国連広報センター ブログ

国連のさまざまな活動を紹介します。 

「新型コロナウイルス感染症と人類の安全保障:最貧国マラウイの闘いは世界の闘い」

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界規模での拡大が国際社会にもたらしている影響が物語っているように、ウイルスに国境はありません。

日本がCOVID-19の対策を多面的に進めているように、様々な国が今COVID-19と闘っています。

たとえば、日本から見たアフリカは遥か遠い地のように思えるかもしれませんが、アフリカの国におけるCOVID-19の闘いは決して日本にとって他人事ではありません。国連開発計画(UNDP)マラウイ常駐代表の小松原茂樹さんが、COVID-19と闘うマラウイの状況を報告してくださいました。 

f:id:UNIC_Tokyo:20200424111611j:plain

国連開発計画(UNDP)マラウイ常駐代表の小松原茂樹さん © ︎UNDP Malawi

【経歴紹介】徳島県生まれ。東京外国語大学卒業後、ロンドンスクールオブエコノミクス大学院で経済学修士号(国際関係学)を取得。(社)経済団体連合会事務局、OECD経済協力開発機構)民間産業 諮問委員会(BIAC)事務局出向を経て2002年より国連開発計画(UNDP)に勤務。本部アフリカ局カントリーアドバイザー、ガーナ常駐副代表、本部アフリカ局TICADプログラムアドバイザーなどを歴任、2019年6月より現職。

 

マラウイでは4月2日に新型コロナウイルス(COVID-19)の感染事例として最初の3件が見つかり、4月23日現在で計33件(うち死亡3名)となりました。1日1.9ドル以下で生活する人が人口の70%にものぼる最貧国のマラウイでは、極度の貧困のために栄養失調であったり健康状態が良くない人も少なくなく、糖尿病、喘息などに加えて、HIV/AIDSや結核なども依然として大きな課題であり、貧困そのものが「持病」と言ってもよい状況です。手を洗うにも水へのアクセスが容易でない、石鹸を使って手を洗うこと自体に慣れていない人が多い、衛生状態が悪い箇所も多く、医療へのアクセスが容易でない、マスクはほとんどの人にとって贅沢品、1800万人の人口でCOVID-19を検査できる施設が4カ所、ICU (COVID-19非対応)が全国で25床しかない、医者は10万人あたり1.5名、など、極めて予防も抑制も難しい環境です。

f:id:UNIC_Tokyo:20200424113654j:plain

手洗いをする現地の女性 ©︎ UN Malawi

農村部ではこれから主食のとうもろこしなどが収穫期(マラウイは南半球ですのでこれから秋冬です)に入りますので、食物は昔ながらの物々経済である程度手に入る可能性もありますが、都市部の貧困層の多くは非公式経済の中で文字通り日銭で生活しています。COVID-19の感染防止に向けて様々な行動規制が強化され経済活動が停止に向かうと、日銭が入らなくなり、直ちに食べるものに事欠きます。さらにスラムなどの劣悪な居住環境では基本的な社会サービスの欠落に加えて身体的距離を取ることなど望むべくもなく、一旦市中感染が始まれば、貧しく社会的に脆弱な環境にいる人々から影響を受け、急速に感染が拡がる危険は否定できません。

 

これほど世界同時の深刻な危機は国連機関にとっても初めてのことですので、国連も全組織をあげて、職員の命を守りながら、各国の闘いを応援する体制の構築を急いでいます。UNDPマラウイ事務所はアフリカのUNDPの中で6番目に事業規模が大きく、職員は130名を数えます。すでに航空便(国際線、国内線)は全て運航停止となり、国内の行動制限も大幅に強化されつつある中で、職員はそれぞれの不安を抱えながらも頑張っています。私も職員の健康と安全に心を砕き、職員と共に知恵を絞ってマラウイの闘いを応援し、これから長い籠城戦に入ろうとしています。

f:id:UNIC_Tokyo:20200424113927j:plain

マラウイに国連連帯航空(UN Solidarity Flight)でCOVID-19に対応するために必須な医療用品が届いた © ︎WFP Malawi

国連職員が現地の人々と危険や不安を共有しながら奮闘しているのはマラウイだけではありません。国連といえば、ニューヨークやジュネーブなどを連想される方が多いと思いますが、国連職員の大半は現場で汗をかいています。アフリカやアジアの多くの国では、紛争、テロ、自然災害、エボラ出血熱など、二重三重の危機に多くの同僚が立ち向かっています。マラウイでは3名の日本人国連職員(UNICEF、UNHCR、UNDP)が現地に踏みとどまって頑張っています。

f:id:UNIC_Tokyo:20200424114451j:plain

国連連帯航空(UN Solidarity Flight)で届いた医療用品 © WFP Malawi︎

また、当面はCOVID-19との闘いに全力をあげながらも、復興への道筋を考える事も重要です。しかし、アフリカへの資金流入のそれぞれ約3分の1を占める海外のアフリカコミュニティーや出稼ぎ者からの送金、企業による対アフリカ直接投資、公的な対アフリカ開発援助は、COVID-19による緊急財政出動や経済停止に大きな影響を受けており、アフリカ経済も一部ではマイナス成長が予想されるなど、アフリカを取り巻く環境は決して楽観を許しません。COVID-19という山を越えた後に見える風景は、アフリカだけでなく、世界的にも今までの世界とは極めて違うものになるのではないか、と感じています。


コロナウイルスが瞬く間に南極以外のすべての大陸に拡がったことが示すように、ウイルスに国境はありません。COVID-19は、グローバル社会ではリスクもグローバルで、国際協力なしにはどの国も安全でいることができない現実を改めて我々に突きつけました。国際協力と開発援助を自国の未来への投資と保険と捉え、感染症をはじめとするグローバルなリスクに対して、国際社会がこれまで以上に連携して立ち向かうことになるのか、それとも各国が自国優先になるのか、COVID -19による世界同時危機は、保健の問題を超えて、私たちの住む世界の経済、社会、政治などのあり方について再考を迫る大きな転換点になっているのかもしれません。

f:id:UNIC_Tokyo:20200427155342p:plain

咳やくしゃみをする際に肘などで覆うよう推進するポスターを持つ現地の女性 ©︎ UNICEF Malawi

アフリカでのウイルスとの闘いは、人類の安全保障をかけた闘いです。アフリカの最貧国の人々の命と暮らしを守ることは、先進国の皆さんの命と暮らしを守ることでもあります。日本自体が容易でない状況にある中、遠くアフリカの奮闘に想いを馳せることは容易なことではないと思いますが、これからCOVID-19との闘いに臨むアフリカの人々に、日本の皆さんから知恵や経験を共有していただけることを切に願っています。