国連広報センター ブログ

国連のさまざまな活動を紹介します。 

TICAD7リレーエッセー “国連・アフリカ・日本をつなぐ情熱” (23)

第7回アフリカ開発会議(TICAD7)が2019年8月28-30日、横浜市で開催されます。日本では6年ぶりとなるTICADに向けて、国連広報センターはアフリカを任地に、あるいはアフリカと深く結びついた活動に日々携わっている日本人国連職員らに呼びかけ、リレーエッセーをお届けしていきます。

 

取り上げる国も活動の分野も様々で、シリーズがアフリカの多様性、そして幅広い国連の活動を知るきっかけになることを願っています。第23回は、国連工業開発機関(UNIDO)に勤務する今津牧さんです。

 

第23回 国連工業開発機関(UNIDO)

今津 牧さん


~日本からアフリカへの投資促進と技術移転~

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ナイロビで開催されたTICAD VIでセネガル投資促進・大規模公共工事公社(APIX)の担当官と再会
(左から2番目が筆者)©UNIDO

東京都出身。大学で国際経済学を学び、民間企業勤務、留学を経て、2009年より国連工業開発機関(UNIDO)東京投資・技術移転促進事務所に勤務。サブサハラアフリカへの日本企業の投資促進・技術移転を担当する。2019年1月よりオーストリア、ウィーンにあるUNIDO本部のアフリカ部にて、TICAD7関連事業や「第3次アフリカ産業開発のための10年 (IDDA III)」の推進に携わる。

 

UNIDOは、産業開発を通じて途上国・新興国の経済発展を支援する国連の専門機関です。途上国や新興国において、一次産品に付加価値がつき、輸出され、外国投資が入り、現地の雇用を生み、技術が移転され、環境破壊を引き起こさずに現地の生産活動が拡大されるという持続可能な産業開発を実現し、皆が発展の恩恵を享受できるようにすることを目的に活動しています。

 

UNIDOは日本にUNIDO東京・投資技術移転促進事務所(UNIDO東京事務所)を設置しており、日本企業による途上国への外国投資、現地雇用の創出、技術移転などに取り組んでいます。私はUNIDO東京事務所で2009年から約10年間、サブサハラアフリカへの日本企業の投資促進・技術移転促進を担当しました。

 

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モザンビーク水産加工関連ビジネスミッション ©UNIDO

 

主な私の活動は、アフリカ各国が自国への投資をはたらきかけることを目的に設置している投資誘致機関に勤める担当官と一緒に、日本におけるプロモーション活動に取り組むことでした。担当官と一緒に日本企業を訪問してアフリカの投資環境やビジネス機会を紹介したり、実際に投資している会社が直面している問題を現地政府に理解してもらって改善を働きかけたり、日本企業の持つ技術やサービスをアフリカに紹介したりする仕事です。実際の企業誘致活動をアフリカの政府機関と一緒に日本企業に対して行うため、現地政府の投資誘致能力強化と日本企業の進出支援という両方の側面があります。時には両方に挟まれて、お互いの誤解を解くことが仕事になったりします。日本企業の厳しい質問に、身の縮む思いを一緒にすることもありますし、日本企業の方が現地で会ったことのある担当官が面談に出てきて和やかな雰囲気で話し合いが進むこともあります。

 

近年は在京のアフリカ大使館も投資誘致に大変積極的かつ協力的です。訪問企業のアイデアを出したり、同行したり、面談後のフォローアップの約束や、投資セミナーの共催など、在京アフリカ大使館からの協力は欠かせません。在京アフリカ大使館とは、カイゼンや産業政策に関するワークショップを開催したり、展示会に一緒に行って日本の技術を見学したり、工場見学を企画したり、常に相談したり相談されたりする関係を構築するようにしています。大使館がイベントを企画する際に、どうやったら実現できるか一緒に考えるのはとても気を遣いますが、単に日本の慣習を説明しただけで感謝されたりして拍子抜けすることもあります。それだけ誤解を生む種はいろいろなところにあるということかもしれませんし、その種は思っているより小さいということかもしれません。私が一番忘れられないのは、新しい企画が成功裏で終わった後、ある在京アフリカ大使が、「UNIDO belongs to us.(UNIDOは我々の仲間だ)」 と言ってくださったことです。

 

UNIDO東京事務所では、前述した活動に加え、日本企業を現地へ連れて行き、現地の投資環境やビジネス機会を実際に見ていただくという活動も行っています。例えば、モザンビーク水産加工関連ビジネスミッションで、マプト、ベイラを訪問しました。モザンビークは、インド洋に面して南北に2,500kmも続く海岸線を有しており、えび等の水産漁業資源が豊富で、日本にも輸出されています。本ミッションには、水産加工業に限らず、冷蔵庫、冷凍庫、製氷機などを含む水産加工に関連する企業、水産物を扱う貿易業などから、9社10名の参加がありました。

 

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モザンビーク水産加工関連ビジネスミッション。現地の魚市場を見学 ©UNIDO

 

UNIDOの現地ネットワークを利用して、一社ではなかなか訪問できない省庁や関係機関、関連施設などを訪れ、商品、サービス、技術を紹介し、意見交換を行いました。実際のビジネスに繋がったり、参加企業同士で連携の話がでてくることもあります。もちろんその後に多くの課題に直面することになるので、その都度できることはないか紹介できる人はいないか、と考えます。そのためUNIDOの仕事は、“Honest Broker(真のブローカー) ”と説明されることもあります。

 

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モザンビーク水産加工関連ビジネスミッション。港湾施設や現地の水産加工場を訪問 ©UNIDO

 

UNIDO東京事務所での勤務を経て、今年(2019年)の1月より、オーストリア・ウィーンにあるUNIDO本部のアフリカ部に勤務しています。日本企業のアフリカ進出には、ビジネスベースで話が進展するケースが理想的だと考えていますが、実際は、日本の関係機関の支援スキームや、国際機関の情報やネットワークを利用して進出していくというのが現実的だとも感じています。UNIDOは、現地でも相手政府だけでなく民間企業との関係が深い国際機関ですので、今後日本企業との協力関係強化を通じて、現地の開発課題に資するようなプロジェクト構築のきっかけになればと思っています。

 

3月末には、UNIDO本部があるウィーン国際センターで、アフリカの産業開発に関する日本とUNIDOの協力関係をパネル展示で紹介するイベントが開催されました。このイベントは、TICAD7パートナー事業として承認されるとともに、この機会を利用して、日本企業がUNIDO本部職員に自社の技術やサービスを紹介する場を設け、今後のUNIDOと日本企業のさらなる連携を深める第一歩となりました。

 

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ウィーン国際センターのパネル展示は一週間続き、世界中から訪れている多くの人々が足を止め、写真を撮ったり、パネルを読んだりする姿が最終日まで多く見受けられました(左から5番目が筆者) ©UNIDO

 

TICAD7では、今まで以上にアフリカの産業化が議論の中心になり、民間企業の果たす役割に益々期待がかかります。UNIDOは、国連総会で「第3次アフリカ産業開発のための10年 (IDDA III)」(2016年-2025年)を推進する役割を担っており、アフリカ連合や他の国際機関、民間企業と協力して活動しています。同時に日本とTICADがIDDA IIIに果たしている貢献をとても評価し、TICAD7をきっかけにさらなる協力関係が構築され、アフリカ産業化をよりいっそう促進させる大きな流れになることを期待しています。