女性と女児に対する暴力。
自分の身近で起こっているかもしれない、そう思ったことはありますか。
身体的暴力や心理的暴力、セクシャルハラスメントなどを思い浮かべるでしょうか。
実は、人身売買や児童婚、女性器切除などの文化的慣習も「暴力」に含まれます。
今年は世界人権宣言70周年。
そして、6月19日は国連総会で制定された「紛争下の性的暴力根絶のための国際デー」。
これに合わせて、国連広報センターと駐日欧州連合(EU)代表部は6月19日、国内外の女性と女児に対する暴力撤廃に関するハイレベル・セミナーを開催し、世界、日本、そして欧州それぞれの視点から国内外の女性と女児に対する暴力について考えました。
プログラムやパネリストの詳細は、こちらをご覧ください。
***
セミナーの冒頭には、プラミラ・パッテン 紛争下の性的暴力担当国連事務総長特別代表(ビデオメッセージ)、ダーク・ヘベカー 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)駐日代表、そしてヴィオレル・イスティチョアイア=ブドゥラ 駐日EU大使によるスピーチがあり、ジェンダーにもとづく暴力は基本的人権の侵害であり、ジェンダーの平等や女性のエンパワーメントを掲げるSDGsや人権など普遍的価値のもと、早急に包括的なアプローチを取ることの重要性を訴えました。
***
続くパネルディスカッションでは、日本政府やEU代表部、国連機関、企業のパネリストが、女性と女児への暴力に対する各分野からのアプローチについて、点と線でつなぐように活発な議論を交わしました。
パネルディスカッションの冒頭にまず、立教大学大学院教授・難民を助ける会(AAR Japan)理事長の長 有紀枝さんが、紛争の現場で見た性暴力サバイバーについて話しました。
特に、長さんがウガンダで出会った、軍の兵士にレイプされた14歳の女の子、ローダさんの言葉が重く響きました。
「レイプで生まれたこの子を育てる以外に私に何ができますか」
紛争下の暴力を、遠くのどこかで起こっていることだと、つい思ってしまうけれど
「向こう側にいるのは私だったかもしれない」
そういう意識を持つことがはじめの一歩になるのだ、というメッセージは
心に訴えるものがありました。
***
「なぜ、性暴力はいけないことなのか?」
この根本的な問いを投げかけたのは、UN Women日本事務所の石川 雅恵さんです。
「女性であるから」「暴力を受ける」。
これはジェンダー平等と人権という普遍的価値に反する、二重の侵害なのです。
さらに、こうした「暴力」による社会的な損失は世界全体で150兆円に上る、という衝撃的な事実があります。
ジェンダーに基づくあらゆる暴力の根絶には、社会全体で取り組まなければならない、
ということを改めて実感しました。
***
では、女性と女児に対する暴力に対して、実際にどのようなアプローチが取られているのでしょうか。
たとえば、スポットライト・イニチアチブ。
国連とEUが一緒に、女性と女児に対する暴力という、隅に追いやられがちな問題にスポットライトを当てて、皆で取り組むことを目指しています。
そして、HeForShe。
ジェンダー平等は女性だけで達成できるものではありません。
「男性100人のうち99人は女性のことを思って声を上げてくれるのではないか」
そんな考えのもと、男性もジェンダー平等への変革の主体となってもらおう、と2014年にUN womenが始めた社会全体を巻き込むキャンペーンです。
***
紛争下での性的暴力は、しばしば女性を傷つけるだけでなく、家族や地域社会を引き裂く「武器」として用いられます。現在では、国際法上の犯罪やジェノサイドをも構成しうるとの判断が下されています。
すなわち、性的暴力は平和構築や安全保障に深く関わる重大な問題なのです。
国連安全保障理事会は、2000年に紛争下でのジェンダーにもとづく暴力を撤廃することを決議し、国連総会も2006年に女性に対するあらゆる暴力の撤廃を決議し、この問題に国際社会が体系的・包括的に取り組む決意を打ち出しました。
EUも、性的暴力を平和と安全保障と結び付け、またジェンダー平等と人権を普遍的価値と捉え、性的暴力の撤廃に向けて取り組んでいます。
EU代表部のファビアン・フィエスキさんが紹介したのは、EUの 共通安全保障・防衛政策(CSDP)です。
CSDPでは、平和構築や紛争予防、仲裁支援を通して、性的暴力の被害者のカウンセリング支援や児童婚の撤廃に取り組んでいます。
その経験から、世界中のあらゆる性的暴力を撤廃しなければならないこと、またそのためには予算や制度を整えることが重要だと強調しました。
***
日本でも、女性と平和・安全保障の関連に注目が集まっています。
