。具体的には、1年に3回、4週間ずつスイスのジュネーブに滞在し、締約国から提出された報告書について、ユニセフなどの国連機関、NGOや子どもたちから情報提供のために提出された報告書も参照しながら、締約国の代表団(関係各省の大臣や職員、ジュネーブに常駐する大使などが中心)との間で条約の実施状況について質疑応答を行い、その結果に基づいて勧告を採択します。

ジュネーブで子どもの権利委員として活動する筆者

 実は、私は、子どもの頃から、将来は、人のために役に立つ仕事をしたいと思っていました。高校生の時に、国連のことを知り、国連で仕事をしたいと思うようになりました。そこで、外交官や国連での仕事を目指す学生が学べるという上智大学法学部国際関係法学科に入学し、国際機構論や国際政治などを勉強し始めた1983年、アメリカがユネスコ脱退を表明し、衝撃を受けました。アメリカのような強大な力を持った国の存在、パワーポリティクスの現実を見て、自分が国連という組織に入って何ができるのかと無力感を感じたのです。大学を卒業したら企業に就職するという日本の多くの大学生のキャリアパスに比べて、当時、国連職員になるための情報も乏しく、社会に出て早く仕事に就きたかった私にとって、国連職員へのキャリアパスが具体的に描きにくかったことも一因でした。

 国連職員になるという具体的な目標を失った私は、悩んだ末に、かわりの職業を選ぶかわりに、まずは、専門的な力をつけようと考え、法律を選びました。友人の一家が法律問題を抱えて一緒に悩んだことや、私の学科が法学部の中にあり、法律科目を勉強して身近に感じていたこともありますが、社会で人のために役に立つ仕事をするうえで、法律の専門知識は必ず力になるに違いないと考えたことが一番の理由です。そして、私は、研究と実務のうち、実務を選びました。社会の中で直接、人と関わる形で人のために仕事をしたかったからです。そのためには、司法試験に合格して資格を取らなくてはいけないとわかり、司法試験を受けることにしました。

 こうして、私は、1990年に弁護士になりました。そのための勉強の中で、日本国憲法の平和主義、人権について学び、熱い思いを抱きました。ところが、弁護士になってすぐに見た現実の社会には、憲法に書かれている平等や人権の理想とは程遠い、差別や人権侵害がありました。そんな中で、弁護士であることから、人権について講演を頼まれたことがありました。私は、社会の中で、弁護士は人権の専門家と思われているにもかかわらず、憲法の人権論を勉強してきた以外に、人権問題についての深い理解や人権感覚を磨くような教育を受けてきたわけではないことを恥ずかしく思うようになりました。特に、憲法で学んできた、人権侵害とは、国家による個人の人権の侵害であるという考え方と、実際に社会の中で人々が差別され、人権が侵害されていると感じる場面の多くは、他の個人や企業との間で起きていることとのギャップを強く感じました。また、裁判所は人権救済の最後の砦というけれど、弁護士を見つけ、依頼することの困難、裁判の費用と期間、裁判の過程での二次的被害の問題にも気付きました。

 こうして人権問題について考えるようになった後、1993 年に、子どもの権利条約のことを知りました。

子どもの権利条約が採択された国連総会(1989年)には、当時のユニセフ親善大使オードリー・ヘップバーン氏も出席  UN Photo/ John Isaac

 また、ユニセフで開発教育を担当していた方が来日し、お話を伺う機会がありました。その話に刺激を受け、私は、差別や人権侵害が起きた場合の裁判による救済が必要であるのと同時に、差別や人権侵害が起きないような社会にするためには、遠回りではあるけれど、教育が重要ではないかと考えるようになりました。こうして、弁護士の仕事をする傍ら、図書館に通い、「人権教育」について書かれた本を探している中で、ある日、国連広報センターからの情報で、1993年6月にウィーンで開かれた世界人権会議で、人権教育の重要性が強調され、そのための取組みが始まったことを知りました。1994年の国連総会で、1995年から2004年までの10年間を、人権教育のための国連10年と定める決議が採択されたというのです。もっと知りたい!と思って、国連広報センターに問い合わせをしましたが、それ以上の詳しい情報はまだないと言われ、私は、国連寄託図書館として指定されている東京大学総合図書館に、国連総会決議を調べに行きました。

170か国以上が参加したウィーンでの世界人権会議(1993年)  UN Photo

 これが、私が国連の人権活動に関心を持つようになったきっかけです。私は、国連が第二次世界大戦後の1945年10月に創設された時、国連憲章の中で、国連の目的の1つとして、平和と並んで人権が明記されたことを知りました。平和の実現のためには、世界中ですべての人の人権が保障されなくてはいけないという思想に感動しました。国連は、国連憲章の目的に基づいて、1946年に世界人権宣言の起草を開始し、東西冷戦の始まりとベルリン封鎖という緊張した国際情勢の中で危ぶまれながらも、1948年12月10日、初めての世界共通の人権基準として、世界人権宣言を採択したのです。そして、国連が、人権を教育によって普及するために世界人権宣言を500以上もの言語に翻訳し普及に努めてきたこと、さらに、世界人権宣言を法的に拘束力のある条約を起草し採択してきたこと、条約によって設立された委員会が条約の実施を監視する活動をしてきたこと、こうした国連による人権活動について学びました。

世界人権宣言のポスターを掲げる起草委員会のエレノア・ルーズベルト委員長(1949年)
UN Photo

 特に、私が感銘を受けたのは、人権教育のための国連10年行動計画の中に謳われていた人権教育」とは、人権という普遍的文化を構築するために行われるものであり、知識だけでなく、スキルや態度の形成が重視されていたことでした。差別や人権侵害が起きない社会にするためには、すべての人の人格・尊厳、人権を尊重し、差別をしないということが、一人ひとりの考え方や価値観、態度の中に育まれ、行動基準になっていくことが大事だと漠然と漠然と感じていたことに対して、国連から、そのとおり!と言ってもらえた気持ちがしました。

子どもの権利条約の採択30年を記念した総会のハイレベル会合で、「We the Children」の合唱を披露する子どもたち(2019年)UN Photo/Manuel Elías

 そのような「人権教育」は、子どもから始めることが重要です。実際、子どもの権利条約29条には、こどもの教育の目的の1つとして、人権の尊重を育成することが挙げられています。そして、子ども自身が自分の人権を知り、一人の人格として尊重され、尊厳を持って扱われ、他人の人権を尊重することを学ぶには、家庭、学校、地域で、子どもにかかわるすべての大人の考え方、言葉づかい、態度、行動の中に人権が根付いていくことが必要です。

 

クリーンで健康的かつ持続可能な環境への子どもたちの権利を守るために、国連子どもの権利委員会は各国がとるべき指針を発表し、そのプロセスには日本の子ども1500人も参加。子どもと気候変動など、新たな課題にも取り組む。

 

 子どもの人権に焦点をあて、子どもの人権教育を進めることが社会の変革につながる!-これが、私が子どもの人権条約の実施に取り組むようになった理由です。この原点を忘れずに、今後も、子どもの人権のために、力を尽くしていきたいと思います。

子どもの権利委員会メンバーとともに(2列目中央が筆者)OHCHR ウェブサイトより