― 図書館研修会はどのように行われたか -
2020年1月23日―24日に国連寄託図書館の年次研修会を開催しました。
その内容を二部構成でお届けしています。
前編では、研修会に図書館のみなさんが持ち寄った、さまざまな取り組み事例をご紹介しました。
後編では、研修会の実際の様子をお伝えします。
今年の研修会に参加したのは、国連寄託図書館と、その他のゆるやかにつながる図書館をあわせて、全部で25の図書館、40人近くの司書のみなさんです。
ゆるやかにつながる図書館からは4つの学校図書館にご参加いただきました。昭和女子大学附属昭和中学校・高等学校、実践女子学園中学校・高等学校、長野県上田染谷丘高等学校、三田国際学園中学校・高等学校のそれぞれの図書館です。
さらに三田国際学園中学校・高等学校図書館からは、司書の藤松先生と一緒に、生徒会の図書委員として活動する15歳の少女、小池日和(ひより)さんが学校の授業の合間を縫って、研修初日に参加してくれました。
10代の若者の参加は初めてのことで、今年の研修会を特徴づけるものとなりました。
それでは早速、研修会の様子をご案内してまいります。
(研修スタート)
〇国連からのご挨拶
さあいよいよ、研修会がスタート。
まずは、弊センター所長の根本かおるがご挨拶しました。
数日前にインフルエンザから快復し、医師から外出の許しがでたばかりでしたが、研修会でみなさんと再会できるのを心待ちにしていた根本は満面の笑顔で、全国から集まった参加者のみなさんをあたたかくお迎えしました。
続いて、ニューヨーク国連本部から届いた参加者へのビデオメッセージが紹介されました。
メッセージを寄せてくれたのは、世界各地の国連広報センターを統括する国連グローバル・コミュニケーション局(DGC)のトップ、メリッサ・フレミング事務次長でした。
“A warm welcome to all of you on the other side of the world”
フレミング事務次長ははっきりとした声で、図書館のみなさんの国連に対する支援に心よりの謝意を表するとともに、グローバルな諸課題の解決とよりよい世界の構築にむけて、人々の共感と行動を呼び起こすための一層の協力を求めました。
そして、学校図書館がこの研修に参加していることに勇気づけられているとしたうえで、学校図書館で図書委員を務める10代の少女も一緒にこの研修に参加していることを紹介すると、やわらかい笑顔で、小池さんの名前を呼びました。
“Hello, Hiyori, Are you here?”
「えっ?!」
会場の一番前に座ってメッセージを聴いていた小池さんは、いきなり自分の名前が呼ばれたことにびっくりして、思わず口に手を当てました。
“I have been told that you are now planning to promote the SDGs through your school’s library. I would like to salute you for that.” (訳:「学校図書館でSDGs(持続可能な開発目標)を促進しようとしていると聞きましたよ。そのことに敬意を表したいと思います」)
緊張気味だった小池さんの表情は緩み、大きな喜びの表情に変わりました。
小池さんは、その後のセッションで、図書委員としての役割や活動、一冊の本のもつ力、図書館の重要性などについて、積極的に力強くたくましく発言し、研修会場にいる私たちみんなに若い新鮮な刺激と勇気を与えてくれました。
(国連広報センターのブリーフィング)
〇今後1年間のアウトリーチ活動のヒントを提供
さて、初日の研修ではまず国連広報センターがアウトリーチに関するブリーフィングを行いました。
センターの全職員が参加し、それぞれの職域から、今後一年間の行事活動予定や優先課題、ニュースレターや冊子などの広報資料、ソーシャルメディアによる情報発信、パートナーとの協働事業など、国連広報センターの活動をご案内するとともに、図書館のみなさんのアウトリーチ活動に役立つ情報をご提供しました。
学校図書館での取り組みに活かそうと、さまざまな図書館から参加している司書のみなさんと一緒に、一所懸命にメモをとっている小池さんの姿が印象的でした。
(図書館におススメの体験型イベント)
〇SDGsブックトークを体験
続いて、体験型イベント「SDGsブックトーク」を実施しました。それぞれが他の人に推薦したい本を持ち寄って、SDGsのいずれかのゴールに関連づけて紹介するイベントです。小池さんも参加しました。