外務省 総合外交政策局 女性参画推進室 室長である北郷 恭子さんが紹介したのが、国際女性会議 WAW! です。
2014年から毎年、女性と平和・安全保障をテーマの1つにしています。
「女性が保護されるべき存在としてだけでなく、平和を築く主体となる」
その考えのもと、日本政府は、紛争下での性的暴力をなくすために、被害者支援や、性的暴力をきちんと裁くための法制度整備などの支援をアフリカなどで行っています。
また、安保理決議1325 に基づいて策定された日本の行動計画では、紛争後の地域社会の再建などの取り組みを自然災害への対応に活かし、避難所や防災計画の意思決定に女性の視点を取り入れることを盛り込みました。
国外で起こっていることを「自分ごと」として考える意識を持とう。
そんな思いを胸に刻みました。
***
女性に対する暴力撤廃を目指す取り組みでは、国際機関や政府だけではなく、企業も重要な役割を担っています。
複数の会社を経営する佐々木 かをりさんは、ビジネスの観点から女性のエンパワーメントを目指し、国際女性ビジネス会議 やダイバーシティの「見える化」に取り組んでいます。
佐々木さんが大切にしていることは、
頭であれこれ考えて理解するよりも、多くの人に出会い多様性に触れて、「肌で感じる」こと。
「女性の権利は、子どもの権利に比べてコンセンサスを得るのが難しい。なぜなら、小さい頃は誰もが子どもだったけれど、女性であることは男性が直接経験できないことから。」
と、多様性を肌で感じることは、違う立場で物事を考え、女性の権利への理解を促すのではないか、と呼応しました。
身近なところで個人一人ひとりの意識を変えていくことは、民間セクターが一緒に取り組んでこそ実現できるのだと感じました。
***
ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役 人事総務本部長の島田 由香さんは、グローバル企業でのダイバーシティ経営について紹介しました。
ユニリーバが企業行動原則で大切にしていること、それは「尊重、尊敬」です。
自分が尊重されていないと感じたら、それを自由に伝えられる。
また、通報者を守りながら調査し、二度と同じことが起きないようにする、そんなシステムが整っています。
その背景にある大切な価値が「be yourself」。
「自分らしくある」ためには、まず「自分が『自分』であるということを受け入れる」。
社員から、その子どもたちへ、そして多くの企業が一緒に取り組むことで「be yourself」の輪を広げ、社会全体を変えられるのではないか。
一見すると性的暴力の撤廃と遠い存在かもしれないけれど、企業が果たす役割は決して小さくなく、ビジネスの面からもグローバルに変化を促せるという強い思いが、ひしひしと伝わってきました。
***
セミナーの最後には、上川 陽子法務大臣が閉会の言葉を述べました。
女性の人権尊重と女性が活躍する社会の実現という2つの視点から性的暴力の根絶に取り組んできたことや、女性や女児に対する暴力の根絶につながる法務省の施策として、性犯罪対策の推進や小中学生に対するSOSミニレターの配布などの取り組みを紹介しました。
法の支配の担い手として、女性や女児に対する暴力の根絶、そして誰一人取り残さない包摂的な社会を実現する、という法務省の強い決意が表明され、セミナーは幕を閉じました。
***
女性と女児に対する暴力が、自分の身近に起こっているかもしれない。
紛争下の性的暴力も、向こう側にいたのは自分だったかもしれない。
そんな、ジェンダーにもとづく暴力を「自分ごと」としてとらえる意識を持つ、
そして女性も男性も加害・被害者の関係を超えて、変革の主体として、
国際機関や各国政府、企業、個人それぞれが自分の足元から、
性的暴力の根絶へ、共に歩んでいく。
アントニオ・グテーレス国連事務総長は、性的暴力を絶対に許さないこと( zero-tolerance )を強く訴えています。
今回のセミナーは、国連の重要課題である「女性と女児に対する暴力」について各界で活躍する方々の意見を聞く、大変有意義な機会となりました。
個人的にもその思いを強く確かなものとし、セミナーで学んだことを心に留めて、この課題に引き続き注目したいと考えています。
***
あなたも、社会を、そして世界を変える一人になりませんか。
その一歩として、ご紹介したいのが世界人権宣言70周年のビデオ・キャンペーンです。
セミナー会場でもキャンペーンの撮影ブースを設け、多くの方にご参加いただきました。
人権について考え、その理念を世界に広める一歩はこちらから↓
http://www.unic.or.jp/news_press/info/24523/
(インターン 布施)