国連広報センター ブログ

国連のさまざまな活動を紹介します。 

新たな希望の連携 メディアをつくる側も選ぶ側も気候変動に責任を持つ

国連とメディアが連携して気候変動対策のアクションを呼びかけるキャンペーン「1.5℃の約束 - いますぐ動こう、気温上昇を止めるために。」が展開される中、Media is Hopeという市民グループから連携の動きが生まれています。気候変動問題の解決に向け、これまでにない新たなパートナーシップを築こうとする活動をお伝えします。

10月12日に行われた記者会見後 登壇者とともに © UNIC Tokyo

市民・メディア・国連連携のユニークな記者会見

10月12日東京の日本記者クラブで、一般社団法人Media is Hopeが主催した1.5℃キャンペーンへの連帯・応援記者会見が行われました。Media is Hope は、気候変動問題の解決のためにメディアと連携しながら正しい情報を発信していこうとする若い世代が中心のグループです。

会見には、キャンペーンを企画、提案した国連広報センターの根本かおる所長ならびにキャンペーンに参加するテレビ、新聞、ラジオ、雑誌、WEBメディアなどから12名のスピーカーが登壇。オンラインも合わせ、メディア関係者ら約70名が出席しました。

© UNIC Tokyo

日本発の1.5℃キャンペーンの背景には、国連とSDGsに熱心なメディアとの連携の枠組み「SDGメディア・コンパクト」があります。このグローバルな枠組みに加盟する世界各地のメディア約300社のうち、6割以上が日本のメディアという強みのもと、今回のキャンペーンが今年6月17日に始動しました。

 

若い世代がジャーナリストとの対話にたちあがる

キャンペーンの立ち上げと偶然にもほぼ同時期に法人設立されたMedia is Hopeは、メディア関係者と連帯をはかり、気候変動問題についての正しい情報発信を増やしていくことで、社会に変化をもたらそうとしています。20~30代を中心に、デザイナー、ソーシャルワーカー、学生、主婦など職種や立場も様々な55名が加わり、「メディアをつくる側も選ぶ側もお互いに責任を持とう」と、気候変動報道のモニターや、メディア間やスポンサー企業の橋渡し、メディア関係者向けの気候変動についての講座の開催などの活動を行ってきました。

代表理事の名取由佳(32)さんは、普段はソーシャルワーカーとして働きながら活動を続けています。2019年にグレタ・トゥーンベリさんの活動を通して、初めて気候危機を知った時、地球上で進行する危機の実態と、そのことをほとんどの人が知らないことに打ちのめされたと言います。まず名取さんは気候変動に関する情報を交換できるオンラインコミュニティを立ち上げました。

Media is Hope 代表理事名取由佳さん© UNIC Tokyo

正しい情報を発信する難しさや、メディアの役割の大切さを痛感するようになった名取さんは、仲間たちとテレビ局の前で気候変動に関する報道を増やしてほしいと声をあげる活動も行いました。抗議の声ではなく、「いつもありがとう」、「みなさんの番組を見て育ちました」と伝え、足をとめたテレビ局スタッフひとりひとりと対話を試みたのです。

提供 Media is Hope

気候変動の原因と対策を共通認識にしていくという目標や、ひとりひとりがメディアを選ぶ責任があり、声を届けていこうとする考えや行動に賛同する仲間が次第に増え、Media is Hopeが設立されました。今年、活動資金をクラウドファンディングで呼びかけたところ、400万円近くが集まるなど、市民からも活動への期待が集まっています。

Media is Hope の大学生メンバー、小川瑠衣子さんは良質な気候変動番組や記事を見た時は、そうした報道が増えることを願い、担当者に感謝を込めて意見をメールする活動を続けています。

「周りに気候変動の話をすると、意識高いね、若いのにえらいね、という自分とは関係ないことのような反応をされる。現在進行形で深刻化している気候変動のことを話せないのはとても苦しい。それは気候変動に関係した報道がされていないことも原因の一つだと思う」、会見の場で小川さんはそう訴えました。

大学生メンバーの小川瑠衣子さん(中央)© UNIC Tokyo

Media is Hopeは、「気候変動」「脱炭素」などのキーワードで、それらを扱う番組や記事の数を1週間ごとにモニターしています。国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)直前の10月23日~29日の1週間では798件、開幕を受けた11月6日~12日の1週間では1139件にのぼっています。

 

課題を共に乗り越える

会見では気候変動を取り上げる際にメディアが向き合う課題も共有されました。気候報道に関しては、視聴率や読者の数が上がりにくい、スポンサー企業がつきにくい、などの現実があります。メディアの中でも気候変動を取材するジャーナリストはまだ少数派で、組織内でも理解が得られにくい状況があることや、エンターテイメント要素も求める視聴者や読者を前にどのようにバランスのとれた質の高い発信をしていくかということなども率直に語られました。

登壇者からは気候変動を発信する際のヒントも提供されました。危機感だけでなく解決策を伝えることの大切さが共有され、再生エネルギーの開発など、危機の中でも挑戦する人たちの姿やその情熱を伝えると、視聴率は下がらないといったテレビ局の実例も紹介されました。ラジオ番組制作者からは、環境活動家や番組パーソナリティを特別ではなく、身近に感じてもらえるように工夫し、彼らが問題を知ってこう思い、こう動いたという1人称でのメッセージを大切にした結果、継続して聞いていたリスナーの9割が気候変動に対して何らかの行動を起こしたいと回答したことが報告されました。

© UNIC Tokyo

こうした状況の中で、Media is Hopeのメンバーは、メディアをとりまく市民、企業などとの架け橋となろうとしています。スポンサー企業に対しても働きかけ、視聴者や読者の立場から気候変動の発信の大切さを訴えています。

国連広報センターの根本かおる所長は、「SDGメディア・コンパクト」の枠組みのもと国レベルでたくさんのメディアがスクラムを組んで同じテーマでキャンペーンに取り組むことは世界で初めてのことだとし、「そこに市民から熱い思いで連帯してくださり、これほどうれしいことはない。一過性ではなく、この関心を、本質的な課題に向き合い、乗り越えて、社会をより良い方向に変えていく大きなうねりにしていきたい」と語りました。 

記者会見のモデレーターの一人、テレビ朝日アナウンサーの山口豊さんは、これまでに再生可能エネルギーに関する数多くの特集の制作にかかわってきました。「気候変動問題を伝えてきたが、孤立感を感じることもあった中、勇気づけられた。メディアとスポンサー、視聴者の関係が、トライアングルで循環して思いが拡がっていけばと願う」と会見後に話してくれました。

テレビ朝日アナウンサーの山口豊さん © UNIC Tokyo

Media is Hopeの代表理事の西田吉蔵さんは、「市民の呼びかけでこうした会見が実現できること自体が社会が変わり始めていることなのではないか。これからも連携の大切さを発信し、場づくりをしていきたい」と活動のさらなる強化を表明しました。

Media is Hope 代表理事 西田吉蔵さん © UNIC Tokyo

同じく代表理事の名取由佳さんは、「今日数多くの方が参加してくださったということは皆さんが本気でトライしている証拠だと思う。それこそが希望で、これから手を取り合っていけることが楽しみだ」と話していました。

立場の違いを越えて問題に対し責任と希望を持った連携が始まっています。 

Media is Hopeのメンバー © UNIC Tokyo