一番初めに、小池さんにおススメ本をみなさんに紹介してもらいました。そのあとは参加者のみなさんが2人ずつのグループをつくって紹介しあいました。2人ずつというのが一つのポイントです。前に出て発表するのが苦手な人も相手が1人なら恥ずかしがらずにできます。そして相手を変えながら繰り返すのです。研修参加者のみなさんも好きな本を紹介しあい、繰り返せば繰り返すほどに盛り上がっていきました。
一冊の本とSDGsのゴールを関連させて、地球に生きる人間が直面する諸課題と持続可能な未来へと思考を柔軟かつ豊かに広げ、それを言葉にして共有し、相手を変えながら繰り返す。子どもたちの主体的・対話的で深い学びの実現(「アクティブ・ラーニング」)に最適で、学校図書館などにおススメです。
SDGsブックトークが終わると、小池さんはこの日の最後の研修会場となった国連大学本部ビルをあとにしました。
小池さんは帰り際、学校図書館に戻ったら、研修会で学んだこと、気づいたことをもとに、いろいろな取り組みを考えてみたいと言ってくれました。その言葉には若い力強さがありました。
(3つの講演)
今年の研修は、「国連と地球的諸課題」、「女性差別撤廃条約と女性差別撤廃委員会」、「高校生の模擬国連」の三つのテーマについて講演が行われました。
〇国連と地球的諸課題 - 国連広報センター所長が講演
まずは、国連広報センター所長の根本が、今年創設75周年(UN75)を迎える国連とその活動について、大局的な観点から、お話ししました。
私たち人間がいま立ち向かわなければならない地球的諸課題とはどんなものなのか。根本は、それら課題を解決するためのSDGsやパリ協定のもつ意義をあらためて強調したうえで、その実施状況や国連の活動などについて具体的な事例を示して説明しました。
そして、UN75に関しては、国連が世界の人々に耳を傾けるグローバル対話(Global conversation)のキャンペーンが始まっていること、そしてSDGsに関しては、2030年に向け、今年から「行動の10年」がはじまっていることをご案内し、図書館のみなさんに啓発・周知のための一層の協力を促しました。
〇女性差別撤廃委員会委員の秋月教授による講演
今年、外部からお招きしたメインのスピーカーは、女性差別撤廃条約のもとに設置された女性差別撤廃委員会(CEDAW)のメンバーを務める秋月弘子氏(亜細亜大学教授)です。
北京女性会議で北京宣言が採択されてから25年を迎える今年、SDGsのゴール5「ジェンダー平等を達成しよう」にさらに取り組むうえでも、女性差別撤廃条約と委員会のことは図書館のみなさんにぜひ理解しておいていただきたいことでした。
秋月先生は、現在の委員会のことを内側から知る方です。女性差別撤廃委員会とは何か、どんな仕組みなのか、そもそも、女性差別撤廃条約とはどんな条約なのかということについて、わかりやすくご案内いただきました。また、ジェンダー問題の現在および今後の課題についても、示唆に富むお話をしていただきました。
〇「高校生の模擬国連」共同執筆者の後藤先生による講演
今年の研修全体に通底するテーマの一つは、小池さんの参加が象徴するように、子ども・若者でした。その一環として、もう一つの講演のテーマを「高校生の模擬国連」としました。
スピーカーとしてお招きしたのは、玉川学園中学部・高校部(国語科)の後藤芳文先生です。後藤先生は、日本の高校で模擬国連を導入した教育活動に尽力されている全国中高教育模擬国連研究会の中心メンバーであり、昨夏には、その他の先生方と一緒に『高校生の模擬国連―世界平和につながる教育プログラム―』(山川出版社)を執筆した方です。後藤先生には、高校への模擬国連の導入のしかたをご案内いただくとともに、図書館のみなさんにこの本を一冊ずつご寄贈いただきました。
**国連の日本人職員には中満泉事務次長をはじめ模擬国連経験者が大勢います。
(いろいろな施設を訪問)
毎年、研修では図書館のみなさんとさまざまな施設を訪れています。これまで、大学図書館、国立国会図書館、公共図書館、さらに東京・市ヶ谷のJICA地球ひろばやOECD東京センターなどのイベント施設や国際機関などを訪ね歩いて、その取り組みを学ぶとともに、ゆるやかなつながりを築いてきました。今年もいくつかの施設を訪問し、人と人のつながりができました。
〇地球環境パートナーシッププラザを訪問
今年お訪ねした施設の一つは地球環境パートナーシッププラザ(GEOC)でした。GEOCは持続可能な社会の実現のために、多様な主体間のパートナーシップを育むことをミッションとしている組織です。
参加者のみなさんはGEOCを訪れ、施設内展示を見学するとともに、日本の各地域でのパートナーシップ実践について、職員の指澤佳代さんからお話を伺いました。
ちなみに今年は、耐震工事中の国連大学本部ビルの会議室が使えず、同ビル敷地内の別棟にあるGEOCで、研修の一部を実施させていただきました。
〇国連大学を訪問
