しかし「新しい形の充足感と幸福」への期待もあります。国家にとっては目の前に起こっている問題を解決することが最優先です。残念ながら感染症の問題は国レベルで解決することはできません。国を超えた地球レベルの転換には企業活動や投資のあり方を一から考え直し前に進めることが有効です。既に多くの企業がESG活動に関する自社の取り組みを見直し開示も進んでいます。実際200社をこえる日本の企業や機関がTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース、Task Force on Climate-related Financial Disclosures)への賛同を表明しており、日本は今や世界最大のTCFDサポーターです。しかし実際のビジネスとなると、資源関連ビジネスをコアとするビジネスモデルから脱却しESGを柱とする新規ビジネスモデルの確立に取り組む例もありますが、まだまだ限定的な取り組みで本当の意味での事業化はこれからです。そして多くの企業ではESG/SDGsは本来の事業戦略とは別枠の取り組みとして位置付けており、先進的な企業でさえ気候変動関連の一部など対象範囲は限られています。ESGやSDGsに関わる取り組みは事業価値の向上と一体として考えなければなりません。人々の行動変容と価値観の転換が起こる時にこそ新しいビジネスのチャンスが訪れます。COVID-19との闘いの出口はまだまだ見えてきません。
My thoughts are with all those who have lost loved ones or their homes in the floods affecting Kumamoto, Kagoshima and Miyazaki. Tremendous rescue efforts are taking place along with efforts to stop #COVID19 in evacuation centres #PreventionSavesLiveshttps://t.co/OC3HHMFFYI
一方で統合性の実現に成功している例もあります。興味深いのは、南大洋州島嶼国の事例です。この地域の国々はすべからくハリケーン、洪水といった気候変動関連の災害の脅威に晒されています。ツバル、キリバス、マーシャル諸島は、海面上昇によって国全体が海中に没してしまうという存亡の危機にすら晒されています。一方でいずれの国も人的、財政的資源が乏しく、縦割り行政を許す余裕もない中、これを逆手にとって気候変動対応策と災害リスク軽減策を一つの省庁に担わせ、持続可能な開発目標達成につなげるという三位一体を政府機構、政策実現のあり方に反映させています。Joint National Action Plan for Climate Change and Disaster Risk Management、通称JNAPSと呼ばれるこの方針は、2009年にトンガで初めて策定され、2017年以降はPacific Resilience Partnershipという域内全体の方針になっています。
日本では緊急事態宣言が解除されてから、一ヶ月以上が経過。その後もぶり返しの懸念が消えたわけではありませんが、少しずつコロナ後の社会へ向けて動き出しつつあります。私の勤務する国連工業開発機関(UNIDO:United Nations Industrial Development Organization)があるオーストリア(ウィーン)を含め、ヨーロッパ各国も制限を徐々に緩め、慎重に社会経済活動の再開を進めています。
一例は、気候変動への対応です。各国のロックダウンにより、経済活動がとまり、温室効果ガスの排出量は激減しました。国際エネルギー機関(IEA:International Energy Agency)の報告によれば、2020年の二酸化炭素排出量は前年比-8%と試算されています。しかしこれだけ痛みの伴う強制的措置による減少でも、このレベルの排出量で今後推移しては、パリ協定の目標を達成することはできません。クリーンなエネルギーの導入や省エネのさらなる推進はもとより、ライフスタイルや社会制度の変革も含め、抜本的な対策を講じる必要性が示されたと言えるでしょう。そして、気候変動対策はコロナと同様、国境を超えた課題であり、世界が協力して取り組んでいくことが不可欠です。