国連広報センター ブログ

国連のさまざまな活動を紹介します。 

TICAD7リレーエッセー “国連・アフリカ・日本をつなぐ情熱” (16)

第7回アフリカ開発会議(TICAD7)が2019年8月28-30日、横浜市で開催されます。日本では6年ぶりとなるTICADに向けて、国連広報センターはアフリカを任地に、あるいはアフリカと深く結びついた活動に日々携わっている日本人国連職員らに呼びかけ、リレーエッセーをお届けしていきます。

 

取り上げる国も活動の分野も様々で、シリーズがアフリカの多様性、そして幅広い国連の活動を知るきっかけになることを願っています。第16回は、国連人口基金UNFPAガボン事務所で代表を務める大橋慶太さんです。

 

第16回 国連人口基金UNFPA) 

大橋慶太さん


ガボンで日本のボランティアとともに母子保健の改善をめざして

 

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無事に出産を終えた母子を囲む、日本から派遣された青年海外協力隊員と筆者(左端)

モントリオール大学人口統計学博士課程満期退学。国連人口基金ニューヨーク本部アフリカ局で南部アフリカ支援を担当したほか、セネガル、チャド、コンゴ民主共和国ガボンの各国事務所でリプロダクティブ・ヘルスジェンダー、人口開発や緊急支援に携わる。

 

中央アフリカに位置するガボン共和国(以下ガボン)は、人口200万を擁する小国であるが、豊富な原油資源を持つ産油国である。国民一人当たりの所得は約8,600ドルであり、中所得国に分類される(しかしながら、貧困率は33%を超えている)。この分類により、ガボンは政府に十分な資金的余裕があると考えられてしまうため、ドナーによる社会開発サービスレベルでの直接援助は少なくなっている。むしろ、主な援助アプローチは、政策提言と様々な国際的、地域的そして国レベルでの啓発活動にシフトしている。よって、国連人口基金UNFPA : United Nations Population Fund)の援助も、妊産婦死亡率を下げるために、助産師協会とパートナシップを結び、保健省と保健システムの改善・強化を支援するにあたっても、保健機材や避妊具の供与から、国家保健政策の作成・評価や、国際的な課題(例えば、女性性器切除の慣習廃止、女性および子どもへの暴力廃絶、若年結婚の予防、望まない妊娠や若年妊娠の削減、HIV/エイズを含む性感染症の予防など)の啓発活動支援中心へと移行している。

 

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そんな中で、現在UNFPAガボン事務所が力を入れているのが、初等教育(小学校)、前期中等教育(中学校)および後期中等教育(高校)カリキュラムに、国際セクシュアリティ教育(性教育)の内容を反映させることである。10-18歳の女性への教育(女子教育)が特に重要であり、これによって子どもたちの性を学ぶ権利を推進している。ユネスコ国際連合教育科学文化機関)とも協力し、教職員へのワークショップ、トレーニング、研修などを実施している。ガボンの若年層の割合(25歳以下人口比率)は、全人口の約55%にあたり、妊産婦死亡率は低下してきたものの、依然として出生10万人あたり300と高い水準にある。特に、若年層(15-19歳)による出生率がまだ高い水準にあり、出生1,000人あたり135である。そして、20-49歳女性の約35%は、若年出産を経験しているのが現状である。国レベルでの出生率は、女性一人あたり4.2人子どもを産む水準である。

 

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初等中等教育カリキュラムへの保健(リプロダクティブ・ヘルス)の導入

 

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中等教育での保健カリキュラム改善ワークショップ

 

日本との協力に関しては、青年海外協力隊やシニア海外ボランティアが保健分野にも派遣されており、助産師、保健師、臨床技師などが、保健省や病院などで現地の保健職員と共に働き、看護、母子保健やリハビリテーションなどの医療業務を通して、技術移転を行い人材及び医療業務運営強化に貢献し、人々の健康改善に協力している。また、保健政策策定・実施のサポートや、妊産婦死亡率の削減、HIV/エイズを含む性感染症の予防、若年層へのリプロダクティブヘルス・ライツ情報の提供などにも一役買っている。特に、母子保健の分野では、UNFPA国際協力機構(JICA)との間で、州保健所の運営やリプロダクティブ・ヘルスサービス提供の強化、そして助産師の研修・再教育への連携を推進している。

 

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国際助産師の日(5月5日)を記念するイベントで、3人の日本の助産師ボランティアとともに

 

ガボンは、過去ある一定の社会経済開発は、原油資源を中心に進めることができたため、アフリカの中ではまだ数少ない中所得国に分類されている。しかしながら、近年の原油価格下落により、経済の原油依存度が高いため、国の経済社会開発が停滞してしまっている。中所得国の罠から抜け出るために、産業の高度化や生産性向上を促進し、人材の育成と高い技術の習得や社会の変革(特に腐敗・汚職の廃絶)が必要である。女性の社会進出は、このことに寄与する一因として考えられている。ガボン政府は、2015年から「ガボン女性のための10カ年計画2015-2025」を策定し、その推進を掲げている。UNFPAは、この政策実施を支援しており、保健分野での女性の健康増進とともに、女性のエンパワーメントがガボンの社会経済開発に貢献できるようサポートしている。

 

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ガボン女性の日(4月17日)を記念して、ガボンで女性に対する暴力反対のデモ行進

 

UNFPAのプログラムは、人口増加と社会経済開発の関係を踏まえた上で、どのように開発途上国の福祉向上に寄与できるかを実践していると言える。自分自身もUNFPAに勤務しながら、アフリカの開発の現場での人口政策の実施支援を経験してきた。実際の現場はより複雑な要因が絡み合い、理論の通りにはなかなか進まない。しかしながら、そんな中でも人口と開発の関係を常に考え、アフリカの現状を体験しながら生活し、その将来の発展のために少しずつでも貢献し続けていければと願う次第である。