研修会は毎年、国連大学(UNU)図書館と協力して開催しています。初日に同図書館を訪れ、司書の勝美道子さんから、同図書館と国連大学サステナビリティ高等研究所(UNU-IAS)の活動に関するブリーフィングを受けました。また、2日目には、同じくUNU-IASのプログラムコーディネーター荒木舞子さんからUNUの大学院プログラムについてくわしい説明を聞きました。
〇国立国会図書館国際子ども図書館を訪問
今年の訪問先の目玉は国立国会図書館国際子ども図書館でした。国立初の児童書専門図書館です。テーマの一つを子どもと若者とした今回の研修会にまさにふさわしい訪問先でした。この訪問は初日に行われ、小池さんも一緒に参加しました。
同図書館の建物は1906(明治39)年に日本で最初の国立図書館(帝国図書館)として建てられたもので、図書館のみなさんのなかにはこの図書館のことを書いた小説の『夢見る帝国図書館』(中島京子著)を読んだという方も多く、今回の訪問を楽しみにされていました。
ご案内は同図書館企画協力課の白井京さんと山上慶さんが担当してくださいました。
ご案内いただいたものの一つは世界の国や地域で出版された絵本。その中にはパレスチナの子どもたちのための絵本もありました。また、世界で読まれている日本の児童書のコーナーもありましたが、外国語に翻訳されたものはその国の文化にあわせて表紙の絵などが微妙に変えられていることがみなさんの興味を惹きました。また、子どもの読書活動推進を支援するコーナーもあり、そこにはブックトークやビブリオバトルのやり方を説明した本も置かれていました。
今回の訪問を通じて、子どもたちのための図書館のつながりが生まれたことは大きな成果でした。
国連広報センターと同図書館もゆるやかなパートナーシップを構築しました。
(研修全体を通してネットワーキング)
〇つながりを確かめあうとともに、ネットワークを拡大
講演やブリーフィングの合間に、図書館のみなさんは講師の先生がたやその他の図書館の方々と活発に名刺交換や交流をしています。図書館のみなさんのネットワークを広げていただく場を提供することもこの研修会の大切な目的の一つです。今年の研修会でも、多くのつながりができました。
(おわりに)
今年の研修に向けて、この一年間、東京や地方の公共図書館、大学図書館、学校図書館を訪ね歩かせていただきました。幅広い分野にまたがる本が収蔵されているのは当然ですが、図書館だからこそ、新しい本ばかりでなく古い本も、また安価な本ばかりでなく高価な本も、そして〇〇賞を受賞した本ばかりでなく、そうした賞は受賞していなくとも輝きを放ち人の記憶に残る本も置かれています。閲覧室でそれらの本を読むこともできるし、何よりも図書館だったら無償で借りることもできます。図書館を訪れるたびに、あらためてそのことを思います。
そしてまた、訪ねた先で司書の方々にお会いしていつも感じるのは、みなさんの本の力を信じる思い、そして信じるからこそ、図書館に収蔵する本を利用者の人に読んでもらいたいという思いです。とにかく本を読んでもらいたい、良い本を知ってほしい、触れてもらいたい、そして普段、本とは縁遠い人にこそ本との出会いを楽しんでほしい、という図書館のみなさんの思いに触れるたびに背筋が伸びました。1月の研修会では、そうしたみなさんの思いが、国連広報センターの職員をはじめ、講師の先生方や訪問先の方がたにも深く伝わっていました。
研修後、図書委員として参加してくれた小池日和さんを訪ねて、三田国際学園中学校・高等学校に伺いました。小池さんはいま研修で学んだことを参考に、先生方や図書委員の仲間たちと相談しながら、少しずつSDGs啓発のための取り組みを考えて実践していることを嬉しそうに話してくれました。この日、司書の藤松先生のほかに、国語科や数学科の先生がたが図書館に集まってくださり、小池さんと一緒に、それぞれの心に残る一冊の本について語り合いました。図書委員の小池さんの本への思いは、全国各地で私が出会った司書のみなさんに負けていませんでした。図書委員として頑張る中学生を見守る先生方の目はやさしくあたたかでした。
今後、新学習指導要領が小学校、中学校、高校で順次、全面実施され、SDGsがすべての生徒に教えられるようになります。そうした中で、さまざまな本を収蔵する知の拠点たる学校図書館こそ、学校における持続可能な社会の担い手の育成にあたって、異なる教科と生徒たちを横断的につなぐ主要アクターとしての活躍が期待できるのではないかと思います。学校図書館へと私たちのネットワークが今後さらに広がり、10代の図書委員のみなさんとの出会いもたくさん生まれてくることを想像すると、ワクワクします。
(了)
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