国連広報センター ブログ

国連のさまざまな活動を紹介します。 

TICAD7リレーエッセー “国連・アフリカ・日本をつなぐ情熱”(29)

第7回アフリカ開発会議(TICAD7)が2019年8月28-30日、横浜市で開催されます。日本では6年ぶりとなるTICADに向けて、国連広報センターはアフリカを任地に、あるいはアフリカと深く結びついた活動に日々携わっている日本人国連職員らに呼びかけ、リレーエッセーをお届けしていきます。

 

取り上げる国も活動の分野も様々で、シリーズがアフリカの多様性、そして幅広い国連の活動を知るきっかけになることを願っています。第29回は、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)ソマリア事務所に勤務する森山毅さんです。

 

第29回 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)

森山 毅さん


~紛争の中で働く~ 

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首都モガディシュにあるUNHCR事務所でメディアの取材を受ける筆者 ©UNHCR A. Ainte

 

カリフォルニア大学ロスアンゼルス校卒業後、商社勤務を経て、ニューヨーク大学院にて行政学修士号を取得。2016年10月からUNHCR ソマリア事務所副所長(2019年4月からは臨時所長)。UNHCR勤務はジュネーブ本部を含め今年21年目。

 

私が勤務するソマリアは、まさに“紛争の中”にある国です。UNHCRのスタッフも、常に緊張感の中で業務に取り組んでいます。

 

今朝も、モガディシュ市長の遺体を乗せたカタール軍用機がモガディシュ国際飛行場に到着しました。ソマリアの大統領や閣僚、各国駐在大使と共に参列し、遺体の帰国を複雑な思いで見守りました。到着した遺体が飛行機から降ろされる時の市長の母親の表情が印象的でした。

 

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モガディシュ市内での護衛 ©UNHCR T. Moriyama

 

アブディラフマン・オマル・オスマン市長は7月24日に事務所内で起きた自爆テロにより負傷し、カタールの首都ドーハの病院に輸送されていました。自爆したのは当日会合に出席していた女性で、市長から数メートル離れた席に座っていました。市長は生前、難民として1991年にイギリスに渡りました。今年5月には訪日し、日本での出張の想い出を嬉しげに話してくれたことを覚えています。6月20日の「世界難民の日」には、式典をモガディシュで開いていただきました。

 

紛争を逃れて、あるいは旱魃で遊牧による生計が立たなくなった人々がモガディシュに集まり、急速的に都市化が進んでいます。市長とは避難民住居地の運営や立ち退きの問題について緊密に話し合いを進めてきました。自身が難民だったことも鑑みて、Cities #WithRefugees initiativeにも調印していただき、これはアフリカの国で最初の調印となりました。身近な人の命が奪われる―。悲しいことに、この国ではそんな日常があります。

 

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市長と世界難民式典にて ©UNHCR A. Ainte

 

ソマリアにはAMISOM(African Union Mission in Somalia)が国連安保理決議に基づき、約2万人の兵士が常駐しています。兵士の撤退は今後徐々に進められ、ソマリア軍の育成が急がれます。私が働いているUNHCRソマリア事務所は、UNSOM(United Nations Assistance Mission in Somalia)、UNSOS(United Nations Support Office in Somalia)、および20以上の国連機関と連携して活動しています。日本の皆さまからの力強いサポートのもと、UNHCRソマリア事務所は難民の帰還、再定住、避難民の保護、緊急援助等、多岐にわたって活動しています。2017/2018年度の干ばつは乗り越えることができましたが、病院や学校等の公共施設が極めて少なく、社会福祉の基盤が存在しないため、紛争や災害が起こる度に避難民が数多く発生します。UNHCR ソマリア事務所の調査によると、約260万人もの避難民が現在ソマリアにいます。

 

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2014年12月にUNHCRが自主帰還の支援を始めてから、9万人以上のソマリア難民が帰国しました。しかし、いまだ約80万人のソマリア人が難民として近隣国、主にケニアエチオピア、イエメンに残っています。一方、ソマリアは約3万4000人の難民と難民申請者を受け入れています。

 

UNHCRソマリア事務所は、難民、避難民、また難民を受け入れている地域住民を対象にした住居、医療、教育施設等、包括的な支援を進めています。とりわけ難民、避難民、地域住民の自主的な取り組み、そしてソマリア政府のリーダーシップ体制に力を入れています。TICADは日本からアフリカへの長期に渡って行われてきた支援活動を経て、アフリカ諸国とのパートナーシップをつくりあげてきました。UNHCRソマリア事務所はまさしく同様のパートナーシップをソマリア政府、企業、市民団体等と築いています。

 

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©UNHCR T. Moriyama

 

今年12月17日、18日にジュネーブで開催が予定されている「世界難民フォーラム」では、「難民に関するグローバル・コンパクト(以下、グローバル・コンパクト)」の具体的な取り組みが期待されています。グローバル・コンパクトは2017年の国連総会で、193国連加盟国全てが承認したニューヨーク宣言と、同宣言に基づいて制定された「包括的難民支援枠組み(CRRF: Comprehensive Refugee Response Framework)」に基づいています。難民の根本的な解決には、国際的な連携が真に必要なのです。これからは、貧富の差が世界中でますます進み、情報化、スマートフォンの普及に伴い、ますます人々の国境を越えた動きが進むと思います。紛争と貧困の悪循環から脱出するには、国際社会が協調して、人道援助、開発、平和構築の連携を進めることが大切です。究極的には、私たち一人ひとりが、多様な人々の考え方や文化を尊重するする姿勢が、ますます大切になってくると思います。

 

現在、ソマリアを含め、世界中には50以上もの武力紛争が続いています。8月の夏、平和の尊さを想い、仕事に取り組んでいます。

 

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UNHCRがグローバルで展開中のキャンペーン「難民と進む20億キロメートル」に自ら挑戦 #StepWithRefugees ChallengeNHCR ©UNHCR Somalia